【連載第22回】オンラインゲームの楽しさを再認識しよう!


てっちゃんのぐだぐだオンゲーコラム


【夏休み特別企画】流星のように駆け抜けていった韓国産MMORPG達
「キノスワールド」、「クロシーノ」、「ヨーグルティング」……記憶に残る韓国産ゲーム


 「てっちゃんは韓国MMORPGに比べ、欧米MMORPGに厳しいのではないか」。前回の連載でこういった指摘を受けて、僕は驚いてしまった。連載を読み返すと確かに、そう取られてもおかしくないかもしれない。しかし、どちらかといえば僕はシステムや自由度、世界観が凝っている欧米産の方が好きで積極的にプレイしている。好きだからこそ欧米産に苦言を呈してしまうところがあるのだろう。

 一方、韓国産コンテンツは開発の歴史が日本や欧米に比べ浅いためか、コンセプトが甘く感じる作品も多い。このため、それをあえて指摘するのもなあ、という気持ちがあったのだ。しかし今回の「てっちゃんのぐだぐだオンゲーコラム」ではあえて夏休み特別企画として「流星のように駆け抜けていった韓国MMORPG」として思い出に残る10タイトルを上げてみたい。

 サービス期間、終了した理由などゲームによって背景は様々だが、10タイトルを並べると、何となく「途中で終わってしまうオンラインゲーム」というものが見えてくる。今後もたくさんのオンラインゲームが出てくると思うが、今回語るポイントは、今後オンラインゲームを見ていく上で新たな視点を加えてくれるかもしれない。


■ 「無茶しやがって……」。日本市場に挑み、歴史に埋もれていった10本の韓国MMORPG

 韓国産オンラインゲームは他国に比べ、「全体として成長していく市場」という印象が強い。同じようなゲーム要素を様々なタイトルが横並びに実装していくのだ。現在の「AION」(エヌ・シー・ジャパン)や「TERA」(NHN Japan)のように誰がどう見ても突出していると感じられる存在はほとんどなく、どのタイトルもPvPシステムや拠点攻防戦、攻城戦を加え、同じ内容を売りにしている時期があった。中には1キーで繰り出せる派手なバトルアニメーションを「アクション要素」と表現することもあった。実際にはユーザーは左クリックを連打してるだけだったが。

 「新実装、釣りシステム!」といった他のオンラインゲームでいくらでも実装されている使い古されたコンテンツの実装を大仰に騒ぎ立てるのも日常茶飯事だった。「他のゲームと同じものを新実装とか、作品のテーマに合っているようにも見えないしどうするの?」という突っ込みを受けながらも、韓国産オンラインゲームは全体として順調に成長していったと思う。結果として、古参のゲームは様々な遊びの要素を獲得し、独得の厚みのあるコンテンツになった。そして昨今の韓国産はクリエーターの独自性が強く感じられる作品も増えてきた。

 そうしたタイトルたちの影には、無数の途中でサービスを終了してしまった「流星のように駆け抜けていった韓国MMORPG」が存在する。中には「ヨーグルティング」の様に開発不在のまま長く続いたタイトルもあったし、「ラグナロクオンライン2」の様に再開発を繰り返し、何度でも生まれ変わろうとする作品もあるが、そうした話題性のあるタイトルはごく一部で、ほとんどの場合は、その意欲に比べて技術が圧倒的に足りなかったり、どこにも個性がなかったり、日本で売るための施策がイケてなかったりなどなど、いろいろな理由で消えていったタイトル達である。

 成功するための秘訣、失敗した理由……MMORPGにおいてその境界線はどこにあるのか。サービス会社の状況や、ユーザーの嗜好、タイミングもかなり重要で、見方によっては運の要素も強いかもしれない。タイトル名やサービス時期は順不同で、僕が思いつくまま、10タイトルを紹介していきたい。「そういえばあったなあ、MMORPGって色々あるよ」と思ってくれれば幸いだ。


