インタビュー
スクエニ「キングダム ハーツ -HD2.5リミックス-」インタビュー
「KH」ならではの作り方、継承されていく魅力、そして「KHIII」へ
(2014/6/11 10:00)
10月2日に発売が決定したプレイステーション 3「キングダム ハーツ -HD2.5リミックス-(以下、『KH2.5』)」。新たなトレーラー映像が公開され、E3 2014ではスクウェア・エニックスのブースにて試遊も行なわれている。
本作には、プレイステーション2で発売された「キングダム ハーツII ファイナルミックス(以下、『II』)」と、PSPで発売された「キングダム ハーツ バース バイ スリープ ファイナルミックス(以下、『KHBbS』)」のHD版を収録。なお、両作品ともイベントやコスチューム、敵が追加された英語音声版の「ファイナルミックス」をベースにしているが、この「KH2.5」での音声は日本語になる。
また、携帯電話用からニンテンドーDSでリメイク発売された「キングダム ハーツ Re:コーデッド(以下、『Re:coded』)」も、HDクオリティの映像作品という観るだけで物語を楽しめる形式で収録されている。
今回は新たなトレーラー映像が公開され、発売日もいよいよ決定したこともあり、「KH1.5」に引き続いて本作のCo.ディレクターを務めた安江 泰氏にインタビューを行なわせて頂いた。「キングダム ハーツ」シリーズのたくさんの物語をほぼ全てHD化という形で洗い直した安江氏の言葉から、本作への期待、そしてプレイステーション 4 / Xbox Oneで発売予定のシリーズ完結編「キングダムハーツIII」への期待を高めて頂きたい。
「KH2.5」には「KHIII」のスタッフも多数参加。壮大な物語の把握が重要不可欠
――「KH1.5」に引き続いての「KH2.5」開発も大詰めということですが、「KH1.5」でノウハウを得たことで開発に変化はありましたか? 楽になったのか、それとも、変わらず大変でしたか?
安江氏:「KH1.5」の時はまず、「どうやってHD化していくのか?」を悩んだ部分があったんですが、「KH2.5」ではだいぶこなれてきましたね。技術的に高まったのもそうですが、スタッフも人間的に頼りがいのある感じになって(笑)。すごく安心できるチームになったなという印象です。スムーズでした。
ただ、そうなるとクリエイターとしての欲が出てくるところでもあって。余裕が出来たらそのぶん作り込みたくなるんですよね。その結果、「KH2.5」ではもっと広範囲にいじっています。プログラマー、デザイナー、UIデザイナー、エフェクト、諸々、全般的に丁寧に作り替えているところが増えましたね。自分たちで自分たちの首を絞めている感じです(笑)。
――“やれるならもっとやろう”という気持ちが湧いてきたんですね。
安江氏:そうなんです。PS3の使えるメモリいっぱいいっぱいにまでテクスチャーを使ったりして。プログラマーは悲鳴をあげていましたね。PS3の限界と言えるところまでHD化しています。
――そうした中、“こだわったところ”はどういうところでしたか?
安江氏:まず、「KHII」も「KHBbS」もオリジナルの評判が良かったゲームなので、“良いところはそのままで変えないようにしよう”という考えがありました。そして、そのままに画面をキレイにしていく。「KHII」は元々画面比率が4:3でしたから、それが16:9になって画面が開けた感じになっています。
「KHBbS」は元々PSP用の作品なので画面比率は16:9ですが、ポリゴンやテクスチャーに手直しが多く必要になっています。例えば、キーブレードはPSPだと薄い感じになっていたのですが、もっと厚みを持たせてそれらしくしたり。そういうこだわりでクオリティを高めています。アクアやヴェントゥス、テラのプレーヤーキャラは特に丁寧に仕上げて綺麗になっています。
――開発はどのような体制で行なわれているのでしょうか?
安江氏:「KH2.5」と「KHIII」に関しては大阪のスタッフが母体で、東京のスタッフと連携しつつ動いています。その中で“「KHIII」を作りつつ「KH2.5」も作っている”というところがあって。「KHIII」のメンバーは「KH2.5」も結構関わっています。プログラマーに関しては完全に「KHIII」と「KH2.5」でわかれているんですけど、カットシーン関係などのデザイナーやプランニングのスタッフは両方やっていたりします。
――大きなチームの中で流動的に動いている感じなんですね。
安江氏:そうなんです。「KH」シリーズはノウハウ的なところで継承すべきところも多いので、シリーズ作はチーム全体として作っていく方が効率が良いんですよね。
――独特な制作体制に感じられますが、その方が良かった?
