【GDC2012】「アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス」のアートディレクション
キャラクターデザインからコンセプトアートまで公開
昨年末に発売された「アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス」(以下、Uncharted3)は、空前の大ヒットを果たしたプレイステーション 3向けタイトルだ。
GDC2012では、同作の開発元であるNaughtyDogのアートディレクターのRobh Ruppel氏が登壇し、転覆する豪華客船、広大な砂漠表現、墜落していく飛行機の上での大乱闘……など、数々のアイディア満載のグラフィックス表現、ゲーム表現が、どのようにして生まれたのかを、アートディレクションの視点から解説した。
NaughtyDogのアートディレクター(Concept Production Designer)を務めるRobh Ruppel氏 | 「The Art of Uncharted3」と題されたこのセッションは超満員となった |
■ 「Uncharted3」におけるキャラクターデザイン
今作で3作目となった同シリーズで、ゲームに登場する各キャラクターは認知度が高まっているわけだが、だからこそ、今作のテイスト、ロケーションなどにマッチするデザインが入念に検討された。
特に、主人公のネイサン・ドレイクは、夜の酒場から砂漠にまで、ありとあらゆるシチュエーションで登場するので、そのコスチュームデザインは無数のコンセプトアートが製作された末に決定された。
ネイサン・ドレイク | タキシード姿のネイサン |
一方で、今作で初登場となる新キャラクターに関しては、プレーヤーにとっても目新しい存在となる一方で、ネイサンを初めとしたお馴染みの顔ぶれのキャラクター達とは、既知な関係性をうかがい知れる場面も描かれたりするため、彼ら同士のやりとりを見てプレーヤーが置いてきぼりにならないように、新キャラクターのデザインは、ゲーム内での役どころが伝わりやすいデザインが心がけられた。
具体的にはキャサリンは冷徹な感じに、タルボットは英国紳士風に、という具合にデザインされたわけだが、カッターについては初期案は悪者風にデザインされたが、最終的にそんなに悪者でもなくなったため、デザインが調整されたりもしたという。
回想シーンでたびたび登場する少年時代のネイサン | キャサリン | |
タルボット | ヘレナ | 敵か味方か。カッター |
■ 砂漠のシーンをデザインするために砂漠をロケハン
今作でキービジュアルにもなっている砂漠のシーンについては、入念な調査が行なわれた。
莫大な予算を掛けて開発されているアンチャーテッドシリーズなので、サハラ砂漠にでも出かけたのかと思いきや、NaughtyDogがあるカリフォルニア州の砂漠にスタッフ一同で出かけたのだという。具体的なロケ地は語られなかったが、「ロサンゼルスから車で5時間ほど走ったところにある砂漠」という説明があった。なお、カリフォルニア州にはコロラド砂漠、モハーヴェ砂漠、ソノラ砂漠などがある。
実際に砂漠にロケハンに出かけた開発チーム |
Ruppel氏はカリフォルニア州は、都市から砂漠まで何でもある土地だと冗談を飛ばしていたが、実際に砂漠の地に足を踏み入れたことはアートチームにとっても大きな刺激になったようだ。
Ruppel氏は、砂漠の砂は表面より下の芯の部分の砂地が予想外に堅いこと、日中は熱砂による照り返しの強さを肌で感じたこと、足元の温度が異常に高くなることを体験できたこと、などを例に挙げ、こうした経験がより説得力の高いコンセプトアート作りに繋がったと述べていた。
砂漠のシーンのコンセプトアート |
どういった形状の地形にはどういった砂漠の地形がある……というような解説仕様書的なコンセプトアートも数多く作られた |
砂漠のシーンでは、馬を駆っての大追跡シーンがある。現実の砂漠では、どこに行けばどこに着くというのが全くわからないわけだが、今作はゲームなので、プレーヤーがどこに進めばいいかを間接的にでも知らしめなければならない。そこで感覚的にわかるような地形デザインを人為的に、それでいてビジュアルとして不自然に思われないようなシーン設計を行なっている。
現実世界の砂漠よりも、狭い範囲で豊かな起伏が見受けられるような、あえていうならば「現実にはなさそうなシーン」をデザインしたところもあったという。これはプレーヤーに、大きなビジュアルインパクトを与えるため、わざと行なったことだ。
こうした背景の視覚効果に力を入れているのは「アンチャーテッド」シリーズの伝統だ。過去のGDCで行なわれた「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」にまつわるアートディレクションセッションでは、ヒマラヤの山々の立ち並び方や神殿の形状デザインに関して心理学的要素を取り入れたことを明かしていたことがあった。
砂漠のシーンのコンセプトアート |
