佐藤カフジのVR GAMING TODAY!
PlayStation VRをPCで使える非公式ドライバを試してみる
実はPS VRはPCで使うのが最強!? 導入メリット/デメリット、設定方法を解説する
2016年12月22日 14:52
コンシューマーVRの筆頭格として、安価な価格ながら優れた表示性能を備えるPlayStation VR。これを高性能なPCで使えたらどんなにいいかと考えるVRファンの皆様も多かろうと思うが、それを実現する非公式ドライバがリリースされたという知らせを聞き、遅れ馳せながら試してみたのでその使い心地をご報告しよう。
それは「Trinus PSVR」という非公式のソフトウェアで、開発したのはSteamVR(HTC Vive)等のPC用VRコンテンツをスマホVR等の環境でも無理やり視聴できるようにするというソリューションを提供しているTrinusという会社だ。わりと得体が知れないのでソフトウェアのインストールに躊躇してしまったが、各種セキュリティチェックには引っかかることなく安全に使用することができた(執筆時点の最新バージョンは0.4)。とはいえ、非公式のものゆえ導入は自己責任になることをご了解いただきたい。
現時点でのTrinus VRの特徴をざっくりとまとめると以下のようになる。
・PC(SteamVR)のVR映像をPS VRで見ることができる
・コンテンツによってはHTC Viveで見るよりも綺麗
・ヘッドトラッキングはローテーション(方向)のみ対応
・ポジショナルトラッキングには未対応
・映像が映らない、トラッキングがズレるなど不具合あり
このほか追加のアプリを導入することでPlayStation Moveを使ってViveコントローラーをエミュレーションする機能もあるが、PlayStation Eyeが2つにBluetoothアダプターも必要などなど、敷居が高すぎるものになっているため今回は割愛する。PC用HMDとしてPS VRを使う部分についてご紹介していこう。
必要環境とインストールとセットアップ
Trinus PSVRは、HTC Viveを動作させるために設計されているSteamVRの拡張モードを使って、わりと強引にPS VR側にVR映像を表示するドライバアプリケーションだ。このためPCのスペックは基本的にHTC Viveにおける推奨環境(Windows 7 SP1以降、対応するグラフィックスカード)が必要だ。
まずはSteamでSteamVRをインストールする。HTC ViveがなくてもSteamの「ライブラリ」→「ツール」から、独立してインストールすることができる。これでSteamVR側の準備はOK。
つぎに、Trinus PSVRの公式サイトから“TrinusPSVRSetup.exe”をダウンロードし、インストール。インストール後、PS VRをPCに接続すると自動的にデバイスドライバがインストールされる。
PS VRからPCへの接続は、PS VRからPS4の接続と同じ形だ。プロセッサユニットからPS4に伸びているHDMIケーブルをPCのHDMIケーブルに挿し、同様に通常はプロセッサーユニットからPS4に繋ぐUSBケーブルをPCのUSB端子に繋ぐ。PS4がPCになっただけなので、日頃PS4で使っている人は簡単に接続できるだろう。
このとき、PS VRはフルHD解像度のセカンドディスプレイとしてOSから検出される(通常使っているディスプレイが1台の場合)。Trinus PSVRでは、このセカンドディスプレイにSteamVRの映像をミラー出力することで、基本的にはすべてのSteamVR対応アプリの表示を可能にするという方式だ。
ここまでの準備ができたらTrinus PSVRを起動し、「How To」タブにあるインストールボタンを押して、SteamVRのカスタムドライバをインストールしよう。最後に「Main」タブにて、ModeをSteamVRとし、PSVR Displayの項目にはPS VRが割り当てられたディスプレイの名称(普通は\.DISPLAY1となるようだ)を選ぶ。
これでTrinus PSVRの使用準備が完了。「Main」タブの下部にあるStartボタンを押すとドライバの駆動がスタートし、SteamVRのアプリ起動してPS VR側に映像を出力することができるようになる。このときよくPS VR側に「HDMIを接続してください」的なアイコンが出る場合があるが、そのときはHDMIを抜き差ししてもう一度Startしてみよう。
