【連載第17回】オンラインゲームの楽しさを再認識しよう!


てっちゃんのぐだぐだオンゲーコラム


ナカノ、シブヤ、スギナミ……「真・女神転生IMAGINE」の地名が生み出す“魔力”
カメラ片手に大探索、現実の向こうに魔界都市を見た!


 MMORPGは広大な土地を歩き、フィールドを探索するのも楽しい。フィールドから感じられる世界観、クリエイターのこだわりが僕らを魅了するのだ。今回取り上げる「真・女神転生IMAGINE」は、「大破壊」によって破壊されたトウキョウを舞台としたMMORPGだ。

 このため「真・女神転生IMAGINE」では、「ナカノ」や「スギナミ」といった、現実にある地名が登場する。唐突なようだが、僕の趣味の1つに散歩がある。今回の「てっちゃんのぐだぐだオンゲーコラム」では、この趣味を活かし、ゲーム内に出てくる地名を元に、現実の「東京」をカメラ片手に散策してみた。撮ってきた写真から、現実の向こうにゲーム世界が垣間見える独得の“地名の魔力”を感じて欲しい。


■ カメラを片手に東京を歩き、悪魔の闊歩するトウキョウを見る“魔界ツアー”の楽しさ

金子一馬氏のイラストで描かれた悪魔を“仲魔”にして、友人と共に戦う。「女神転生」シリーズファンの願いを実現したゲームだ

 「真・女神転生IMAGINE(以下、「IMAGINE」)」は「女神転生」シリーズのMMORPGである。「真・女神転生」と「真・女神転生II」の間の時代を扱い、ICBM投下と大洪水の2つの災いによる「大破壊」、そしてそれとほぼ同じ時期に地上を闊歩しはじめた悪魔によって崩壊した東京が舞台となる。この世界で人々は、破滅的な状況からの復活と、悪魔からの防衛を目的に、宗教や思想の枠を越えた人間達の調和と協調を呼びかけ、共同体社会を作り出す。

 そして、壊滅後の地に現われた「7人の賢者」の導きのもと、「新宿バベル」と呼ばれる塔を建造する。新宿バベルは“東京再生プロジェクト”の中心となり、東京の各地はシェルターが作られた。悪魔への防衛は、悪魔を使役する訓練を受けた「デビルバスター」という組織が行なう。プレーヤーは新米デビルバスターとして、シェルターの1つ、「スギナミ 第3ホーム」から旅立っていく……。

 「IMAGINE」の楽しさは、「女神転生」シリーズの匂いが濃厚に感じられる点にある。悪魔は金子一馬氏のイラスト・デザインを元にしており、彼等と交渉して“仲魔”に引き込むシステムももちろん入っている。サイバーパンクな雰囲気や、暗い世界観、「女神転生」シリーズの作品だなと感じさせてくれるのが本作の最大の魅力といえるだろう。

 戦闘やアバター、ゲームシステムなど、本作には他にも様々な魅力があるが、MMORPGとして他の作品にない魅力としては、“地名”がある。スギナミ、ナカノ、シンジュクなど本作は、実際の東京の地名が使われているのだ。今回、これらの地名のある場所を実際に歩き、写真に撮ってみようと思ったのだ。ゲーム内のキャラクターのように、現実の世界を歩いてみたい。そうすることで、現実の向こうに「IMAGINE」の風景が透けて見える。現実と2重写しになる“もう1つの現実”を感じられる奇妙な体験ができるのではないか、と思ったのだ。

 僕の趣味の1つに散歩がある。目的地も決めずにひたすら歩き、疲れたら電車かバスに乗って帰ってくる。交通網の充実した首都圏ならではの散歩だ。路地裏の風景、ふと見かけた奇妙な建物や、面白そうなお店、ランドマークがどこから見えるかなど、歩くからこその細かい発見がある。今回、この僕の趣味と、「IMAGINE」をリンクできないかと思いついた。

 ゲーム内での地名が、現実の何処に対応しているか。まず公式ページの地図と現実の地図を見比べることにした。プレーヤーのスタート地点となるスギナミ第3ホームから、中級者の拠点の「新宿バベル」までは、中央線沿線のようだ。ゲーム中には様々な地名が出てきて、それに似た現実の地名がある。僕はスマートフォンの地図アプリを頼りに、カメラを持って、現実の東京を歩いてみた。

