インタビュー
「World of Tanks」ゲストコンポーザー山岡晃氏インタビュー
日本をテーマにした楽曲を日本マップに提供へ。「鳥肌を立てて泣いてほしい」
2017年8月28日 06:11
gamescom直前の8月17日、「World of Tanks」に、日本の作曲家山岡晃氏が楽曲を提供することが発表された(関連記事)。gamescomでは事前の予告通り、「World of Tanks」でコラボしているスウェーデンのウォーメタルバンドSABATONのライブコンサートにゲスト出演し、“SABATONの友人のひとり”として山岡氏がドイツのゲームファンに紹介された。
gamescomでは、そのライブの翌日に、山岡氏とのインタビューを行なうことができた。「World of Tanks」のコラボについて山岡氏に話を伺うのは、7月のミンスク取材以来2度目で、今回はコラボ楽曲の進捗に加えて、具体的にどのマップでどのように使うのかについて話を掘り下げて聞いてみた。
日本人による日本人のためのコラボということで、すべての発表は東京ゲームショウ(TGS)が予定されており、楽曲の披露もTGSとなる見込みだ。
SABATONのライブ参加は「とにかく楽しかった」
――昨夜は楽しいコンサートでした。昨日のライブの感想からお聞かせいただけますか?
山岡氏:記事凄い速かったですね(笑)。やっぱりSABATONという世界的に有名なロックバンドとセッションするような機会は、なかなかほかの業界でもできることではないので、ゲームの仕事をしてよかったなというのがホント率直な今の気持ちですね(笑)。
――SABATONとは、いつ知り合ったのですか?
山岡氏:今回が初めてです。個人的には知っているバンドでしたが、今回のWargaming.netのMusic 2.0の企画で初めてお会いしました。
――SABATONとのセッションは楽しかったですか?
山岡氏:楽しかったですよ! リハなしでしたが、楽しかったです。
――私は通しでコンサートを見ていましたが、前半あれだけ盛り上がってて、出にくくなかったですか?
山岡氏:いや、もうとにかく楽しかったですね。特に緊張もなくて、隣にいたオザンが一番緊張していたんじゃないの?
オザン氏:私が一番緊張していました。もう、絶対絶対成功させたいと思っていたから(笑)。
――演奏はしっかりできましたか?
山岡氏:出来ましたね。ライブっていうか演奏って、もうその場その場で絶対トラブルがあるというか、予定調和にはならないから、楽しむしかないって思って、楽しみました。
――事前にどのような打ち合わせがあったんですか?
山岡氏:一応、楽曲は決まっていて、この曲でやりますと昨日連絡を受けて、ギターが2人いるんでこのパートをやればいいかなって勝手に自分で解釈して、昨日結局リハができなかったんですけど、舞台裏で音は出さないですけどメンバーとパラパラってやって、こんな感じでやろうかなみたいな。
――ヘビーメタルはあまり詳しくないんですが、SABATONのミュージックはどのあたりが凄いんでしょうか?
山岡氏:今のメタルの中でも、“ウォーメタル”と自分たちで呼んでいて、その明確なコンセプトがある音楽というのはたぶん彼らだけだと思うんですけど、戦争をテーマにしているというよりは、アーミーやルックスにこだわった上での音楽はあまりないと思います。そういった所が受け入れられているんだと思いますね。
演奏も結構全員でやっているんですよ。演奏はパワフルだし、昨日は、会場の規制で、残念ながら使えなかったんですけど、いろんなスペシャルエフェクトとかも使っているんですね。ライブ中にステージから火が出たりとか戦争を演じるようなスペシャルエフェクトを使っているようです。ロックバンドなんだけど、どっちかっているとなんかミュージカルを観ているみたいな感じなのがおもしろいのかもしれないですね。
3つの要素からなる「World of Tanks」のMusic 2.0プロジェクト
――今回のライブのきっかけとなった「World of Tanks」のMusic 2.0プロジェクトについてですが、改めてその全容と、山岡さんとのコラボ内容について教えて下さい。
オザン氏:Music 2.0は簡単に説明すると、「WoT」のサウンドを次のステップへ持っていくためのプロジェクトです。
それはいくつかの大事な要素で構成されているんですけど、1つは音楽に関わるテクノロジーの改善です。ミンスクでサウンドチームにお会いしたと思うんですけど、彼らが今どんな風にゲーム内のプレイゲームに合わせていろいろ音楽を変えたり、もっとリッチな体験をするためにいろいろ必死に考えていて、新たなサウンドエンジンを開発しているんですね。それが1つ。
あとは、音楽だけではなくてサウンドエフェクトをもっともっとリッチにしたいと思っています。ご存じかも知れませんが実は戦車に関わるスペシャルエフェクトの世界最大規模のデータベースはWargamingが持っています。戦車が出すあらゆる音のデータベースをWargamingが持っているんです。これをもっともっとリッチにしてプレイ体験をもっと凄いものにしたい。
3つ目が山岡さんとのコラボの話になってきますが、「WoT」には色んなマップがあります。ヨーロッパやロシアに限らず、日本や韓国など、様々な国をモチーフにしたマップがあるのですけれども、正直に言ってマップと音楽がマッチしていないものが多いんですね。それはミンスクチームが想像で作ったりとか、その国の情報をあまり持たない人たちが作ってしまったからなんですね。
だからそれよりはローカルな人たちに、たとえば、日本のマップなら日本人のアーティストである山岡さんに関わってもらって、もうちょっとエスニックを大事にした音楽を取り入れようと思っています。これは結構長期間のプロジェクトです。HDマップの実装に合わせながら、新しい音楽もリリースしたいと思っています。
――山岡さんが日本のマップのサウンドを手がけるということは、SABATONは、スウェーデンマップのサウンドを担当するんですか?
