インタビュー

「サマーレッスン」の3人目「新城ちさと」はこうして生まれた!

玉置 絢プロデューサーにインタビュー

9月21日~24日 開催

会場:幕張メッセ

 PlayStation VR用VRキャラクター体験「サマーレッスン:新城ちさと 七曜のエチュード(基本ゲームパック)」が発売された。今回新たなキャラクターとして登場する「サマーレッスン」の3人目のキャラクター・新城ちさとに胸をときめかせた人も多いだろう。この3人目のキャラクターはどのようにして誕生したのか、バンダイナムコエンターテインメントの玉置 絢プロデューサーに話を聞く機会を得たので、ここに紹介していこう。

【「サマーレッスン:新城ちさと」プロモーション映像】
「サマーレッスン」の3人目「新城ちさと」はこうして生まれた! インタビューに答えてくれた「サマーレッスン」の玉置 絢プロデューサー
インタビューに答えてくれた「サマーレッスン」の玉置 絢プロデューサー

新キャラクター「新城ちさと」がこういう性格なワケ

――新キャラクター「新城ちさと」ですが、なぜこういう性格になったのですか?

玉置氏: ちょっと前段階のお話からご説明してもよろしいでしょうか。……もともと「サマーレッスン」を作り始めた2013年末~2014年当時は、いわゆるカードコレクション型のソーシャルゲーム全盛期でした。1つのゲームがあればキャラクターが50人は最低いるという時代が来た頃です。世の中のお客さんは100人、200人いる中から自分の気に入ったキャラクターをあなたのパーティに入れてあげてください」というゲームに熱中していました。そうした時代の中でサマーレッスンでは、「1人で、いかに多くの人をカバーできるか」というミッションに取り組んでおり、そのことがすごく難しかった。なので、ひかりちゃんは誰からも好かれるようにしようというコンセプトでした。

 ただ、私が勝手に「メインヒロイン症候群」と呼んでいるんですが、メインヒロインのような立ち位置の「最大公約数的な良さ」を求められるキャラをまともに作りすぎると、かえって人気が出ないことが多いんですね。だいたい1番人気になるのはもっと濃いキャラ、とがったキャラで、キービジュアルだと真ん中にいないキャラが人気になるということがあって。どれくらい個性を出すかというのと、最大公約数で多くのお客さんに愛されるキャラを作るというせめぎ合いがすごく難しかった。

 対照的に、アリソンというキャラクターは記号性に全振りしていて、わかりやすいキャラクターです。ひかりと同じ見た目じゃない、白人の骨格だったり、肌の色だったり、目の色だったりという方針がわかりやすく、あまり作るうえで困らなかった。結果的にもうまくいきました。E3にあわせて出しましたが、現地でのウケはもとより、映像をYouTubeで公開したら、日本のユーザーの反応が大きかったので良かったんです。見た目が華やかというか、かなり色の派手なキャラクターというのはそれだけで受けるということです。また、アリソンの性格にも良さがあると思っています。見た目と性格のギャップを狙うという手法で海外の人っぽい見た目なんだけど、白人女性に対して日本人が持っているステレオタイプとはまったく逆の、ちょっと大人っぽくて物静かで、包容力のある感じというのが受けたんだろうなと思っています。

 この2人で、だいたいのユーザーの求めるキャラクター性はカバーできたと思っていたんですけど、まだカバーできていないところがあるということがやがてわかってきました。じゃあどういうキャラクターを3人目に出せば、少ない人数で勝負するしかない「サマーレッスン」の世界でも、いかに多くの人をカバーするかというミッションに挑めるか……という流れから生まれたのが、3人目のキャラクターなんですね。

