インタビュー
SWERY氏の最新作「The Good Life」のクラウドファンディングが失敗に
「キックスターターでリブートします!」 White Owls大阪本社で今後の方針を聞いた
2017年10月14日 10:49
日本のゲームクリエイターSWERY氏の最新作として9月のPAX Westにて正式発表され、米国のゲーム専門のクラウドファンディング会社Figと組んで開発資金を集めていた「The Good Life」だが、10月13日、クラウドファンディングが失敗に終わった。150万ドル(1億6,800万円)のゴールに対して、集まった金額は68万ドル(約7,600万円)。達成率は45%、投資したバッカーは3,478人という結果となった。
集めた出資額は全額払い戻しとなり、SWERY氏率いるWhite Owlsには1銭も入ってこないこととなった。これは同社の開発資金のショートを意味するわけではないため、会社がクローズしたり、プロジェクトが終了するわけではないが、創業1年足らずの同社にとっては小さくない躓きとなる。
SWERY氏は、クラウドファンディング失敗確定を受けて、英文2ページほどの声明を発表。そこには正式発表の2週間前に大規模なリークが発生し、ゲーム内容が誤解された形で広まってしまい、プロモーションが後手後手に回ってしまったこと。公開したトレーラーの内容が必ずしもゲームに対する理解促進に結びつかず、かえって混乱を招いてしまったこと。重要パートナーであるグランディングの存在を十分にアピールできず、せっかくの強みを活かせなかったことなど、様々な視点からクラウドファンディング失敗の理由が綴られている。
注目すべきは2ページ目で、「The Good Life」プロジェクトを諦めずにリブートする決意が語られていることだ。SWERY氏は、東京ゲームショウでインタビューしたばかりだが、筆者は10月13日、たまたま偶然、大阪を取材で訪れていたため、取材の合間を縫って、SWERY氏の本丸であるWhite Owls大阪本社を訪れ、新たな決意、その真意について話を伺ってきた。
様々な失敗の経験と反省点を活かし、キックスターターで再始動
筆者が訪れたのは、40日に渡って続けられたクラウドファンディングが失敗に終わり、英文での再起を誓うコメントを発した直後。常にピーカン、底抜けの明るさで知られるSWERY氏だが、本日ばかりはさすがに憔悴しているかと思いきや、いつもと変わらぬダンディな出で立ちで元気に出迎えてくれた。
スタッフには、数日前に、13日にクラウドファンディング終了後に出す告知の内容を伝えたという。スタッフからは「今後どうなるのか?」という至極当然の質問が投げかけられ、SWERY氏は「引き続き営業していくので、今後も変わらず開発を続けていってほしい」と伝え、全員に納得して貰ったという。実際、筆者がWhite Owlsに訪れた時には、アート、企画、プログラムの各部門では、各部門のディレクター以下、各スタッフが、いつもと変わらない風景で開発を行なっていた。
ちなみに、SWERY氏が10月13日の10時にコメントを発してから、筆者がWhite Owlsを訪問した16時までの6時間前後の間に、SWERY氏のFacebookやTwitterに追い切れないぐらいの激励コメントが世界中から届いたという。「もっと出資するから頑張れ」、「次はもっと多く出資するから諦めないでくれ」といった比較的真面目な激励から、「リブートではキャラクターが8頭身になるのか?」といった無茶なお願いをしてきたり、なぜか自身が飼っている犬や猫の写真を送ってくる人がいたり、はたまた猫にSWERY氏の代表作「レッドシーズプロファイル」のディスクを持たせたり、猫がバッカーとばかりに猫に100ユーロを持たせた写真など送ってきたりということで、様々な形でSWERY氏を激励するアクションが続いているようだ。
クラウドファンディングについては、もともとの設定金額が高かったことから、パートナーのFigによる大口の出資先≒パブリッシャーが見つけられなかった時点で失敗することは覚悟しており、むしろそうした中で、一般のバッカーから7,000万円以上の出資が集まったことに「大きな手応えを感じている」と、あくまで前向きな捉え方をしていた。
ただ、現実として、9月3日にクラウドファンディングをスタートさせ、40日間に渡って、開発を担当するグランディングと二人三脚で、トレーラーやスクリーンショット、ライブストリーミングなど様々なアプローチでゲームをアピールしてきたものの、目標とする金額には届かなかった。この理由についてはSWERY氏は、自身が決意表明の中で語っているように、そもそもの前提がFigが大口の出資先を見つけ、その残りを個人のバッカーが補う形になっていたのに、その前提が崩れたまま最後までいってしまったこと、ゲームトレーラーの内容がわかりにくすぎたこと、二木氏らグランディングと組んでいるプロジェクトであることを十分にアピールできなかったことなどを挙げてくれた。
新たに開発資金獲得手段としてキックスターターを選んだ理由は、クラウドファンディングを再び繰り返すことはできないこと、キックスターターのほうがバッカーの決済障壁が低く、より手軽に出資できる仕組みが整っていること、9月から日本語にも対応したことなどを挙げてくれた。その上で今回のキックスターターは、大口の出資先を先に確定させてからスタートさせることで、ゴールの金額を下げ、開発資金の使い方を明示することで、クラウドファンディングより多くの資金を集められるのではないかと抱負を述べてくれた。
