【連載第14回】開発者が語るiPhoneゲームの最先端

iPhone Spotlight Report

オンラインゲーム運営のNCジャパンがiPhone/iPod touchに参入
新作「Ice Tycoon」の発表とともに、今後の展開を語る

 世界中でブームを起こし、携帯電話市場を一変させたiPhoneは、新たなゲームプラットフォームとしても注目を集めている。本連載では、iPhoneゲーム開発者へのインタビューから、最新のトレンドや魅力を探っていく。



3月19日 収録


 Windows用オンラインゲーム「リネージュ」シリーズでおなじみのエヌ・シー・ジャパン株式会社が、iPhone/iPod touch用ゲーム「Ice Tycoon」を3月26日に配信する。

 同社はこれまでに2本のiPhone/iPod touch用ゲームを配信しているが、会社としてニュースリリースを打つといったことはしておらず、App Storeでひっそりと配信されている。しかしながら、2タイトル目の「Can Shooter」は日本でApp Store内の無料ゲームダウンロードランキング1位を獲得するヒット作となった。

 そこで今回は、同社が手がける作品の紹介を交えながら、PCオンラインゲームパブリッシャーがiPhone/iPod touchの市場に取り組むことになったきっかけや、今後の展開について尋ねた。インタビューに答えていただいたのは、iPhone/iPod touchアプリのプロデューサーを務める金炫氏と、ディレクターの崔永学氏、広報担当の金子晃利氏。


プロデューサーの金炫氏ディレクターの崔永学氏広報担当の金子晃利氏



■ まずはplayncのミニゲームを移植

――エヌ・シー・ジャパンがiPhone/iPod touchのアプリを取り組むことになったきっかけを教えてください。

金炫氏: 弊社ではPC向けのオンラインゲームを中心に事業を行なっています。これまでのオンラインゲームは家のPCで遊ぶものが主流でしたが、技術の発展にともなって、最近では家の外でiPhoneやモバイル端末を使ってゲームを遊んでいる光景をよく目にするようになりました。今後は、PCオンラインゲームのお客様だけではなく、他のプラットホームを楽しんでいる方々にも、弊社のサービスやゲームを提供していこうと考え、iPhone/iPod touch用アプリの開発に着手しました。去年から少しずつ準備してきていまして、現在は、今後どのように展開していくか戦略を考えているところです。

――ゲーム専用機ではなくiPhone/iPod touchを選んだ理由は?

金氏: 基本的には開発しやすいことが挙げられます。それと指で操作するタッチ操作が面白く、PCでのマウス操作がiPhone/iPod touchでの指の操作と非常に近いものがあったからです。

――今回、既存のFlashゲームの移植となる「Can Shooter」と「Ice Tycoon」を出してきましたが、これを選んだのはなぜですか?

金氏: まずはiPhone/iPod touch市場の可能性を確認するために、何か開発する必要がありました。それには移植作が楽ですので、弊社が運営しているplayncのFlashゲームで人気のあるタイトルを選んだところ、その2つになったという訳です。


playncでは「リネージュ」などのオンラインゲームのほか、約120種類のカジュアルゲームや、SNSが提供されている。ミニゲームは今後も新作が追加される予定



■ エヌ・シー・ジャパン第1弾「幻桃記」は、オリジナル作からスタート

――そのエヌ・シー・ジャパンの第1弾として出されたのは、オリジナルタイトルである「幻桃記(げんとうき)」ですね。これはどんなゲームなのでしょうか?

金氏: 昔ながらのパズルアクションゲームで、迷路状になったステージで落ちているアイテムを駆使しながら仕掛けを突破したり、敵を倒して進んで行き、扉までたどり着けばクリアとなります。全24ステージが用意されていて、アイテムを使う手順をじっくりと考えて進む、思考型のパズルゲームになっています。何度も挑戦して解くもので、クリアした時には達成感があるゲームです。

――開発のきっかけは何だったのでしょうか?

金氏: 弊社の兄弟会社のエヌ・シー・ソフト・ジャパン(韓国NCSoftの子会社で大阪にある)で、多くのFlashゲームを開発しておりまして、「幻桃記」も元々はFlashゲームとして企画していた中の1つでした。プレーヤーがモンスターを倒しながら進んで行くパズルみたいなゲームとして企画していたものです。このゲームの開発中にiPhone/iPod touch用のアプリが流行ってきましたので、まずはトライアルとして、iPhone/iPod touch用ゲームに挑戦してみようということになり、急遽開発プラットフォームを切り替えることになりました。

――実際に出してみてダウンロード数や評判はいかがでしたか?

