DS「電車でGO!特別編 ~復活!昭和の山手線~」
向谷実氏、津田洋介氏インタビュー
昭和の山手線を運転できるのは「電車でGO!」ならではの体験!!


7月22日収録

収録会場:音楽館

 

 「電車でGO!」というタイトルを知らない人はいないだろう。それこそゲームファンでなくとも知っているタイトルであり、多くの人から愛されてきたシリーズだ。シリーズ第1作目はアーケードタイトルとして発表され、その後プレイステーション版が発売された当時、強烈なインパクトのCMがお茶の間を席巻し大ヒット。

 その後も順調にシリーズが続き、様々なタイトルが発売されてきた。高画質化するゲーム機のハードウェア面での恩恵もあり高画質化を重ねてきたが、「電車でGO! FINAL」でコンシューマー版としては一段落した感があった。

 そんな中、2010年4月に「電車でGO!」の最新作が発表された。「電車でGO!特別編 ~復活!昭和の山手線~」と言うことで収録路線は山手線だが、これまでと違うのは“昭和の山手線”ということで昔の路線が収録されていることだ。どういった経緯で「電車でGO!」の開発がスタートし、どういった想いで作成されたのか?

 ゲームの監修を担当し、ゲームを制作した音楽館の代表取締役・向谷実氏と、今回発売元となったスクウェア・エニックスの津田洋介プロデューサーにインタビューを試みた。ちなみに向谷氏と津田氏は2007年にタイトーから発売されたDS「鉄道ゼミナール」、2009年に続編としてやはりタイトーから発売されたDS「鉄道ゼミナール -大手私鉄編-」でもコンビを組んで、ゲームの制作を担当している。


音楽館 代表取締役社長の向谷実氏。フュージョンバンド、カシオペアのキーボーディストとして活躍する一方で、無類の鉄道好きとしても有名。「Train Simulator」の制作を行なってきたが、最近ではより本格的なシミュレーターの制作なども手がけているスクウェア・エニックス プロデューサー統括部 プロデューサーの津田洋介氏。タイトーにおいてコンシューマゲームの制作などを手がけていた。向谷氏とはタイトー時代に「鉄道ゼミナール」などの制作を通じて親交があった


■ JR東日本からの依頼で「電車でGO!」が復活へ

久々の復活となった「電車でGO!」シリーズ。これまでのシリーズを踏襲した部分もあるが、初めてリアル路線長が採用されるなど、向谷氏のこだわりも反映されている
とにかく向谷氏のバイタリティはすごい。どんどんアイディアがあふれ出し、ゲームにしろ音楽にしろ楽しんで制作を続けておいでなのがわかる

GAME Watch編集部: まずは「電車でGO!」復活のきっかけから伺えますでしょうか?

津田氏: 随分前から、個人的にはタイトーの看板タイトルである「電車でGO!」の新たな切り口を検討していたんです。ただ、このシリーズはハイエンドに進化していったタイトルだったので……1度「ファイナル」という形で中断していますし、おいそれとは出せないかなと。そんな中、ちょうど1年くらい前に向谷さんから「山手線命名100周年記念で何かできないか?」という打診があったんです。じゃぁってことで、社内の「電車でGO!」に関わってきたスタッフにヒアリングをはじめたところ、タイトーの家庭用タイトルをスクウェア・エニックスで制作していく動きがあり、タイトーのノウハウを活かしつつ、スクウェア・エニックスで「電車でGO!」を作ろうか、という話になったんです。

 まず山手線というテーマを「どう掘り下げていくか?」という事を、タイトーのスタッフと延々と話しました。ひとつの路線になってしまうので、なかなか……いままで色々な路線を収録してきた経緯もありますし、悩ましいなぁと。

 そのなかで出てきたのが「じゃぁ、今は走れない路線を走れないか? 例えば昭和の風景の中を運転するのは面白いんじゃないか?」というアイデア。いろんな人にヒアリングして、それは「遊びたい!」っていう意見が多かったので、「昭和モード」が実現しました。それと、これまでの「電車でGO!」って、ゲーム的にアレンジされていた部分があり、実際の路線の長さとは違っていたんです。

 今回、ニンテンドーDS用と言うことで、持って歩けるハードですので、路線長をきちんと再現し、電車に乗りながらその通りに運転したら、同じように走れるような形にできたら面白いんじゃないかと思って。そういう要素を色々と詰め込みながら……「特別編」という形で、なおかつ「山手線命名100周年」のタイミングで立ち上げる形になったのが始まりです。

編: 1番はじめは向谷さんからタイトーの家庭用部門に話が行き、そこからはタイトーさんというかスクウェア・エニックスさんというか、そちらのほうで進行していったという形なんですね?