 いままでの2人は、ひかりちゃんは明るくて元気、アリソンちゃんはおとなしくて物静かというふうに、プレーヤーに対して優しい。当たりが柔らかいというかリスペクトしてくれるキャラだったので、それだけだと物足りないという人もいるだろうから、あたりが強くてアグレッシブさを足すことにしました。どちらかというと先生をからかったりとか、おちょくったりして楽しむタイプの女の子とも楽しい会話がしたい、と言う人がいるでしょうと。それを3人目に用意するとちょうどバランスが整って、3人で分担しながら多くのお客さんをカバーできるのではないかと。それが目的だったんですね。その性格に合わせた見た目を考えたときに、ちょっと小柄できゃしゃなのは、「見た目と性格のギャップ」ルールで作っています。

 もう1つ、なんでお嬢様になったのかという話ですが、これには2つ理由があります。まず、レッスンというテーマでキャラクター別の体験に横串を差しているので、何かしら先生が教えなければいけない。ただ、レッスンについてひかりちゃんの時に言われたのが「あまり数学とか国語とか、勉強が得意じゃなかったから、教えられる気がしないよ」というフィードバックで。そこで、自分がプレーヤーとして没入するときに教えられる、これだったらOKというレッスン内容があればいいなと、それ以来考えて来たんです。

 アリソンの時にはその意識で日本語を教えるとか、日本文化を教えるというネタにしました。それなら日本に住んでいる人だったら大分自信が持てるでしょうと。そこから、3人目はどうするかと考えて、「世間ズレした古風な女の子に、現代の常識とか流行を教える」という設定を立ち上げたんです。PS VRを買うような方は機械には強いと思うので、ゲームだったり、最近の娯楽、機械の使い方を教えたりということならみんな安心して先生役を務められるし、教えたいという気持ちはあるんじゃないかと。

 もう1つの理由ですが、キャラクターより背景が先にできていたんですね。3人目を作るときに、背景がひかりちゃんの部屋みたいになっているとよくないので、ほかに何を作ろうかと考えたわけです。そこで思い当たったのが、制作チームの得意分野です。元々「サマーレッスン」のビジュアルチームは「鉄拳」や「ソウルキャリバー」が母体になってるんですね。例えば、本作アートディレクターの吉江秀郎は「ソウルキャリバー」のアートディレクターで有名です。チーム全体の傾向として、西洋風のファンタジーではないですが中世的な感じのする小物類を作ることに非常に慣れているんですね。参考になるデータも社内にたくさんある。それで作ればクオリティは上がるのではと考えて作ったのが洋館です。

 それでさっきの話と合わせて、「お嬢様だったらいいよね」と。さらにもっと発想を展開して、性格的にも「あなたにはお金を払っているだから私の言うことを聞いてよ」とおもちゃにされるのは合うよね、となって、どんどん条件が合体して形になった。そういう流れでできたキャラですね。

「サマーレッスン」の3人目「新城ちさと」はこうして生まれた!

黒タイツに萌えますよね

――キャラの容姿や服装にもこだわりを感じます。私のポイントは“黒タイツ”だったのですが。

玉置氏: やっぱりそうですよね……。みんなタイツに目がいくのか、よくその話を耳にします。もともと「サマーレッスン」では、早期購入者特典に「オーバーニーソックス」をはいた衣装が続いていたという背景があるんですね。ひかりちゃんもアリソンの時もそうで、生放送などの反応で見ると結構受けたりしているなと思い。そこでタイツをやってみようとしたんです。もちろんVR表現としての興味もあって、これもアリソンの時に、髪の色に対して思ったことと同じなんですが、VRで見たときにどうなるんだという好奇心もありました。誰も見たことがなくて楽しそうだなと。

 タイツってなかなか難しいんですよ。素材はプラスチックだけれども、光っている感じもする。肌色が透けている気もするけど、半透明のプラスチックではないという。素材がかなり特殊なので、それをVRで表現するというのは難しいことです。しかし、課題を解決するというのはバンダイナムコスタジオのクリエイターが大好きなことで、とにかくいつも難題を求めていますから。

 タイツに「デニール」という単位がありますよね。あれをちゃんと「何十デニールならこの見た目の薄さ」というのを出して。私もそうですが、タイツの好きなスタッフがいて、「俺はこのデニールがいい」とか言いながら決めました。結構それが難しいんです。舞台が夏場なので、いくら室内でインドアな感じだとしても厚すぎるとダメだろうと。しかし薄すぎると今度はお上品に見えないし、タイツをはかせる意味がない。最終的に60デニールぐらいになりました。