金氏: 期待していたほどの数字ではありませんでした。初めてのタイトルということで経験もなかったのですが、最初に出した有料版のダウンロード数はよくないです。あとからLite版を提供したのですが、こちらはある程度ダウンロード数がありました。頭を使って攻略していくゲームを好むお客様には好評を頂きました。

――iPhone/iPod touchの開発には、スピードが求められています。本作は3人で開発し4カ月かかったそうですが、その点はどのように捉えていますか?

金氏: あくまでトライアルとしての作品だったということもあり、慣れるために時間をかけています。


【幻桃記】
たいまつで草を燃やしたり、ツルハシで地面に穴を掘ったり、手裏剣で敵を倒したりと、画面内に散らばるアイテムを駆使して仕掛けや敵を突破してゴールの扉を目指す。順序通りに進まないとクリアできないステージもあり、パズルを解くように頭を使って考えながら何度も挑戦して楽しめる



■ 「Can Shooter」は告知なしに大ヒット

――その次に「Can Shooter」を作られていますが、これはどのくらいで作られたのですか?

金氏: iPhone/iPod touch用に多少アレンジを加えてありますが、playncで展開していた既存のFlashゲームからの移植ということもあり、1カ月くらいで完成しました。

――「Can Shooter」はどんなゲームなのですか?

金氏: 5年前に韓国でWEBゲームとして誕生したもので、ジュースの缶をドラム缶に投げ入れるゲームです。投げる方向を決める矢印が左右に動き、さらに風の方向と強さも影響するので、タイミングよくボタンを押して投げていきます。ステージが進むと上がると風が強くなります。ドラム缶の中に何度も綺麗に入れると、一定時間無風になるフィーバータイムという仕掛けも用意してあります。

――こちらは評判がいいとのことですが、ダウンロード数はどれくらいですか?

金氏: アジアと欧州各国で、ダウンロードランキングで高い順位を獲得しました。フランスでは最高順位が3位、ギリシャや香港などでは1位を獲得しています。今の時点では全世界累計で60万ダウンロードになっていて、そのうち日本は20万ダウンロードくらいになっています。日本でダウンロード数が多いのは、日本のplayncで本作を告知しているからだと考えています。もちろん、無料だからという影響も大きいと思います。

――最初からヒットしていったのでしょうか?

金氏: 配信されてからすぐにダウンロード数が上がっていき、その後口コミで広まっていった感じです。

――ダウンロード数がわかるグラフを見させていただきましたが、これを見ると2回の山ができています。これは何か理由があるのですか?

崔氏: 1つ目の山が、ちょうど週末にあたる部分です。1度週末に上がり、口コミで広まるにつれてさらに上がっていきましたが、平日になるとダウンロード数が減っていき、また次の週末になると盛り返すという感じでした。

金氏: 週末で仕事や学校が休みの時にダウンロード数が増える傾向があるようです。そこで、今度出す「Ice Tycoon」は週末前の26日金曜日に配信することにしました。

――「Can Shooter」は、プロモーション活動はあまりしていないように思えるのですが、どこかで紹介されたりといったきっかけはあったのでしょうか?

金子晃利氏: 日本のApp Storeで無料ゲームのダウンロードランキングで1位になりましたので、どこかに載ったというよりは、おそらくダウンロードランキングに入れたことが多く影響していると思います。

――世界的に見ても同じような状況でしたか?

金子氏: 「Can Shooter」に関しては、同じような傾向でした。

――プロモーションはしていないのですよね。

金子氏: playncでの告知を除けば、マーケティングや何かを仕掛けたりということは、一切していません。ユーザーの皆さんが自力で無料ゲームを探してきて、それでランキングに載ったことが最大のプロモーションだと思っています。社名で押したりもしない状況でiPhoneのビジネスをスタートしていますので、メーカーの知名度というよりも、ゲームの面白さから口コミで広がり、ダウンロードランキング上位を獲得していったのだろうと分析しています。


【Can Shooter】
缶をドラム缶に放り投げて入れるだけの単純なゲーム。風の強さを計算しながら投げる方向を決め、シュートする。ステージが進むと風が強くなり、うまく投げ入れるのが難しくなっていく



■ 第3弾「Ice Tycoon」が26日から配信開始

新作の「Ice Tycoon」まではテスト段階という金氏。ただplayncの人気タイトルだけに、それなりの期待はかけているようだ

――26日に配信予定の「Ice Tycoon」はどのようなゲームなのでしょうか?

金氏: プレーヤーがアイスクリーム屋さんになって、客の注文通りにアイスを作っていくゲームです。注文を見て、カップを選び、アイスクリームやトッピングを注文通りになるように、画面をタッチして積み重ねて行きます。注文通りに作れると代金がもらえますが、ちゃんとアイスクリームが作れないと、ゴミ箱行きとなってしまい材料が無駄になります。このゲームではアイスクリームを販売したお金で、材料を仕入れていくので、何度も失敗していると材料が購入できなくなりゲームオーバーになってしまいます。

――「Ice Tycoon」を開発することになったきっかけは?