津田氏: そうですね。具体的な内容に関しては、やはりタイトーの「電車でGO!」にかかわってきたスタッフと話し合いながらまとめていき、実行段階では音楽館スタッフのアイデアを組み込んでいった、という流れです。

編: 先ほど「グラフィックスがハイエンド気味だった」という話がありましたが、今回はなぜニンテンドーDSと言うハードウェアを選択したのですか?

津田氏: 「電車でGO!」シリーズを愛していただいていた方々に向けて、ハイエンドな形での進化と言う方向性は確かにあったのですが、今回は電車には興味があるけれど、日常的に趣味として接していない方達にも手にとっていただきやすい、内容を目指したくて。その意味で所有層が幅広い「DS」というハードは最適なんじゃないかと判断しました。

編: 向谷さんは以前、「Train Simulator」と「電車でGO!」を一緒に出されたことがありますが(以前発売された「Train Simulator + 電車でGO! 東京急行編」)、「電車でGO!」に対するこれまでの印象はどういったものでしたか?

向谷氏: そうですね……最初に「Train Simulator」はPC用ソフトとしてリリースされていて、色々な情報によると、それも参考にされて「電車でGO!」ができたという経緯もある。

津田氏: 「Train Simulator」が、「電車でGO!」の企画のプレゼンテーションで使われたらしいですよ。

向谷氏: 基本的に、非常に近い関係であったんですけど、進む道は若干違っていました。「電車でGO!」がコンシューマゲームとして相当研究されていて、ぼくはリアルな“運転”にこだわった。それはプレイステーション 2で発売された「Train Simulator + 電車でGO! 東京急行編」に両方の要素を含め、「電車でGO!」モードと「Train Simulator」モードというのを収録して出したりもしました。そういう点では、うちの社内スタッフにも「Train Simulator」を作りながら「電車でGO!」の熱烈なファンがいたんですよ。親和性っていうんですかね。お互いのいいところを吸収しあえるような関係だったのかなと思います。だから「電車でGO!」の演出力とかは私自身も凄いなと思っていました。(「電車でGO!」の制作を)やりたいやりたいと思っていてたんですよね。

 今回の作品については、「Train Simulator」モードはもちろんなくて、「電車でGO!」だけで全部作りきりました。ぼくとしては初めての経験だったので、色々勉強になりました。とはいえ、音楽館とか向谷実のテイストは間違いなくある。最初にぼくのほうでこだわったのは、実路線、実距離。いま津田さんにいってもらったように「電車でGO!」を持って山手線に乗れば、まぁそれなりに同期しますよ。もちろん走っているときの信号の状況は毎回違うので、その辺は微妙に違いますけど、距離が同じですし、勾配情報なんかも全部入っていますので。なおかつ古い車両で……いまの車両と比べると加速の悪い車両で「どうやったら定時で走れるだろうか?」といったこともある程度できるようになっています。そういう点では、非常に面白いなぁと。作ったぼく自身も「あぁ、これ持って乗ったらいいだろうなぁ」と思います。

 ただ、いきさつ的に「電車でGO!」の企画を津田さんに持ち込んだ経緯というのはですね、実は非常に珍しいケースなんです。実は、最初にJR東日本の事業創造本部から声をかけてもらったんです。JR東日本さんからの依頼に近かったですね。山手線の命名100周年という企画を考えていらした担当者の方のなかに、「向谷さんだったら何かゲームを作ってもらえないかな。ゲーム化の際には資料の提供とか許諾に関しては最大限協力しますから」と仰っていただいたんですよ。そこで、その話を津田さんに持って行ったんです。

 そういう点では、色々大変なこともあったんですけど、JR東日本さんにもかなり協力していただきました。たとえば大宮の博物館にある所蔵物……これも100周年記念の一環として通常ならこういった営利ソフトに提供することができないものをお借りできたりしたんです。つまり、「電車でGO!特別編 ~復活!昭和の山手線~」は“JR東日本さんとしての公式な製品”というニュアンスに近いということなんですよ。なかに使われている色々な素材が、なかなか手に入らないものがいっぱい使われている。そこが、私としては非常にうまくいったなと思っているところですね。推論で作るものではなく、可能な限りオフィシャルなデータを元にして作っている。鉄道ファンの方に対しては、ちょっと「おっ!」と思うようなところが結構あると思いますよ。