イラスト:阿佐ヶ谷帝国

「無茶しやがって……」


「キノスワールド -騎士集結-」
GMO Games
2008年7月休止
2009年7月~2009年9月終了

 僕の中で、駆け抜けていったゲームとして真っ先に浮かぶのがこれである。韓国でサービスしていた作品を、日本でのサービスにあたり、日本で改めてイラストを作り、ヒロインを設定し、ストーリーを付けた。「世界観が後付」というゲームの根幹を揺るがす大変革を試みた作品だ。韓国産の多くは、ストーリー性やキャラクター性が薄く感じるものが多く、最初に話を聞き、イラストを担当した平尾リョウ氏の絵を見たときその魅力に引き込まれ、「新たなビジネスの形になるかも」という興奮を感じたことを覚えている。

 ただ実際にプレイするとやはりちぐはぐで、基幹システムもいろいろ甘かった。2008年7月にオープンβテストを行なうもののサービスを休止し、2009年7月に再開、しかしサービスしていたGMO Gamesの解散に伴い、2009年9月にサービスを終えた。今思うと、やはり「世界観やストーリー性が足りない」と頭ごなしに指摘し、こちらで提示した上で開発をやり直させるというのは、基幹システムの完成度抜きにしても、オリジナルを作った開発者のモチベーションを下げてしまったのではないか。

 韓国の開発力を軽んじてしまった上での齟齬もあったのではないかとも、今になると思う。僕の中にもやはり「韓国産は世界観、キャラクター性でイマイチ」という気持ちがあった。しかし“差し替え”という方法はやはり違うのかもしれない。MMORPGのカルチャライズというものを改めて考えさせられるタイトルだ。


【キノスワールド -騎士集結】


「セフィロス」
アエリア
2008年12月~2009年6月終了

 ゲーム云々を置いておいて、まず“タイトル”として、これはちょっと難しいかなあと感じた作品。セフィロスって言ったら「ファイナルファンタジーVII」の彼だろう。本作のタイトルは神秘主義思想のカバラの「セフィロトの木」を要素にしたことからこのタイトルが付けられたのであり開発者に罪はないが、日本でサービスする場合はどうしても「これ『FFVII』と全然関係ないよね?」と思われてしまうのは大きなマイナスポイントだったと今でも思う。対人戦、PVPに力を入れていたが、人気は獲得できなかった。2008年12月にサービスを開始、2009年6月に終了。


【セフィロス】


「CroXino -クロシーノ-」
ジークレスト
2009年5月~2009年11月終了

 制作発表会で、お笑いコンビ「ザブングル」の加藤歩さんが「悔しいです」という持ちネタのリズムでタイトルを繰り返し叫んでいたのが印象に残っている作品。最初のセールスポイントが、お笑い芸人のエモーションの導入だった。お笑い芸人ファンとゲームファンは重なる人達もいると思うが、それでもゲームの根幹の魅力にはならないと思う。同時代のゲームと比べるとグラフィックスは貧弱で、善と悪に自ら分かれていくという対人戦重視の方向性を持っていたが、個性という点でもう少しだった印象がある。2009年5月サービス開始、2009年11月終了。


【クロシーノ】


「エコマジ! -Ecole du magister-」
ゲームマーレ
2007年8月~2007年12月終了

 NPCのイラストを日本のイラストレーターの物に差し替え、声優を起用というのは、現在でも多くのゲームが行なっているカルチャライズ手法のひとつで、この作品はそれを積極的に行なっていた。着せ替え人形ライクなキャラクター装備画面などはファンのツボをついてたと思うが、操作性がイマイチだったり、サーバートラブルが頻発したりなど、運営でつまづいた。あとはやはり、「狩場に必ず強い敵を配置すれば緊張感が出せるかな?」といった感じのバランスの取り方がとても大味で、色々なところの詰めが甘かった。2007年8月サービス開始、2007年12月サービス終了。


