ニュース

【GDC 2013】Zynga、「CastleVille」のクラフトシステムを大解剖!

元「Age of Empires」のスタッフが生み出した“クラフトベース”による精密なゲームデザインに注目!

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

 Zyngaといえば、なんといっても「FarmVille」シリーズが有名だが、2011年12月のZyngaの株式上場を支えたのは、何も「FarmVille」だけではない。「CityVille」や「CastleVille」といった往年のゲームクリエイターらの手によるハイクオリティな「Ville」シリーズがしっかり脇を固め、それがZyngaに対する絶対的な信頼感を生み出していた。逆に、いまのZyngaの凋落があるのは、スタジオを増やしすぎて新規タイトルのクオリティコントロールが行き届かず、ゲームファンの期待に応えられる作品を生み出せなかったからだ。

 とりわけ、今回のセッションテーマとなっている「CastleVille」は、2009年に誕生したBonfire Studiosと呼ばれるスタジオを母体としたZynga Dallasが開発を担当した、“筋目の良い”タイトルだ。ここはリアルタイムストラテジー(RTS)の金字塔である「Age of Empires」シリーズの開発元として知られるEnsemble Studiosの元スタッフが数多く在籍しており、結果として「Castle Ville」にはRTSの開発経験が随所に活かされ、Flashベースのブラウザゲームでありながら、実に遊びごたえのあるストラテジーゲームに仕上がっている。

 GDC最終日に行なわれたセッション「Crafting Sccess: A Deeper Look at CastleVille's Crafting System」では、「CastleVille」のコアといっても過言ではないアイテムクラフティングに関する設計が公開されたので紹介しておきたい。

アイテム作成をベースに、1個のゲームを作り上げる!

Zynga DallasのJacob Naasz氏
Zynga Dallasの前身は「Age of Empires」シリーズを手がけたEnsemble Studios
Zyngaの「FrontierVille」(現「The Pioneer Trail」)のクラフティングシステム。こちらはかなりシンプルだ
「CastleVille」のクラフティングシステム。ソーシャルゲームでは禁じ手とされるエナジーを回復するアイテムを手軽に作ることができる。しかし、作るのは大変ではないが、素材集めに時間が掛かる

 「CastleVille」の基本的なゲームデザインは、王国の領土を広げ、領内に各種機能を備えた建物や資源を生む施設を建設し、国王を含む、様々な領民の頼みをクエストの形で聞いていく。時には自ら作成した剣を持って、ゴブリンたちと戦うこともあり、欧米がPCゲームの分野で得意としたストラテジーの妙味が存分に味わえる。

 「CastleVille」が、ゲームとして特徴的なのは、クラフティング、つまりアイテム作成が、すべての基礎になっていることだ。木や石、各種食べ物を採取し、各種生産施設でより高度なアイテムに替えていく。

 「CastleVille」がユニークなのは、それが何段階も用意されており、アイテム作成を繰り返すことで、結果として王国が繁栄し、ゲームが進むようになっているところだ。つまり、クエストドリブンならぬ、クラフティングドリブンのゲームになっている。しかも、単純にクエストのために作るアイテムだけでなく、武器として自ら使ったり、自ら食べることでEXPやエナジーが回復したりするなど、ユーザーにとって非常に価値のある≒ビジネスとしてはあまり歓迎できないアイテムまで作れてしまうところが大きな特徴となっている。アイテム作成を行なうゲームはほかにも沢山あるが、ここまで精密かつ多彩なクラフティングシステムを構築しているのは、この「CastleVille」だけだ。

 ゲーム性を維持するために、各種素材をストックできる数は比較的厳しく制限され、それでいて高度なアイテム作成を行なう際に必要とされるアイテムの数は非常に多い。このシビアなバランシングの中、限られたエナジーの中で、いかに円滑に各種施設を稼働させてアイテムを作り続けるかが求められる。これがうまくハマった時の嬉しさは、よく出来たストラテジーゲームのそれに近いものがある。

 アイテム作成は、序盤は簡単なものから入り、フレンドの支援のみで得られるアイテムなど、徐々に難しくなり、最終的には3つの専門に特化していく。通常はどれかひとつに特化するが、多くのフレンドがいるプレーヤーは3つのスペシャライズをすべて作成していくこともできる。