 


 

■ 集められたデータを積み重ね、昭和の山手線をCGを使い再現

ムービーは現状ではほとんど残っていないという。特に車窓からの風景は厳しい。そうなると、昭和の風景を再現できるのはCGだけとなる

編: 企画の初期段階から「電車でGO!」でいきたいと考えていらっしゃいましたか? 「鉄道ゼミナール」という手もあったわけじゃないですか。

向谷氏: 最初から考えていたのは、100周年というアーカイヴ、歴史をキーワードにしていると言う点。これで「電車でGO!」を作ったら、たぶんこれまで実写を使ってきた我々ができない映像を、CGを使って自由なビジュアルで作れる。当時の映像はまずないだろうし(※1)。

 最初にピン! ときたのは、あぁ、やるならコレ「電車でGO!」だなって。特に古い昭和の……僕がまだ子供の頃、茶色っぽい電車のあいだに、何かね、色々ついてるのを見て「なんだコレ!」ってワクワクしていた頃。101系、103系が出た頃、新性能電車といわれた頃。あの興奮をですね……まぁ非常に個人的な衝動なんですけど(笑)、そういったものを出したら、今の若い世代で当時を知らない人も体験できるんです。博物館に行ったら、古い車両なんかはけっこう当時を知らない人達にも人気があるんですよ。ぼくらの世代にとっても、「えらくノスタルジックで最高だなぁ」みたいに感じますし。だからやっぱり「電車でGO!」でやりたかったですね。

※1:向谷氏の制作してきた「Train Simulator」は実写映像を使用した作品で、映像の再生スピードを完璧にコントロールし、ユーザーの操作と同期させてシミュレートしてきた。このため、制作には先頭車両からの映像などが必要だった。

津田氏: 「電車でGO!」でしかできない体験ですからね。

編: たしかに仰るとおり、当時の映像はもうないですからね。

向谷氏: ないんですよ。ムービーは、本当にないんです! これは、ありとあらゆるところを探したんですけど。TV局を含めて……。

編: 下手をすると、生放送の時代になってしまいますものね。

向谷氏: 昭和30年代ですからね。フィルムですから。フィルムだと分数が決まってるので。

津田氏: 色々なニュースのアーカイヴを探しに行ったんですよ。当時のキーワードで検索すると、たいてい線路の近くでデモや紛争をやってる映像ばかりなんです(笑)。渋谷駅、山手線……車窓の映像なんて全然ないですね。

編: その当時は、まだそれほど電車を趣味として楽しむという時代ではないですものね。

向谷氏: 東京都の江戸東京博物館とか、映像ライブラリがあるんです。そういった東京都映画協会などからドキュメンタリーとか色々なアーカイヴを見せてもらったり検索かけたんですけど、やっぱり引っかからなかったですね。

津田氏: こんな東京のど真ん中の、山手線みたいな有名なアイコンの映像が残ってないなんて、ちょっと意外でしたよね。結局、ゲーム内の路線を作るのに使った資料は航空写真なんです。当時の……昭和30年代くらいの航空写真があって、それを音楽館のスタッフの方々が全部並べて、そこに建っている建物がどんな素材か、どれくらいの高さか、だいたい見ながら並べていったんです。

編: だいたい、どこいら辺で東京タワーが見えて、隠れてみたいな?

津田氏: 昭和っぽい雰囲気を出すために、多少のアレンジはしてます。時代とかも、昭和30年代から昭和50年代の間にあった建造物を並べ直してはいるんですけど。建っているビルとか家屋は近いイメージで再現されてます。当時なので、木造家屋が多くて……風景的にはそんなに変化がないんですよ、実は(笑)。今回、夕焼けっぽいイメージにしたってのは、やはりそういうところもあります。

編: 「昭和=夕焼け」っぽいという感じでしょうか?

向谷氏: そうですね。もうひとつは、そういう設定のなかでキーになるような部分として、たとえば恵比寿駅ですと、「ここにビール工場が昔あったよね」とか、新橋や有楽町あたりもまだ高速ができてないところは近くにお堀があったりですとか。全然いまの風景と違うんですよ。本当にお堀があったわけですから。それが埋められちゃったり、道路になっちゃったりして変わっていったんですよね。

編: じゃぁ、代々木あたりも違うんですね。オリンピック前とか……

向谷氏: あれ、オリンピックは見えたかな? 岸記念体育館が無かったかもしれないですね。そういう新しい建物が無いときは、ものすごく広い……荒地ってわけじゃないですけど、空き地があったり。そういう面白さはあるでしょうね。

