インタビュー
「テクモ・アーケードゲーム・クロニクル」インタビュー
テクモアーケードゲームの歴史と魅力が凝縮された珠玉の逸品はいかにして生まれたのか?
(2014/6/6 21:20)
6月7日、スーパースィープから発売される「テクモ・アーケードゲーム・クロニクル」は、1980~90年代に発売されたテクモ(現:コーエーテクモゲームス)のアーケード用ビデオゲームミュージックCD7枚分に加え、スーパープレイを収録したDVD2枚分の攻略映像と、当時の貴重な開発資料を納めたデータディスクCD1枚がセットになった作品だ。
収録タイトルは、テクモ(※当時の社名はテーカン)のアーケードゲーム第1号(1981年発売)である、シューティングゲームの「プレアデス」から、1995年に登場した風変わりなアクションゲームの「がんばれギンくん」に至るまで、合計なんと28タイトル。ここにテクモのアーケードゲームの歴史がすべて凝縮されていると言っても過言ではないほど、実に豪華な内容となっている。
「プレアデス」の発売から、実に30年以上の年月が経過した2014年。同社および本作のスタッフは、なぜこのタイミングでこれほどまでにマニアックなものを発売しようと思ったのだろうか?
早速、制作に携わった4名のエキスパートにお話を伺ったので、その模様をたっぷりとお届けしよう。オールドゲーム好きはもちろん、将来ゲーム開発職を志望する方々も興味津々なコメントに注目いただきたい。
「テクモ・アーケードゲーム・クロニクル」
・発売日:6月7日
・定価:15,984円(税込)
・仕様:音楽CD 7枚 / 映像DVD 2枚 / データディスク 1枚
アーケードゲーム28タイトルのサウンドトラックCD(7枚組)、「歴代のコンポーザーが集結した「座談会映像」、幻の未発売ゲームやスーパープレイを収録した「攻略DVD」、開発資料を収録した「データディスク」を豪華デジパックBOXに収録。全CDインデックスや「すきなのに」の歌詞や楽譜などが収録された20ページのブックレットも付属する。
長年の夢と構想がついに実現。幻のゲーム、「アウ-Au-」の貴重な映像も収録!
――まず初めに、「テクモ・アーケードゲーム・クロニクル」を作ろうと思った1番の理由は何だったのでしょうか。
八木氏: それは私が欲しいなあと思ったからです(笑)。冗談はさておき、このような商品はテクモさんに限らず、以前からほかのメーカーのゲームでもぜひ実現させたいな、という思いはずっと持っていました。
これはあくまで私の印象ですが、テクモさんの昔の作品に関する商材はかなり少ない気がしていたんですよ。「がんばれギンくん」など、所々でゲームミュージックCDなどが発売されてはいるのですが、完璧にそろった決定版のようなものは今までに存在していなかったので、いつの日か自分の手で作れたらいいなと思っていました。
原尾氏: 確か、この企画のお話を最初に聞いたのは今から10年以上前だったような記憶がありますね。
八木氏: そうなんです。私がサイトロンにいた時代からずっとできないかと考えていたんですよ。以前に発売した「東亜プラン シューティングクロニクル」(※)も同じで、今までずっと温めていたわけではなくて、過去に何度もチャレンジしていたのに実現することができなかったんです。
※「東亜プラン シューティングクロニクル」:2011年にスーパースィープから発売された、東亜プラン製シューティングゲームのゲームミュージックおよび映像集。音楽CD5枚とデータディスク1枚がセットになっていた。
――制作がスタートしたのは、だいたいいつ頃からですか?
八木氏: 3年ほど前からですね。実際はもっと前から商品化のお願いに動いていたのですが、これがなかなかうまくいかなかくて……。ですがある日、コーエーテクモにいる私の知人を介してお話を通したところ、「今度は何とかできそうだ」という手ごたえが得られまして、これをきっかけにして無事商品化することができました。
――原尾さんはコンテンツホルダーのお立場になるわけですが、最初にこの企画が持ち込まれたときは率直にどのような印象をお持ちになりましたか?