 地図を見て、街の景色を見て、次に行く道を調べ、移動する。現実の景色はゲームとはまったく違うが、僕には、現実とゲーム世界が頭の中でリンクするのだ。現実とゲームが二重写しになる感覚は、プレーヤーならではの独特のものだ。「ゲーム内では悪魔が闊歩する場所なのになぁ」と思いながらシャッターを切るのは、奇妙な味わいがあった。


イラスト:ミズノ マサト

・見習いデビルバスターの修行の場所、スギナミ

 プレーヤーはスギナミ第3ホームというシェルターからスタートする。第3ホームは無機質な感じの未来都市で、いかにも作られた街という感じだ。スギナミは地面がむき出しで、崩壊したビルの瓦礫がころがり、力が弱いが多彩な悪魔が闊歩している。危険な悪魔がひしめく“アマヌマ峠”という場所があったり、工場のような建物のあるアサガヤという地域もある。

 現実の杉並区は大きな路地から1つ入ると家が建ち並んでいる住宅地だ。JR阿佐ヶ谷駅、そして杉並区天沼地区にあるJR荻窪では小さな店舗が並ぶ商店街があって活気もあるが、全体的には落ち着いた雰囲気がある。「IMAGINE」ではナカノとスギナミは「大災害の爪あと」という川で区切られているが、現実にはそういう川はない。杉並区から中野区には“妙正寺川”という川が続いているが、コンクリートに覆われた川だった。


【スギナミと杉並区】
ゲームのスタート地点であるスギナミ第3ホームから外へ。スギナミは荒廃しきっていて、悪魔が闊歩している

現実の杉並区は住宅地だ。歩いていると多くの人が住んでいるのが実感でき、ゲーム内の荒野はもちろん、無機質なスギナミ第3ホームとも全く違い、その対比が面白い。右は杉並区から中野区に流れる妙正寺川

・樹海と巨大石柱の神秘の地ナカノ

 スギナミの隣のナカノは巨大な樹に覆われた“ナカノ樹海”になってしまっている。中央の“平和公園跡”には、不気味な光を発する「オベリスク」という石柱が立っている。また、南には巨大な樹があり密林と獣系の悪魔が闊歩する場所になっている。東の空に目を向けると、天を覆い尽くすような新宿バベルが見える。新宿バベルがどれだけ巨大か改めて考えさせられる。

 現実の中野とリンクするのは、この“平和公園跡”という地名だ。中野区は北の方に“平和の森公園”がある。ここは元々は刑務所があった場所だという。平和の森公園は家族連れが多く訪れるのどかな空間で、小さな湖の近くで子供達がはしゃいでいた。不気味なオベリスクのあるゲーム世界とはかけ離れた場所だが、刑務所跡地に印象的なオブジェクトを持ってくるところは「女神転生」らしいと感じだ。

 中野も住宅が密集している地区だ。また、JR中野駅周辺にはコミックやフィギュアなどのグッズを扱う店が集まる中野ブロードウェイがあるし、三角形の中野サンプラザもある。このほか警察病院の大きな建物などがあったり、区立図書館の周辺は高台になっていたりする。杉並区に比べて、大きな公共施設が多いかなという印象だ。


【ナカノと中野区】
ナカノ樹海とまで呼ばれるほどに樹が生えているナカノ。中央に巨大な石柱オベリスクがあり、この石柱の光に誘われるように悪魔が集まっている

左が平和の森公園。右が中野サンプラザ。樹海となっているナカノとまったくかけ離れている地域だが、頭の中で対比してしまいつい大木や森を探してしまう

・謎の光を輝かせデビルバスターを待ち受ける、シンジュクの魔階トチョウ

 杉並の中心である阿佐ヶ谷から、中野そして新宿都庁までは、実際に足で歩いてみた。「IMAGINE」では街として“新宿バベル”があるが、それとは別に「魔階トチョウ」のあるシンジュクという地域が設定されている。魔階トチョウ周辺で、通常の悪魔は存在しない。キーアイテムを使うとボス悪魔と対決できるという。トチョウの上には奇妙な光があり、禍々しさがある。何が棲んでいるのか興味が惹かれるところだ。

