【特別企画】

「うまぴょい伝説」のダンス収録風景がフル公開! Cygamesタイトルを支えるモーションキャプチャースタジオの制作事例

11月13日~14日 開催

 2021年11月13から14日にかけて開催されているCygames Tech Conference。弊誌ではモリモリとレポートをお送りしているが、本稿では他のセッションにも関係するモーションキャプチャースタジオによる「キャラクターにリアルな動きを!~モーションキャプチャースタジオの体制・ゲーム&生配信 制作事例紹介~」をレポートしていく。

 周知の通り、モーションキャプチャーはすっかりお馴染みになったデジタル技術だ。精度とレベルを抜きにすれば、2021年現在、WEBカメラ1つあればご家庭でも行なえるほどになった。ゲームの場合はキャラクターの動きに説得力を持たせるためであったり、作業効率を高めたりといった目的で導入され、専用スタジオでの収録が多い。ゲーム関連の紹介動画でアクタースーツを装着した人の様子を見たことのある読者も多いだろう。

 Cygamesは2018年から東京スタジオを設立しており、講演はその経緯の解説から始まった。登壇はデザイナー部3DCGアーティストチームモーションキャプチャースタジオ森本拓弥氏。

 2021年までの総テイク約2万の東京スタジオは、2018年に開設された。それまでは外部のスタジオを使用していたが、徐々に移動時間や交通費、ブッキングの問題が大きくなっていき、その解消として収録エリア9m×16m×3m、Vicon Vantage V16を72台と大規模なスタジオ設立に至った。また2021年内には大阪スタジオも開設予定であり、こちらは世界最大クラスのスタジオなる見込みだという。

 会社内にスタジオを用意するメリットとしては、移動時間の削減と収録予定日の調整のしやすさ、プロジェクトデータの参照、データの受け渡しの手軽さ、独自システムの構築が挙げられた。

本セッションは東京スタジオの内容。大阪スタジオについては今後なにかしら発表が予定されているようだ
スタジオのスペック
収録エリアの周囲に10の映像出力ポートを備え、これに収録レイアウトの制限が少なくなり、また効率よく収録を進めていける
年別収録回数。2020年の減少は新型コロナウィルス感染症対策が完了するまで、収録をストップしていたため

様々な負荷を減らす取り組み

 モーションキャプチャースタジオの業務には収録準備と収録、編集があり3つのチームとしてスタジオチーム、アクターチーム、プロジェクトチームが存在する。スタジオチームは文字通りスタジオでの作業全般を担当する。またアクターチームは演技者と演技補佐の構成。プロジェクトチームはディレクターのみとなっている。

 これらを踏まえて紹介されたのが3つの独自の取り組みで、「リモコン」の導入と「遠隔ディレクション」、「進捗情報共有ツール」だ。

 リモコンは、ワンクリックで収録のスタート/ストップ、リプレイ、テイクOK・NG選定が可能になるもの。リモコン導入前は収録時に口頭伝達が多く、テイク名の聞き間違えや言い間違えなどのヒューマンエラーが起きやすかったが、導入後はそれらのエラーが減少。また収録リストをデジタル化したことにより、収録管理者が収録データの確認に集中できるようになり、他のトラブル予防にも時間が使えるようになった事例も紹介された。

リモコン導入前の口頭伝達経路
リモコンとデジタル化したリスト導入後の伝達経路

 次に遠隔ディレクション。これは大阪Cygamesからの要望から構築が始まった。それまでは収録の際に大阪Cygamesから東京Cygamesまで移動する必要があり、ディレクション時の時間的負担が大きかったからだ。

 そこで3台のPCを利用するWEB会議環境を構築した。収録スタジオには、アクターの映像とスタジオ音声を担当するPC、リアルタイムプレビュー画面を担当するPCを用意し、そこに遠隔のディレクターのPCを加えてWEB会議を行なう。構築のしやすさに加えて、世界最大級を謳う大阪スタジオの規模からすると、国内外ゲームスタジオへの貸出も視野に入れたものと思われる。