SteamVRが起動したら、次にSteamVRウィンドウから「ルームセットアップの実行」を選び、「立位のみ」にて設定。このとき、「床の位置を定める」部分では、Trinus PSVRがポジショナルトラッキングをサポートしていないため、正確なキャリブレーションはできない。そのかわり、だいたいの机の高さとして100cm程度の数字を入力すると、大半のSteamVRアプリできちんとしたセンター位置が取れるようになる。
以上でSteamVRアプリの起動準備は完了だ。
IPDの設定、リフレッシュレートの最適化
以上の準備だけでSteamVRの映像をPS VRで見られるようになるが、なにかいろいろとおかしい。VR映像が立体的に見えないし、トラッキングの反応も緩慢だ。
立体的に見えない理由は、視差が適切に設定されていないこと。Trinus VRの現在のバージョンではデフォルトで視差ゼロとなる設定になっているので、「Main」タブにあるIPDスライダーで適切に調整する必要がある。
これがちょっと不便で、ウィンドウ側には設定値が表示されず、確認するにはSteamVR側の画面を見なければならない。しかも設定可能な値がマイナスからプラスまでやけに大きな範囲になっていて、実用範囲では60mmか70mmにしか設定できない。ともかくスライダーを微調整してこの範囲内に設定すると、きちんと映像が立体的に見えるようになる。
トラッキングの反応が緩慢な問題は、PS VR側のリフレッシュレートを適切に設定することである程度解決できる。しかし通常は60Hzでしか出力できないので、GPU付属の設定パネル(NVIDIAやAMDそれぞれの詳細設定)にて、カスタム解像度を設定することが必要だ。PS VRは60Hz、90Hz、120Hzの出力に対応しているので、この範囲内であれば正しく設定することができる。
ただし、SteamVRのアプリケーションは90Hz動作を前提としているため、PSVR側を120Hzに設定するとわりと重度のティアリングが発生する。このためPSVR側の設定は、SteamVRの前提と同じく90Hzにするのがおすすめだ。
この設定を行なうと頭を動かした際の反応がかなり良くなり、映像のブレもなくなる。ただし、遅延についてはPS4で使う場合に比べると体感可能なレベルで遅くなっている感触がある。これはVR映像の出力がネイティブで行なわれておらず、ミラーウィンドウを経由して行なわれているためだろう。
さらに高画質化設定でミラー出力の問題点を解決
Trinus VRではミラーウィンドウを経由してHMDに映像を出力するため、レンダリング解像度がPSVRのパネル解像度と同じ1,920×1,080に限定される。SteamVRは本来、より高い内部解像度でレンダリングを行なって本来の映像品質を達成するようにできているため、このままでは映像のジャギー感がひどく、とくに文字などが非常に読みにくい。
これには解決策がある。SteamVRの内部設定で、レンダリング解像度を上げることが可能なのだ。
普通の環境であれば、“C:Program Files (x86)Steam”steamappscommonSteamVRresourcessettings”の下に“default.vrsettings”というファイルがある。これがSteamVRの内部設定ファイルだ。これをメモ帳などのテキストエディタで開き、“renderTargetMultiplier” : 1.0, となっている行を探す。この値を1.0から1.5、あるいは2.0といった大きな値にすることで、レンダリング解像度を向上させることが可能だ。
これを2.0にすると、PS VRで見られる映像の品質が目に見えて向上する。特にテキストの読みやすさは比較にならないほどだ。レンダリング解像度を上げる設定なので当然ながら追加のマシンパワーが必要になってしまうが、試してみる価値はおおいにある。
すばらしい画質!Viveとの比較と現状の問題点
というわけでTrinus PSVR+PS VRのヘッドセットで理想的な画質を出力できる設定が完成した。あとはSteamVRアプリを起動して確かめるだけだ。
画質は、正直なところ衝撃的なほど素晴らしい。HTC Viveと直接比べてみるとその差は一目瞭然だ。PS VRのほうが画素密度が高く、網目感のないクリアな映像を見ることができる。確かに解像感は少し下がる感じがあってドットの存在を意識せずにはいられないこともあるし、視野角もViveのほうがやや広いのだが、トータルでいうとPS VRのほうがクリアかつソリッドであり、優れた画質だ。これがHTC VIVEの半額の値段で実現できていることに驚きを禁じ得ない!