金氏: 「Can Shooter」同様に、playncで人気があるタイトルだからです。それに、iPhone/iPod touchのタッチする操作感がゲームに合っていたからでもあります。

――iPhone/iPod touch向けに移植するにあたって、気をつけた点はありますか?

金氏: アイスクリームを買いに来る客のキャラクターを、plaync版から変更してあります。iPhone/iPod touchはグローバルなサービスになりますので、一部のキャラクターを削除し、代わりに黒人や白人などのさまざまなキャラクターを追加しました。世界中のユーザーが楽しめるよう、人種的な片寄りがないように配慮してあります。

崔氏: アイスクリームだけでは地域性を出すのは難しい部分がありました。ワールドワイドな切り口として見せやすい部分が、登場する客のキャラクターだったからです。

――ゲームの価格はいくらですか?

金氏: 当初は有料版と無料版の2種類を用意する予定でしたが、無料版だけで展開することに決まりました。多くのユーザーに遊んでいただいて、エヌ・シー・ジャパンのブランドを広げていこうという考えでいます。

崔氏: 「リネージュ」など、自社タイトルへ誘導広告が入っています。

――今後もこのような展開でiPhone/iPod touch用ゲームを配信していくのでしょうか?

金氏: 弊社としては「Ice Tycoon」までは、iPhone/iPod touch市場を探るテストとして捉えています。今後もplayncのゲームの移植は続けていきたいと考えていますし、新しく開発するゲームであれば、いろんなビジネスモデルや売上的なことも考えた上で展開していこうと思っています。


【Ice Tycoon】
客の注文通りにアイスクリームを積み重ねて作っていくゲーム。制限時間内に目標販売金額に到達するとステージクリア。客を待たせすぎると怒りだしてしまうので、正確でスピーディーなアイスクリーム作りが要求される



■ PCオンラインゲームと連携したiPhone/iPod touchアプリを開発中

――今後のラインナップは決まっているのでしょうか?

金氏: 具体的な内容はまだお話しできませんが、今後はいままで経験したものを活かして、クオリティの高いもので有料化できるようなコンテンツをやっていきます。また、弊社では「リネージュ」などのオンラインゲームを運営していますので、その強みを活かし、連携したアプリなども考えています。

――韓国のNCSoftがiPhone/iPod touchで出している、オンラインゲーム「AION」用の連携アプリみたいな形になるのでしょうか?

金氏: はい。韓国の「AION」連携アプリは2種類あるのですが、無料用アプリ「Powerwiki」では「AION」のゲームのデータをiPhone/iPod touchで簡単に見られるようになっています。有料アプリ「AION TEM」では、ゲーム上のアイテムの価格がリアルタイムでわかり、さらにトレードなどを行なえるようになっています。PCで遊べない環境の時でも、iPhone/iPod touchを使って、「AION」の様子を確認して楽しめるものとなっています。そのようなアプリを日本で運営しているタイトルで行なう予定で準備しています。

――外出先でもゲームの状況が見られるというのは画期的ですね。いつごろ提供できる予定ですか?

金氏: 今は企画の段階で、時期はまだ未定ですが、決まり次第、お知らせしたいと思います。

――ほかに計画していることはありますか?

金氏: 他の企業とタイアップしたアプリを検討しています。タイアップ効果によって新規ユーザーを獲得できますし、アプリを広めることで新しいビジネスモデルに繋がるのではないかと考えています。また、iPhone/iPod touchアプリとplayncの連携もできますので、今後は様子を見ながらiPhone/iPod touch用ゲームで楽しんだ成果がplayncに反映されるような形にもしたいと思っています。

――最後のこの記事を読んでいる方にメッセージをお願いいたします。

金氏: 今後も弊社のゲームを楽しんでください。もしゲームに対しての要望などがございましたら、App Storeのレビューなどにご意見をお願いいたします。それらのご意見を反映して、もっとクオリティの高いゲームを開発していきますので楽しみにしていてください。

――本日はありがとうございました。


【AION Powerwiki】
Windows用オンラインゲーム「AION」に登場するアイテムや武具、敵などのゲームに登場するデータなどを調べられる便利アプリ「AION Powerwiki」。韓国版のみだが、日本でもダウンロードして使える

【AION TEM】
韓国で運営しているWindows用オンラインゲーム「AION」と連動したiPhone/iPod touch用アプリ「AION TEM」。PCが使えない場所でも、iPhone/iPod touchからアイテムの現在価格を調べたり、トレードを行なったりできる


(2010年 3月 26日)

[Reported by 川村和弘]