【年末特別企画】「CastleVille」から見えた“コアソーシャルゲーム”の世界
新たな方程式で作られたストレスフリーなストラテジーゲーム


「CastleVille」

正式サービス中(11月15日サービス開始)

利用料金:無料



「CastleVille」は世界17カ国語でサービスされている。もちろん日本語でもプレイできる

 ソーシャルゲーム世界最大手である米Zyngaは最新作「CastleVille」を11月15日から、日本語を含めた世界17カ国後でのサービスを開始した。スタート前からプロモーションムービーによるキャンペーンが行なわれ、スタートから1週間でアクティブユーザーが920万人を越え、ZyngaのFacebookゲームにおけるアクティブユーザーの最速増加記録を更新した。

 ソーシャルゲームと言えば、少ない開発費と短い工数で作られたお手軽なゲームというイメージが強い。実際、2010年頃までのソーシャルゲームには、ソーシャル性やARPUの面はともかく、ゲームとしては粗製乱造的なチープさがあった。現在もそうしたゲームは日本を含め後を絶たず、玉石混淆の世界であることは間違いないが、そうした中でも2011年下半期にサービスを開始したゲームの中には、明らかにこれまでとは作りの違う“コアソーシャルゲーム”とでも呼べるようなものが出てきた。

 なにより特徴的なのは、この動きが有名なIPを持つ既存のゲームメーカーではなく、ソーシャルゲームとともに育ってきた新興メーカーから出てきていることだ。少し大げさな表現をすると、ソーシャルゲームのパラダイムシフトが新たに起こっているといってもいいかもしれない。

 このレポートでは、「CastleVille」に見る次世代ソーシャルゲームの姿を紹介するとともに、このゲームが生まれる以前のソーシャルゲームについても、改めてその特徴を紹介したい。



■ 新たな展開を見せ始めたFacebookソーシャルゲーム

 「CastleVille」もそんなコアソーシャルゲームの1つだ。開発したのはZynga Dallasで、これが初ローンチタイトルになる。スクリーンショットを一瞥しただけでも、これまでのソーシャルゲームとは違うグラフィックスのリッチさを感じていただけるだろう。本作はおとぎ話の世界で友達と協力しながら王国を建設していく。城の周囲には「闇のエリア」という薄暗いエリアが広がっているので、クリスタルを使って闇を払い、中に囚われている人を救出していく。

 ジンガジャパンのリリースによれば、クリエイティブ・ディレクターのビル・ジャクソン氏は「息をのむような風景や壮大な城、遊び心あふれるキャラクターや美しい音楽、深い物語にいたるまで、よりレベルの高い製品品質を『Ville』シリーズにもたらす」ことを目的に本作を開発したそうだ。本作のBGMはコーラス付きのオーケストラ音楽で、まるでディズニー映画のような雰囲気だ。このBGMは、本作のためだけに75人編成のオーケストラと全声聖歌隊によってカナダでレコーディングされた。これはソーシャルゲームでは初の試みだ。

【「CastleVille」プロモーショントレーラー】



 もちろん、新しいといっても、友達にプレゼントを送ったり、行動エネルギーのチャージにリアルの時間がかかることなど、ソーシャルゲームの基本的なシステムは変わらない。さらに本作の中には、これまでZyngaがサービスしてきたソーシャルゲームの要素が様々に取り込まれている。だが、それらの要素は本作ならではの新しい切り口で使われている。まずはどのような要素を引き継いでいるのかを簡単にまとめてみた。

「FarmVille」。大ヒットした元祖農場系ゲーム。現在も根強い人気を維持している
「FrontierVille」。様々な新要素を生み出し、ソーシャルゲームが進化する道筋を作ったゲーム
「CityVille」。拡張要素や遊びやすさなど、長期に及ぶサービスを念頭に置いたつくりになっている

「FarmVille」

 「Mafia Wars」とともにソーシャルゲームブームを生み出した元祖農場系ゲーム。土地を耕して野菜を作ったり、果樹や家畜を育てる。畑に蒔いた種は収穫までに一定時間が必要になり、実った後も放っておくと枯れてしまう。友達にプレゼントを贈ったり、友達の畑にいって手助けをすることができる。単純なゲーム性が受けて大ヒットした。スタート時には作物を植えて収穫するだけの単純なゲームだったが、のちに生産要素やストーリー性のあるクエスト、新たなエリアが追加された。

