Game Developers Conference 2009現地レポート

任天堂社長の岩田聡氏が3年ぶりに基調講演

宮本茂氏の開発手法から任天堂製品のヒットの秘密を探る
「バランスWiiボード」がPS3に迫る?ユニークなデータも公開


3月23~27日 開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center



岩田氏は今回も1カ所に留まらず、壇上を歩きながら聴講者に語りかけていった

 Game Developers Conference 2009にて3月25日(現地時間)、任天堂株式会社代表取締役社長の岩田聡氏が基調講演を行なった。講演タイトルは「Discovering New Development Opportunities(新しい開発の機会を発見する)」で、任天堂におけるゲーム開発の一例が紹介された。

 この講演の中で、WiiとニンテンドーDSに関する新発表も行なわれているが、そちらは先のレポートをご覧いただきたい。ここでは岩田氏の講演内容に絞ってお届けする。




■ 負のスパイラルに陥らない、宮本茂氏の開発スタイルに学ぶ

ゲーム開発を上昇スパイラルに乗せるアプローチとして、宮本氏の手法が紹介された

 岩田氏は講演の冒頭に、ゲーム開発における「Death Spiral(死のスパイラル)」を挙げた。これは予算の問題で開発期間が取れず、ゲームの質が落ち、売り上げも落ちるというもの。これはすなわち、予算がないからいいゲームが作れないということなのだが、これを打破するものとして、同社の宮本茂氏のゲーム開発スタイルを「Upward Spiral(上昇スパイラル)」と呼んで紹介した。

 まずゲーム開発の初期段階において、プロトタイプの制作に時間をかけるという。ただし、その開発チームは小規模で組み、同時に複数のプロジェクトを動かす。そしてトライアンドエラーを繰り返していく。宮本氏といえば、プロジェクトを根底からやり直す「ちゃぶ台返し」のエピソードが有名だが、これについては「彼はひっくり返した後、最適化している」とフォローしていた。これが終わって、ようやく製品化に取り組むことになる。

 岩田氏は他にも、宮本氏の開発スタイルについて笑いを交えながら紹介した。宮本氏は自らの趣味をゲームに生かすことが多く、園芸に興味を持って「ピクミン」を作り、犬を飼い始めて「nintendogs」を作っている。よって岩田氏は宮本氏の趣味について「外部で語らせると情報漏えいになる」と語っていた。これで今後のE3では、宮本氏に趣味についての質問が浴びせられることになりそうだ。

 また宮本氏は、廊下などで社員を無作為に捕まえてコントローラを持たせることがあるという。この時捕まった社員には、プレイの目的や操作方法の説明は一切しない。「捕まった本人の力で理解できなければならない」というのがその狙いで、宮本氏はただプレイの様子を後ろで眺めているという。そして、その社員が喜べばチームは成功、不快感を示せばチームは失敗、と判断しているそうだ。

 この例は、「任天堂のプラットフォームでは任天堂のソフトばかりが売れると言われるが、こういった下地の開発があるからこその結果で、任天堂も苦労している」というアピールにも取れる。ただこういうことができるのは、宮本氏のような強い影響力を持ったプロデューサーと、基礎体力がある任天堂という企業の組み合わせでこそなせる業とも言え、単純にうなずくのは難しいかもしれない。

 このほか、ゲームボーイアドバンス用音楽ゲーム「リズム天国」の開発において、制作スタッフにダンス指導を行なったエピソードなども披露。これは北米でまもなく発売されるDS用「Rhythm Heaven(リズム天国ゴールド)」に合わせたもので、聴講者全員に「Rhythm Heaven」のソフトがプレゼントされた。


社員を無作為にさらっていく宮本氏。写真はもちろん合成イメージさらわれた社員は、ただゲームを遊ばされる。それを肩口からただ見つめる宮本氏「Wii Sports」のボクシングのプロトタイプ
つんく♂氏がプロデュースした「リズム天国」では、スタッフにダンス指導が行なわれた。その甲斐あってか2作目のDS「リズム天国ゴールド」では、発売から半年以上もじわじわと売れ続け、160万本を超えるヒット作となった



■ バランスWiiボードがPS3を上回る?

 講演では、DSとWiiに関するデータもいくつか紹介された。まず最初にDSが1億台、Wiiが5,000万台を突破したことを報告。これは日本でも先日既に発表されているが、改めてインパクトのある数字だ。

 そして面白いのはこの先のデータ。北米と欧州におけるゲーム市場が2007年以降から急激に伸びているグラフを示した後、そのうちどれだけが任天堂製品かを色分けで見せた。任天堂の伸びは非常に大きく、特に欧州では任天堂が伸びた分だけ市場規模が拡大した、といった状況になっている。

 ソフトの販売本数においては、北米市場ではWiiが1位、DSが2位と、他のプラットフォームを抑えているという。しかしこれは任天堂単体での1人勝ちというわけではなく、7社のサードパーティからミリオンヒットが出ていることも報告。またWiiウェアにおいては、任天堂のパブリッシングタイトルが占める割合は10%程度で、残りはサードパーティだというデータも示した。

 ハードについては、2008年末におけるWiiとXbox 360、プレイステーション 3の出荷台数の比較がグラフで示された。Wiiが4,000万台超で最も売れている、というのはごく普通のアピールなのだが、さらにここに「バランスWiiボード」の出荷台数も重ねて見せた。この時点で1,500万台弱を出荷しており、まもなくPS3に届こうかという数字になっている。

 またDSについては、所有者の男女比を紹介。発売時からのトータルでは7割以上が男性となっているものの、2008年に限定すると、ほぼ半々というデータが出された。任天堂が大きく市場のシェアを伸ばしたのは、女性を含めた新たなユーザー層を開拓できたことが要因だったことが明確に示された。


累計1億台を突破したDSと、5,000万台を突破したWii左は北米、右は欧州のゲーム市場のグラフ。色がついている部分が任天堂のもので、いずれも約半分を占めるというデータが示された
任天堂の躍進は同社だけで実現できたわけでなく、サードパーティの力も大きかったと強調DSやWiiでミリオンヒットを飛ばしたサードパーティも7社を数える特にWiiウェアではサードパーティ製タイトルが大勢を占めている
PS3と、周辺機器である「バランスWiiボード」の数字を比較してしまうところが面白い。いかに「Wii Fit」が売れているかがわかるDSでは、女性の購買層が広がっている。男女比がほぼ同じになったゲーム機というのは過去にないものだろう

(2009年 3月 26日)

[Reported by 石田 賀津男 ]