【エコマジ!】


「DarkArena:ダークアリーナ」
ロックワークス
2006年9月~2007年11月終了

 “3人で作った「ニダオンライン」が名前を変えて日本に上陸!”というのがセールスポイントだったが、確かに少人数の手作り感は韓国国内なら好意的に受けいられるが、日本でのサービスでは単純にネガティブポイントであり、個性としても弱いと思った。世界観的にはSFと魔法が融合した世界というのは当時のトレンドだったし、標準的なゲーム要素は装備しているものの、だからこそこの作品を選ぶという大きな個性を感じなかった。2006年9月正式サービス、2007年11月にサービス終了。


【DarkArena:ダークアリーナ】


「PI STORY(パイストーリー)」
ゲームオン
2007年7月オープンβテスト中止

 かわいらしいゲームデザインと、カラフルな画面横スクロール型のMMORPGとしてビジュアル的に魅力的な作品だった。“パイ”と呼ばれる無限の可能性を秘めた卵を集めていくストーリーで、アバター要素、ハウジング要素など多彩なゲーム性をアピールしていた。本作は韓国より先行して日本でサービスを開始するという、ゲームオンが力を入れていたタイトルだった。しかしクロースドβテストの時点から操作性の悪さなどを指摘され、その他のコンテンツ開発も難航していたようで、2007年7月に予定されていたオープンβサービスも行なわれないままサービスを終えた。


【PI STORY】


「LUNA twinkle!(ルナ トゥインクル)」
NHN Japan
2008年12月~2010年3月終了

 「Legend of LUNA」として2008年12月にスタートして、2009年7月にタイトルを変更。かわいらしいキャラクターを前面に押し出しながら、GvG等多彩な要素を盛りこんだ作品だった。ハウジングや乗り物など、多数の要素を盛りこむアップデートを予定していたが、ユーザーの間からは職業間のバランス調整やバグフィックスを優先して欲しいという声が聞かれ、こちらに注力すると宣言、しかし結局アップデートは行なわれずに2010年3月に終了となった。この作品も盛りだくさんの内容の割に「個性」という部分がもう少しだったのかなと思う。アップデートは協力要素、生産要素に集約されていただけに、もっと早い時期から舵取りが行なわれても良かったのかもしれない。


【LUNA twinkle!】


「ラグナロクオンライン2」
ガンホー・オンライン・エンターテイメント
2007年10月サービス延期~現在再開発中

 「ラグナロクオンライン(以下「RO」)」の続編として、2007年に日本でもクローズドβテストがスタートし、2007年秋のサービスインが予定されていたが、2007年10月にサービスの延期を正式発表。開発のGravityは2010年に本作の再出発を宣言し、現在はより「RO」の要素を取り入れた開発方針を目指し開発中で、2011年内に韓国内でオープンβテストを目指している。

 僕は2007年に「ラグナロクオンライン2」を触ったが、極めてオーソドックスな作品という印象を持ち「『RO』のユーザーはこれでは満足しないかもなあ」と思った。韓国でのレポートを見るとやはりファンは「もっと、もっと『RO』らしさを!」と求め続けているのが感じられる。「RO」自身も3次職実装に伴う大きなゲーム性の変化があり、ファン、開発者、日本運営と「RO」に関わる全ての人が、今あらゆるところで「『RO』らしさって何だろう」という問いに直面している様に感じる。

 「ラグナロクオンライン2」は「現在のトレンドを盛り込み、負けないものを作りたい」という開発者と、「『RO』の良さを何よりも受け継ぐべきだろう」というファンの間で今も激しく揉まれている気がする。ここから従来のファンが“納得”する作品を開発するのではなく、“圧倒”されるような「RO」の“魂”を受け継ぐ作品が生まれて欲しい。


【ラグナロクオンライン2】


「TENVI:テンビ」
ネクソン
2008年9月~2010年3月終了

 「メイプルストーリー」を手がけたスタッフによる横スクロールタイプのオンラインRPGだが、やっぱり「メイプルストーリー」に似すぎたんじゃないかと思う。グラフィックスはより細かく、自分が引きつれる「ガーディアン」と合体要素もあるといったゲーム性も加えていた。言ってみれば「メイプル」の+αにとどまり「ストーリーや演出が優れている」などの明確な差を付ける要素に薄かったように思える。一方の「メイプルストーリー」は新職業による派手さやストーリーを盛り込む方向にシフトしていく。その後「メイプルストーリー」に「TENVI」のガーディアンを思わせるドラゴンを連れた新職業「エヴァン」が実装されたのも驚いた。2008年9月にサービス開始、2010年3月にサービス終了。


