【連載第20回】開発者が語るiPhone/iPadゲームの最先端

iPhone Spotlight Report

NCジャパンがiPhoneアプリ開発に本格参入
新作「DWARF COMPLETE」は女性チームが開発

 世界中でブームを起こしたiPhoneは、新たなゲームプラットフォームとしての地位を得た。続いて登場したiPadも、かつてないゲーム体験を生み出す可能性を秘めている。本連載では、iPhone/iPadゲーム開発者へのインタビューから、最新のトレンドや魅力を探っていく。



11月9日 収録


 オンラインゲーム「リネージュ」シリーズなどを運営しているエヌ・シー・ジャパン株式会社が、iPhone/iPod touch/iPad用ゲームに本格的に参入し、11月26日から新作の「DWARF COMPLETE(ドワーフコンプリート)」を配信する。

 本作を開発したスタッフは、なんと女性陣だけだという。女性陣だけで開発することに至った経緯や今後の展開について、iPhoneアプリ関連のプロモーションを担当しているエヌ・シー・ジャパンのユン・スンミ氏と、iPhone/iPod touch用「DWARF COMPLETE」の開発を担当するエヌ・シー・ソフト・ジャパン株式会社のアン・ヨンジ氏にお話を伺った。




■ 「DWARF COMPLETE」はじっくり遊べる謎解きパズルアクション

エヌ・シー・ジャパン ビジネスストラテジーチームのユン・スンミ氏。同社でiPhone/iPod touch用のコンテンツを手掛けるプロモーター。女性の感性をもってタイトルのプロモーションを担当している
エヌ・シー・ソフト・ジャパンのアン・ヨンジ氏。iPhone/iPod touch用「DWARF COMPLETE」の開発者で、今後リリース予定のiPad用「DWARF COMPLETE HD」なども制作している

――iPhone/iPod touch用「DWARF COMPLETE」を開発することになったきっかけは何だったのでしょうか?

ユン・スンミ氏: 「DWARF COMPLETE」は、弊社が運営しているポータルサイト「plaync」で遊べるFlashで作られたミニゲームです。公開から3年以上も経過した今も、人気1位のまま君臨し続けている大人気作です。ミニゲームながら、wikiや攻略掲示板が作られたり、プレイ動画がアップされたりするほど高い人気があります。当初はiPhone/iPod touchで「DWARF COMPLETE」を配信する予定はありませんでしたが、やればやるほどこの世界観にハマっていく面白さに惚れた部分がありまして、これをiPhone/iPod touch用としても実現させたいという気持ちが強くなり、開発することになりました。

――「DWARF COMPLETE」はどんなゲームなのでしょうか?

ユン氏: 弊社が運営しているWindows用MMORPG「リネージュ II」のスピンオフとしての位置づけを持っているゲームです。主人公であるドワーフの女の子が、鋼鉄よりもすごい材料があるという月に行くために必要な浮遊石を探して旅するというストーリーで、マップ内を移動しながら次の場所に繋がるドアを開けるためにギミックを解いて進んで行く、パズルアクションゲームです。

――まるで、スーパーファミコンのRPGでダンジョンを冒険しながら謎解きをしていくタイプのような感じのゲームですね。ギミックはどんなものが用意されているのでしょうか?

アン・ヨンジ氏: 例えば落とし穴とか、砲弾を投げて物を落とす仕掛けなどがあります。頭も使うしスリルな要素もあります。敵が襲ってくるようなゲームではなく、パズルの謎解きに集中して楽しめるようになっています。

――クリアまではどのくらいの時間がかかりますか?

ユン氏: 初めてプレイする人でおおよそ10時間から15時間程度はかかります。解答を知っていても、早くて2時間半はかかります。最初は純粋なパズルアクションゲームとして遊んでいただいて、その後やり込んでもらえればと思っています。そのためにグローバルランキングや、アイテムの収集など、コレクション欲をかき立てるような仕掛けを盛り込んであります。

アン氏: しかもエンディングは3つ用意してありまして、浮遊石を集めて月に行く目的を達成すれば1つ目のエンディングを迎えられます。その後で全てのアイテムを集めると、もう1つエンディングが見られるようになっています。さらに、その2つ目のエンディングに秘密を隠してあります。みなさんの気持ちをくすぐるような仕掛けになっています。

――結構、長く遊べるようになっていて、お楽しみもいっぱいということですね。

アン氏: 長時間のプレイになりますが、オートセーブになっていますので、いつ止めても途中から続けられます。


【スクリーンショット】
ドワーフの女の子が浮遊石を求めて、ダンジョンの謎を解き明かしていくアクションパズル。デフォルメして描かれたドワーフ
クリア後もアイテムの収集や世界ランキングなど、さらにやりこめる要素を搭載



■ 画面の好きな場所にコントローラーパネルを配置して操作

――開発するに当たって苦労した部分はありますか?