「FrontierVille」

 西部フロンティアを開拓して街を発展させていく都市育成シミュレーションゲーム。キャラクター性が強調されていて、街の施設とキャラクターが紐付けられていて、施設を作るたびに街に住む人が増えていく。街の施設は機能性を備えていて、クエストで必要なアイテムを作ったり、増えすぎたアイテムを整理することができる。作業をしているとウッドチャックやキツネ、ヘビなどの野生動物が邪魔をしてくるので、叩いて追い払う。人の開拓地で手伝いをすると「信頼」ポイントが手に入る。2011年には冒険要素が加わり、「Pioneer Trail」というタイトルになった。

「CityVille」

 市長になって街を発展させていく「シムシティ」ライクな都市育成シミュレーションゲーム。住宅地、商業地、公共機関をバランスよく建設して住民の幸福度を上げていくことがポイントとなる。「FarmVille」や「FrontierVille」の拡張は四角いエリアの面積を広くしていくが、「CityVille」はマス目になった区画を1区画ずつ購入していく。建物の傍に街路樹を置くと収入がアップしたりと、配置に攻略の余地がある。



 「FarmVille」はソーシャルゲーム黎明期のゲーム。システムは非常にシンプルで、ゲームというよりもコミュニティサービスに付随したちょっとした遊び要素に過ぎなかった。とはいえ、この当時からマクロプログラムを組んでエネルギーの貯まりや作物の収穫時期を管理しては処分される人が後を絶たず、作業感の軽減と、ゲーム性の向上が求められていた。

 そのため、発展期の「FrontierVille」や「CityVille」になると、より“ゲームらしい”ゲームになってくる。さらに演出面でもFlashの実装技術が進歩して、アニメーションや一枚絵などの派手な演出手法が使われるようになった。また「FrontireVille」の登場以降、NPCのキャラクター性が強くなり、NPCから受けるクエストがゲームをけん引していくようになった。

 もともとソーシャルゲームは平均プレイ期間が3カ月程度と言われている。黎明期に作られたゲームはいずれも大きな拡張を想定したものではなかったため、無理な拡張で重くなったりバグが頻発したりといったトラブルもあった。2010年初めごろにはZyngaのゲームを立ち上げると上にお詫び文が掲載されていることが多かった。

「FarmVille」にぎっしりと詰まった家畜と畑。こうなると農場というより工場だ

 「FrontierVille」や「CityVille」はある程度長期的なアップデートを想定したつくりになっているが、今度はヘビーユーザーのコンテンツ消化のスピードにアップデートが追い付かず、クエストの難易度がどんどん上がっていったり、土地を拡張するよりも建物が建つ速度が速くてびっしりとものを敷きつめた狭苦しいマップでそれ以上やることがなくなり、飽きてやめてしまうという状況が生まれた。

 ソーシャルゲームは友達の協力が欠かせないため、友達がやめてアイテムが集まりにくくなってくると、クエストが進まなくなり自分も足が遠のいてしまう。それを回避するために、農場系ゲームでは家畜小屋や植物園などでアイテムをひとまとめに管理できるようになり、「Treasure Isle」では今まで友達に頼むか課金でしか解決できなかった要素に、新たに独力で何とかするという方法が追加されたりした。

 「CastleVille」はこうしたソーシャルゲームの発展を礎に、これまでの弱点を克服した新しいシステムを提供している。次の章では、「CastleVille」の各要素を紹介しよう。




■ 物語を引っ張る個性豊かなキャラクターたち

スタート直後の「CastleVille」。プレイエリアの外に広い未踏の地がある

 「CastleVille」を始めて、まず驚かされるのがフィールドの広さだ。ソーシャルゲームはたいてい小さなエリアからスタートし、「CastleVille」でもプレーヤーがものを建てられるエリアは小さいが、本作ではその外にある、将来アンロックしていくであろう闇のエリアを最初から覗ける。中には怪しい人影や、魔法の門、大量破壊兵器など怪しげなものがたくさん配置されている。

 ゲームを開始すると、プレーヤーは闇の勢力に襲われている少女イベットと隣の領主を助ける。このイベットがプレーヤーの街の最初の住人になる。その後も闇のエリアにとらわれている人を助けるたびに、街の住人が増えていく。彼らはそれぞれストーリー性のあるクエストを持っており、それがプレイの指針となる。本作には「Create Your Happy Ending」というキャッチフレーズがつけられており、ストーリーの最後にはエンディングがあることをにおわせている。

 現在は、ホリデーシーズンの季節イベントが進行中で、サンタクロース風の“クリス・クリングル”も街に住んでいる。彼らは街中を自由にうろついて、時に笑ったり、歌を歌ったりしている。こういった生き生きとした演出もこれまでのソーシャルゲームではあまり見られなかった風景だ。


