佐藤カフジのVR GAMING TODAY!
VRゲームの技術が3Dコンテンツ制作を“民主化”する!?
3D空間を自在に操作、自分用のVR体験を自分で作れる時代が見えてきた
(2015/10/16 00:00)
2016年春に各種製品がローンチ予定のVRゲーミングの世界。それがもたらす革命は、多くのゲームユーザーが思うよりもずっと大きなものになりそうだ。VRがゲームの遊び方だけでなく、ユーザーとゲームとの関わり方そのものを変える可能性を秘めているからだ。
その可能性を端的に表してくれているのは、「Oculus Connect 2」で披露されたVRスカルプトアプリ「Medium」(関連記事)や、他機種展開を前提に開発が進められている空間ドローイングアプリ「Tilt Brush」など、“VR内で両手を自在に使って何かを作るアプリ”の数々だ。
これらのVRアプリの凄いところは、Oculus TouchやSteamVR Controller、PlayStation Moveといったリアルスケールのハンドプレゼンスデバイスで、誰でも、直感的にデジタルの3D空間を操作できる、という1点に尽きる。この特性こそが、ユーザー制作コンテンツ(UGC)の革命を引き起こす。ゲームを作ることと、ゲームを遊ぶことの垣根が、ほとんどなくなるような世界すら見えてきた。
VRでは「Minecraft」ですらもっともっと簡単になる
従来の3Dコンテンツの制作ツールは、とても万人が扱えるとはいえないものが多かった。理由は簡単で、立体の形状を把握し操作するというのが、平面上のスクリーンで行なう以上、非直感的で、間接的にならざるを得なかったためだ。プロ向けのCGツールなど、視点を自由に動かすだけでも10個近いボタンやマウス操作の組み合わせが必要になったりする。様々な操作をしようとすれば、もっともっと大変だ。
3Dクリエイションの世界にゲームの形で革命を起こした「Minecraft」も、やはり平面のスクリーンでプレイするがゆえの、様々な制約があった。たとえば、立体的な移動からツールの選択まで基本操作をマスターするまではけっこう大変だし、ちょっと込み入った物を作ろうとすると、狙った場所にブロックを1個置くだけでもカメラの移動、視線の調整、パーツの選択、設置と、たくさんの操作ステップが必要だ。
そこに、これまでに出揃ってきたVRの技術を活用すれば、何かとてつもないことが起こるのは間違いない。リアルスケールのヘッドトラッキングを提供してくれるVR-HMDが“3D空間内の視点移動”を現実同様の直感的なものにし、両手のハンドプレゼンスを与えてくれる各種VRコントローラーが、“3D空間の操作”を劇的に簡単なものにしてくれるからだ。
つまりVRでは、ユーザー自身が空間の中で自由に動いて、現実と同じように手を動かし、オブジェクトを動かしたり設置することができるようになる。デジタルの世界が、限りなくアナログな方法で扱えるようになる。実際に、上記で紹介した「Medium」や「Tiltbrush」では、1度もゲームや3Dツールに触れたことのない人でも、何らの操作説明がなくても直感的に手を動かし、現実のスキルを活かして、3D空間に何らかのものを創造できることが最大のウリだ。
Oculus Connect 2では「Minecraft」のWindows 10版が来春にもOculus Riftに対応することが明らかにされたが、当然ながらそれもOculus Touchのハンドプレゼンスを用いたゲームデザインを採用することになるはずだ。そうなれば、ブロックを選んで設置して好きな形をつくるという操作が、いまよりもはるかに簡単になる。これが意味するところは非常に大きい。
自分好みのVR体験を、自分で作るのが当たり前な時代へ
現在既に、VRがUGCを含む3Dコンテンツ制作を簡単なものにしてくれるという傾向を、よりはっきりと見せてくれる実例がいくつも出てきている。
今現在、その筆頭に挙げたいのは、米ベンチャーがVR向けを目指して開発中の3Dクリエイションプラットフォーム「Voxelus」だ。ITニュースサイト大手CNetの創設者であるHalsey Minor氏が率いるチームによって開発されているこのアプリは、いわば「VR体験ツクール」である。「Minecraft」のように、その空間に居ながらにして、いろいろな地形やキャラクター等のパーツを配置して、新しい体験や遊びを作れるというものだ。
例えに「Minecraft」を出したが、Voxuelsはもっと汎用性の高いツールだ。地形の制作には単純な形状のブロックを使ってもいいし、他の3Dツールで作った任意の3Dモデルをインポートすることもできる。そこに配置される各種ガジェットやキャラクターには各種フラグやトリガー、出来合いのAI等も付与することができ、ちょっとしたゲームくらいなら全くコーディングなしに、オブジェクトを配置するだけでできてしまうようだ。
この考え方は非常に強力だ。より本格的なものや、各人のニーズに合わせたVR体験を作るには、手の込んだ3Dモデルやアニメーション、プレーヤーとインタラクションできる高度なAIといったパーツのほうを、その道のプロが作ればいい。いわばUnityのアセットストアや、Unreal Engineのマーケットプレイスのようなマーケットが成立できる。ユーザーは有料無料の各パーツを入手し、好きにそれらを組み合わせることで、自分ごのみのVR体験を構築することが可能になる。
このような方向でさらにVoxelsが進化していけば、同システム上で「サマーレッスン」ライクなVRキャラクターとのコミュニケーション体験や、「EVE Valkyrie」のようなスペースコンバットゲームを同時に実現することすら可能になるだろう。しかも、仕上げはユーザー自身の手で、VR-HMDとハンドプレゼンスデバイスを用いて直感的にできるというわけだ。
ちなみにOculus Connect 2におけるJohn Carmack氏による講演では、GearVR向けのVRアプリを非常に簡単なコーディングで直接作り込めるという、新しいスクリプト言語が紹介されていた。また、日本では、WebGLを活用してわずか数行のスクリプトでMMD(Miku Miku Dance)と同様のことができるウェブサイト「jThird」(http://jthird.net/)のような取り組みも存在している。
これらの取り組みに共通しているのは、“出来合いのアセットを空間に配置して、わずかなアクションを定義すれば、ひととおりの体験が構築できる”という方向性だ。いまはスクリプト言語という形をとっているが、これらは容易にVoxelusのような形に発展させることができるはずだ。
このようにOculus Touch、Steam VR Controller、Playstation Moveが実現する“VR空間に自分自身の手が持ち込める”という技術は、3Dコンテンツ制作を圧倒的に幅広い人の元へ届けるためのカギとなるはずだ。