津田氏: いまの路線と同じ区間を昭和モードで走っていると昔の名所を教えてくれる「見所ガイド」という機能がついているんです。「この場所に何があった」と画面の下に表示してくれるんです。それを見ながら一緒に走っていくと「昔、ここにアレがあったんだ」みたいな感じで楽しめると思うんですよね。

向谷氏によれば今回は初めてのフルCG作品と言うことで、音楽館にとってもチャレンジングな作品となったようだ。それでもこれだけきっちりと仕上げてくるというのは、それだけ“鉄道愛”にあふれていると言うことだろう

編: 今回のようなフルポリゴンのゲームは、音楽館としては初めて制作することになるのではありませんか?

向谷氏: そうですね。音楽館もすごく多くのスタッフを入れなくてはいけなくなりましたね。

編: いままで「Train Simulator」では高度なムービーの再生技術などでシミュレーションを行なっておいででしたが、今回はポリゴンと言うことでこれまでにない新たな苦労がありましたか?

向谷氏: ありましたね。基本的にはハードウェアのスペックとの戦いが出ちゃうし。クオリティをどこまで高めながらニンテンドーDSのスペックのなかに収めるか。際限なくデータを持てれば、いくらでも細かく作れるからいいんですけど。その辺のせめぎあいと、まぁやっぱり“音”にこだわりました。走行音、モーター音、BGMは削りたくないんですよね。そのために、たとえば周波数をどんどん落としていって、電話の音に近くするようなことはしたくない。そういう(各部門間での)仕様要求というのは、社内で結構もめたんですけど、基本的にはほぼ満足できるクオリティになりましたね。

 今までも、PS3、PS2、PSPで作ってたときも、スタートの時点ではだいたい「入るわけないですよ」っていうところから始まるんですよね。それを「まぁまぁ」といいながら、みんなで知恵を出し合って乗り切っていくんです。ゲームの制作現場の面白さというのは、まず最初に「これはできますね」とわかっているところからスタートするのではなく、「これは難しいね、どうしよう」というところからスタートするところなんです。だからモチベーションで言えば、我々作る側は「人にできないこと」、「世の中のみんなが見たことのないもの」をやりたいというのがスタッフ全員の意識にあって、パワーの源でもあるんです。

 そういう点では、今回は非常に制約があるはずのニンテンドーDSというハードでキッチリ作れました。運転台も何種類も用意できました。ユーザーインターフェイスとしての機能も、いわゆるタッチペンを使って「コレだけで運転できる」といのを、今までやったことが無いのですが実現することができました。ピン、ピンって画面を触ってパッドで操作できるというのは新しいですね。その辺のインターフェイスを音楽館の社内と津田さんと一緒に考えていったんです。使いやすいように両社でコラボしていきました。

 「こうやりたいです」という企画書はもちろんありました。でも、いまだから正直にいえば「やれたらいいな」っていうところですね。技術的に100パーセントは……初めはできるとは思っていたけど「やれたらいいな」みたいなものをいっぱい詰め込んでいって、それが完全に実現できたので、それは良かったなぁ。ニンテンドーDSを使ってこういうソフトを作るうえでの“財産”を、音楽館の社員は今回の経験で持てたかもしれない。

編: グラフィックスでは苦労があったかもしれませんが、一方で電車の挙動というのはこれまでの開発で積み上げられた蓄積が生きたんじゃないですか?

向谷氏: いや、挙動はね……かなり資料もあったのですが、古い電車だと結構いい加減なんですよ。そこを色々な経験をしている人にレクチャーを受けたりしました。それからやっぱり“自動ブレーキ”という非常に扱いにくいブレーキの操作を、どうみなさんにわかってもらうかというところで苦労しました。挙動も大事なんですけど、いまの最新型の電車と違って当然止まりにくかったりするわけですよ。

 そこで我々としても色々と考えていたのですが、ビギナー用モードとプロフェッショナル用モードを用意しました。ビギナーは、ある程度アシストしてくれるような……レバーをポンと押すとブレーキかかるよ、加速するよ、と言った具合に簡略化しました。それと徹底的にリアルにしたプロフェッショナル用の2種類用意したんです。

 それからさらに、トレーニングをどんどん積んでいくと、うまくなっていくような色々な課題を用意してあります。それで操作に慣れていただこうかなと。いきなりプロフェッショナルは無理だという人も多いと思うので、そういう人達のために色々なものを用意したんです。