ゲーム内容については「変えるつもりはありませんが、見せ方、情報の出し方は改善します」ということだ。筆者自身、SWERY氏に伝えていたことだが、ローンチトレーラーの内容がわかりにくすぎて、SWERY氏のファン以外にアピールすることが難しい内容になっていた。SWERY氏は「混乱させるつもりはなかったんですけど(笑)、結果的にそうなっていたので、今度はああいう“雰囲気もの”のトレーラーではなく、ゲームをしっかり解説していくような“スーパートレーラー”を用意したいと思っています。そこには、これまでいただいた皆さんのメッセージも挿入しますし、グランディングさんのような関わっているクリエイターの皆さんの名前も出します」と語り、これまでは自ら発信していた情報についても、しっかりとしたPR担当を立てて活動していくことで、もっとユーザーやメディアに近い立ち位置で情報を出していきたいという。また、ユーザーから多くの要望が上がっていたパッケージ版も米国のLimited Runというメーカーと組むことで実現する方針だ。
開発の陣容については、基本的に従来のままで、開発総指揮はSWERY氏(White Owls)、開発ディレクターは二木幸生氏(グランディング)、スーパーバイザーRyan Payton氏(Camoflaj)という構成は可能な限り維持していく。
リブートするタイミング、つまりキックスターターを始めるタイミングについては、「できる限り早いタイミングの年内」。曖昧な表現に留める理由は、前回、情報のリークやローンチトレーラーの内容など、意図しない部分でのエラーが頻発したため、リブートする前に、できるだけしっかり準備を整え、良いもの、わかりやすいものを用意したいからだという。先述したスーパートレーラーのほか、デモを行なうためのビルドも用意したいということで、そのためのグランディングとのミーティングを週明けより始める予定ということだ。
SWERY氏に話を伺って強く伝わってきたのは、自分の想い、とりわけゲームに対するビジョンを思うようにゲームファンに伝えられなかったことを強く悔いていたことだ。具体的には、PAX Westでの正式発表の2週間前に投資家向けの説明資料が流出し、一部イラストから2Dゲームではないかと誤解されてしまったことから、それを打ち消すのに労力を割かざるを得なくなってしまい、肝心のゲームの魅力が伝えられなかったこと。バッカーに対するリワードをユーザーの希望通りに増やしていったら選択肢が膨大になってしまい、バッカー候補者がどれを選んで良いのかわからなくなってしまったこと。クラウドファンディングの後半に唐突に犬バージョンと猫バージョンを発表して、さらに混乱に拍車を掛けてしまったことなどを反省点として挙げ、同じ失敗は繰り返さないことを約束してくれた。
日本のゲームファンとして1つ残念だったのは、日本向けの正式アナウンスが最後まで行なわれなかったことだ。SWERY氏は、「その点については本当に申し訳なかったこと」と反省しきりといった感じで、9月にキックスターターが日本語に対応したことを踏まえ、リブート後は明確に日本市場も視野に入れた上で、日本でのPR活動も行なっていく。
リリース時期は、前回のクラウドファンディングの設定と同じ、「2019年第3四半期」のままで、動かすつもりはないという。これについては、その分だけ開発期間が短くなることになるが、バッカーに対していつ遊べるのかを明示することが大事だと考えているためだという。
キックスターターの設定金額は未定ながら、前回の150万ドルよりは下げる方針。万が一、キックスターターが不成立に終わった場合については、「そういうシナリオは今から考えたくないですが(笑)、それでも諦めることはないと思います。White Owlsはほかにもいくつかのプロジェクトを抱えているので、世に出していく順序が入れ替わったり、開発費の目処が付くまで“寝かす”可能性はありますが、辞めることはないと思います」とコメント。
情報の出し方について今後大きく変わるポイントは、グランディングの開発力を前面に押し出していく。具体的にはグランディング COOの二木氏の存在を、SWERY氏と同列で扱い、今後メディアインタビューもSWERY氏だけでなく、二木氏も同席して貰い、従来のSWERY氏単独のプロジェクトとは様々な点で異なることをアピールしていく方針だという。
今後の具体的な計画については、SWERY氏「実はやること凄い多いんです(笑)」と笑いながら、まずはFigのクラウドファンディングを閉じる作業を行ないながら、グランディングと開発についての調整、Limited Runらパートナー各社との条件面についての調整、キックスターターとのリブートについての調整を同時平行して行なっていくという。
最後にSWERY氏は、ゲームファンに向けてメッセージを贈ってくれた。「今回、プリッジしてくれた方、プリッジしようと思っていた方、まだよくわからないと思っている方、色んな方がいらっしゃると思いますが、この『The Good Life』というゲームは、夢のようなゲームだと自負しています。できればオンラインゲームのように永久に遊べるゲームを作ろうと思っていますので、そういう新しいチャレンジに対してどうぞご期待いただければと考えています。我々もその期待を裏切らないような内容に仕上げ、皆さんの手元に届けられるように尽力していきますので応援よろしくお願いいたします!」。
SWERY氏のリブートにぜひ期待したいところだ。
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