【連載第21回】オンラインゲームの楽しさを再認識しよう!


てっちゃんのぐだぐだオンゲーコラム


効率超重視で遊ぶ「ダンジョンズ&ドラゴンズ オンライン ストームリーチ」
超ルーティンワークの功罪。くっきりと浮かび上がったTRPGとMMORPGの違い


 オンラインゲームの様々な面を取り上げる「てっちゃんのぐだぐだオンゲーコラム」今回は「ダンジョンズ&ドラゴンズ オンライン ストームリーチ」を取り上げたい。テーブルトークRPGの「ダンジョンズ&ドラゴンズ(以下「D&D」)」をモチーフにしたMOタイプのオンラインゲームだ。

 MOタイプのゲームの特徴的なプレイスタイルに「周回」がある。プレーヤーはレベルアップとレアアイテムの獲得を目指し、ひたすら同じコンテンツを遊び続ける。オンラインゲームでは、コンテンツ消費スピードがコンテンツの実装スピードを常に上回るため、サービスを円滑に進めるためにはこうした“繰り返しコンテンツ”の実装はやむを得ない部分もある。だが、主要コンテンツがそればかりだとしたらどうだろうか?

 様々な状況に対処できる汎用性を目指した「D&D」ルールに、数多くの繰り返しコンテンツを盛り込んだ「ダンジョンズ&ドラゴンズ オンライン ストームリーチ」は果たしてどのようなMMORPGだったと言えるのか。筆者自身の経験から振り返ってみたい。


■ 早く、もっと早く! 効率を重視したテーブルトークとはかけ離れた冒険

暗い迷宮を仲間と共に進む。「DDO」はダンジョンの“怖さ”をうまく表現していた作品だった

 今回題材にする「ダンジョンズ&ドラゴンズ オンライン ストームリーチ(以下「DDO」)」はテーブルトークRPGの「ダンジョンズ&ドラゴンズ(以下「D&D」)」をモチーフにしたMOタイプのゲームだ。米Turbineによって開発され、日本ではさくらインターネットから2006年8月よりサービスが開始されたが、残念ながら2009年9月にサービス終了になってしまった。

 テーブルトークRPG(TRPG)というのは紙とペン、ルールブックでプレイするゲームで、ゲームマスターと数人のプレーヤーで物語を作っていく。ゲームマスターが提示するストーリーと状況に対して、プレーヤーはゲーム内のキャラクターとして対応策を示し、物語を進めていく。自由度があるが、参加者のノリと創造力が必要となる、なかなかマニアックなゲームジャンルだ。

 「D&D」はTRPGの元祖となる作品で、「剣と魔法の世界」での冒険が楽しめる。これまで様々な世界がメーカー側から提示されており、ルールも何度も改訂が行なわれているほか、いくつもの関連書籍も出ている。「DDO」では 魔法と機械の融合した文明を持つ「エベロン」という世界が舞台となっており、2006年当時、同じ世界を舞台としたシナリオなども発売されていた。

 TRPGではメーカー側のシナリオも用意されるが、多くのゲームマスターが頭をひねってオリジナルシナリオを作った。そしてTRPGでは、シナリオの展開はプレーヤーの行動で当初の筋書きから全く外れることもある。マスターとプレーヤーが協力して作る物語だからこそ、強い思い入れを生むのだ。

 「DDO」はTRPGの「D&D」のエッセンスを濃厚に取り入れながら、MOタイプのオンラインゲームとして作られた。「DDO」は「キュアライトウーンズ」、「マジックミサイル」、「ハイドインシャドウ」など「D&D」の用語をそのままゲームの中に取り入れ、ダメージの算出方法やキャラクタが使う呪文、忍び歩きなどのゲーム内での行動、キャラクタに関する情報など全てを「D&D」のルールで再現している。まさに「D&D」を再現したオンラインゲームとして、強い魅力を持っていた。