 挙動をきちんと再現すればするほど、運転は本当にややこしくなっていくんです。操作がややこしくなく、「ヤダ!」と思わないようにオペレーションでやさしいモードと、「リアルにやりたい!」という人達用にリアルなモードを用意することで、色々なステージを用意しました。意外にというとアレですけど、DSという小さいゲーム機の中に、まぁ色々なものを詰め込めたなっていう。色々なオカズやごはんが一杯あるような、お弁当みたいなソフトです。

津田氏: 「電車でGO!」自体、鉄道のイベント等でお子さんもプレイしたがるソフトなんです。でも意外と操作が複雑じゃないですか。特に2ハンドルになると直感的にわからない。だから今回、プロフェッショナル操作とビギナー操作と2種類用意してビギナーのほうはどんなマスコンのタイプであっても、スピードアップとダウンのみに簡略化しています。本当の電車マニアの方には怒られちゃうかもしれないけれど、どんな種類の車両であっても右に押せば減速するし左に押せば加速する。それにあわせてマスコンも正確に動くという作りにしてあります。

 かたやプロフェッショナルというのは、それぞれをちゃんとタッチして操作しなくてはいけない形にしてあります。2つの操作方法を用意したことで、色々なニーズにこたえられる。お子さんでも簡単に電車ゴッコが楽しめるし、かたや「俺はちゃんとできる」という人もサポートできているかなぁと思います。この辺は音楽館のスタッフの方々に出していただいたアイデアです。すごく上手く実装できたなと思います。

 ニンテンドーDS(と言うハード)で制作して1番大きかったのは、下画面で車両ごとのマスコンの違いが出せた事ですね。きちんと車両ごとのマスコンが出てきます。これはDSでしか実現できなかったことです。

向谷氏: 「ニンテンドーDSだからできた」ということは結構多かったね。「意外と」って言ったら失礼なんですけど。下に運転操作を全部集約できた。

津田氏: 相当、こだわりましたね、質感も含めて。若干レイアウトとかは変えてはいるんですけど。取材に行っていただいて、車両の写真を撮ってきていただいて、それをうまく組み合わせて構成して。相当時間をかけてやりましたね。

向谷氏: (長い間作っていたら)山手線100周年期間が終わっちゃいますよ、みたいな(笑)。ちょっと焦りましたね。

津田氏: とはいえ、さっきの車両性能に関しては、マスター出しの2週間くらい前に向谷さんからダメ出しがあって(笑)。総取替えしましたから。スタッフがヒーヒーいいながら、最後にはちゃんと再現していただきました。結果的には良かったと思います。従来の「電車でGO!」は、タイトーで資料を見ながら作ってきた。かたや「Train Simulator」は実機のデータをもとに作ってきた、というのがあります。今回、ゲーム性に関しては「電車でGO!」ですが、車両のシミュレーションに関しては、DSなので簡易的になっている部分もありますが、音楽館さんのノウハウが乗っかってる。ひょっとしたら「電車でGO!」のなかで1番車両性能を再現している、といえるかもしれないですね。


 


 

■ もっとも重要視したのは実路線、実距離。「データはできるだけ入れたかった」

インターフェイスなども下画面にあつめ、タッチペンですべてを操作できるよう調整するなど、アイディアが注ぎ込まれている

編: 入れられるもの、入れられないものの選択があると思いますが、もっとも優先したものは?

向谷氏: やっぱり、実路線、実距離。データはできるだけ入れたかった。

編: 企画の話題でも出ましたが、ちょっと難しかったものもありますか?

津田氏: シチュエーション的な変化とかその辺、本当は入れたかったんですよね。運転の途中での、ちょっとしたアクシデントとか。かつての「電車でGO!」で入っていたんですけど、天候の変化とか、乗客数の変化による制動の変化とかを入れたかったんです。そこは、今回、入れられなかったところですね。

 あと昭和モードである駅に停まると、当時の喧騒感を再現した音声が入ったり、走行中にカラスが飛んだりとか、そういう昭和らしい演出を入れたいなって話をしてたんです。ただ、それによって処理が落ちたり、ビルの表示が1個減る、対向車両がなくなるということは、どうしても避けたかった。PSの時代にも(マシン処理の都合から)ビルがポコポコ描画されていたのですが、今回はそれよりもちゃんと再現されています。相当スタッフの方が頑張ってくれた。ここは何回もダメ出しというか、繰り返し検討していただいて、表示できるポリゴン数のギリギリまで可視範囲をしぼっていただいた。あとデータの読み込みの単位も検討していただいて、DSのソフトとしてはいい形にできたと思います。

編: 収録車両はたくさんあると思いますが、さすがにすべては収録できないと思うのですが、選ぶ基準などはどのように設定されましたか?

