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ミライセンスが披露した3D触覚デバイスの最先端
圧力、硬さなど様々な感触を“立体的に”構築。製品化も近い?
2017年3月5日 18:29
最先端のゲーム開発者が集まるGDCのエキスポ会場といえば、様々な実験的デバイスが見られることも面白さのひとつ。その中、VR界隈で注目される触覚(ハプティクス)技術で先んじた装置を披露した企業がある。日本のミライセンスだ。
ミライセンスは産総研主任研究員である中村則雄工学博士をファウンダーとして2014年に設立された会社で、3D触覚技術の研究開発、およびその商用化を目指した事業を展開している。今回同社は、その最新プロトタイプとなる3DHaptics VR Hybrid Technologyを搭載したVRコントローラーを出展した。
コントローラーの核となるのは内部に備えられた2つの特製アクチュエーターだ。2つのアクチュエーターが連動して異なる方向感の“触覚”を指先に伝えることで、重さ感、加速度感、物質に触れた際の質感といったものを“立体的に”再現するというコンセプトが実現されている。
特別な振動パターンが生み出す触感錯覚。任意方向への“圧”や質感も表現
アクチュエーターが発するおもな振動は、コントローラーの親指部分に置かれたジョイスティックからユーザーの親指に伝わる仕組みだ。このためしっかりとハプティクスを感じるためにはスティックに常に親指をつけておく必要がある。
そこで得られる触覚はとても不思議だ。スティックはその場で振動しているだけに見えるのに、特定の方向に向かう継続的な圧力として感じられるのだ。例えば画面内でボールが坂を転げ落ちるとき、指には下向きの圧力が感じられ、ボールが左右に転がるときには、やはり左右への圧力が感じられる。しかも「上下左右」というデジタルな方向だけではなく、360°あらゆる方向への力感がなめらかに伝わってくるのである。
仮想の銃を撃ってその反動を確かめるというデモでは、この方向を持った圧力感を活かした「リコイル」が再現されていた。さすがにパワーはごく小さいものの、たしかに、ハンドガンを打てば斜め後ろ上方にコントローラーが跳ね上げられる感覚がするし、マシンガンを打ち続けると、ドドドドと後ろ方向への圧が連続で加わってくる感覚がする。無意識に腕が押し下げられてしまうような感じである。
さらに、仮想の壁面をなぞって質感を確かめるというデモでは、石壁が持つコリコリとした感触から、目の細かいサンドペーパー状の壁面が持つザラザラとした触感、あるいはタイル壁のエッジ部にゆびがひっかかるエッジ感というものが、意外なほど具体的に指先に伝わってきた。実物と完璧に同じというわけではなく、厚手の手袋を通して触れているような緩い感じではあるのだが、それでも指先が触れているものがどんな形状をしているのか、確かにわかるほどだ。
従来のコントローラーに搭載されてきた、ただ振動の強弱があるだけの機能とは次元が違う。ミライセンスの設立者で最高技術顧問を務める中村則雄博士に話を聞くと、これは人間の触覚における“錯覚”のような効果をうまく利用した技術になっているのだという。
使用されているアクチュエーターは極めて柔軟な制御が可能な特別製となっており、これに様々な変化を持つパターンで振動を加えることで触覚の“錯覚”を引き起こす。これはいわば音楽みたいなものだという。音は空気の振動パターンにすぎないが、制御された波形がうまく組み合わさることで、人の心まで動かすような美しい音色が作り出される。触覚にも同じような考えが適用できるというのだ。そこで重要なのは強弱の変化ではなく、波長変化を含む複合的な振動のパターンだという。
ミライセンスの技術がリードしているのはまさにこの部分だ。錯覚を生み出す振動パターンについての長い研究と膨大なデータの蓄積から、小さなアクチュエーターだけで狙いのハプティクスを自在に生み出せるところまできた。今回出展されたコントローラーは親指を中心とした狭い範囲にハプティクスを生じさせるだけのものであったが、アクチュエーターの数や接触面積を増やせばさらに強烈な感覚を生み出すことが可能になりそうだ。$$clear
それを空論でなく本当に実現しようとしている例として、ミライセンスのブース内にはグローブ型ハプティクスコントローラーのプロトタイプが展示されていた。モック展示のみで残念ながら試用はできなかったが、製品では各指に特製アクチュエーターが実装され、ものを掴む、撫でるなどで生じる様々な触感を再現できるものになるという。
もしこの技術がViveコントローラーやOculus Touchといった各種のVRコントローラーに搭載されたら、VR体験のフィデリティがぐっと向上するはず。PS4やXbox Oneのコントーラーも、同様の技術を搭載することができればさらなるグレードアップになるだろう。
実際、ミライセンスではそういった、触覚技術のサプライヤーとしての事業を積極的に進めているという。今回出展されたデバイスも、どちらかというとコンセプト実証のためという趣が強く、そのままコンシューマー向けに製品化されるわけではなさそうだ。共同設立者で代表取締役の香田夏雄氏は、まだ詳しくは語れないと前置きしつつ、すでにいくつかの企業が当技術を用いたデバイスを開発中であり、遠くないうちに製品化されそうだとの見通しを述べていた。
このような技術が幅広く使えるようになれば、ゲームやVRにひとまわり上質な“刺激”をもたらしてくれるに違いない。