アン氏: やはりユーザーインターフェイスです。画面をタップしたところに4方向のコントローラーパネルが表示され、あとは4方向のボタンを押して主人公を動かしていくという形にしました。何もない場所をタップすると、そこにコントローラーパネルが表示されるので、画面の右側をタップしてパネルを出せば、右手でも操作できます。

――なるほど、左右のどちらの手でも自由に操作できるのは便利ですね。

ユン氏: コントローラーパネルを自由に配置できることで、画面がコントローラーパネルで覆われて見えなくなるのを防いでいたりもします。

アン氏: 操作方法に関しては、いろんなバージョンを作って試しましたが、最終的にゲームに合ったものを選び、現在のような形になりました。

――操作まわりは、どのメーカーさんも試行錯誤していて、その開発にかなりの時間を割いているところは多いですよね。

アン氏: そうなんです。インターフェイスが使いにくいと、ゲームとして楽しめないので、時間を割いて開発してあります。おかげで満足いくものになったと思います。


【スクリーンショット】
画面をタップした場所にコントローラーパネルが現われる。操作しているドワーフが指で隠れる位置になったら、別の場所をタップすればいい



■ まずはオープン記念で無料配信し、その後有料に

――「DWARF COMPLETE」の配信は、どのような形になるのでしょうか?

ユン氏: まずはオープン記念として、有料版を期間限定で無料配信して、たくさんの方に知っていただこうと思っています。その後、有料にしていきます。

――有料版はいくらで配信するのですか?

ユン氏: 230円の予定ですが、時期に応じてセールとして115円に変えて配信していく予定もあります。さらに無料の体験版も用意します。

――そのような形にしようと思ったのはなぜですか?

ユン氏: 有料版・無料版のダウンロード数やランキングなどの影響などをいろいろ分析した中で、まずは遊んでいただくことを優先すべきだと思ったからです。iTunesのランキングで上がってきて、人気が出た頃にお求めやすい価格でご提供させていただき、ビジネスとしての船出を計りたいと考えています。その流れの中で定価販売とセール販売をタイミングを分けて展開していく予定です。今回は長期間ランキングに入れるというマーケティング法を採用しようと考えています。

――無料のセール期間が終わって、無料版から有料版に切り替えたとき、ランキングのカテゴリが変わってしまうかと思うのですが、そこはどうするのでしょうか?

ユン氏: 切り替えた時には、ランキングはやや落ちると思います。しかし我々は体験版も用意しますし、その体験版から有料版に誘導してビジネスとして成り立たせていこうと考えています。iTunesのランキングはiPhoneアプリの中ではやはり優良な広告媒体でもありますので、そこを上手く活用する手法を模索していこうと思っています。

――配信開始時だけ無料の完全版と、ずっと無料の体験版を両方出すということなのですね。

ユン氏: はい、そうです。ただし体験版は、開発の兼ね合いもあって同時ではなく、有料版を提供してから1週間後に配信する予定です。




■ 「DWARF COMPLETE」は女性陣だけで制作

iPhone好きの女性が集まって開発された「DWARF COMPLETE」。インタビュー中はゲームの見所だけでなく、iPhoneの面白さについても熱心に語ってくれた

――開発チームが女性陣だけというのは何か理由はあるのですか?

ユン氏: 意図して女性を集めたわけではありません。たまたま開発と企画のメンバーが集まったら女性ばかりでした。「DWARF COMPLETE」をiPhone/iPod touchで出したいという企画を提案したのが女性でしたし、それを開発するのもたまたま女性だったということです。それとWEB版は、特に女性のファンが多いんです。キャラクターといい世界観といい、「ちょっと難しいゲーム」というバランスといい、これは女子向きだと私は思っています。そんなこともあって、女性のスタッフが揃ったのではないかと思います。

――女性陣だけで開発チームを組むことはよくあるのですか?

ユン氏: いえ、ないですね。今回が初めての試みかもしれません。これまでの弊社のタイトルはヘビーなMMORPGが多かったので、どうしてもメインターゲットをやや男性向きに置いてしまうところもあり、開発スタッフも男性ばかりでした。「DWARF COMPLETE」は、WEB版を出したときに、意外と女性からの支持が多かったということも影響しているのかもしれません。そこがなぜウケたのか分析しながらチームを編成したら、女性チームになっていました。

――今後も女性だけのチームでアプリを開発していく予定はありますか?

ユン氏: どんどんやります(笑)。最近、iPhoneを使っている女性が急増しているので、女性向けのゲームを開発して、みなさんに楽しんでいただきたいと思います。

――女性が楽しめるゲームですか?

ユン氏: はい。開発陣が女性だからこそ、女性が楽しめるものを理解していると思うので、その点を活かして開発しようと考えています。今回だけではなく、今後のiPhone/iPod touch用アプリケーションに関しても、この女性チームが中心になってやっていくと思います。携帯のゲームで1番重視すべきなのは気軽さです。ライトゲームを好む女性は、いつでも時間があるときにゲームが遊べて、いつでもやめられるものがいいので、そういった方が楽しめるゲームをたくさんサービスしていきたいと思っています。

――女性らしいゲームとは、どういう感じのゲームになるのでしょうか?