向谷氏: いや、ほとんど入れました。収録されていない車両はないくらい入れましたから。ゲームで登場する車両は、みんな走るやつですからね。山手線ってそれほど車両は走っていないので、101系が出たときに72系と混在がありましたけど、いまだったらE231系はE231系で徹底してますよね。その前は205系。

 山手線も車両がかなり入れ替わっていて、それで歴史を追ったら何種類になるのかわからないですが、山手線の場合は意外と走っていた車両数は多くはないですね。で、すれ違う車両がまたユニークなんですよ。年代によって「えっ!」とか「おっ!」っていうのがきますので。

編: じゃぁ、鉄道がお好きな方はグッとくるポイントが満載ですね。

向谷氏: あります、あります! まずは自動ブレーキがグッとくると思いますね。72系以前は、運転するのが大変面白いと思います。それでいて、結構ダイヤはぱんぱんに詰まっていますので、タラタラ走ってると時間がなくなっちゃう。それと止まれないと、オーバーしてしまいますしね。

編: いままでだと、その路線を走ってらっしゃる運転士さんにテストしてもらったりとかありましたが、今回はいかがでしょうか?

向谷氏: プレイステーションで「Train Simulator」をリリースしたときも運転士さんにチェックしてもらって、だいたい傾向と対策をつかんでいるんです。その時と同じデータを使ってますから、たぶん大丈夫だと思います。昔の車両はね、知ってる人いないんですよ(笑)。相当なお歳じゃないと。

編: さすがにテストはできないですよね。

向谷氏: 古い車両のテストデータはもってたんですよ、PS2用に山手線のシミュレーターを作ったときに。あれはどこだったかな? 大崎の電車学校で実際に走っていただいて、それを修正して使用させていただいた。205系を基準とした山手線の基本的な運転性能に対するデータを持っているんです。それを基準にして、他のデータを照らし合わせてるので、ほぼ間違いないと思います。

編: ご自身でやられても、やはり自動ブレーキは難しいですか?

向谷氏: このソフトでぼく1番怖いのはイベントなどで「ちょっと向谷さん、模範を見せてください」といわれて、失敗することですよ(笑)。

編: いつもはピッタリ止められてるじゃないですか。

向谷氏: そうなんですけど、新型電車に慣れちゃってるので……。ちょっと練習します、これから。イベントがあったときにマズイなと思って。

編: 昭和写真コレクションというのがありますが、その資料の収集というのは?

向谷氏: ぼくも色々な知り合いがいるなかで、今回宮澤さんという、当時は非常に写真も高かった昭和時代に、渾身の写真を撮っていらした方がいるんです。その方にまず趣旨を説明して、ライブラリを見せていただいたんです。そうしたら快く協力していただきました。まずこの、宮澤さんの存在が大きいですね。

 それで足りない部分は、知り合いのプロラボみたいなところがあるんですけど。荒川さんという方からお借りしました。それでも足りない部分、他の昭和の懐かしい部分は先ほど言いましたように、博物館からお借りするってことで、もう山手線の全駅を網羅できた。駅の“昭和の風景”を網羅できたっていうのは、なかなか大変だったんですよ。結構ビックリするような駅舎がありますからね。えっ、こんなのあったっけ? みたいな。渋谷なんか覚えてるつもりだけど、こんなにスカスカだったかな? とか。新宿ってこんなだったの? とか。ましてや、もっと小さい駅になると「えっ!」みたいな。

編: そうですよね。池袋から上野あたりにかけてとか……。

向谷氏: 田園風景ですよね。日本の高度経済成長の、ちょうど始まりくらいのところの写真を中心にやって、現在と対峙したとき、これだけ東京の都市部が発展したんだなぁと。駅の写真だけ見ても、交通網がどう発展したか。高架になったり、たとえば都電がいっぱい集っているところがいまは普通のロータリーになっていたり。それが全部地下鉄に接続されていくといった風に、想像できることが一杯あるじゃないですか。そういうことが経験できました。

編: 写真からでも山手線の歴史を紐解くことができるんですね。あと、先ほども出ましたけど、検定モードがあります。「鉄道ゼミナール」のときは外部から問題を集めたりされましたが、今回も同様に作成されたのでしょうか?