【テンビ】


「ヨーグルティング」
ガンホー
2005年11月~2010年5月終了

 この作品は僕も含め思い入れも深い人が多いんじゃないだろうか。今回上げた作品内では最もサービス期間が長く2005年11月に正式サービス開始、2010年5月に終了している。「学園MMORPG」として他の作品にはない個性を持ち、ビジュアルも日本のアニメーションを思わせるかわいらしさがあり、個性的なNPCが配置され、ファンの心をつかんだ。

 フィールドが学校そのものというのも面白かったし、「漂流教室」の様に、学校が異世界に飛ばされてしまうという状況ながら、展開する物語はひたすら明るかった。キャラクター、ストーリー性で他のタイトルにはない個性が輝いていたと思う。しかし、ゲーム全体として見れば、基幹となる戦闘システムがもう1つだったと思う。本作の戦闘は「Diablo」タイプの大量に寄ってくる敵をなぎ倒すというものだが、バランスとしてはテクニックよりレベルを上げて正面から切り込むという大味なものだった。戦闘にアクセントを加えるアイデアは盛り込まれていたが、それでももっさり感というか単調な印象がぬぐえなかった。「毎日居続けるゲーム」としては、何か物足りなかったのだと思う。

 このためか日本より先に韓国でサービスが終了となり、同時に開発チームが手を引いてしまった。日本でのサービスは継続したものの新要素が足されなかったためユーザーを引きとめられず、サービス終了となった。コンセプトそのままで、現在の技術によるリッチなコンテンツを実現できれば、日本で人気が獲得できるのではないだろうか。「学園MMORPG」というジャンルは依然として可能性があると思う。


【ヨーグルティング】


 MMORPGは“暮らす”ゲームだと思う。膨大な時間をゲームの中で過ごす。それは日常の生活の1部となり、そして大切な時間となる。その世界に行くのは、世界のルールが心地良いものであり、街やモンスター、風景などから感じられる世界観が好きだからだ。だからこそ同じようにゲームを好み、一緒に楽しさを共有できる友達と出会えるのはすごくうれしいし、強い一体感を感じる。

 MMORPGは他のゲーム以上にその世界にプレーヤーを取り込む。世界観が薄っぺらだったり、システムの基本がプレーヤーの肌に合わなかったり、運営が悪ければそこに住人はいなくなる。ファンの心をつかむだけの強い魅力は、安易な改変や簡単なアイデアでは生まれない。MMORPGは“居続けられる心地良い場所”を提供するビジネスだ。今回まとめた10本のゲームの中にはそのルールを理解していない作品もあると感じた。

 ユーザーは敏感だ。楽しく、暮らしやすく、毎日面白いことがある世界を開発者と運営が理解し、提供してくれているかを常に見ている。好きな世界がずっと続いて欲しいと思ってる。好きな世界だからこそユーザー自身が能動的に楽しさを求め、世界に勢いが生まれていく。そのためには「続く」というのも大事な要素だ。安定し、長く続くゲームはユーザーのより一層の思い入れを生む。

 僕はMMORPGでの生活が好きだ。自分の時間の何割かがPCの向こうにある今の生活が大切だと思う。世界に思い入れを持ち、仲間と冒険を一緒にするのが楽しいと感じられる人とは、住む世界(ゲーム)が違っても肩を組み背中を叩きたくなる親愛の情を感じる。だからこそ、その人達にとって心地良い世界はずっとずっと続いて欲しい。MMORPG開発者、運営スタッフには、この気持ちを理解し共感してもらいたいと常々思っている。


(2011年 8月 9日)

[Reported by 勝田哲也]