オザン氏:その予定は今のところありません。SABATONはミュージックビデオやコラボタンクなどでコラボレーションしていて、楽曲提供は山岡さんだけです。
山岡晃コラボ楽曲の公開は東京ゲームショウに
――gamescomの直前に山岡さんのコラボが正式発表されましたが、世間の反応はいかがでしたか?
山岡氏:日本では、「World of Tanks」とWargaming.netがまだ繋がっていない人もいるんですが、記事が出てから色んな会社さんの方から「Wargamingと仕事するの?」と連絡をいただいて、「はい、gamescomにも出るんですよ」って話をしました。「WoT」って凄いゲームなんだなと実感しましたね。知名度もそうですけど、やっぱりゲーム業界における存在感が凄い。
――今回のgamescomではまだ山岡さんの曲は公開されませんでしたが、いつ公開予定ですか?
オザン氏:東京ゲームショウでの発表を目指しています。
――今回のような派手なライブイベントで発表ですか?
オザン氏:残念ながらTGSではそういうライブはできません。TGSでは生演奏は禁止ですので、やりたかったんですけど無理ですね。
ただ、もうひとつ、大事な出来事を発表します。それは実はプレーヤーさんのための特別なアクティビティですので、TGSまで楽しみに待っていてもらいたいです。いずれにしてもTGSは大きなマイルストーンになるはずですね。
――楽曲の公開はどういう形になるんですか?
オザン氏:詳しくは言えませんが、ステージイベントになります。あとはビデオで見せたりとか、みなさんにブースに来場していただいた人には強いインパクトを与えたいなと思っています。
――ミュージックビデオを作成する計画はありますか?
オザン氏:山岡さんをメインにする動画はもちろん出てきます。ただ、それは山岡さんの音楽を使って作るのではなく、この前のオーケストラの録音を行なったときに沢山の動画も撮ったし、それを編集した動画が出てきます。
――曲については今どのくらいで出来ているんですか?
山岡氏:曲はもうほぼほぼ完成はしていますね。今はミンスクのオーディオチームと何度かやりとりして、こういう風にしよう、ああいう風にしようと、どこでループさせたらいいのかとか、ゲームに実装させるための方法とかを決めている段階で、メロディーやアレンジについてはほぼほぼ終わっている感じですね。
――その山岡さんの楽曲が使われるマップはどれですか?
オザン氏:日本のマップです。1つ存在していて、今はローテーションから外されています。だからバランスを修正してから入れるか、それとも新たな日本マップを作るのか、今検討が進められています。
――今ローテから外れてる日本のマップというと「隠れ里」だと思いますが、このマップをHD化するのではなく、新しい日本のマップを作り、そのマップに山岡さんの楽曲を使うという理解でいいですか?