次にPS4+PSVRとも比較してみよう。PS4とPCで全く同じコンテンツが存在する「Eagle Flight」で確認してみたところ、明らかにPC+PSVRで見る映像のほうがクッキリハッキリとしていた。上述の設定でレンダリング解像度を倍増させた効果もあると思うが、よりマシンパワーを食いまくるぶん、同じパネルでもPS4/Proよりも綺麗になるものだなと感心しきりである。
ただし少々気になる点もある。画面のレンダリングがあくまでもHTC Viveを前提としているせいだと思うが、レンズによる色収差の補正が微妙にずれていて、視野の端のほうで色の分離感があるのが少し気になる。また、HTC ViveとPS VRのアスペクト比の違いによるものと思われるが、PS VRを通してみるSteamVRコンテンツの映像は若干ながら縦長になって見える。
画質面では満足できる水準のTrinus PSVRによるPS VR利用だが、まだ「PC&PS VRでバラ色のVRライフ!」と言い切れるレベルではなく、実は問題点も多い。
Trinus PSVRでは上述の「Eagle Flight」のように、方向トラッキングとゲームパッド/キーボードで操作できるコンテンツであれば普通にプレイ可能だ。しかし入力系は頭部の方向トラッキングにしか対応していないため、ルームスケールのポジショナルトラッキングや、両手のVIVEコントローラーを必須とするコンテンツは、現時点では表示はできてもプレイはできない。
その方向トラッキングにも現状ではバグがあるようで、使用中常に、左右どちらかにジワジワと中心点がずれていく現象がある。「Eagle Flight」も数十秒は普通にプレイできるのだが、時間が立つとだんだんズレが大きくなってきて首が痛くなる。また、センターリセット操作をした際のセンター方向も、アプリによって何かおかしい(90°ズレているなど)ことがよくある。
そしてそもそも動作が不安定だ。Trinus VRの起動時や、SteamVRアプリの起動時に、PSVR側がHDMI未検出状態になることがよくある。そのたびにHDMIケーブルを抜き差しし、Trinus PSVRアプリを起動しなおすといった作業が必要になるので、コンテンツを楽しむところにいくまでけっこう苦労が多い感じである。
また、PSVRの特徴であるオーディオ機能も現時点では利用できない。再生デバイスとしては認識されるのだが、音は出ないのである。そのためオーディオ出力は別途PCに通常のヘッドセットを接続して使用するなどの対応が必要だ。
といった課題もあり、現状のTrinus PSVRを快適に使えるのはごく一部のSteamVRコンテンツにとどまる。特にポジショナルトラッキングの不足や、ミラー出力ゆえのトラッキング遅延など、根本的に解決が難しそうな難題も多く、本格的に実用化できるのはまだまだ先だなという印象だ。
開発元のTrinusでは精力的にアップデートをかけているようなので、想像するよりもはやく各種問題が解消されるかもしれないが、不安点もいくつかある。特に、SIEが非公式ドライバが広まるのを嫌って、PS VR側にファームウェアレベルでPCで使用できなくなるような変更を加える可能性が心配だ。上述したように高性能PC+PSVRの組み合わせではPS4/Pro以上の画質でVRコンテンツを楽しめるという素晴らしすぎるメリットがあるので、PS4を普及させたいSIEにとっては頭の痛いところだろう……。