 現実に中野から都庁を目指すと、意外なほど都庁は存在感がなかった。中野の方が土地の位置が高いのか、地形の関係と、周辺に高層ビルが建っていることから都庁は隠れてしまい、見える角度が限られていた。周辺の建物は住宅も背が高い物が多く、かなり近くまで行かないと、都庁が見えなかった。「IMAGINE」のナカノでは森の向こうに新宿バベルが圧倒的な存在感でそびえ立っている。現実の風景を見て、改めてゲーム内の新宿バベルの巨大さを再確認するというのは、奇妙な感覚だった。

 現実の都庁は、近くに来るとやはり大きい。これだけの巨大な建物が埋没してしまう新宿のビル街は東京都内でもやはり特別な場所だと感じた。見上げると威圧感があり、東京という日本の首都の力のようなものを感じさせられる。ちなみに都庁から中野にかけての地域には、財産を隠すために使用人を斬り殺したという血生臭い「中野長者」の伝説がある。僕は以前この伝説を調べたことがあり、そのときもこの辺りを歩いた。個人的に思い入れもある地域だ。


【シンジュクと都庁周辺】
イベントで悪魔を呼びだしたりするシンジュクは、通常フィールドに悪魔はいない。魔階トチョウは禍々しい迫力がある

中野から都庁へ。背の高い家が多いためか、都庁は中々見えなかった。近づくとその存在感は圧倒的だ

・デビルバスターの集う街新宿バベル

 ナカノ、シブヤ、イケブクロ、イチガヤと様々な場所の中継地点となる新宿バベルは、内部の一部がフィールドとして表現されている。天井のあるシェルターのような空間で、生活臭はない。都会の一角を切り取ったようなイメージだ。様々なプレーヤーがいて、彼等が連れている仲魔を見ているだけでも楽しい。

 新宿バベルの実際の位置は明記されてないが、ゲーム内の巨大モニターがアルタ前を思わせ、ファンの間でも「モデルになっているのでは?」という声もあるので、アルタ前周辺の新宿駅東口周辺を撮影してみた。大通りは紀伊國屋書店や丸井、伊勢丹などがあり、隣の区域の歌舞伎町に比べ、オシャレな店も多いが、1本路地を入ると渋い店も多い。老舗の喫茶店やレストランもあり、探索するのが楽しい。面白い店を見つけた喜びは、新宿バベルで露店を探して良い物を見つけたときの気持ちに近いかもしれない。


【新宿バベルと新宿駅東口周辺】
プレーヤー達の集う新宿バベル。冒険の拠点となる、多くのデビルバスターの交流の場所だ
新宿駅東口周辺。左はアルタ前。大きな店が目を引くが、路地裏は古い店舗も多く、興味深い

・結晶に覆われてゆくかつての繁華街シブヤ

 「IMAGINE」のフィールドの中で現実とリンクしていると感じさせる場所が多いのがシブヤだ。中でも巨大なビル「199」は、現実の109そのままで楽しい。ドウゲンザカも現実の道玄坂を思わせる地形だ。渋谷駅前は変わり果てているが、なぜかハチ公だけは残っていて面白い。最大の違いは「IMAGINE」のシブヤは、結晶の生える不気味な場所だと言うことだ。この結晶は何なのか。このままシブヤはこの結晶に覆い尽くされてしまうのではないかという不気味な予感を感じさせる。

 現実の渋谷は若者達の街として名高い。109を始めとしたファッションに力を入れた百貨店。ライブハウスやバーも多く、街を歩く人達も他の街よりおしゃれな感じだ。ところが道玄坂から1本奥に入ったホテル街の一角は急に寂しい雰囲気があって、はじめて渋谷に来た人ならばそのギャップに戸惑うこと必至だ。いきなりエアポケットに入ってしまったような空間で、新宿や池袋など他の街にはないところだと思う。僕にとって、渋谷の奇妙さを強めている場所だ。

