DeNA China、GREE Beijingに見る中国モバイルゲーム市場

統一ルールが存在しないカオスな状態も、世界最大規模の潜在需要が眠るホットな市場


7月26日~29日開催(現地時間)

会場:上海新国際博覧中心(Shanghai New International Expo Centre)



 ChinaJoy 2012のホットトピックのひとつは、スマートフォン向けのゲームタイトルが急増していたことだ。中国ゲーム市場は、ゲーム機の販売規制や海外メーカーに対する高い参入障壁などの理由から、その内訳はほぼすべてPCオンラインゲームだけという特異な市場を形成してきたが、ここに来て劇的に状況が変わりつつある。

 ターニングポイントは、iPhoneやAndroid端末などスマートフォンの登場によって、自宅やネットカフェのPCの前に座ることなく、携帯電話でも本格的なゲームが遊べるようになったことだ。ゲームメーカーにとってはPC以外のプラットフォームによる新規市場がいきなり立ち上がったわけで、中国大手、新参を含めて多数のメーカーが海外メーカーを巻き込む形でスマートフォン市場に参入するなど、にわかに活況を呈している。

 ただ、日本のメーカーはまだまだ消極的だった。今回、ChinaJoyに参加していた中国展開を目指す多くのメーカーの中国当者を取材したが、今回取材したAimingのように、今が千載一遇のチャンスとみて、全面展開すると広言しているメーカーはごくごくわずかで、ほとんどのメーカーは様子見というのが正直なところだった。

 消極的な理由は、“短期間・低予算開発で長寿命・高収益”という日本で確立されたスマホソーシャルの夢のようなビジネスモデルが中国ではまったく通用しないためだ。まず短期間・低予算については、現地化/ローカライズのプロセスで、日本と中国でゲームに求めるコンテンツのボリューム感がまったく異なるため、多くのケースで再開発が必要となり、手間暇が掛かってしまうこと。

 長寿命・高収益についても、中国ではいわゆる“ガチャ”が一般的ではないため、ガチャに頼らないマネタイズの方法論を確立する必要がある上、「これは良い!」と思われたゲームは数カ月で丸ごとパクられるため、真似されないような巧緻なゲームデザインのゲームを作るか、真似された時には次のタイトルを出しているようなスピード勝負の焦土作戦を仕掛けるか覚悟を決めなければならない。日本の多くのメーカーは「今はまださすがにそこまでの覚悟はない」というのが本音のようだ。

 そうした中で奮闘を続けるメーカーが日本を代表するモバイルゲームプラットフォーマーであるDeNAとグリーの現地法人である。両社への取材から、中国モバイルゲーム市場の状況を紹介したい。



■ 中国ではもっとも先行するDeNA China。すでに60タイトルをリリース

DeNA ChinaのBtoBブース
ブース内では中国のメーカーに向けてセミナーも行なわれていた
DeNAは中国版Twitter「Weibo」にもサイトを持つ

 今回、ゲームメーカーの中国担当者への取材で、「よく頑張ってる」ともっとも名前が挙がったのがDeNA Chinaだ。許認可やマネタイズ、各種不正行為の横行などで、とかく複雑怪奇な中国ゲーム市場において、すでに参入から6年が経過し、着実に実績を挙げつつあるのがその理由だ。

 DeNAは、2006年にDeNA Chinaを設立し、中国市場向けにモバイルゲームの提供を行なっている。2011年にフィーチャーフォン部門をMBAで売却し、現在はスマートフォン向けにビジネスを一本化。中国では海外メーカーの自社単独のビジネスは認められていないため、China UnicomやChina Mobile、China Telecomなどのキャリア系をはじめ15社以上のメーカーと提携し、各社オリジナルのアプリストアやポータルにMobageアプリを置いて貰っているという。1つでも良い掲載位置や有利な条件を獲得できるように日々交渉するなど、サードパーティー的な立ち位置で地道な努力を続けているという。