 さらにアクション性の高い、エキサイティングなゲーム性をもっており、「D&D」を知らないプレーヤーにも楽しめた。戦士は前衛として敵の攻撃を正面から受け止め、感知能力に優れたレンジャーや、罠の解除が得意なローグ(盗賊)が特殊能力で貢献する。魔法使いは範囲攻撃を巧みに使いこなす。シナリオは凝っており、様々なトラップがある迷宮を進んだり、敵の奇襲をしのいだり、海岸や草原などオープンフィールドでの冒険もあった。MOコンテンツとしては、現在の最新オンラインゲームに劣らない密度があった。

 しかし一方で、MOコンテンツとしての「宿命」から「DDO」も逃れられなかった。プレーヤーはキャラクターを育てるため、レアアイテムを入手するため、何度も、何度も、同じコンテンツに挑戦することになる。プレーヤー達はトラップや敵の出現位置など全て覚え、ひたすら効率的にコンテンツを回すようになっていった。


イラスト:ミズノ マサト

「次、右から敵2だっけ?」、「次右から敵2、左トラップです」

 ここにトラップ、ここでスイッチ、ここから敵が出てきて、ここがショートカット……コアプレーヤーの「把握」は正確で素速い。シナリオで次に何があるかを完璧に覚え、ただひたすらクリア報酬のためだけにダンジョンを突きすすむ。その報酬を得るがためだにダンジョンに入っては出て、出ては入るを繰り返す。その姿は「ロールプレイ」という言葉から大きくかけ離れていた。クリエイターが思い入れたっぷりに作った目の前のモンスターも、トラップも、ただのチェックポイントになってしまったのだ。

 アクション性の高さ、スピーディなゲーム展開も相まってうまいプレーヤーがものすごい勢いでパーティーを引っ張り、他の人は付いていくだけで精一杯になってしまった。テンポはどんどん上がり、やり方がわからないプレーヤーは怒られるような状況も生まれてきた。より効率的に、より早く、コアプレーヤーはさらに先鋭的になっていった。

奇妙なオブジェクト。シナリオは演出も凝っていた

 果てにはパーティー募集には、「ネタバレあり/なし」、「RUN」、「RUSH」といった独得の表記が生まれた。ネタバレありの場合は、以前クエストをクリアしたプレーヤーが罠やシークレットドアなどを率先して解除し先に進んでいく。RUNとRUSHは同じ意味で使われることが多いが、要するに参加プレーヤー達はひたすらクリアをめざしダンジョンを駆け抜けるプレイスタイルのことだ。

 「DDO」のシナリオはただひたすら戦うだけの単調なものではなく、ダンジョンの構造が入り組んだものや、シナリオ重視の演出が凝ったもの、トラップが多いものなども多かったが、演出などはほとんど無視してプレーヤー達は突きすすんでいく。もちろんシナリオを楽しもうという「まったり」という表記で募集する人もいたが、残念ながら少数派に留まり、全体的に非常にせかせかしたゲームになってしまった。せっかく多彩な展開が用意されているのに、「効率」という言葉に押し流されていくゲームプレイは「D&D」ファンである僕には大きな違和感があった。

 また、「D&D」のルールで作られた本作は、他のオンラインゲームに比べ情報量が多く初心者には把握しづらかった。コアプレーヤーが先へ先へと進んでいくため、初心者との溝が広がりさまざまな点で取っつきにくいゲームとなってしまった。そして必然的に多くのプレーヤーは、自分のペースでさらに効率よく進める、ソロでできるコンテンツを欲するようになっていった。本作のサービス終了はプレーヤー数の不足が主な原因だ。さくらインターネットのアピール不足も大きかったが、この初心者とコアプレーヤーの乖離が大きな人気を得られなかった理由として大きかったようにも思う。

 「DDO」では範囲魔法など派手な演出をTRPGプレーヤーの想像を上回るかっこよさと厳密さをもって再現していた。それは「D&D」ファンの僕にとって、夢が叶った感動があった。展開の凝ったコンテンツも数多く、世界観がきちんと描かれていたところも好きだった。しかしゲームとして評価すると、MOオンラインゲームとしての割り切りが足りない部分が多かったと思う。「D&D」のエッセンスを濃厚にした本作のバックボーンは、結果として効率重視のプレーヤーの姿を他のMO以上に浮き彫りにしてしまった。

