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1.5K、4K、そして8Kへ。急進する高解像度VRへのトレンド
高解像度HMDは予想されるよりも速く実用化へ?
2017年3月5日 18:29
今年のGDCではVR関連セッションへの参加人数が低下傾向にあったようである。内容的にも昨年見られた熱狂的なVR熱は沈静化し、今現在コンテンツ開発に取り組んでいる人たちによる現実的・具体的な議論が主流になってきたことを感じさせた。普及率やマーケットサイズなどリアルな数字を相手にしなければならないゲーム開発者の多くにとっては、いったん夢から覚めて、しばらく様子見という選択肢がファーストチョイスに上がるのも自然なことである。
というわけで今回のGDC Expoでは、各種のVR関連出展をわりと余裕を持って見て回ることができた。そこらじゅうのVR体験コーナーにかたっぱしから長蛇の列ができていたのも今は昔である。なにせ、いまではゲーム開発者の多くが主要VRシステムを個人や会社で所有しているので、根本的に別次元のものでもないかぎり、まあ無理して体験しなくてもいいや、という感じなのだ。
だがしかし。VRハードウェアの世界では着実に新しい技術が登場してきており、新鋭のメーカーたちがHMDやその他のジャンルで未来のニッチをいちはやく占めようと、しのぎを削っているようだ。それを感じさせたのは、GDC ExpoにおけるVRハードウェア関連の出展の多さ。正確に数えたわけではないけれども、昨年から引き続き出展した企業、今年新しく出展した企業を合わせ、VR関連ハード出展は過去最多だったと言えるかもしれない。
中でも多かったのは、やはりHMD関連。スマホ用VRヘッドセットを扱うスタートアップ系企業はGoogle Daydreamの登場によりほぼ壊滅していたものの、スタンドアロンもしくはPC対応の分野では中国のメーカーを中心に複数の製品やプロトタイプが展示されていた。そこで特に印象的だったのはHMDの解像度が急速に向上しつつあるということだった。本稿ではその点についてまとめてみたい。
4Kはまだ通過点、8K以上が理想という高解像度HMDの世界。意外とすぐ来そう?
現在、Oculus RiftやHTC Vive、PS VRといった主要VRHMDの不満点としてよく挙げられるのが「解像度の低さ」である。現実と見分けの付かないクオリティを理想とすれば、現時点の片目1K(両目2K)程度では全然足りていないのは事実。Oculusの技術陣トップを務めるMichael Abrush氏などに言わせれば、視野角180で少なくとも片目16K(両目32K)は必要だということになる。ピクセル数で言えば現在の主要HMDのほぼ200倍だ……。
実際にそこまでいくには何年もかかりそうなイメージもあるが、LGからは片目1.5k(1,440)解像度のSteamVR上位互換システムが近く登場予定であるし、今月中に開発者版が出荷予定とされるAcerのWindows MR ヘッドセットも片目1,440×1,440ドット表示というスペックだ。2017年はこの解像度が標準になるのかな、と思いきや、実際のところHMDの高解像度化というのは予想より速く進展しているようである。
特に中国系のメーカーは高解像度化に前のめりである。GDC初日にIdealensが参考出展していた両目8K解像度のHMD「Idealens M8K」についてはすでにご紹介したとおり、肉眼では画素が捉えられないレベルまで高画質化が進んでいる。そしてGDC Expoでは他にも有力な高解像度HMDを見つけることができた。
ライバルに先駆けてすでに製品化を果たしているのが両目4K解像度の「Pimax 4K VR」。これは上海に本拠を置くベンチャー企業Pimaxが開発製造しているヘッドセットで、海外では今年1月に発売を開始しており、「商用化された世界初の4K HMD」と言われている。表示装置としては3,840×2,160ドット表示のOLEDパネルを使用。視野角はHTC Vive等と同等の110°で、遅延は18msとかなりの性能である。SteamVRに対応しており、多くの既存コンテンツが利用できる。これで価格は375ドルなのだからすごい。
画質的にはさすがにHTC Vive等の2倍近くの画素密度ということで、ペンタイル特有のサブピクセルの粒感は非常に薄れており、映像のキレも素晴らしい。ただ、パネルの光量が少なくやや映像が暗めなこととから、画素間のスキマは目立ちやすく、キメ細かいながらも網目感はそれなりにあった。また、光学系の調整が完全でないのか、視野の左端で映像が途切れて黒帯が見える感じがあるのが不満に感じられた。これはパネル1枚で両眼をカバーしているための弱点でもありそうだ。
もう1つの問題点はリフレッシュレートが60Hzに留まることだ。このため動きの激しいコンテンツでは十分な快適性が得られない。また、ポジショントラッキングが実装されていないため、SteamVRのコンテンツの表示はできるとはいえ、ちゃんとプレイまでできるコンテンツは極めて限られる。基本設計にレベルの高さは感じられるが、まだまだゲーム用途に投入できる段階ではない。
Pimaxのスタッフによると、ポジショナルトラッキングについてはアドオン方式のものを開発中であり、今年中に投入したいとのことだ。それに並行して、Pimaxでは現在、両眼8K解像度のHMD「Pimax 8K VR」の開発をスタートしている。
「Pimax 8K VR」は、片目3,840×2,160ドット表示のOLEDパネルを2枚使って200°の視野をカバーしようというものだ。パネルは「Pimax 4K VR」と同じものを利用するようだ。ディスプレイ接続は2系統を同時入力するという形になる。試作機は会場に用意されていたとのことだが、折り悪く筆者が希望したときには故障しているとのことで、実物を触ることはできなかった。ただ、実際にかぶってみたというVRコンテンツ開発者によると、光学系の設計は「Idealens M8K」よりも素晴らしく、重量も驚くほど軽かったとのことである。
こうして、界隈では中国メーカーによる急速なHMDの高解像度化が進行している。これまでボトルネックのひとつとなってきたディスプレイインターフェイスの仕様についても、昨年リリースされたDisplayPort 1.4では4K@144Hzまでの出力が可能になっているため、4K~8Kの高解像度VRHMDの本格実用化は秒読み段階に入っていると期待していいだろう。ちなみにデスクトップモニターの世界では、この仕様に対応したゲーミングディスプレイが今年第二四半期に各メーカーから続々登場する予定である。
Pimaxでは近く、「Pimax 8K VR」のKickstaterプロジェクトを発進させる予定だ。HMDの高解像度化に興味のある方はぜひその動きを追いかけてみよう。