向谷氏: 今回は全部内製にしました。ご協力はいただいたのですが、基本的に内製です。「鉄道ゼミナール」のように大手私鉄16社とか、JR全社なんていうと、とてもじゃないけどできないですけど、今回は山手線だけですから。検定モードは、基本的に自分たちでやろうと。


どんどんクリアしていくことで、運転できる車両や路線がアンロックされていく。様々な称号も用意されており、ゲームとしての作り込みという点でもアイディアが練り込まれている歯ごたえのある検定モード。今回は社内で作成した問題を収録しているが、十分歯ごたえのある内容となっている


 


 

■ 向谷実氏とZUNTATA、夢の共演!!

ミュージシャンの向谷氏ならではのこだわりが音楽や音声に注ぎ込まれている。ZUNTATAとの共演はぜひとも音源化していただきたい!

編: 音声の収録についてお伺いします。もちろん、どの音楽も気に入っていらっしゃると思いますが、あえて「ききどころ」は?

津田氏: 今回、最初にお願いしたのがあの「電車でGO!」テーマ曲の向谷実バージョン。2曲!

向谷氏: 「電車で電車で電車で電車でGO! GO! GO! GO!……」って結構いいにくくて何度も録りなおしたんですけど(笑)。スタッフの女の子……その子は国立音大を出ているので、ふたりで一緒にマイクを立てて「電車で電車で……」って。結構楽しかったですけど。

津田氏: あと、エンディングテーマ。これもテーマ曲のアレンジなんですけど、結構ビックバンドJazzっぽいアレンジで、いいんです。

向谷氏: ZUNTATAをビッグバンド風に……あれ生でやったら格好いいよなぁ! みたいな。

津田氏: 原曲を作った担当者にきかせたら「こうきたか!」みたいな感じでビックリしてました。

編: その曲はすべてクリアしないと聴けないのですか?

津田氏: いや、それは普通に。ある程度やるとスタッフクレジットが流れるので、聴くことができます。

向谷氏: これは結構、ぼく渾身の曲ですよ! 元々ZUNTATAの「電車でGO!」のテーマ曲をアレンジしてるのですが、どうせだったら原曲とは全く違う感じにしたかったので、特にエンディングの曲は、4ビートとビッグバンド……いまはシンセサイザーで結構演出できるので凝ったアレンジにしてみました。

津田氏: タイトル画面で流れてるのが、いわゆるサビの部分ですね。もう1曲のほうは、Aメロというか、メロディの歌メロの部分を取り出してビッグバンド風にしてある。

向谷氏: あれはね、ぼくのなかで自信作ですね! オリジナル曲じゃなくアレンジなんです。ぼくのゲーム音楽のなかでは、非常に珍しいケースです。

津田氏: ライブでZUNTATAと競演とかしてほしいなぁ。

編: ぜひCDを出していただいて……いまだとiTunesなどオンライン配信でもいいですけど。そういうのでも、出して欲しいですね。

向谷氏: それと発車メロディもほとんどオリジナルのものを使っているんです。あと車内放送も。

編: 昔の車内放送というのはどうなっているのでしょう。

向谷氏: それはデフォルメしてぼくが演じたりしました。ぼくじゃなくて、誰がやったんだっけ? 俺ヘタだから、うちのスタッフにやらせて。「向谷さん、ダメー!」とかいわれて却下されちゃった(笑)。

津田氏: 向谷さんのところも残ってます(笑)。発車の、駅の放送です。

編: 「鉄道ゼミナール」の頃も、ずいぶんと音質などにこだわれた話がありましたが、今回も同様にこだわられたのでしょうか?

向谷氏: そうですね。DSでそういう……DSでシミュレーションするのはボクもはじめてだったので。考えてみたらそうですね。PSPとかでやってたレベルの音質を、どうやったらできるかなっていうのは、社内でも随分と研究しましたね。でも、意外とスンナリいっちゃいましたね。実際は開発のみんなが大変な目にあってたのかもしれないですけど、ぼくは結果しか見てないので。「きっちり鳴ってるじゃん」みたいな(笑)。

津田氏: DSなので、ひと区間をちゃんとオンメモリでやるのは大変だったんですよ、それもちゃんと音を鳴らしながら。相当気を遣っていて、ギリギリのバランスになってます。なにか増えると、ビルが欠け始める、みたいな。テキメンに出ちゃう(笑)。