原尾氏: 正直、収益面などの問題で「商品化は難しいのではないか」と思いました。しかし、私自身が旧テクモの歴史を残したいという思いは以前からずっと強く持っていましたし、初期のアーケードゲームを知っている世代が今は40~50代となり、会社の意思決定に関わる立場に就くようになってきたことにチャンスを感じてもいました。
このタイミングで昔のコンテンツをリブートするきっかけを得れば、より大きなビジネスにつながる可能性があるのではないかと考えました。「これを機に、歴代の先輩たちが作り上げてきたアーケードあるいはレトロゲームに新しい命を与える道が開けるのではないか」と思ったのです。
今、八木さんからお話のあった「東亜プラン シューティングクロニクル」を私も拝見したことがあるのですが、まず素晴らしいなと思ったのがあの重量感なんですよ。「この中にメーカーの歴史がぎっしり詰まっているんだなあ」と感銘を受けまして、ならばこの機会にテクモの歴史もぜひ手触り感のある形にして残したいなと思いました。
最終的に、これだけの大ボリュームで出してほしい、というオーダーを出したのは当社からなんです。個別にゲームミュージックCDを出すよりは、もっとゴージャスな内容にしてまとめて出した方がいいのではないかと。もっとも、ゴージャスにし過ぎたのでチェック作業がもの凄くタイヘンになってしまいましたが(苦笑)。
八木氏: 最初はディスク7枚分ぐらいで収まるかなと思っていたのですが、終わってみればギリギリまで詰め込んでディスク10枚分で、どうにかこうにか入りましたね……。
原尾氏: 特に時間がかかったのは、昔の事情を聞くために当時の開発者のみなさんに何度もヒアリングしたことですね。ブックレットに各タイトルや曲ごとに作曲者も明記してあるのですが、坂本さんとか増子さん(※)などにお聞きして、開発担当者はそれぞれ誰だったのかなど事実関係を明らかにして整理しました。
※坂本さんとか増子さん:前者は1983年発売の疑似3D型シューティングゲーム「SENJYO」などのBGMを作曲した坂本慎一氏、後者は縦スクロールシューティング、「スターフォース」などの作曲を担当した増子司氏のこと。
――本作にはシリアル番号もついているそうですね。
八木氏: はい。パッケージにはすべてシリアル番号がついていまして、1,984セットの限定生産となっています。
原尾氏: 1,984という数字は、「スターフォース」や「ボンジャック」(※)が今年で発売30周年であることにちなんだものです。実は、シリアル番号を使って購入者プレゼントを予定していますので、たとえ関係者であっても、いわゆるキリ番を配慮して渡すようなことは一切いたしません。ただし、唯一の例外として0001番のパッケージだけは、テクモの創業者である今は亡き柿原彬人氏の墓前に捧げることになっています。
※「ボンジャック」:主人公ジャックを操作し、敵に捕まらないようにして画面内の爆弾を取っていくアクションゲーム。
また、シリアル番号をつけたのは、もしかしたらこのBOXを食費を削ってまで買う方だっていらっしゃるのではないかと思ったのも理由のひとつです。そんな情熱の持ち主であれば、それぞれのナンバーを背負って後世にまでテクモの歴史を伝えてくれる方たちに違いない、その役目を担っていただくという敬意を込めてプリントさせていただきました。なお、商品サンプルにもシリアル番号が入ったものを使いますので、実際に市場に出回るのは1,984未満になりますから、早い者勝ちです!
――それからDVDには、過去にロケテストの段階で消えてしまった幻のゲーム、「アウ-Au-」の映像も収録されているそうですね。
原尾氏: はい。「アウ-Au-」の基板は世界で1枚しか存在しないたいへん貴重な物でして、あるとき偶然壊れていた基板を見つけた瞬間はまるでシュリーマンのような気持ちになりました。せっかく見つけたのであれば、まずはきちんと修理してから何らかの形でぜひ記録に残したいなと思いました。もし運よくビジネスになる機会があれば、ぜひみなさんにも「『Au -アウ-』があったぞ」ってお見せできたらいいなと考えていたんですよ。
※「アウ-Au-」:1983年頃に開発された縦画面シューティングゲーム。名前の由来は金の元素記号とのこと。2011年のアニメ「Rio RainbowGate!」公式HPでも、原尾氏が発見の喜びを語っている。
・関連リンク:http://www.ponican.jp/riorainbowgate/special/oldgames_02.html
川島氏: 「Au -アウ-」の映像収録は私が担当したのですが、プレイの途中でどうしても止まってしまうので、とにかく難しかったですね……。
池田氏: 多分、今、「Au -アウ-」をやらせたら川島が世界で1番うまいですよ。基板を稼働状態に立ち上げてからひととおり遊ぶまでの技術は間違いなく世界一です(笑)。世界で1枚しかない貴重な基板をお借りできたので嬉しかった一方、取扱いには毎回もの凄く慎重になりましたね。
――ミュージックCDには、原尾さんが作詞した「すきなのに」という曲も収録されているそうですが、これはどんな曲なのでしょうか?
原尾氏: パチンコ「CRうる星やつら2」の収録曲です。当社で本作の映像とサウンド制作などを担当させていただいたもので、こういうタイトルはなかなかCD化の機会がないので(笑)。
今回は、3番までの歌詞も記載し、作曲者にCD用に最適化したリマスタリングをしてもらって収録しました。パチンコ機も、業務用、アーケードの範ちゅうに入るものですからね。当時、2000年代の旧テクモ時代はパチンコ・パチスロ事業が大きな収入源になっていたのですが、それも、家庭用とは異なる業務用、アーケードゲーム開発のノウハウがあったからこそなんですよ。そんな思いも込めて作ったものを、この機会にぜひ見ていただけたら嬉しいですね。
八木氏: それから、CDには「がんばれギンくん」のボーナストラックも新たに収録してあります。2P側の主人公で、ハムくんのボイスを担当した開発の方が今もコーエーテクモさんに在職されていますので、その方にご協力をお願いしました。こちらもぜひ注目してください。
また、「忍者龍剣伝」(※)では海外版にしか存在しないステージ中のBGMを入れたりもしています。おそらく、ここに収録されたタイトルの1割しか遊んだことがない人であっても、十分に元が取れるだけの価値があると思いますよ。
※「忍者龍剣伝」:1988年に発売された、先端にボタンがついたレバーを使って操作するユニークなアクションゲーム。