インタビュー
中国展開2年目に突入! SIESHプレジデント添田武人氏インタビュー
「CHINA HERO PROJECT」の全容、PS VR中国展開の抱負について聞く
2016年8月8日 00:00
ChinaJoyへ3年連続の出展を果たしたSIESH(ソニー・インタラクティブエンタテインメント上海)。ChinaJoy前日に実施された発表会では、「ファイナルファンタジーXV」をはじめとした新規ラインナップの発表をはじめ、中国デベロッパー向けの支援プログラム「CHINA HERO PROJECT」、そしてついに中国においてもPlayStation VR(PS VR)の展開が正式発表されるなど、充実した内容だった。本稿ではChinaJoyレポートの締めくくりとして、SIESHプレジデントの添田武人氏に話を伺った。
従来のデベロッパー支援プログラムと「CHINA HERO PROJECT」の違いについて
――今年のChinaJoyのテーマは?
添田氏: 今回は3つポイントがあって、1つは「ファイナルファンタジーXV」の中国展開。2番目がPlayStation VR(以下、PS VR)。3番目はいわゆる「CHINA HERO PROJECT」。この3つとも、現地側の報道と、中国のソーシャルメディアのユーザーのコメントを見ていると、この3つのメッセージをうまく受け止めていただいています。
その中でユーザーからの反応が大きかったのは「『FFXV』を中国語でやるのか!」ということと、「中国で出してくれるのか!」ということ。そのあとはPS VRですね。発表の翌日から予約が始まったんですが、リアクションが凄く、用意していた分はすべて完売になりました。
「CHINA HERO PROJECT」どちらかというと業界向けの話ですので、ユーザーはそんなにピンときてないようですが、昨日もあるパネルディスカッションに参加したんですが、パブリッシャー様から名刺をたくさんもらいまして、ぜひコンタクトしたいですと仰っていただきました。
――中国向けのデベロッパー支援プログラムは今までもありましたよね。それと「CHINA HERO PROJECT」は何が違うんですか?
添田氏: 今までは、「作ったゲームの技術的なサポートをやりますよ」という話だったんですね。ただ、ゲームを作るにあたって、Unrealのゲームエンジンを使ったりですとか、ポストプロダクションのところで音声とか画像を合成するようなソフトやミドルウェアが必要じゃないですか。その周辺はメーカーによって大きな格差があるんですね。あとはQA(Quality Assurance、品質保証)です。ゲームを作った最後にQAというのがあって、いろんなバグ出しをするんです。
そういうものは今まで私たちの技術サポートの対象外で、それぞれ自分の好きなエンジンを見つけてきて、あるいはミドルウェアにしても探してやってくださいと。PS4での開発のサポートは私たちがやるけれど、それ以外のところはそれぞれでやってくださいと。でもそれをやっていると、わかってきたことなんですが、例えばQAひとつにしても、チャイナクオリティと私たちのPS4のプラットフォームのクオリティが違うんです。それで結構「こことここを修正して下さい」とお願いする形になってしまったんですね。
――中国のメーカーからすると、QAの基準点が異なるから「これぐらいいいじゃないか」という話になってしまいがちですよね。
添田氏: そうですね。Unrealなどのゲームエンジンにしてもそうなんです。大手メーカー様はできるんだけど、中小の開発チームではなかなか用意できません。
――ゲームエンジンについてはUnrealにしてもUnityにしても今は無料で使いはじめられるようになっていますよね?
添田氏: はい、しかし実際に使い始めて、いざサポートを受けようとなると、だいぶお金がかかってしまいます。したがって今回は、SIEが真ん中に立って、一括でライセンスを購入し、ものすごく安い金額で中国のCP(コンテンツプロバイダー)さんに提供します。
――すべて自前で用意するのと、「CHINA HERO PROJECT」を利用するのとでは、コストはどれぐらい変わりますか?
添田氏: いくらかは言えませんが、非常に特別名パッケージを提供しますので、コストは大幅ダウンするものと思われます。
――QAは、SIEさんがやるんですか、それとも外部のQA専業のメーカーに委託するのですか?
添田氏: 今回はHUGさんにお願いしました。これはもう日本のプロ中のプロでQAを専門にやる会社さんです。
――そこまで聞くと「CHINA HERO PROJECT」はすごく魅力的ですよね。
添田氏: あとはお金の面も、WHIZ PARTNERS様という、これはファンド系の企業が、資金をプールしてその中で1つ1つ良いプロジェクトを探していきます。探したプロジェクトに対して支援をしていき、最終的に私たちのプラットフォームでそれを出していきます。やっぱり量よりも、クオリティが高いもの、プレイステーションのプラットフォームのクオリティは十分に担保したうえで、中国を代表するような作品をその中から選び出したい。中国向けだけではなくて、全世界向けにそれを作っていきたいという考えです。
――素晴らしいですね。
添田氏: 「CHINA HERO PROJECT」に選出したタイトルは、技術面、経営面ともに必要なサポートを提供し、できるだけゲーム開発に専念してもらえる環境を提供していきたいと思っています。その代わり、すべてのプロジェクトを採用はできませんので、事前の選択のところで私たちのほうで選ばせていただいて、いまは大切に支援しているというところです。実は結構、海外でコンソールゲームを作っていた中国のクリエイターの方々が中国に戻ってきたりとかしています。
――へー、それはどこからですか?