オザン氏:新しいマップにするかどうかはまだ決まっていません。マップのHD化によって、よりよいマップとして出せるのであればその形で可能性もありますが、HD化に合わせて改良するよりも一から新しいマップを作った方がいいという意見が多ければ、そちらが採用される可能性もあるのでまだどちらとも取れない感じです。それはなぜかといいますと今の日本のマップの大きな問題は、HD化がどうではなくてバランスなんですね。レベルデザインとかバトルバランスに問題があって、それをどう直すかです。
これはあくまで個人の意見ですが、一番いいのは日本チームとコラボした、日本を100%完璧に表現したマップを作ることです。今の日本マップは、日本人が作っていないので、マップの細かいところが色々違うじゃないですか? マップにあるお寺も中国のものだったりしますが、ミンスクだけで作っているとわからないことが多いので、日本人スタッフを集めて、日本人のプレーヤーが満足できる日本のマップを作りたいと私は今考えていて、本社に本気でプッシュしているところです。
――それは楽しみな計画ですね。ただ、そうなると時間が掛かりそうですね。
オザン氏:そうですね。だからゲーム内に出てくる山岡さんのサウンドトラックは、すぐにはゲーム内に実装されないかもしれません。でもその前に、「WoT」のOSTのページで視聴できるようになるはずです。
――なるほど、ゲームへの実装より先にオンラインのサントラのほうが先に聴けるようになっているということですか?
オザン氏:そうです。それはタイミングの問題ですね。やっぱりマップを作るのには戦車よりはとっても時間がかかるので、そこまで待てません。みなさん気になるでしょうし。それまでに一回どこかでリリースをしてどこかのマップに入れたいなと思っています。理想的には同じタイミングがよかったんですけど、なかなかそう簡単にはいかないですね。
――実際、曲が完成してみてどのような印象を持っていますか? これが公開されると「WoT」ファンはどのような感想を持つと思いますか?
オザン氏:過去の「WoT」の音楽とは若干ちょっと異なる、ディスコミュージックではない、でもちょっと今までのものとちょっと異質というか、良い意味でのエスニック感が出ています。この音楽でゲームを遊んでもらえたら、違うゲームの感覚というか、手応えを感じてもらえるんじゃないかなと思っています。
――その新曲について、山岡さんのこだわりはどのあたりに盛り込んだのですか?
山岡氏:オザンが今言ったとおりで、「WoT」の中で、日本の解釈がおかしいですよね。「これ日本じゃなくて中国」。どこが中国で、どこが日本なのか、なかなか言葉だけでは通用しない部分もあります。ですので、そこを曲としてちゃんと日本ぽい、日本だなーというものを表現できたと思っているので、そこを聞いてもらえると世界中のユーザーさんにこれが日本ということを音として伝えられればという想いがあります。
――曲の実装時期は大体いつ頃を想定しているんですか?
オザン氏:残念ながら今は正式には言えません。年末までに予定しているのは、TGSで曲の公開のほかに、もう1つトラック以外のアクティビティを発表するので、それが年末まで掛かります。
今後のコラボ計画について
――山岡さんはミンスクでお話を伺ったときに、作曲だけでなく、いろんなことをやっていきたいと言ってましたよね。実際それはどういった形になりそうなんですか?
山岡氏:個人的には今「WoT」の世界にSABATONのメンバーがゲームに出ているじゃないですか? あんなのもやりたいですし。戦車も作りたい。このゲームのこの部分をこんな風にしませんかというアイデアは一杯あります。ベラルーシに行ってことで、音以外のいろいろな部分でもっと深く関わりたいという思いはあります。
山岡さんとのコラボは、最初から長期コラボを考えているので、年内で終わりではなく、来年も続けていきたいと考えています。来年のコラボはどんな形で継続するのかは今考え始めたばっかりなので、今言えるのはミンスクチームがまた一緒に仕事しようよというメールをいただいて、あとSABATONとも凄く相性が良いということです。
ですから、SABATONと一緒に何かすることもあるかもしれませんし、せっかくなんでゲームに関わるストリーミング番組に山岡さんと一緒にできるのかなとも思っています。すべてまだアイデアベースなんですけれども、来年にもしかしたら、そういうことはできるようになるのかなとちょっと思っているところです。
――山岡さんの「WoT」に対するアイデアというものはどういうものがあるのですか?
山岡氏:「ガンダム」の大河原邦男さんとのコラボが良い例だと思うんですが、「WoT」は、アクションシューティングゲームとして、リアリティを大事にしているゲームですけど、もっとフィクションぽいところとか、もっとゲームゲームした要素があってもいいと思うんですね。ファンタジーまでは行かないですけど、「これ『WoT』なの?」みたいなことを個人的にはやってみたいですね。
――例えばレーザー砲が出る山岡コラボタンクとか?