 キャラクターの服装デザイン自体は奥村大悟(バンダイナムコスタジオ)が担当しています。「テイルズ オブ」シリーズのキャラクターデザイナーの1人としても活躍しているクリエイターですね。アリソンも奥村がキャラクターデザインです。

 キャラクターデザインのエピソードでいうと、ちさとちゃんの衣装は最初、真っ白なワンピースだったんですが、その服装を見た開発スタッフから「まるで他人から着せられているような服だ」という反論が沸き起こったんです。周りの人の言いなりになるような従順なキャラクターだったら、着せられているというのはわからなくもないけど、この子の性格で、他人から、これかわいいし似合うので着てよと、着させられているような感じの服は似合わないという話が出たんです。この話はVRのキャラクターなら特に気をつけるべき視点で、面白いところだと思っています。「他人から見て似合うか」「絵として見栄えがするかどうか」という思考ではなく、「このキャラクターが本当に実在したら、こんな服を来て日々を過ごすだろうか」という思考は、「キャラクターが目の前に実在している感じ」を追求しているからこそ大事なものです。そこで、この子の自分の趣味で着そう、かつ誰が見てもかわいいと思えるようなデザインで、かつお嬢様ぽくなる服を追求するために、再デザインを繰り返しました。

「サマーレッスン」の3人目「新城ちさと」はこうして生まれた!

――開発期間はどの程度だったのですか?

玉置氏: フル稼働してからは半年くらいですね。ひかり、アリソン、ちさとという順番ですが、アリソンとちさとはオーバーラップしているときもあったので、ちさとのことを考えながらアリソンを作ったりしていました。

 ちさとについては、何よりもイベントの新しさ・驚きの大きさにこだわろうというテーマだったので、ネタ出しが大変で。その時間がかなり長かったですね。そういった助走期間を抜きにすると半年くらいです。

――今回のイベントで肝になるのはどういった点ですか?

玉置氏: これまでの「サマーレッスン」のVR体験のイベントシーンに加えて、さらに新鮮で驚きのある体験を追求したということです。

 また背景のお話から説明させて下さい。PS VRも発売されてから1年がたちましたが、1年前の当時は、「VRでキャラクターとふれあう」という概念に誰も想像が付かないという状態があり、「サマーレッスンって、こういうものなのね」と理解してもらうことが、ひかりちゃんの時期はすごく重要でした。それから1年の間に、おかげさまで「VRキャラクターとは」についてはだいぶ認知されてきました。ほかのVRのタイトルでも「あれの『サマーレッスン』版」みたいな展開をたくさん出して頂けて、日本のゲーム業界として胸を張って「VRキャラクター」というジャンルの成立を言い切れるし、そのジャンルの中で先陣を切った存在として「サマーレッスン」が代名詞になっているという状況が作れたと思っています。そのことを考えると、この先はいかに、いい方向に期待を裏切っていけるかというか、新鮮なネタを提供できるかが重要になると考えました。

 もう1つは、ちさとの時期になってくると、ほかのVRタイトルがだいぶ出てきて、それを横目で見ながら作れたんですね。ひかりの時は誰もいない。前に誰もいなくて、後ろにも誰が点いてきているのかわからない状態だった。それが今回については、「あそこの人はこういうVRをやっています」といったのを見ながら作れたので、先に走り始めたのは我々だけれども、「あれいいな」とか、「これはうちのチームでやるならこうだよね」と思うことがいっぱいありまして。当然、VRに興味があるメンバーが集まっているので、みんなでそういったVRタイトルを遊びながら話していたものがアイデアの源泉になっています。「サマーレッスン」流にやるならこういうイベントはどうだ、ああいうのはどうだというのを出していって、その中から生き残っているのが今回入っているという。これがちさと編の特徴ですね。