安江氏:みんなずーっと忙しい高いテンションで続けられるので、それがいいのかなと。高い生産性を常に維持できるというか。普通はひとつ終わるとひと段落になりますけど、それがなく走り続けるという感じで。その分みんな大変ですが(笑)。キャラセクションのリーダーに話しかけると、最近はいつも虐げられている小鹿の目で僕を見つめます(笑)。
あと、「KHIII」を作る上で「シリーズの良さはどこにあるのか?」を知っておかないとダメですよね。新しくチームに加わった人は、初代「KH」や「KHII」の良いところであったり、「KHBbS」の良いところってこういうところだったよね、というのが備わってくるわけです。スキル的にも知識的にも、必須なものを継承できる環境になっています。
――プランナーの方が特に両方に携わっているケースが多いということですが、物語の細部をしっかり把握していかないといけないんですね。
安江氏:そうなんですよ。野村(哲也氏)がものすごく壮大な物語を描いていますから、開発チームの人間でも「あれはどうなっていたっけ?」というのが出てくるんですよね。そこで「KH1.5」や「KH2.5」をまとめつつしっかり把握していこうと。また、ユーザーさんにも過去作の伏線をしっかり伝えられるよう、PS3でまとめてプレイできる形にしたかったというのも、もちろんあります。
――「KHIII」に向けて、「KH1.5」と「KH2.5」の存在はユーザーさんに向けての施策であるとともに、開発チームとしても必要なものだったんですね。
安江氏:「KHIII」のプロジェクトが立ち上がった時に、「KH1.5」と「KH2.5」の構想も一緒に上がりました。シリーズをプレイしていない人もいますし、オリジナル作品の発売から時間も経っていますので。そこをリフレッシュするという意味でもチーム内で一緒に進めていったんです。
――「KH1.5」、「KH2.5」ともに3作ずつ、ニンテンドー3DSで発売された「キングダムハーツ3D」も入れれば7作ですよね。ひとつの物語をこれだけの数で展開している作品というのは他になかなかありませんよね。
安江氏:本当に壮大で、把握するのも大変という感じです。でも、だからこその良さもありますよね。「この出来事って過去にこういう事があったからだ」というのが、やればやるほどわかるようになる。頭の中で補完していけるようになる楽しさがあると思います。そういうところも一緒に楽しんでもらえたらと思いますね。
「KHII」や「KHBbS」のHD移植に、新規映像を多数収録した「Re:coded」
――「KH2.5」の開発期間としてはどれぐらいになっているのでしょう?
安江氏:昨年の春頃からプログラマーが動き出しまして。「KHII」や「KHBbS」のデータや仕組みを研究するところから入り、リメイクしていく土台を築いていきました。秋頃にデザイナーやプランナーが加わり、クオリティアップしていったという流れです。
――「KHII」の元データはPS3用に使いやすいものだったのでしょうか? よく、元データが失われていたり、別ハードには使えないものだった、なんていうお話がありますが。
安江氏:そこにおいて、「KHII」は特によく出来ていました。ものすごく細かく作られています。ただ、それでもPS3で出すとなると手を入れる必要は当然あって。キャラクターも背景部分もテクスチャーをより細かくしたり。比べて頂くと「KH2.5」はものすごくキレイになっていると感じてもらえると思います。先ほどお話ししたように画面も広がっていますから、例えばバトル中に横から攻撃されている様子が見やすくなっていたりして、ゲームプレイの面でも遊びやすくなっていると思います。
――試遊させて頂いたのですが、確かにテクスチャーの書き込みは「キレイになったなー」と感じました。
安江氏:「KHBbS」で言うと、キャラクターならテクスチャーのデータ量が4倍ぐらいになっています。「KHII」はデータを変更した量で言うと少し控えめなのですが、それでも全てのテクスチャーを修正しています。
――HD化すると、どうしてもオリジナル版とは印象が変わってしまうところが出てくると思います。「くっきり見えすぎる」とか「表情のニュアンスが微妙に違って見える」というような。そうしたところについてはいかがでしょうか?