山岡氏:そんなのやりたいですよね(笑)。
オザン氏:先にお断りしておくと、それは難しいですね(笑)。SABATONの戦車は大丈夫です。ペイントとボイスだけだから。これくらいならOKです。ただ、それ以上を目指す場合、おそらく別な製品になる可能性が高いです。規制が緩やかな「World of Tanks Console」や「World of Tanks Blitz」でやるという考え方もありますよね。
――確かに、コラボの範囲をPC版に限定する必要はないですからね。
オザン氏:そうですね。今はMusic 2.0のコラボなのでPCに限っていますが、山岡さんは結構「World of Warships」にも興味を持っていますし、「World of Tanks Console」にもいろいろな可能性があります。
――「World of Warships」のコラボもおもしろそうですね。
山岡氏:そうですね。昨日からインタビューで「『WoT』でコラボって意外ですね」ってよく言われています。自分的には異質だと思っていなかったですけど、今まで僕がやってきた作品とちょっと異質感があるみたいですね。Wargamingは、他のゲームメーカーと違うのは、いわゆる戦争とか戦いに特化したゲームばかりを開発し、そこにエネルギーを集中できる会社だと思うんですね。僕もそういうの好きなので、そのエネルギーに交じってなんかやれたらいいなと個人的には思っています。
オザン氏:ただ一番大事なのは、タイトルとのシナジーがどれだけあるかというところだと思います。山岡さんはもともと「WoT」プレーヤーで、戦車が好きだったということがコラボにおいて重要な要素でした。ただのサウンドトラックを作ってもらうだけだったらそれはどのアーティストにもお願いできますが、それ以上の広がりは出せませんから、あまりコラボする意味がありません。やっぱりコミュニティーの人とも交流ができて、「WoT」プレーヤーである山岡さんということが一番大きなことだなって思います。
――今回のgamescomで大きくアピールしていた「WoT」の新モードグランドバトルに、山岡さんの楽曲は使うことはありますか?
オザン氏:今のところそういうプランはありません。ただ、今、日本のマップ向けに作っているサウンドトラックに関して、この前のミンスクでの交流を見ると、山岡さんはそれ以上にもっと深く関わる可能性がありますね。お互いにクリエイティブな発想があって、ミンスクチームはすごくオーディオオタク、テクニカルな部分で非常に強くてそれが好きなんですけど。クリエイティブな部分ももちろんあります。山岡さんはクリエイターなので、一緒に交わって制作すればもっと面白いことができるんじゃないかなと期待しています。
山岡氏:オタクっていと言い方が悪いですが、良い意味でのオタクな感じで、ミンスクチームのゲームオーディオ開発環境は世界の中で一番じゃないかと思うんですよ。いいマシンがあってそれを使っているというわけではなくて、既存の知っているようなものを上手く組み合わせて使う考え方もそうですし、技術の扱い方も「えっ!そんな使い方あるの?」っていう発見もあり、僕も教えてもらって、ノートをとろうとしましたよ(笑)。たぶんあればゲームオーディオの中でやっている会社ないと思います。
――山岡さんはKONAMIを皮切りに、様々なゲームメーカーのサウンドチームと共に仕事をしてきましたが、それらに比べても凄いですか?
山岡氏:凄いです。ちょっとびっくりしました。私がわからないことだらけで、あれこれ質問したぐらいで、色々ビックリです。「WoT」はオンラインゲームだし、サーバーを使ったゲームなので、サーバー側でいろいろ動いているし、オフラインゲームとは違った制限の中で動かなければいけない世界なんで、凄くいろいろな工夫をして、考えている人たちなんですね。
音楽や効果音を作ってそれをゲームに実装するのは、ゲーム開発として当たり前だけど、オンラインゲームだと絶えずアップデートもしなければいけないし、常にブラッシュアップしなければいけない。スピードは重要だし、かつデータは莫大だっていう中でシンプルにシームレスに誰が何人いてもクオリティを維持できるという環境を、彼らが独自に頭を使って構築しているのが凄いなって思いました。また組んでお仕事をしてみたいですよね。
――最後に日本のゲームファンに向けて一言メッセージをお願いします。
山岡氏:僕は「WoT」の1ユーザーでもありつつ、今回ゲーム開発に参加して制作をやらさせていただいて、1ユーザーとしてこんな音楽が聴けてゲームをこんな風に遊べたらいいなと思う自分なりの提案ができたと思っているので共感して聞いてもらえればと思っています
オザン氏:私はみなさんのためにお仕事をやっていますし、サウンドトラックを聞いて喜んでいただきたい。もっとハッキリ言うと「鳥肌を立てて泣いてほしい」。社内で聞かせたときみんな凄い感動していました。これから我々は日本やアメリカのゲーム会社でもいままでやったことがないような大きなことをやっていきたいので、ぜひ応援して、参加してほしいです。まだ謎が残っていますが、TGSで全部明らかになりますので応援ください。
――期待しています。ありがとうございました。