 もちろんその裏打ちになっているのは、ひかりやアリソンを作っていく中で得られた、VRでキャラクターを本気でやるならこういう工夫をすればいいんだというノウハウです。特に1番大きいのはクロスモーダルに対する取り組みですね。つまり感覚の錯覚ですが、その新感覚の体験をPS4の枠内で実現するコツがわかってきたので、それを混ぜ合わせてこうしたらいいんじゃないとか。あとはユーザーアンケートですね。お客様の「こういうことがしたい」というニーズについてもだいぶフィードバックがあったので、その中でできそうなことに取り組んだ、という感じですね。

――ムービーが公開されてユーザーも盛り上がってますね。

玉置氏: そうですね。今まではひかりちゃんもアリソンも「ふーん」と思っていた人であっても、「この子かわいい!」と言ってもらえるというのは、まさに狙っていたとおり、今まで取れていなかった層のお客様に振り向いてもらえたというのはありますし。そこが刺さってうれしいですね。あとは手品のイベントのような、奇抜なイベントが話題として騒然とするようなことにしたかったというのは、狙い通りの反応がネットでも見られてよかったです。初段から濃い、センセーショナルなイベントを公開するというのはリスクもあったんですが、やってよかったなと思いますね。

――こういう子を好きな人はいますよね。

玉置氏: ちさとを発表してから「お前の趣味なの?」と言われることが増えました(笑)。好き嫌いはあると思いますが、好きな人はとことん好きというキャラなんだろうなと思いましたね。ひかりちゃんはキャラを押し出すというよりは、VRキャラクターという、当時は何もなかったものの、未来を背負わされたわけです。アリソンは環境で生まれたキャラです。

 この2人はその時々の「サマーレッスン」を取り巻く状況から背負うものが多かったのに対して、ちさとは割とそういう状況から離れて、だいぶ自由に作れました。原田(※原田勝弘氏。本作のチーフプロデューサー)もあまり何も言わなかったということもあって。「3人目くらいお前の好きにしたら」ということでじゃあ、思い切ってこういうことを、というのができたのはすごくよかったですね。

 1番確信を得たのは、発売前に社内で見せたときに同じ感じで、好きな人はとことん好きというか、今までの中でこの子がダントツに好きという人が多かったので、これはいけると。ちさとは人間の明るいところと暗いところの両面を持っていて、かつ他人に対して意地悪をしたりとか、人間らしさがありますね。

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別の“かわいさ”を作る難しさ

――そのほか開発時に気をつけられた点はあるのですか?

玉置氏: いっぱいあるんですけど(笑)。1番苦労したのは差別化ですね。ひかりとアリソンの違いは、人種が違うので骨格も違うということです。アリソンを見てひかりちゃんと似ているという人はいないですね。だけどちさとは、ひかりと年齢も近いし、DNA的にも近そうな人間なので、似ていると言われる可能性のあるキャラクターなんです。最初作ったときはもっと似ていたんですよ。原田に黙って「これなんですけど」とスクリーンショットを出すと、「ひかりちゃんの妹なの?」と言われたり、血縁関係が近いような感じだったんですよ。

 でもこれは当たり前で、「サマーレッスン」は最初商品化するつもりはありませんでしたから、ひかりに気持ちのすべてを注いでいるわけですね。すると開発のコアスタッフにとっては、一番かわいいと思える女の子を作ろうというテーマでやるわけです。ベストの女の子はこうだ、といってひかりちゃんを作る。で、そのまま「また最高にかわいいキャラを作ろう」と思って3人目作るとなったら、スタッフが同じなので似るんですよ。やっぱり。