安江氏:そこはやはり敏感にチェックしましたね。特に顔に関して、印象が変わらないように細心の注意を払いました。あと、「KH」はリアル系なグラフィックスではなくディズニーアニメ的な描写も魅力ですから。クオリティを高めるにしても、あまりリアル路線に高めるのではなく、滑らかなグラデーションだったり、鮮やかな色だったりと、ディズニーの良さを重視しています。
――HDリメイクで画面比率が変わるものだとよくある話ですが、横の見える範囲が広がっていることで「イベントシーン中に映ってはいけないものが映ってしまう」というのがありますが、そのあたりはいかがでしょうか? そういう場面は多かったですか?
安江氏:はい、「KHII」は画面比率が大きく変わっていたので、エフェクトが欠けている所とか、アニメーションが静止している所とか、メニューが全くない所とか、かなり足す必要があって大変でした。
――ハードウェア的な違いというのはいかがでしょうか。プログラム面で言うとシェーダー周りはスムーズに移植できたのでしょうか?
安江氏:仕組み自体はそのままに継承できていて、元の表現にプラスする方向ではなく、細かく描き込むという方向で作っています。例えばPS4 / Xbox One用に作っている「KHIII」のシェーダーともまた違っていて、「KH2.5」にライティングを追加したりではなく、元データを再現し描き込むというものですね。
――オリジナルがPSPだった「KHBbS」ですと、PS3に持ってくるとなればスペック的な余力が出てくると思います。今回のHDリミックスは、ハードウェア的に制限があったもの開放しているのか。それとも、あくまでPSP用のクオリティをベースに高めているのでしょうか。
安江氏:あぁ、なるほど。そちらも同様にPSP用をベースに解像度を広げテクスチャーのデータ量を増やしているという方向ですね。PS3でできる限りまで描き込み量を増やしています。根本的な仕組みは変えないまま、PS3のスペックの限界までクオリティを高めました。
――ローディングのタイミングや回数についてはいかがでしょうか。
安江氏:そのあたりはオリジナル版とほとんど変えていないです。オリジナル版と同じ読み込みタイミングの中で、PS3のメモリをフルに使ってベストなクオリティに高めるというものになっています。
このあたりはむしろ「「KH1.5」」の時に試行錯誤したところで、当時にプログラマーが苦心していました。今回はそこで得たノウハウはそのままに作業して、そのぶん楽になったところをデザイナーがより限界まで手を加えていくという流れになったんですね。
――操作やシステム周りについて「オリジナルよりも遊びやすく変えています」というところはありますか?
安江氏:そこは「KHBbS」が大きいですね。なにしろ元がPSPでしたから。操作をPS3に合わせてアレンジしていて、カメラ操作などがやりやすくなっていますね。「KHII」に関してはPS2とPS3の操作性は近いですから、あまり大きなアレンジは入れていないです。
――「KHBbS」にはミラージュアリーナというワールドでの通信プレイがありましたが、そちらはどのようになっているのでしょう?
安江氏:ミラージュアリーナはシングルプレイで楽しめるようにアレンジしています。バトルを全般的に動きやAIを調整して。あと、チャレンジという要素を入れていて、クリアするとメダルやボーナスをもらえるようにしています。
――ニンテンドーDSでリメイクされた「キングダム ハーツ Re:コーデッド」は、「KH1.5」での「KH 358/2 Days」と同じようにHD映像で収録されているということですが、どれぐらいの映像になっているのでしょうか。
安江氏:「358/2 Days」と比べると収録時間がすごく増えています。「358/2 Days」は約2時間でしたが、「Re:coded」は約3時間になってまって。元々は同じぐらいの収録時間にしようと話し合っていたのですが……。なぜか、どんどん増えてしまったんです(笑)。
今回の映像収録の特徴として、バトル部分もイベント映像として新しく作っています。間のバトルもあれば物語をより理解しやすいですよね。ストーリーのあらすじ的なイベントでもボイスを追加していますし、もちろん新規のイベントシーンは全てボイスを新規収録してフルボイスになっています。カメラ演出も、HD版の「KH」に相応しいものに作られています。
他にも、中身はあまりお話できませんが「シークレットエピソード」的なものが追加されていますので。ご覧頂くと、他の「キングダム ハーツ」シリーズのミッシングリンクが繋がり、物語の理解が深まります。
――なるほど。この他にも新規要素というのはあるのでしょうか?
安江氏:各タイトルをクリアするとカスタムテーマがもらえたり、トロフィー機能に対応したりと、「KH1.5」から引き続いて加えているものがありますね。ゲーム内容的には、オリジナル版が好評頂いたゲームですから、あまり手は加えずに。とことんキレイにするという方面に力を費やしています。
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