「電遊道」~Way of the Gamer~ ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ
ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ【第35幕】
イタヲタのレトロなゲームライフ~ジョン・カミナリのハプニング満載オタク人生~
僕のゲーマーとしての人生を懐かしさたっぷりで語っていきたい。毎回、特定の時代をセレクトして、自分の記憶への冒険をしたいと思う。最終的には1つのストーリーになる。僕というオタクのストーリー。僕という和ゲー好きゲーマーのストーリー。とにかく、日本ではありえないシチュエーションについてたっぷり語っていくぞ!
- 今回の時代設定:
- 1995年
- イベント:
- セガサターン用の念願の2Dアクションゲームが登場!
- ハプニング:
- ゲームショップに行ってみるとありえない展開に!?
1995年。ゲーム機はドットグラフィックスのスーパーファミコンやメガドライブから、ポリゴングラフィックスを実現させたプレイステーションやセガサターンへと進化していた。ゲームショップで初めて「リッジレーサー」を目にした瞬間の気持ちは未だに忘れられない。
「これはゲームセンターと全く同じだ!」、「もうドットなんて必要ない!!」と最初は思ったが、月日が流れるにつれドットが恋しくなり、プレイステーションやセガサターン用の2Dアクションゲームが欲しくなった。
白黒の映画と同じく、ドットは普遍的な魅力を持つ。時代が進んでも、ドットグラフィックスは色あせない美しさを持っていると思う。だから、「リッジレーサー」や「バーチャファイター」を遊んだ後は、必ずと言っていいほど、ドット画で描写されたゲームが遊びたくなっていた。
スーパーファミコンやメガドライブの名作でもう1度最初から遊ぶ時もあったが、ゲーマーはいつも感動させてくれる新作を求める生き物なのだ。エマちゃんも僕も、ゲーム雑誌を購入し、セガサターンで2Dのゲームが発売されていないかといつも一緒に確認していた。
「ほら、エマちゃん!セガサターン用の新作2Dアクションゲームが発売されたんだって!」
「なになに?」
エマちゃんは雑誌のページに掲載されていた記事を凝視した。
「『輝水晶伝説アスタル』……2Dグラフィックスが美麗そうだし、僕達が探していたゲームはまさにこれ! 早速、ローマのあの店に電話しよう!」
メガドライブの時代、ローマには日本版のゲーム専門店がローマにはほとんどなかったが、32ビットの時代になると、ローマでも日本版のゲーム機やゲームソフトも扱うゲームショップが増えていった。そのおかげで競争が始まり、日本版の新作を比較的安く購入できる機会に恵まれた。
その時の僕達のお気に入りの店は「アストロゲームズ」だった。僕達の住んでいた地区から遠くて、1時間以上かかっていたが、品揃えも豊富だったしゲーム機の体験コーナーも設けられていたので、購入前に新作を試すこともできた。
「もしもし?」
「リノさんですか?」
リノさんは「アストロゲームズ」の店長だった。40歳前後のとても温厚なおじさんだった。ただ1つだけ、気になるところがあった。電話をかけた時に「はい、そのゲームなら、沢山ありますよ!」と言われたものの、その1時間後に店に行ったら「すみません、もう完売です」と言われた。あれ?! 電話で「今から出かけて買いに行くから」と言ったのに、何故もうないの? その嫌な体験があったから、いつも心のどこかで、ゲームが無くなることを心配していた。
「リノさん、セガサターン用の『輝水晶伝説アスタル』は届いていますか?」
「今朝、『輝水晶伝説アスタル』がいっぱいの荷物が届いたばかりです。山のようにありますよ!」
「リノさん、これから出かけるから、僕とエマちゃんの分、売らないでね」
「了解です。待ってます!」
威勢のいい声は好きだったが、本当に理解したのかなと思わせるような部分もあった。僕とエマちゃんはいつものバスに乗ったが、道路がすごく渋滞してゲームショップに辿り着くのに2時間近くかかってしまった。店の入り口に到着した時、時計は午後の5時を指していた。
「リノさん、こんにちは!」
「おいジョンちゃん、エマちゃん、元気?」
「元気ですよ。でもこれから、もっと元気になりますからね」
と言って、隣にいたエマちゃんにウインクを送った。「輝水晶伝説アスタル」から、いっぱい元気を貰うのだ!