 そこで、「ひかりちゃんとは別人だと思わせないといけないよね」となって、いろいろいじるんです。顔の形やパーツを変えたり。そうすると今度は「かわいくないな」とか、「怖いな」とか。「前の方がかわいくなかった?」となります。かといって、「もっとかわいくしましょう」といって我々の知っている「かわいくするためのテクニック」を単純に注いでしまうと、ひかりちゃんと似るんですよ。これは当たり前ですよね。結局ひかりちゃんがその時点ではかわいさの頂上にいて、ずらすと下山していくわけです。それではかわいくなくなる。これはまずいぞと。非常に焦りました。ひかりちゃん以外が作れなくなってしまうので。違う山の頂点を探さなければいけない。同じくらいかわいいけど、全然違う魅力があるという見た目にしなければいけない。顔だけで、です。バストアップだけでわかるようにしようと。

 そこからが大変だったんですが、あらゆる工夫をしました。例えばちさとの場合、ひかりとは目と目の間の距離が違うんです。額の大きさも違います。ひかりちゃんに比べて目の距離が微妙に離れている。目が離れていると、すこし幼い印象を与えることができるんです。だけども、そんなことに気づかずに、かわいく見えるのは髪型に秘密があって。髪型もあわせて見ると、「目の距離」の情報は髪の形の中に溶けて隠れてしまうんです。このことで改めてしみじみ実感したのは、人間誰も生まれつき美人な人と、かわいい人はいっぱいるけど、みんなそう見せるための努力をしているということですね。

 見たままでかわいいというだけでなく、自分がこういう風に、ちょっと偏った見た目のかわいさを持っているから、それが引き立つようにアレンジして、偏ったところを隠す努力をする。そこを髪型などで工夫をする。そういった知識を、ヘアメイクアップアーティストの記事とか、女性の方に聞いたりとか、開発チームの女性で話し合った情報などを集約して、こういう顔つきの人はこういう髪型にするとかわいく見えるらしいというのを調べてきて、できあがった髪型なんです。もっと具体的に言うと、目の端に髪がかかっている。これが重要なんです。こうすると目のあたりの横軸に見たときの、目と目の間の比率がわからなくなる。まつげから外側に黒い部分が延長されるので。調べたら、芸能人のある人やモデルのとある人も同じような顔のつくりをしている生まれで、だからこそ目に髪がかかるような、そういう髪型をする人が多いというのをネットで見つけて。なるほどと。試してみたらかわいくなりました。こういった作り方は、「サマーレッスン」特有のもので、楽しいです。つまり、我々は「人間を作っている」ので、困ったら人間が培ったリアル世界のノウハウを持ってくるという。

 ひかりちゃんも最初はかわいくなくて、突然かわいくなったのは化粧のテクスチャを入れてからなんです。最初の頃はかわいくならなくて困っていたんですが、ある日突然かわいくなって、何をしたんだと開発のログを見たら、「テクスチャデータに化粧レイヤーを追加しました」と書いてあったんです。世の中の女性の方々が自分の印象をよく見せようと努力して生み出した歴史的なノウハウと同じことを、デジタルデータでもやらないといけないという。そういう時代になったのは面白いですね。

 あとはアイディアの話でいうと、やはり泣きぼくろですね。これがあると違うキャラに見えるという考え方で、実際かなり効果がありました。いろいろなところにこういう工夫を入れて、ひかりと同一人物ではないけれども違うかわいさ、魅力があるというキャラクターを作るという苦労をしています。難しかったですね。

 あと、「サマーレッスン:新城ちさと」では変わったイベントが入っているということがお伝えしたい重要な情報でして。いろいろなイベントを用意しています。元々アンケートでもらった「こういうことを女の子とやりたいです」の中で多かったものを体験化してクロスモーダルで利用しながら、というのもありますし、また手品みたいに、まったく新しい発想で入れたものもあります。手品は何かの思いつきで急に誰かが言い出して取り入れたんですが、ナイスアイデアでしたね。VRだから、実際に刺さっているようにしか思えないのに、なぜか痛くないという。物理的には当たり前なんですけどね。それをうまく利用するという。そういうことをやったりしています。