自分のアバターは男女のどちらか。男はオジサン風とイケメン風がある
「CastleVille」のNPCはみんな個性豊か。手書きのような優しいタッチで描かれている
闇にとらわれている人影を助けると、街に新しい住人が増える。街の住人は、遊びに来た友達のアバターとともに街をうろうろしている




■ デザインか効率か、プレイスタイルで遊びが変わる

木からは「丸太」が、岩からは「石」がとれる

 ゲーム序盤は必要な施設を作ることが目的になる。施設を作る材料は各種あるが、もっとも基本的な材料は岩を砕いて採取する「石」と、木を伐って入手する「丸太」だ。フィールド上にある資源を使って何かを作るのは、ソーシャルゲームではおなじみの手法だが、「CastleVille」ではここにも大きな変化がある。

 これまでのゲームではあらかじめ配置された木や石を取りつくしてしまうと、そこでゲームが行き詰っていた。木や石の出現はランダムで、どうしても欲しければ課金で購入してくださいというものが多い。「邪魔な雑草を取りましょう」というクエストをクリアするために、わざわざ課金アイテムの雑草を購入して自ら植えた後、それを取り除くという本末転倒な状況になってしまい、プレーヤーの不満要素になっていた。「CastleVille」ではここをすっぱりと割り切って、資源として使えるアイテムはすべてゲーム内通貨で購入できるようになっている。

 自分だけの風景を作るためにすべてのオブジェは移動可能だ。さらに、わざわざ設置した木や石を採取したくないという人のために、材木小屋と鉱山を建てれば、それらから直接採取しなくても資源が手に入るようになる。これらの施設を木や石の側に置くことで収穫速度が最大で50%UPするというボーナスもある。この辺りはリアルタイムストラテジーのような感覚だ。

 もともとソーシャルゲームには、デザインを重視して美しい風景を作ることに力を入れる人と、効率を重視する人に分かれる傾向があるが、「CastleVille」のシステムはそのどちらも満足させるよう考えられている。ランダム要素がプレーヤーに不愉快を与えるのであれば思い切って排除するという「CastleVille」の割り切り方は、いかにもソーシャルゲームらしいアプローチだ。


左の国はデザイン重視。課金アイテムも使って綺麗に飾っている。右の国はかなりの効率重視で城レベルはダントツ
建設すると定期的に資源が受け取れるようになる「材木小屋」と「鉱山」
侯爵の王国はモデルタウンになっており、新しいアイテムや課金アイテムが豪華に飾ってある。ここでチェックして気になったものはショップで購入できる




■ ソロでもプレイ可能なゲーム性と、新しい協力要素

建築は独力でも可能だが、友達の協力を仰いだ方が効率よく進められる

 本作には、これまでのソーシャルゲームが何となく引きずってきた“ソーシャルゲームらしさ”を思い切って変えている面が多々あるが、その中でも最も大きいのが、ゲーム内で必要となるアイテムを基本的にすべてゲーム内から入手できるということだろう。

 普通のゲームなら当然の話だろうが、これまでほとんどのソーシャルゲームでは、もっとも大切なアイテムは友達からもらうか課金でしか解決できないようになっていた。友達にアイテムを送ったり送られたりすることがバイラル性を生み出して、ソーシャルゲームのユーザー拡大につながってきたからだ。

 本作には「作業場」や「アトリエ」、「仕立屋」、「厨房」など実に多くの工房がある。この工房群を駆使すれば、ゲーム進行に必要なアイテムを一通りすべて作ることができる。例えば土地の拡張に必要な「探索クリスタル」のようなアイテムは、他のゲームでは必ず友達の協力か課金が必要な要素だが、本作では「クリスタルの破片」というアイテムからわずか1時間で1本の「探索クリスタル」を作ることができる。「クリスタルの破片」は友達からもらう以外に、たまに出てくる闇の生き物を倒すことでも入手できるので、時間さえかければ1人ですべてを完結させられるというわけだ。


建設に必要な材料は工房で生産することができる

 では、全く友達と協力しあう要素がなくなったのかというとそうではない。特に、エリアを拡張するための城レベルに関係する「王家」の建物は、友達と密接に関わりを持つほど有利になるような仕組みがある。建物を建てるときに友達を従業員として雇うのだが、その雇った友達が自分の王国を訪れると建物の経験値的なポイントがたまっていく。ある程度貯まるとレベルが上がり、城レベルへの貢献度が上がる。

 またゲーム内で入手できるアイテムについても、「友達に頼む」というボタンで従来通り友達のニュースフィードに依頼を流すことができる。もう1つは友達を手伝うことでしか手に入らない「錬金術師の粉」というアイテムだ。生産には欠かせないこのアイテムは、友達の王国を手伝うことでしか手に入らない(もちろん課金でも解決できるが)。