添田氏: アメリカ、欧州、日本でもありますし。そういう人たちは本当に良いものを海外で当たり前に作っていたんです。ところが、中国に来ると本来受けられるサービスがいろんなところに散らばっていて力を出せないわけですね。私たちはそういう人達、あるいはローカルのノウハウを持っている人たちを支援したい。
大手のソフトウェアメーカー様はあんまり必要としていないんです。でもやはり、普通の中小企業の中ではタレントがあっても、資金的な問題でそこまでできないですので、そういうところをもっと支援していきたいです。全体の底上げができれば、私たちが2014年の中国進出の発表会の時にコミットした通り、PSが中国に普及するだけではなく、中国のコンソールマーケット全体にも私たちも微力ながら貢献できる。何かできることがあれば、いろんなことをやってみたい。「CHINA HERO PROJECT」は昨年からもう一歩踏み込んだ私たちとしてのコミットメントということですね。
――中国には大手メーカーの開発子会社が数多くありますが、中には業績不振で上海スタジオが閉鎖しているような状況も見受けられます。彼らが中国のインディーデベロッパーとして「CHINA HERO PROJECT」に手を挙げたら本当に即戦力になりますね。今回の8月から9月の募集では何社ぐらい選ぶつもりなのですか?
添田氏: 何社というより、プロジェクト、クオリティ次第ですね。
――クオリティの高いものは全部?
添田氏: そうですね。といってもそんなにはクオリティの高いものはなかなか出てきません。1年くらいビジネスをしてみて見えてきたのは、数を追えばそれなりのものは出てきます。でも本当にみんなをあっと言わせるようなものは、そうそう多くないです。私たちもきめ細やかにサポートができるリソースの限界もありますので、数は慎重に決めていきたいと思っています。
――発表会ではその第1号として「PROJECT BOUNDARY」を正式発表しましたが、ビジュアルクオリティは非常に高くて驚きましたね。
添田氏: あれはもう本当にもう私たちがこのプロジェクトを始めようと考えたきっかけにもなったくらいのプロジェクトなんです。あの会社はいま4人しかいないんですよ。
――信じられない。
添田氏: あれだけのクオリティのものを作っちゃうんです。
――北京ですか?
添田氏: 深センです。
――本当に4人ですか?(笑)。ほかに何十人という下請けのスタジオを使っているんじゃないんですか?
添田氏: 昨日も同じパネルディスカッションにその人が登壇して、最後に募集のスライドがありましたよ。人がいないので、ぜひ来てくださいって書いてありました(笑)。その人はずっとイギリスでゲーム作りをやっていた人なんです。すごいノウハウを持っていて、4人というのはそれぞれすごいエキスパート。絵を描く人、プログラムを作る人、あとプロデューサー的な少数精鋭で。若干のサポーティングスタッフはいると思いますが、コアの4人でほとんどのことをやっています。
――もともと作っているスタッフは、ほかでいろいろな経験があるんですか?
添田氏: 私たちが今コンタクトをとっている人たちというのは、どちらかというと、コンソールとちょっと縁があった人たち。そういう人たちはやっぱり早いですね。
――最初のトレーラーを見た感じだと、「コール オブ デューティ」の新作か何かに似てましたよね。
添田氏: しかも宇宙の、何も音のない中でガンをシューティングするときって地上にいるような爆発的な音ではないんですよね。もっとカラカラした音なんです。あのあたりの音までこだわって。あそこまで丁寧に作るってすごくいいですよね。
――このタイトルはPS4独占タイトルですか?
添田氏: はい。もちろん、サポートする以上、一定の独占期間はあります。
――その代わり、その第1号としてある程度のお金を入れているわけですか?
添田氏: SIEとしては、あくまでも各種エンジンのライセンスとデバッグリソースの提供に加えて、技術やオペレーションのサポートを提供します。資金については、WHIZ Partners様の「CHINA HERO PROJECT FUND」から支援する形になりますね。
――リリーススケジュールは?
添田氏: まだ、始まったばかりのプロジェクトで、まさに双方でマイルストーンについて、議論しているところです。ただし、数年は開発期間を要すると思います。続報をお待ち下さい。
――韓国でもPS4版「キングダムアンダーファイア 2」をかなり時間をかけて作っていますね。
添田氏: 新たなこだわりが出てきて、さらに作り込んでいるみたいですね。
――逆にああなってしまうと、ユーザーさんの期待を裏切り続ける形になってしまって逆効果ですよね。
添田氏: そういった事態にならないようにすることも私たちの役割のひとつであると認識しています。
――「PROJECT BOUNDARY」は、マルチプレイができるとか、どういう対戦モードがあるとか、そのあたりのゲームの仕様についてはいかがですか?
添田氏: 今作っているのは今回お見せしたトレーラーだけなので、彼らはまだストーリーそのものも開示していないですね。
――ゲームジャンルとしてはスペースシューターですか?
添田氏: そう謳ってはいます。でもあれって、いろんなストーリーの中の、シーンの1つなんです。よくE3でもトレーラーが出るじゃないですか。すごくインプレッシブな1シーン。でもやっぱり嬉しいところは、中国でPS事業を始めて2年目で、あのようなクオリティの高いトレーラーが、中国初のチームから出てこれるようになったことです。しかも十数年間の断層がある中で、そこまでできるというのは、それだけやっぱりコンソール市場そのものが、爆発的に成長してはないけれど、着実に伸びていっている証拠ですよね。