 「IMAGINE」のフィールドは、このように、現実の世界を舞台とした、ゲームのツアーも組める。「地名」の魅力を改めて感じさせられる作品だ。アニメや映画で、作品で取り上げられたところを現実に行ってみる人達もいるが、本作の場合、オフ会で今回のようなツアーを組むユーザーもいるのではないだろうか。そして、実際に歩くと意外な発見があるし、友達と行くことができれば、現実の風景を見ながら、ゲームの話をする事もできる。現実を見ながら、ゲーム世界の話ができるのは、自分たちしか知らない秘密を共有してるかのようで、大きな楽しさがある。「IMAGINE」のプレーヤーは、僕がしたような“探険”を楽しんで欲しい。


【シブヤと渋谷区】
ニョキニョキと結晶が生える不気味なシブヤ。荒廃ぶりが現実の繁華街との対比をなし、もの悲しい感じを与える

若者達の闊歩する渋谷。街ゆく人達が、新宿や池袋、銀座とも違う気がする。繁華街の比較も東京探索の楽しさの1つだ


■  てっちゃんの割とどうでもいい話 「終末論からはじまる“あり得たかもしれない未来”の魅力」

天井のある巨大都市。未来装備のデビルバスターに寄り添うのは、神話から抜け出した悪魔だ

 「IMAGINE」の世界は、203X年だが、199X年に悪魔の出現と、ICBM投下によって現在の我々の世界とはっきりとわかれる。スーパーファミコン版の「真・女神転生」が発売された1992年では、起こりうる未来だった。「1999年までに世界は破滅するのではないか」という幻想を持っている人が、結構いたのだ。

 「1999年7の月に恐怖の大王が来る」という「ノストラダムスの大予言」は、1970年代にブームとなり、その後の様々な作品に大きな影響を与えた。破壊された秩序、現在とは違う価値観による新しい世界……「真・女神転生」もこの流れを受け継ぐ作品だと言えるだろう。1999年を越えてしまった今でもオカルトでは「2012年人類滅亡説」といったものがあったり、人間の心のあり方について考えさせられる。

 本作の未来世界としての描写もSFっぽくて好きだ。「プラズマライフル」といった現在では実用化されてない武器が店頭で売られてたりする。これら未来兵器より、火薬式の古い銃や日本刀の方が強かったりする。意見理不尽なルールが、「真・女神転生」ならではなのだ。ボディアーマーも洗練されたデザインだが、和服やジャージでもそこそこの防御力があるのも面白い。

 「IMAGINE」の世界は、“センス オブ ワンダー”がある。「悪魔の実在」という大きな仮説を元に、大きく変わった“あり得たかもしれない未来”を描いている。1つの“常識”が世界を大きく歪ませているのが楽しい。この奇妙な未来世界こそが、最大の魅力だと思う。



~今回ぐだってしまったオンラインゲーム~

「真・女神転生IMAGINE」

コラボレーションが行なわれている「デュラララ!!」は、首無しのデュラハンが登場するライトノベルズだ

 「IMAGINE」は、スーパーファミコン向けに1992年に発売された「真・女神転生」と、1994年に発売された「真・女神転生II」の間の時代を扱ったMMORPGだ。「真・女神転生」で描かれた“大破壊”を生き延びたトウキョウの人々は、21世紀後半の「真・女神転生II」で過酷な管理社会を作り出す。「IMAGINE」はその社会が作り出される間の時代を描く。

 2007年4月より正式サービスを開始。レベルを上げ得られるポイントでステータスとスキルに割り振り成長させていく。剣や銃、魔法以外に、悪魔との交渉や知識も重要なスキルだ。アクション性のある戦闘システムで、悪魔との交渉もリアルタイムで行なわれる。PVEだけでなく、PVPも楽しみの1つだ。

 サービス開始時より語られていたメインストーリーが6月7日に完結を予定しており、現在は「メインストーリーコンプリートキャンペーン」が行なわれている。また、ライトノベルの「デュラララ!!」とコラボレーションによるイベントも開催中だ。


【スクリーンショット】
シナガワ、イチガヤ、ウエノなど高レベルマップも実装され、プレーヤーは、強大な悪魔を引きつれ冒険を繰り広げている

(C) ATLUS (C) CAVE

(2011年 5月 24日)

[Reported by 勝田哲也]