「あれ? 今日何か新作を買いに来たの?」
「あの、リノさん、2時間前に電話で『輝水晶伝説アスタル』を2本頼んだでしょう」
頭を掻きつつ、リノは困った表情を見せた。
「そうだったっけ?」
「そうだったよ、リノ!」
無意識に呼び捨てしてしまった。あの嫌な出来事が再び起ころうとしていた。その思いが頭をよぎり、冷静さを失い始めた。そして次の瞬間、恐れていた最悪のセリフがリノの口から発せられた。
「『輝水晶伝説アスタル』はもう完売ですよ」
ガーーーーーーーン! ちょっと待って、どういうこと?! 僕達は2時間もかけてここまで来たのに、電話で頼んでいたゲームが完売しただと?! しかもこれで2回目の体験だ。リノの記憶力はゼロ?!
「でもリノさん、僕達は電話で頼んでいたんですよ。何で忘れたんですか?」
「忘れた? この僕が? いやジョンちゃん、それはありえませんよ!」
「なにこの自信満々な態度! 責任を取れリノ! 今から日本に飛んで僕達の『輝水晶伝説アスタル』を取って来い!!」と言いたかったが、そのセリフは僕の口から出なかった。
「じゃあリノさん、どうするつもりですか?」
「来週まで待ってもらうしかいないだろう。来週の金曜日にまた届くから」
何だと? 1週間も待てということか? 今、全国のセガサターンオーナーが「輝水晶伝説アスタル」で遊んでいるのに、僕達だけは待てということ? いやそれは無理だ。何としてでも、「輝水晶伝説アスタル」を今日持ち帰るのだ。
その時、リノの表情が一変した。ホラー映画の怖いシーンを観た時の表情にも見えたし、驚きのような面も持っていた。一体この反応、どういうことだ?!
「ジョンちゃん、エマちゃん、実は……」
「実は何?」
「実は……ジョンちゃんとエマちゃんの分はレジの下の棚に置いていたの。ちょっと忘れていたみたい……」
アニメのように口の前に手を当てながら、リノは笑った。
この人、わざとやっているのか、天然ボケなのか、それはずっと謎に包まれたまま……。まあ、今回もドキドキしたが、最後はグッドエンディングだったから、これでいいか。緊張感というか、スリル感を味わわせてくれるのは「アストロゲームズ」のリノだけだった。
物事がスムーズに行きすぎるのもつまらない。ある程度、ハプニングがあったほうが楽しいじゃないか! だから、それからも「アストロゲームズ」に通い続け、リノのありえない反応を見るのが楽しみの1つになった……。
輝水晶伝説アスタル
- プラットフォーム:
- セガサターン
- 発売元:
- セガ
- 発売時期:
- 1995年
- ジャンル:
- アクションゲーム
プレイステーションはポリゴングラフィックスの描写力に優れていたが、それに対しセガサターンは2Dのアクションゲームに最適だった。3Dグラフィックス&2Dのゲーム性を持っていた「クロックワークナイト」も話題を呼んだが、ユーザーが求めていたのは、セガサターンの処理の速さを活用した正真正銘の2Dアクションゲームだった。そこに、完全新作「輝水晶伝説アスタル」が現われた。
久しぶりに遊んでみると、確かにアクションは単調すぎる場面もある。だが全体的には、本当によくできたアクションゲームだと思う。当時、僕達の心を奪ったのは、まず、イントロ動画のアニメ的な演出だった。それまで、PCエンジンでしか観ることのできなかったアニメ動画が流れるなんて、友達に誇れるようなすごい演出だった。
2Dグラフィックスは、スーパーファミコンやメガドライブよりもずっと解像度が上がっており、画面に映し出された映像はとても美麗だった。各ステージは、まるで絵本から出てきたかのようなファンタスティックな雰囲気を醸し出していた。そして、たくさんの敵が画面に入ってきても、処理落ちが一切なかったことも当時の僕達を感動させた。
本作の主人公・アスタルは、とても愛くるしいルックスを持っていた。これこそが、日本人しか描けないアニメ的なキャラクター。そういうキャラクターを操作できること自体、僕にとって楽しみだったのだ。ステージをクリアした時の、アスタルの両手を上げるポーズと、「やった!」というセリフがとても印象的だった。
ゲーム性に関しても、他のアクションゲームではあまり見たことがないアクションばかりだった。例えば、アスタルは大木を持ち上げて敵に投げつけたり、息を吹きかけたり、または敵に近づいて掴み投げることができた。最初は「武器が無いの?」と疑問に思ったことを覚えているが、遊び続けていると逆にその攻撃方法をとても魅力的に感じ始めた。
音楽もとても素敵だった。操作や敵の攻撃パターンに慣れてきたら、1時間前後でクリアできたが、ハイクオリティの音楽を楽しむために、何回も最初から遊びたくなるようなゲームだった。
「輝水晶伝説アスタル」は、セガサターンのマイナーなゲームかもしれないが、僕はアスタルというキャラクターがとても好きなので、どこかのデジタルストアで、低価格の面白い2Dアクションゲームとして再び顔を出すことを望んでいる。