 面白いのはクエストデザインだ。「CastleVille」のクエストではほとんどの場合、アイテム作成を必要とする。国王はつねに酒と食料を求め、それを持って領民を訪問することを要求してくる。

 感心したのは国王のクレイジーな性格付けではなく、そのクエストの難易度、クリア時間に対する考え方だ。「CastleVille」では、すべてのアイテムに対して、入手難易度ごとに重み付けを行なっており、クエストの難易度、制限期間、報酬は、常に厳密に管理されている。

 なんとなく「バカ王だから、こういう感じでいいか」と感覚的に設定しているわけではなく、まず、1日1回のプレイとして1週間で25エナジー×7=175エナジーという数字をはじき出す。これがクエストで要求するエナジー量になる。

 クエストでは、Sweet Bunが6つで72エナジー(小麦11エナジー、サトウキビ1エナジーがそれぞれ6つ必要)、Flaming Grogが4つで88エナジー(水7エナジー、オーガの息7エナジー、唐辛子7エナジー、補正4エナジー)、8箇所訪問で8エナジーの計168エナジーとなる。

 プレーヤーの行動をクラフティングで管理することで、ゲームの柱であるクエストクリアを目指すにあたり、プレーヤーは常に適切な難易度で、適切なプレイ間隔で遊べるようになっているわけだ。たとえば、これもまたリッチなクラフティングシステムを搭載している「FarmVille 2」と比較すると、「FarmVille 2」は、クエストによって難易度がまちまちであり、同じような手法で管理されているとはとても思えない。「CastleVille」のクエストが、常に“適度な難易度感”があるのは、そうした綿密な計算があるわけだ。

【「CastleVille」のクラフティングシステム】

【「CastleVille」クエストの作り方】

クラフティングシステムを応用し、ゲームにさらなる広がりを提案

ホリデーシーズンの際に期間限定で開かれたショップ
作成したアイテムを納入してゲージをフルにすると報酬が貰える「Spirit Bar」

 プレーヤーならご存じの通り、この「CastleVille」の高度なクラフティングシステムは、ゲームの様々な要素に応用されている。たとえばバレンタインなどの時節イベント。専用の施設を建て、そこで期間限定のアイテムを作ることがができ、同時に発給されるクエストをクリアすることでさらに報酬も獲得することができる。

 またこの時節イベントでは、「Spirit Bar」と呼ばれる、クエストアイテムの納入数を示すゲージが表示される。このゲージをフルにするまでアイテムを納入すると、レアなアイテムが貰えるという仕組みで、フルにしなくても、一定数毎にアイテムが獲得できる。プレイスタイルに応じて楽しみ方が変えられる、イベント期間中の目標となるシステムだ。

 そのほかにも、メインストーリーや直接的な報酬に絡める形で、木や石、宝箱など各種リソースに取り付いて使えなくしている障害物を、クラフティングで作成したアイテムで取り除いたり、アイテムの代わりにフィールド上に特殊効果をもたらすマジックシステムを生み出せるなど、クラフティングシステムは様々な形で応用され、ゲームの超寿命化に寄与している。

 Naasz氏は、アドバイスとして、自らが信じたゲームデザインを導入することを恐れないことや、ゲームをどのようにしたいのかのアイデアを持ち続けるべきだと述べ、問題を解決するためには、まったく別の視点で考えることも大事だという。

 セッション後のQAでは、マネタイズについて問う質問が多かった。質問の意図は明確だ。「もっとARPUを上げる工夫をゲームデザインに組み込んでもいいのではないか?」ということだ。ZyngaがARPUが低いのは事実であり、全体として業績低迷が続いているのも事実だ。

 しかし、Naasz氏は「CastleVille」のクラフティングシステムは、純粋にゲームを楽しんで貰うため機能のひとつとして取り入れたとし、それが結果としてユーザーの接続率の高さに結びついていると説明。また、作成できるアイテムに、本来はマネタイズアイテムであるエナジー回復アイテムがあることについても、クラフティングそのものにエナジーを使う仕様になっているため、クラフティングを促進させるためにそのような仕様にしていると回答。ソーシャルゲームらしからぬ、ゲームクリエイター魂が感じられるセッションだった。

【「CastleVille」クエストの作り方】

【問題に対する解決策について】

(中村聖司)