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【CEDEC2017】半年でサービスを終えるゲームアプリが多い中、どうやってダカイできたのか?
アプリボットによる「大型アップデートによる、売れないゲームの再生術」とは?
2017年9月2日 13:45
ゲームを中心とするコンピュータエンターテインメント開発に関する話題を取り扱うカンファレンス「CEDEC2017」において、アプリボットは「ダカイせよ!大型アップデートによる、売れないゲームの再生術」と題した講演を行なった。
講演を行なったのは、アプリボットのプロデュースDiv、取締役の黒岩忠嗣氏、プロデュースDivでプロデューサーを務める前田貴文氏、ゼネラルマネージャーの佐藤裕哉氏の3人。
現在、ソーシャルゲームは数多く運営されているが、サービスを早々に終了するアプリも増えている。黒岩氏は冒頭「『ジョーカー~ギャングロード~』と『グリモア~私立グリモワール魔法学園~』も、正直上手くいかなかった」と語り始めた。だがサービス運用後に大型アップデートを行なうことで、売上げを伸ばすことができたという。
アプリボットではこの大規模開発を、トヨタの有名な作業の見直し活動“カイゼン”ならぬ、“ダカイ”と表現している。講演ではこの2件の事例を通して、ダカイに必要なもの、大型アップデート、長期運用を成功させる術を紹介した。
「ジョーカー~ギャングロード~」の場合。とにかく重要なのは“会話”
まずは「ジョーカー~ギャングロード~」の事例が紹介された。ダカイを担当した前田貴文氏はサービス開始当初を振り返り、サービス開始当初、シンプルなゲームであるが故にゲームシステムを重要視し、世界観にはこだわらなかったという。ところがサービスが始まると、物語性が弱いがゆえにアッという間にコンテンツ不足に陥ってしまった。結果、セールスランキングで50位あたりをうろつくことになる。
そこでダカイを行なうことが役員会で決定し、まず行なったのは、誰とダカイを行なうかという、チーム作りだった。前田氏は「絶対にダカイできるのか? 頑張っていけるのか?」を確認して、チームメンバーと話し合ったという。というのも、ダカイは3カ月で行なうという超短期決戦であるため、この山を一緒に登り切ることができるかを確認したかったという。また、メンバー選定にあたっては、スキルを重要視するより「最後までできるのか?」」を重要視したという。
チームも決まったところで合宿を行ないコンセプトなどを選定。ターゲットとして選定したユーザー像は「王道不良マンガが好きな人」、「カードゲーム好きとは限らない」、「(不良好きな人だったら)絆(チーム)を大事にする」、「難しいことは好きでは無い」という4点。同時に大切にしたキーワードは「ストーリー(没入感)」、「キャラクター」、「ギルドでトップを取るだけではなく、個人でもNo.1を目指す」の3つ。
キーワードまで落とし込んだところで、キーワードをベースに機能を考えていくことに。まずはストーリーの強化だが、クエストなどの強化を行なうだけでなく、クエストの一覧画面もただリストで表示するだけでなく、街のグラフィックスを背景に表示し、マップ型で街をぶらついているように演出。「個人でもNo.1を目指す」という点ではアバター機能を導入しキャラクターへの愛情を深め、タイマン機能で1位を目指すようにした。そして不良と言えばマンガということで、ゲーム内で週刊マンガの連載をスタートすることに。
ここで実際に作業に入るが、開発を各チームで権限と責任を持たせるユニット制にして、開発ディレクターとプロデューサーはフォローに専念することに。そしてとにかく会話を大切にして、より良い開発体制を維持できるよう努めたという。結果、大型アップデート後にKPIは改善し好調をキープしているという。
「グリモア~私立グリモワール魔法学園~」の場合。熱量が大事!
「グリモア~私立グリモワール魔法学園~」は、可愛いキャラクターとは裏腹にシリアスで真剣なストーリーがユーザーに受け入れられ、サービス当初は「いけるのでは?」と佐藤氏は感じたそうだ。そこで広告を投下したが今ひとつDAUも伸びず、それでも売上げが伸びれば良いのだが、売上げもガクッと落ちてしまう。
ここでダカイが決まるのだが、役員会で黒岩氏が「お客さまも作品を愛してくれているし、運営も熱量を持って取り組んでいる。絶対にやれると思う」と話したという。ここで佐藤氏は「KPIや経営状況など色々あるが、大切なのは『3つの熱量』」と定義づけた。ここで言う3つとは、「ユーザーの熱量」、「運営メンバーの熱量」、「ダカイ責任者の熱量」だ。
不調の要因としては、体制とゲームの課題の2点で、体制作りについては佐藤氏が運営をしながらダカイを進めるのが難しいということで、黒岩氏がダカイ責任者と開発責任者を兼任する形でチーム入りすることに。黒岩氏と佐藤氏のチーム内での関係性に優劣はなく、アプリボット内ではこの関係性を“バディ”と呼んでいる。バディとは「違う視点で見ることができる人が、同じ熱量で挑んでくれる人」であり、2人組になることで物事が上手く捗るようになったという。
もう1点、ゲーム上の課題としては、カードは可愛くて好評だったがそれだけでは興味を引き続けることは難しいことから、「カードを集める重要性を作る」、「カードを使って遊べる仕組みを作る」、「長く遊んで貰えるための工夫」などを盛り込むべく仕様を固めていった。ちなみにこの時、課題に対する解決策だけをゲームに盛り込むと、ただツライだけのクソゲーになってしまい、批判を生んでしまうという。ここで重要なのが「ユーザーの体験を変える」という点だ。
「グリモア~私立グリモワール魔法学園~」では、キャラクター間の関係性が戦闘に影響するシステム「連携スキル」を盛り込んだ。しかし当初は詳しい説明を入れず、ただ「連携スキルを導入しました」とだけ告知すると、ユーザーが意外なキャラクター間の連携などを楽しんでくれて、盛り上がっていったという。
さらに女の子のキャラクターとの親愛度を設定。このシステムは比較的オーソドックスだが、工夫した点として、女の子と仲良くなるとチャットが発生するようにして、ドキドキ感を演出したという。このチャットシステムはキャラクター63名分用意したため文章量が多くなり、また女の子のチャットではキャラクターによって既読のタイミングを変えるなど、作り込んでしまったため開発が大変なことになった。しかし、「このシステムは絶対にウケるから!」という想いでメンバーの熱量で乗り切ったという。ちなみに現在このシステムはさらなる進歩を遂げ、なんとキャラクターから電話が掛かってくるという。佐藤氏曰く、「電車の中で電話が掛かってきたらドキドキしますよね?」と言うことらしい。こういったユーザーの体験を変えることが大切だという。
結果、ダカイを経て売上げも向上した。最後に黒岩氏は、「大規模開発は色々大事だが、“誰と一緒に”、“誰のための”ゲームを作るのかに、とことん向き合ったのが最大の成功要因だった」と振り返り、講演を終えた。
最初に書いたとおり、多くのアプリのサービスがスタートし、テレビやWEBでもゲームアプリの広告が溢れている。その一方で、すぐにサービスを終了してしまうタイトルも少なくない。開発者も口を揃えて「大変です」と語る。
この講演はCEDEC2017の最終日の最後に開催され、帰ろうとする人も多い中、会場の後ろまで席は埋まり、終了後の質疑応答でも熱心な質問を寄せる人が後を絶たなかった。それがゲームアプリの現状を現わしており、ゲーム開発者の関心事となっているということだ。より多くのゲームでダカイが成功すれば、ユーザーにとってもこれに勝る物は無いだろう。