 現在提供しているタイトルはAndroid向けが50タイトル、iOS向けが10タイトル。もっとも人気のタイトルは、「忍者ロワイヤル」で会員250万人を誇る。全体の会員数は500万人を擁し、売り上げ高は「まだまだ褒められるような数字ではない」として非公表ということだったが、中国向けの新規タイトル「三国志コンクエスト」や「逆襲のファンタジカ」では、開始してすぐ数十万人の会員登録があり、売り上げ的にも恥ずかしくない数字が出つつあると、手応えを感じているようだった。

 DeNA Chinaの試算によれば、現在の中国のモバイルゲーム市場の規模は30億元(約400億円)で、スマートフォンのユーザーが1億5,000万人いることを考えたら、DeNAの500万人という会員数はまだまだ少なく、市場規模的にも今後大きく成長できると考えているという。

 現在、DeNA Chinaが重視しているのは、中国ユーザーの行動パターンの収集だという。中国ではフィーチャーフォンとスマートフォンでは購入する層が異なるため、フィーチャーフォン時代の収集データはあまり当てにならず、500万人の会員から様々なデータを収集し、分析しているという。

 詳しくは企業秘密ということで教えて貰えなかったが、たとえば、一度プレイしたユーザーが再び戻ってくる割合、言い換えれば定着してくれる割合を示した“リターンレート”は、50%を超える日本や欧米と比較して中国は圧倒的に低いという。その代わり、中国にはコンシューマーゲーム市場が存在しないため、一度ハマると集中的にプレイする傾向があるという。こうしたユーザーの傾向の違いをうまく今後の開発に役立てて行きたいということだ。

【DeNA Chinaブース】
iOS向け10タイトル、Android向け50タイトルと、大量のタイトルを展開しているDeNA



■ まだ手探り状態のグリー。まずは中国から海外への支援事業からスタート

GREE BeijingのBtoBブース
グリーが中国で展開しているタイトルのひとつ「1億人の三國志」(コーエーテクモゲームス)
GREEの日本語版サイト。中国語版のサイトはまだ用意されていない

 世界単一のモバイルゲームプラットフォーム「グリープラットフォーム」による世界制覇を目指すグリーだが、中国法人GREE Beijingは、2011年8月に設立されたばかりで、中国展開はまだ端緒についたばかりというのが実情のようだ。

 許認可の問題で、グリープラットフォームをそのまま中国で展開することはできないようで、現時点では中国大手Tencentと提携し、タイトーの「特工大戦(原題:SPY WARS)」と、コーエーテクモゲームスの「1億人の三國志(原題:100万人の三國志)」の2タイトルをAndroid向けに展開するに留まる。iOS向けや、グリーが擁する「探検ドリランド」や「釣りスタ」などの自社タイトルは展開しておらず、まさに手探り状態といった印象だ。

 現在、GREE Beijingでは、北京の開発スタジオや他の開発スタジオを通じて、中国向けのタイトルを開発しながら、どのような形で展開するのがベストなのかリサーチを続けているという。懸念事項としては、俗に“ブラックカード問題”といわれる偽造クレジットカード問題をどう対処するか、そしてゲームは無料で遊べるのが当然と考える“無料の文化”に対してどうマネタイズしていくかなどだという。

 それと同時に、中国のメーカーともコミュニケーションを重ね、グリープラットフォームを通じて中国タイトルのグローバル展開を各メーカーに打診しているという。グリーや日本や北米では、DeNAの一歩先を行っているだけに、この強みを最大限活かすためには、現時点では中国展開そのものに力を注ぐのではなく、中国からグローバルへの流れを支援するというのは確かに賢い戦略のように感じられる。これで信頼関係を構築し、中国展開に繋げていくという考え方のようだ。

 GREEは現時点では中国展開戦略はまだ固まったものはないということで、本格進出のタイミングや、新規タイトルの展開時期や、そしてiOSタイトルの展開時期などの具体的な取り組みは見えてこなかったが、DeNA China、GREE Beijingとも、異なる戦略で中国進出を考えており、非常に興味深かった。どちらの取り組みが最終的に奏功するのか今後も引き続き注目していきたい。

(2012年 7月 29日)

[Reported by 中村聖司]