ユン氏: 弊社が配信しているゲームだと、「ICE Tycoon」はかなり女性寄りなゲームです。単純だけどずっと遊べたり、ちょっと時間が空いてる時に楽しめるゲームが女性向きだと思います。あとやはり、キャラクターが可愛いものも女性は好みますね。

アン氏: キャラクターの可愛らしさはとても重要です。見ていて可愛いものだと、もっと楽しく遊べます。

――なるほど。今後も可愛くて女性らしいゲームの開発を楽しみにしております。




■ iPhone/iPod touch用アプリでエヌ・シー・ジャパンの社名をアピール

――iPhone/iPod touch用のアプリ開発に本格的に参入するということですが、エヌ・シー・ジャパンとしての狙いはどこにあるのでしょうか?

ユン氏: これまでエヌ・シー・ジャパン、あるいはncsoftという名前が、一般にどこまで浸透しているかということが課題となっていました。その中で今回は、コーポレートPRを含めた形でiPhoneビジネスに取り組んでいます。コアなゲーマーさんであれば、エヌ・シー・ジャパンは本格派のMMORPGのサービスをやっているというイメージがあると思います。しかし、それらのタイトルを抱えながらも新しい層を取り込んでいく必要がありますので、「DWARF COMPLETE」のようなカジュアルなゲームも作れる、ゲーム開発の幅の広さを持っている会社であるということをアピールするのが重要だと思っています。「ICE Tycoon」や「DWARF COMPLETE」は、ゲームのライトな層に向けたアプローチの意味も込めて配信しました。

――逆に「リネージュ II」などを遊んでいるような、コアなユーザーに向けたアプリはあるのでしょうか?

ユン氏: 具体的にはまだ言えないのですが、開発は進めています。先日開催したMMORPG「The Tower of AION」のオフラインイベントでは、あちこちでiPhoneからイベントの模様をツイートしている光景が見られました。既存のMMORPGタイトルとiPhoneは親和性が高いのかなと感じています。「DWARF COMPLETE」も「リネージュ II」のスピンアウト作ですので、そういった方々に向けたものでもあります。もちろん、一般の方々に向けて「リネージュ II」をPRできるようなスピンアウト作品の企画も進めています。

アン氏: 弊社の持ち味を存分に発揮できるようなアプリケーションはもちろん、ゲームだけにこだわらない便利なアプリなど、いろいろな方向に手を広げていきたいと思っています。

――新たな展開としてiPhoneというプラットフォームを選んだ理由は何でしょうか?

ユン氏: スマートフォンがここまで普及台数を伸ばしていますから、ゲームでもかなりの可能性があり、それを使わない手はないと思ってます。我々はゲーム屋として、常に新しいプラットフォームのことを視野に入れています。今まで、iPhone用ゲームを無料で提供させていただきましたが、これらはどちらかというとテストや広報活動という意味が強く、検証は十分にできました。しかもこれまで配信した全アプリの合計ダウンロード数が200万以上という結果にもなりましたので、それを踏まえて本格的に参入することにしました。

――どれくらいのペースで新作を配信する予定ですか?

ユン氏: 年内はこの「DWARF COMPLETE」が最後になります。今後はだいたい3カ月に1本程度の配信を予定しています。

――iPhone/iPod touch用アプリの開発チームは、どのくらいいるのでしょうか?

アン氏: 日本国内では開発は2ラインあります。また韓国のncsoftでもiPhone系のアプリケーションを開発してるラインが1本あります。

――現在はどんなアプリを開発しているのですか?

ユン氏: iPad版「DWARF COMPLETE」も近日公開しますし、既にローンチしているタイトルのiPad版も予定しています。さらにタイトル名は明かせないのですが、「plaync」で楽しめるゲームの移植や、全くのオリジナルタイトルもありますし、かなりの大作も開発しています。来年度は開発スピードも上がってきて、いろいろなタイトルを配信できるようになると思います。

アン氏: 来年に向けての企画もどんどんやっていますので、楽しみにしていてください。

――ほかに計画していることはありますか?

ユン氏: 他の企業とタイアップしたアプリを検討しています。タイアップ効果によって新規ユーザーを獲得できますし、新しいビジネスモデルにもなるのではないかと考えています。また、iPhone/iPod touch用アプリと「plaync」の連携もできますので、今後は様子を見ながらiPhone/iPod touch用ゲームで楽しんだ成果が「plaync」に反映されるような形にもしたいと思っています。

――最後のこの記事を読んでいる方にメッセージをお願いいたします。

ユン氏: 遊んでいただければ絶対にハマる! と言える自信がありますので、ぜひ遊んでみてください。私自身もすごくハマったゲームですし、ひとりでもたくさんの方にプレイしていただきたいと思っています。ぜひ「DWARF COMPLETE」の世界を楽しんでいただければと思います。

アン氏: 私も自分でハマったゲームでもありますし、パズル好きにはたまらないゲームだと思います。たくさんの方に楽しんでいただきたいです。

――本日はありがとうございました。


【ゲームプレイムービー】


(2010年 11月 26日)

[Reported by 川村和弘]