■ 実在のものを調査してデザインに反映
「Uncharted3」では、ロンドンのパブ、ビクトリア王朝時代のロンドンの秘密基地といった、比較的近代よりのロケーションも登場するが、そうしたシーンでは、ちゃんとその土地柄がリアルに再現されるように、大道具オブジェクトや小道具オブジェクトに関して実在のものを調査してデザインが進められた。実際には存在しない、ビクトリア王朝時代のロンドン地下シーンに関しては、当時建造されたロンドンの建築部物の構造や特徴を調査して、そのテイストでシーンをデザインしている。
ロンドンシーンのデザインワークの数々 |
「アンチャーテッド」シリーズは、大作映画並の制作費が掛けられて開発されたと言われているが、こうした細部までのこだわりを聞かされると、開発コストが高くなるのも無理はないと思ってしまう。
ロンドン地下シーンは、ビクトリア王朝時代の建造物を調査してデザイン |
飛行場の背景オフジェクトに適用されたテクスチャの素案 | 海賊港の背景オブジェクトのテクスチャ素案 |
シリアの街のコンセプトデザインと、簡略化されたレベルデザインデータの比較 |
■ 実機側グラフィックスチームのお手本となれ
噴煙と火柱が舞うフランス古城シーン |
フランスの古城での大戦闘に関しては、コンセプトアートが、実機のグラフィックスチームに大きなインスピレーションを与えたとRuppel氏は振り返っている。
フランスの古城では大火災が起きて、その中をドレイクとサリーが逃げ惑いながら敵と戦うが、そのシーンの火や煙の激しさなどは、コンセプトアートが参考にされ、パーティクルエフェクトのデザインなどのお手本にまでなったそうだ。
コンセプトアートは、実際には、ゲームメカニクスやゲームのストーリー自体もが完成していない状況から先行スタートするため、製作される作品群は多岐にわたり、なおかつ柔軟かつ多彩なバリエーションが製作されるという。例えば、観光地なっている十字軍の古城に、真夜中に忍び込むシーンでは、月夜のシーンと夕暮れのシーンの双方のコンセプトアートが作られたとしている。
「Uncharted3」の開発では、コンセプトアートチームが、キーカラーの提案も行なっている。
例えば、実在のマテリアルを参考にフォトリアリスティックなグラフィックスを突き詰めていくと、写実的にはなるがビジュアルインパクトとしては弱いものになってしまうことがある。映画製作などでも行なわれる手法だが、そのシーンのテンションや、状況を明確に表現するために、色調をあえて写実的表現からシフトさせるのだ。
左が写真ベース、右が演出された色あい |
Ruppel氏は、記憶色志向に色調を変移させシリアの街のシーンのコンセプトアートを紹介。このシーンでは、写実的にはモノトーンな情景となるようなのだが、あえて赤みを帯びたキーカラーを提案して、印象的なシーンを演出した。
■ コンセプトアートがゲームの世界観の根底を支える
「Uncharted3」の中盤の山場となる海洋シーンでは、数々の壮大なコンセプトアートが作成された。
Ruppel氏を初めとしたコンセプトアートチームは、このシーンのデザインが楽しかったと振り返っている。
廃船がひしめき合う海賊の港シーン |
海賊に改造された1970年代風の豪華客船のボールルームは、最初にアールデコ風デザインの影響を受けたまっさらの状態をデザインし、そこから経年を得て古くなった様をデザインし、そこから海賊によって荒らされた後の、実際のゲームシーンで使われたロケーション風のシーンをデザインしたという。
豪華客船シーンでは印象の強い荒廃したボールルーム場面のためのコンセプトアート |
船内に利用されたテクスチャの素案 |
ラストシーンとなる砂漠のアトランティスは、自在しない場所なのでコンセプトアートの製作は困難だったようだが、ゲーム内設定上の地理的位置や文化的背景を考慮して、エジプト文明にアラビアの中近東文化を味付ける形でデザインが進められた。
実在しない砂漠のアトランティスはエジプト文明×アラビア文明(イスラム文明)のタッチでデザインされた | ||
砂漠のアトランティスの建造物のデザイン。実際のゲームでは経年劣化した状態で登場する |
以上が、セッションの要点をまとめたレポートになる。
実際にセッション中に示されたコンセプトアート作品群は、本稿で紹介した物の10倍近くはあったため、さすがに全てを紹介できてないことはあらかじめお断りしておく。
いずれ、セッションに使用された映像素材の数々はNaughtDogのGDC2012関連サイトにアブロードされるはずなので、興味がある人は随時チェックして欲しい。
「アンチャーテッド」シリーズは、現実世界での歴史的事実をベースにしながらも、そこに大胆な空想要素(SF要素)を織り交ぜた独特なゲーム世界を毎度見せてくれるのが楽しいが、本シリーズは、毎回、根底に揺るぎない説得力とリアリティの存在を感じさせてくれてきた。この堅牢な作風を下から支えていたのが、Ruppel氏が率いるコンセプトアート製作チームなのだろう。
(2012年 3月 11日)