 あとは「アイドル」のように歌って踊る体験をサマーレッスンでやるという挑戦にも取り組んでいます(「サマーレッスン:新城ちさと エクストラシーン 歌謡ショウ編」)。かなりレパートリーが増えてきた、日本におけるキャラクターもののVRの取り組みを俯瞰して考えたとき、もしかしたらこの分野に参入してきて頂けた他社さんやインディーの方たちも「サマーレッスン」を意識して、あえて違うことをしようと思って作られていたら、すごくうれしいことだと常々思っているのですが、それは我々だって同じです。特に、他のタイトルでは続々と出てきたネタとして「アイドルが歌って踊ってくれる」という題材の多さに注目していました。そこに対するアンサーとして、逆に「サマーレッスン」でやるならこうでしょうという心意気は見せたいなと。

 我々の強みは「1cm先に来られても破綻しない顔」というのが1番にありますので、その距離感のなかでの歌と踊りの体験を作るという意味では自信がありました。ちなみに、このコンテンツは「サマーレッスン:新城ちさと デラックス版」に収録されています。

「サマーレッスン」の3人目「新城ちさと」はこうして生まれた!

――先程のお話にありましたが、髪の毛の表現がポイントなのですか?

玉置氏: そうです。アリソンの時も同じなんです。髪の毛が額のところで「×」になっているのがポイントです。最初のデザインではなかったんですが、途中から入れてもらって。そういうのがあるとイラストを描いたときでもすぐにわかりますし。特徴としてみんな覚えるので大事ですね。記号性はやっぱり大事だということはソーシャルゲームのおかげでみんなが特に意識するようになりましたが、それの恩恵がVRにも降りてきている。ただし記号性が強すぎて人間に見えないと本末転倒なので、その辺のバランスをどう取るかでした。

 ちさとの髪の毛は最初からショートです。「サマーレッスン」ぐらい実写に寄せた見た目だと、ロングは今でもまだ難しいです。髪の毛の埋もれで破綻が起きるので。トゥーンレンダリングならいいんですけど。「アイドルマスター」にはロングの子がいますよね。「アイマス」の開発史で見ても、すごく苦労してロングヘアーを再現しているらしいのですが、それでもまだトゥーンレンダリングだと許せるレベルのところが、さらに実写になるともう大変です。ほぼ「CG上のバグにしか見えない」といったこともあるので。なので、ひかりもポニーテールなんですね。

 ロングヘアーのキャラクターを作るのは将来の夢、悲願ですね。もちろん、ただ作るのは簡単ですよ。でも破綻していない、現実だと思いこんでもらえるような本物のロングヘアーを作るというのは悲願です。シミュレーションの仕組みがもっと進化しなければいけなくて、大学などで研究はしていますけど、実用レベルではまだまだですね。大学の巨大なコンピューターを使って初めて演算できているものという。「ほぼ」実現しているレベルなら今でもできるんですが、それだと「サマーレッスン」の「実在感」という魅力を殺してしまうレベルなのです。

 特に、遠心力の表現が難しいです。頭が回ったときに、頭の中心から外にかけてつられるようにキレイに広がるというのはかなり難しい。これには新しいシミュレーションモデルが必要になります。「サマーレッスン」に使っているのはボーンの揺れシミュレーションとクロスシミュレーションです。布のものというのは、いわゆるメッシュ状態のものですが、まだ布レベルですね。それに比べたらロングヘアは、すごく軽くて細長いひもが大量にぶら下がっているという、めちゃめちゃ難しい計算です。それはこの先の未来になるかなと思っています。

 ちさとの場合は、技術的というより、アイディアの苦労が多かったですね。「サマーレッスン」という型は作れたので、どういうキャラが求められているか、どういう風な新ネタのイベントができるかについて苦労しました。

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「サマーレッスン」の今後

――今後の展開はどうなりそうですか?