 TRPGはゲームマスターと話し状況を確認し、みんなで相談しながら一歩一歩進んでいくのが楽しい。ドキドキしながら石橋を叩いて渡るように進み、時には瀕死になって撤退するような、極めてのんびりしたプレイリズムを持っている。プレーヤーは常に何か変わったことをしようと考え、ゲームマスターはプレーヤーの突飛な行動をシナリオで受け止め、ドラマチックな展開へ持って行こうとする。

 「DDO」ではTRPGの様な柔軟性は生まれないし、行動の選択肢も多くない。凝ったキャラクターデータ、ゲームルールは効率の良いレベルアップ、シンプルなプレイとキャラクター育成という点から見れば、余計な点も多かったように思える。「DDO」はコンテンツ単体と見れば面白いゲームだった。「『D&D』をオンラインゲームに!」というクリエーターの熱い想いは伝わるものの、落としどころという意味でどっちつかずの印象があるゲームだった。


■  てっちゃんの割とどうでもいい話 「ボイスチャットで彼女持ちをアピール」

敵を絡め取る「スパイダーウェブ」。多くの敵を絡めるために声でタイミングを合わせる

 「DDO」はボイスチャットに対応していた。連携や、突然現われたモンスターへの対処など、ボイスチャットは瞬時の情報交換が可能で緊張感のある本作にとても有用だった。テーブルトークの感覚に近いやりとりができるのも良かった。ボイスチャットは「DDO」にマッチしたシステムだった。

 しかし一度だけ「そりゃないだろう」という体験をしたことがあった。パーティの中の1人のプレーヤーが彼女と一緒に画面を見てプレイしていて、ヘッドセットではなくマイクを置いているのか、彼女との会話がゲームの中にはいってくるのだ。「うわー何これ」、「これってどうなってるの」という彼女の質問に得意になって応える声がそのままボイスチャットに入ってきて、ゲームへの没入感を著しくそがれたのだ。

 ピンチで死にそうになっているときに、「この人達死んじゃったの?」という声が聞こえたとき力ががっくり抜けた。このプレーヤーは彼女の存在を自慢したかったのかもしれないが、冒険者の中に全く空気の読めない観光気分の人がいるというのは、ある意味とてもユニークだが、萎える体験だった。「DDO」に全く罪はないが、タイトルを聞くと今でも「オンラインゲームって色んな人がいるけど、あれはなかったよなあ」と思い出す記憶として強く印象に残っている。ボイスチャットの功罪を考えさせられるエピソードだ。



~今回ぐだってしまったオンラインゲーム~

「ダンジョンズ&ドラゴンズ オンライン ストームリーチ」

冒険者の酒場は、雰囲気たっぷりな待ち合わせ場所だ

 「DDO」はTRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の世界をオンラインで再現した作品で、プレーヤーは「ストームリーチ」という街でパーティーを組み、クエストを受けてダンジョンへと乗り込む。ダンジョンはパーティーのみが参加できるインスタンスダンジョンとなっている。

 プレーヤーは人間、エルフ、ドワーフ、ハーフリング、そしてウォーフォージドの5つの種族からキャラクタを作成する。キャラクタのクラスはファイター、パラディン、バーバリアン、ローグ、レンジャー、クレリック、ウィザード、ソーサラー、バードの9種類だ。パーティーのメンバーは最大6人で、6人揃えて冒険に出るというのが基本的なプレイスタイルだった。

 日本以外でも中国やヨーロッパなどでもサービスが行なわれていたが、現在は北米となっている。北米では基本プレイ料金を無料化し、アイテムやキャラクタースロットを販売する形式に変更、「Dungeons & Dragons Online : Eberron Unlimited」とタイトルも一新した。


【スクリーンショット】
凝ったシナリオ、重厚なダンジョン、骨太なストーリーと、「DDO」はコアなファンに評価される良いゲームだった。右下は「幻惑の呪文」。TRPGではできないシチュエーションの視覚化をファンの期待を上回る形で実現したところも高く評価したい

DUNGEONS & DRAGONS ONLINE : Stormreach interactive video game (C) 2007 Hasbro, Inc. (C) 2007 Atari, Inc.
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(2011年 7月 27日)

[Reported by 勝田哲也]