編: メモリのやりくりが大変だったんですね。

向谷氏: 大変ですね。どこか見えないところでデータを捨てて、また読み込んでみたいなことを繰り返して。絶えず潤沢に見えてるんだけど、その裏では一生懸命色々なことをやったのかもしれないですけど。ぼくなんかは結果を見て……みんなの苦労もさることながら、やはり企画自体が実行できたってところが嬉しいです。企画する側と作る側は、ある意味表裏一体。それが協力、コラボできたから、こういう作品ができた。結果を見てこういう納得できるものになったとき、私の立場としては「あぁ、うちのチームは頑張ったなぁ! まぁ一杯飲もうよ!」という感じでいいんじゃないかと思うんですけど、はい(笑)。

津田氏: ギリギリになって詰め込んだら、ちょっと余裕がでてきて、ヘルプ画面で最初はウィンドウしか出てなかったんですけど、「キャラクタを出せますよ!」ということになって、急きょテツカ君っていうガイドキャラを出して急ブレーキ時のりアクションさせたりとか。あと、マクドナルドで7月30日から2週間ごとに「マックで配信」が行なわれます。


 


 

■ データ配信で追加車両も配信

「マックでDS」で配信された特別デザインの車両

編: データ配信は始めからやりたいと思っていたことですか?

向谷氏: そうですね。これはぼくの知り合いがマクドナルドさんにいて、最初にマクドナルドに話を持ち込んだんです。

 「電車でGO!」をDSで復活させるというのは、かなり政治的判断を求められますよね。それも、スクウェア・エニックスさんからリリースさせる。スクウェア・エニックスという会社のカラーとか、タイトーの看板タイトルだった「電車でGO!」をリリースするのはね。

 そういった点に対して、ぼくがからむことでキッチリ担保することが大事だと思ったんです。スクウェア・エニックスさんやタイトーさんがこのソフトを出すうえで必要な担保として、バックアップとしてぼくのほうから提案しなければならないと思ったことが、「JR東日本さんから申し出を受けてますよ」ということと、マクドナルドさんのなかに「マックでDS」という企画を実現させると言うことだったんです。

 その「マックでDS」の部門にぼくが直接行って、こういう企画があり、いま検討しているものがあるのですが、協力してもらえませんか? といったら「いいですね!」と興味を持っていただいたんです。誰でも「電車でGO!」は知ってますからね。厳密にいうと、売れる本数とか、市場とか色々あるのですが、そういういろいろな問題を乗り越えて、凄く早く話が進んだんです。スクウェア・エニックスさんのプロデューサーさんと一緒にマクドナルドに行って、快諾いただいた。それが7月30日に実行される。これはもう、ぼくも楽しみにしているんだけど。「どんなのがもらえるんだろう?」みたいな。

津田氏: マクドナルド限定スペシャルペイント車両!3種類あります。

向谷氏: これ、よく任天堂が許可したね。

津田氏: マクドナルドさんもよく許可されたと思いますよ。

向谷氏: これ結構ね、画期的なことだと思うけどな! 存在しない車両「マクドナルド山手線」をそのまま出しちゃってる。

津田氏: とはいえレギュレーションは厳しくて……車両図鑑など注意して見ると、色々な苦労がおわかりいただけると思います。

編: それでは最後に、ユーザーに向けてメッセージをお願いします。

向谷氏: これを持って、ぜひ山手線に乗って欲しいですね。DSの場合、これが気軽に言える。DSを持って、山手線に乗り山手線の中からDSを体験したあとに、今度は山手線を降りて外から山手線を見るときの支援ツールとしても使っていただける。そういった形で使っていただけると嬉しいです。

 ちょうどこれから夏休みに入りますから、東京に遊びにこられる方もいらっしゃるかと思うんです。そういうとき、ソフトと一緒に東京探訪のツールとして扱っていただければいいなぁと思います。それと在宅で遊んでいただく方、ゲームとして遊んでいただく方には、ぼくらがいま生きている21世紀の日本が発展していく経緯を、山手線を通じて、このソフトを通じて感じていただければ、と思います。

津田氏: お子さんから昭和の時代を懐かしんでいただける方まで、幅広い方に楽しんでいただける内容を目指して作ってきたので、おじいさんも含めて家族でやっていただける内容になっています。みなさんで遊んでいただければと思います。かつ、「電車でGO!」という完成されたシステムを、今回はあえてリセットして、かなりシンプルな内容にしつつ、なおかつやりこみ要素をたくさん設けております。何km走ったらもらえる称号とかもありますので。しゃぶり尽くしていただきたいな、と思います。

向谷氏: 称号がいいよね。色々なのを作った。どれだけあるのかわからないくらい(笑)。

編: では、それも楽しみにしております。本日はありがとうございました。

(2010年 8月 16日)

[Reported by 船津稔]