玉置氏: 具体的な話はできませんが、ビジョンという点で言うと、「サマーレッスン」は「東京ゲームショウ2017」で3キャラクター、3人の声優さんもそろってというので、基本的にはこの3人で「サマーレッスン」を覚えてもらえればと思います。でもここで終わりというわけではありません。私がやりたいというだけでなく、会社としても何かしらの形で「サマーレッスン」で得られたものを失くさないようにやろうと言うことになっているので、いろいろと取り組みを続けていくつもりです。

 やれるかどうかはともかく、可能性だけでは大きく3つります。1つは「サマーレッスン」を、VRとキャラクターを組み合わせるというジャンルを大きく拡大させたきっかけのゲームと考える軸です。キャラクターに新しい技術を盛り込んで、どんどんキャラクターの魅力を技術的に拡張していくという「構造」を作った、という考え方ですね。この方向性では、最新の技術を組み合わせてキャラクターをもっと魅力的に見せていくという取り組みとして今後に何ができるのか、という問いに答えていくことになります。これが1つめのビジョンですね。

 2つ目は「サマーレッスン」をIPとして考えたとき、キャラクターを好きになって頂いたお客さんに何ができるのかということ。ファンサービスや、「サマーレッスン」という存在をどういうステージでやるのかというところです。特に何かお話しできるというわけではないのですが。「PCに移植か? スマホに移植か?」というわけではありません。とにかく「サマーレッスン」のキャラクターたちとしてどういう展開ができるのか、というのが2つ目ですね。

 3つ目ですが、ほかにもいっぱいVRでキャラクターものが出てきていて、それが広がっていく中で、「サマーレッスン」で培ったVR的なノウハウをほかのものに活かせるのかどうか、ということは考えられるなと思っています。

 僕が勝手に思っていることなんですが、キャラクターVRという試みは、ロボット産業に対して人間が持っていた夢の後継者……とまで言ったらおこがましいんですが、支流の1つであるな、と思ったんですね。大昔から人間は、人間自身とまったく同じ見た目のロボット、友人になれる、隣人になれるロボットを夢見て開発してきましたけど、物理的な問題があって、人間の筋肉と同じような動きをするモーターとか、人間の肌とまったく同じ質感のプラスチックを開発するという面で、進歩はしつつも未だにかなりの難題を抱えている。

 それに対してVRはブレークスルーになりえると思っています。物理的には存在しないんですけど、「目の前に存在する」と思い込ませることができるとわかったので、実はそっちの方が近道なんじゃないかと思っているんですね。そういう考えの筋で言うと、「サマーレッスン」で気づいたキャラクターVRのノウハウはロボット産業が持っていた夢の実現手段の1つとしてあると思っているんです。今後は人間と同じ存在感と思考をもち、つねに人間と一緒にいるエージェント・アンドロイドとしての「キャラクター」というのが将来生まれるのではないかと。そこにVRとしても大きく広がる余地があるんじゃないかと思っています。そういった未来に繋がるには、VRだけに限らなくて、AIなど他の技術やノウハウにも注目すべきです。

 最近にわかにトレンドなのはリアルタイムモーションキャプチャーの技術ですね。「サマーレッスン」でも2年前の東京ゲームショウのステージでやったんですが、最近は「キズナアイ」さんなど、バーチャルYouTuber的なものが増えてきています。そういうトレンドとして注目しているところですし、そういった中で「人間と共にあるエージェントとしての自律的キャラクター」という存在が広がっていくだろうと。このうねりは「サマーレッスン」だけで実現できるものではないし、弊社1社だけでできることではない。そういった大きな流れをもった業界の中で、「サマーレッスン」としてはどういうポジショニングを作っていって、どのように貢献するのかというのが重要だと思っています。

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――医療とかにも応用できそうですね

玉置氏: そうですね。その面では、体の医療だけではなく、心の医療もあると思います。VRも将来的にはそういったものにも関係していくだろうと思っています。ナムコの創業者の中村雅哉は、自社の産業のことを「精神的産業」だと呼んでいました。サービス業だと思われがちだが、21世紀には精神的産業になっていくんだ。社員たちはそれを目指しなさいということを言っていて。キャラクターVRの世界もまさにその流れに乗っているのではないかと思います。