 最後に進捗情報共有ツール。Excelによる管理に限界があったことで、Cygamesによる独自開発ツールとして導入された。このツールでは、編集担当者の決定、対応優先度、フィードバック、納品チェック、データへの直接アクセスなどが可能だ。

 メリットにはタスク管理の容易さ、報告が不要になることでの確認コストの低減、データへの直接アクセスなどがある。必要な情報がすべて共有・可視化されているため、在宅作業でも活用できる。なおリモコンと遠隔ディレクション、進捗情報共有ツールでは、負荷低減が導入目的のひとつとなっている。

進捗情報共有ツール

大道具・小道具盛りだくさんのプロジェクト事例

 プロジェクト事例では「ウマ娘 プリティーダービー」が紹介の中心になった。収録にあたり、道具が必要になる際はまず代用品があるかを探し、ない場合は購入している。トレーニング パワーLv4の収録事例では、サンドバッグに見立てた道具が用意された。これは木製ベンチを切断機で加工したものが使用されている。

トレーニング パワーLv4
収録で作成された小道具は保存されており、“武器庫”の存在も明かされた

 またアクターの各所にあるマーカーが隠れてしまうと、編集処理に問題が生じるため、小道具はそれぞれマーカーが見えやすいものが採用されている。

 トレーニング 賢さLv3の事例では、メッシュ状の机が使用されていたほか、「ゾンビランドサガ リベンジ」の生放送「ゆうぎり・イン・スナック・千夏」では実際にスナック千夏を再現。このときもマーカーが見やすいように配慮されていた。なおどうにもマーカーが隠れてしまう場合は、アクターに追加マーカーを付与している。

トレーニング 賢さLv3の様子と机
生放送「ゆうぎり・イン・スナック・千夏」のレイアウト
しれっとリアルタイムでお団子を取る施策も公開された。具体的な技術の解説はナシ。どうやってんの……
トレーニング パワーLv5の事例。瓦は発泡スチロールで、切り込みが入った状態の物をアクターがかっこよく割っている。切れ目はアクターさんの気持ちが乗りやすくするための配慮とのこと

 2018年3月からスタートした「ぱかチューブっ!」の事例も。「ぱかチューブっ!」は動きの撮れるものはすべて撮る収録スタイルになっており、身体と手の動きに加えて、目線を含む表情の動きも収録されている。

 またゲームデータと連係して、完成形に近い状態でのプレビューを見ながらの収録であることも紹介された。なお時系列からも察している読者ばかりかと思うが、「ぱかチューブっ!」がはじまったのは2018年3月。「ぱかチューブっ!」は宣伝番組を兼ねたテスト環境だった可能性もあり、ゴールドシップが近年のCygamesタイトルに登場するキャラクターモーションの礎になっているのではと感じた。

目線の動きも収録する関係上、台本はアクターの目の高さに合わせた位置に

うまぴょい伝説の収録風景がフル公開

 「ウマ娘 プリティーダービー」の目玉ひとつであるウイニングライブ。これも東京スタジオで収録されている。本セッションでは、みんな大好き「うまぴょい伝説」収録の様子がフルで公開された。

 総テイク数は別収録を含んで20。冒頭の階段やステージを走るシーン、バックダンサーが別収録になる。冒頭の階段については大道具を組み合わせて再現しているほか、アクター5人の動きが同時に収録できていること、ステージの寸法と合わせて設定されたガイドテープなど見所が多い。後日アーカイブで視聴可能になるようだが、取り急ぎ、スクリーンショットボタンを連打しておいた。バクシーン!

 チェック数が多いモーションキャプチャー関連作業での負荷低減の取り組みは、シンプルながら効果的であるとわかるものだった。移動コストだけでなく、日常的に生じる確認コストの低減が印象深い。独自開発ツールを用意できる背景もあるが、DX事例としてもわかりやすいと感じた。

 他のセッションでもモーションキャプチャーはちらちらと登場している。いつも見ているキャラクターの動きには、本稿で紹介したようなフローを経ている。細部に宿る精神を再確認してほしい。