コメディアンBJ Foxの脱サラゲームブログ
連載第15弾
「フローレンス」……それはコンソールゲーム一筋の僕が初めて浮気した相手だよ
2019年2月13日 07:00
連載初の携帯ゲームだ! 僕の考え方が古いと認めつつ、コンソールゲームメーカー、つまり”本当のゲーム”メーカーの元社員として、携帯ゲームをプレイすると少し違和感を感じてしまう。本当のゲームを裏切っているかのように。浮気しているかのように。常にそういう気持ちでAmazon Kindleを手にしていることを正直に告白しなければならない。
今プレイステーション 4とNintendo Switchの大活躍や、インディーズの到来やPCゲーミングの復活などのお陰でゲームの黄金時代が少し戻ってきたと言えるけど、6、7年前、「これは相当やばいね」と思う日もあった。にも関わらず、マスメディアはいつもゲーム業界が爆発的に成長しているぜ、と大騒ぎだ。
「あれはアプリだよ! ゲームじゃないよ」と僕はついつい大声で抗議したくなる。
大手の携帯ゲームメーカーが初めて東京ゲームショウに、大きく、しかもコンソールゲームメーカーより派手に出展した年は鳥肌がたった。ピーターパンのティンカーベルの世界では、子供が「妖精なんて信じないや」って言うたびに、どこかで妖精がぶったおれて死んじゃうという話だけど、当時僕の頭の中で、子供がアプリゲームをダウンロードするたびに、どこかでコンソールゲームメーカーのマーケ担当の責任者がぶっ倒れて死んじゃうんだと思っていた。
今は、少しだけ、ほんの少しだけ考えが大人っぽくなってきて、「ハースストーン」くらい認めてもいいなと思うようになった。Blizzardだから他のモバイルゲームよりまし。完全な浮気ではなく、過去に付き合ってた子とお茶する程度でしょう。だからこれは変節したわけじゃない。セーフ。
でも、2018年の見逃してしまったゲームリストや、ゲームオブザイヤーにランクインしたタイトルをザッと眺めていたら、1個のゲームが僕の目に留まった。
「Florence(フローレンス)」
どのゲームオブザイヤーリストにもあったし、携帯の項目のトップも多かった。しかも今時珍しいラブストーリーもの……。ラブストーリーのゲームっていうと、日本ならでの、しかもこの外国人の筆者が理解しようとしても無理な「恋愛ゲーム」だ。
「Florence」。主人公の女性の名前だからすると、もしかしてこれは海外の乙女ゲームかなぁ。開発は、伝説のパズルゲームの「Monument Valley(モニュメントバレー)」のデザイナーだし。iTunesストアでも数百円しかしないし、それなら携帯ゲームや乙女ゲームに対する偏見を一時的に棚に上げてダウンロードしてみた……。
まず、「Florence」はラブストーリーのゲームだけど、“海外乙女ゲーム”と言えるかはわからないんだね。その理由は、半分は僕自身がろくに乙女ゲームをプレイしていないから正直よくわからないのと、残り半分は、直感的になんか違う気がする。これはゲームとも言えるかわからない。快適に参加できるインタラクティブアート作品のようなもの。ひとつの女性の付き合いの全てをフォローする、小さな体験の集まり。
でもゲームとして、インタラクティブアート的な体験は意外と感動させられた。奇跡的ほどではないが、ゲームを始める前までは単なる時間潰しとして見ていた携帯ゲームなのに、遊んでみて少し自分の偏見を自覚した。
フローレンスは基本的に、難易度がごく低めなパズルゲームだろう。その楽しさは、パズルの解き方や解いた後の達成感ではなく、そのパズルによって主人公フローレンスの気持ちをどのように描写しているか、それを見守ることにある。
ゲームのカップルの「会話」は、ジグソーパズルとして表現される。出会ったばかりの時は、難しいんだけど、相手がお互いに知り合って関係が深くなるにつれて、解くパズルがより簡単でより素早く解けるようになって、喧嘩したらもうさらに簡単に解けるし、ああ解いてしまったと思うくらい。まさに喧嘩途中に考えずに言ってはいけない言葉を言ってしまった、その感覚だ。
最初のパズルの1個は、非常に簡単な数学ゲームだった。これは簡単すぎだろう!くだらないだろう!と思ったら、そうっか、これはアーティストの夢を持っているが、オフィスで事務的な仕事をせざるを得ない主人公の気持ちの描写だ、と気づいた。うまいね。
ところどころストーリーのネタバレをしてしまったが、このゲームの目的はストーリーそのものではなく、その瞬間をどう体験するか、それをどういう描写で行なうのかなので、事前にわかってしまっても楽しさが下がらないとは思う。
パズルの中では、ニンテンドーDSの時代に流行っていたタッチスクリーン遊びも多く懐かしい。「GTA:チャイナタウンウォーズ」では、タッチペンでガソリンを火炎瓶へ注ぎ込むゲームで、フローレンスでは恋に落ちた主人公として曇った鏡を指で拭く。拭いて幸せな将来を持つ自分がやっと見えた。「GTA:チャイナタウンウォーズ」の時は、こんなゲームは2度と、携帯ゲームでは生まれないだろうと思っていたが、その感動が蘇ってきた。
ゲームの体験としては短い。わずか2時間くらい。ダウンロードした日に新小岩でサッカーの試合があって、東京の西からの電車の行き帰りだけで全てクリアできたが、文句なし。一通りリレーションシップの起承転結を楽しめた。寂しい結末なのに、成長してきた主人公を見て将来への希望感も感じれらる。人生に様々な愛を体験してほとんどがうまくいかないだろう。でも時間がたったら、そのリレーションシップがあってからこそ、自分が成長するのだろう。
2時間くらいの飛行機や新幹線、あるいは鈍行の電車でも乗る時間があれば、ぜひこのゲームをオススメする。「時間潰し」という目的ではなく、携帯ゲームという“新しいゲームのカタチ”を体験するためだ。
「フローレンス」のラブストーリーをプレイしながら、僕はずっとコンソールゲームを裏切って携帯ゲームと浮気している感覚だった。今その浮気が終わり、携帯ゲームに対すう考え方が変わったのか? その2時間のリレーションシップを経て自分が成長してきたのか?
どうなんだろう? まあ、少しは成長したかな。確かに視野が広がって、携帯ゲームへの冷たさが少しだけ温くなった、かも。久しぶりに「ハースストーン」をダウンロードして遊ぼうかなぁ、という程度かな。