 いまのトレンドのお話をもう少し。「東京ゲームショウ2017」でも、絶えることなくVRのタイトルが出ましたね。ただVRに関しては「去年がピークで、今年は減るのでは?」と言われていて、事実そうなったのですが、面白いのは、「猫も杓子もVR」ではなくなったという、質的な変化を見せていることです。その変遷は、明らかに昨年のVRブームといった様相とは違いますね。去年のTGSでは話題作り、ブームとしてのVR推しだったのが、今年のVRを見ていると、質が上がっているのと、「各社どれをVRにするのかというのを、すごく選択し始めた」ということが見て取れます。「何でもかんでもVRにして東京ゲームショウに置いておけば、お客さんが来るだろう」という考え方が終わって、「自分たちの持っているものの中から、何をVRとして研究すればいいのか」を各社さんすごく考えて展示されている。

 うちも「サマーレッスン」だけではなくて、「VR ZONE SHINJUKU」の展示もHTCさんでやってますし、バンダイナムコはバンダイナムコなりの資産の最適化ができてきたと思っています。そして各社さん、インディーの皆様も含めてそういった最適化の流れができてきて、カンブリア紀の生命爆発の中から適者生存でクオリティが上がってきたということですね。これはすごくいい展開で有り難い限りです。

 また、その中でも嬉しいことがあります。TGSに展示されていたような、多種多様なVRコンテンツを評価する時に、「サマーレッスン」に比べてこうだった、と言われるのがうれしいですね。「『サマーレッスン』があらゆる面で完璧だ」などと言うつもりはないのですが、このジャンルでの不動の「ものさし」になっているということです。例えば、「『サマーレッスン』はこうだったけどこれはあれが足りていない」、逆に「『サマーレッスン』はこれが足りなかったね」と言われる。足りていない部分があるのは不徳の致す所と思いつつも、そういった比較のときの例え話に出るというのは、1番最初にスタンダード、型を作れたという意味でひとつの実績になったのではないでしょうか。そして、業界の皆様が「サマーレッスン」というメジャーになり得たキャラクターVRコンテンツを足がかりにして、会社やクリエイターによって違う得意分野を活かしながら、さまざまなキャラクターVRに取り組んでいってもらえているとすれば、それはすごく嬉しいことで、ありがたいなと思いますね。ここからがVRがさらに面白くなっていくところだと思っています。

 我々は元々「鉄拳」や「ソウルキャリバー」で、リアルな3Dの表情を作るのが得意だとわかったのでこの道を選んだわけですが。そういった思考ロジックと同じような考え方で各社さんが得意なことを考えてやられていますので、今後は切磋琢磨していきたいです。ただそういった競争の中で「サマーレッスン」が「最もメジャーなキャラクターVRコンテンツ」として無視できない存在になっているのは、成功だと考えています。もちろん「サマーレッスン」はゲーム全体の歴史的には非常に浅いコンテンツではありますが、この分野では1番最初に大々的な仕掛けをやり、そういう立ち位置を作れたということでありがたいですね。

 キャラクターもののVRが増えてきているわけですが、こんなに流行っているのは日本だけなんですよね。良いものが作れているのは。「海外メーカーに対して日本メーカーがどうあるべきか」というのが混乱している時期が2010年代からずっと長かった日本のゲーム業界で、各社それぞれに答えを見つけてはいますが、あらたな得意分野として「キャラクターVR」というのは海外のメーカーより優位な武器になりうると思いますので、このジャンルの業界全体で生き残っていくといいなと思っています。

――最後に読者の方にメッセージをお願いします。

玉置氏: 「サマーレッスン」は今回揃った3キャラクターの中で、お客さん自身が好きになったキャラクターとコミュニケーションしてもらえればと思っています。ちさとは新キャラクターでありますが、3人の中での1人と考えてもらえれば。そして、今までのひかり、アリソンを買ってくださった方には、今回の新体験をオススメしたいです。ちさとには今までとは一線を画すイベントが多く、楽しいシチュエーションが数多く入っていますので損はさせません。ぜひ体験していただければと思います。

――ありがとうございました!

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