 同様に、今作は「評判」ポイントに大きな変更が加えられている。「評判」ポイントは「FrontierVille」で生まれた要素で、友達の家に訪れてそこで何かを手伝うことで貯まっていくというものだが、「FrontierVille」ではこれといった機能性はなかった。だが「CastleVille」では、様々なアイテムの材料になったり、これでしか買えない特別なアイテムが追加されたりしている。

 これまでは友達のところでもらえる報酬といえば行動エネルギーや経験値が定番だった。だがある程度レベルが上がって行動エネルギーを自分で賄えるようになってくると、1件ずつ友達を回ってエネルギーを集めるという作業はだんだんと煩雑に思えてきて自分が訪問する回数が減っていき、友達もあまり訪れなくなる。「CastleVille」では常に消費するアイテムを報酬にすることで、友達との関係が疎遠にならないよう気を配っている。


「錬金術師の粉」は友達の手伝いをすることでしか入手できない
王国の建物を建設するためには友達の協力が必要だ。建物のレベルを上げると、城レベルが上昇する




■ ソーシャルゲームのリッチ化でゲームの垣根がなくなってきた

Zyngaの「Empires & Allies」以降、“村ゲー”タイプの対戦ゲームが増えている

 ここまで説明してきたように「CastleVille」はソーシャルゲームが生み出してきたシステムをしっかりと継承しながらも、それを全く新しいシステムに生まれ変わらせている。ソーシャル的ではあるが、クリックしているだけで満足という牧歌的だった時代はすでに過去のものになり、ソーシャルゲームは戦略を楽しむ頭脳ゲーム的な方向に進化している。遊んでいる年代層が高めであることや、ブラウザの性質上アクションゲーム方面には進化しづらいので、これは当然の方向性だともいえる。

 そしてスタート時には女性ユーザーによってブームが牽引されてきたが、ここ最近のゲームは明らかに男性ユーザーを強く意識しているものが増えている。例えば「It's Girl」や「Happy Aquarium」を開発した米のソーシャルメーカーCrowdStarの新作は、元Sega of Americaの開発者が作った「Fallout」風の世界観のストラテジーゲーム「Wasteland Empire」だ。このゲームは当初からコアなソーシャルゲーマーに向けて作られている。

 「CastleVille」も見た目は牧歌的だが、ゲームとしてはかなりコアな作りで、これまで家庭用ゲーム機等で、しっかりゲームを遊びこんでいて、ストラテジーゲームとは何かがわかっている人へ向けたゲームという印象を受ける。日本でもゲーム業界の有名人がソーシャルゲーム業界へ参入してニュースになったりしているが、アメリカでも家庭用やPCのコアゲームを作っていた開発者がソーシャルゲーム業界に多く参入しており、コアゲームで培ったゲーム作りのノウハウがソーシャルにフィードバックされている影響もあるのかもしれない。

 ソーシャルゲームはすでに安く作った単純なだけのゲームではなくなり、PCゲームや家庭用ゲームがたどってきたリッチゲームへの道を確実に進みつつある。今後、ブラウザの進化に合わせてより美しいグラフィックスと高度なAIを使ったゲームが登場してくるであろうことは疑いの余地がない。「ソーシャルゲーム」という言葉はいずれなくなると、多くの業界人が指摘しているが、家庭用やオンラインゲームがソーシャル的な要素を盛り込み、ソーシャルゲームがリッチゲーム化することでお互いが歩み寄った結果、そのどちらでもない新しいゲームの道筋にいずれ統合されていくのかもしれない。


【Indiana Jones Adventure World】
ハリウッド映画「インディ・ジョーンズ」とコラボレーションして、映画の主題歌やBGMが使われている。「魔宮の伝説」で有名な、転がるでかい岩も出てくる
【Wasteland Empires】
「Fallout 3」のような荒廃した未来世界で、レイダーやミュータントと戦うストラテジーゲーム。ユニットを指揮してRTS風の戦闘が楽しめる
【Ravenskye City】
「Ravenwood Fair」と世界観を共有した新作ゲーム。嵐に巻き込まれて不時着した天空の古代都市を冒険しながら復興していく。アニメーションの演出や、ストーリー性など「CastleVille」との共通点も多い

Copyright 2011 Zynga Inc. All rights reserved.
Copyright (C) 2011 CrowdStar. All rights reserved.
Copyright 2011 Lolapps Inc. All Rights Reserved.

(2011年 12月 29日)

[Reported by 石井聡]