西川善司の3Dゲームファンのための「E3 2010」グラフィックス講座
定番のUE3.0から話題のPICA200まで。最新3Dグラフィックス事情


6月15日~17日 開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center




【著者近影】
 E3のMicrosoftブースにてKinectを楽しむ筆者(左)。今年の目玉、モーションコントロールシステム(MCS)に対して、あるゲーム開発者が「一昔前のモーションキャプチャシステムが、家庭用にやってきた印象」と言う感想を述べていた。確かに言われてみればその通り。こうしたMCSが立体視と組み合わさることで、Wiiとは違ったゲーム性が見出せるのか。期待したい。個人ブログはこちら

 今年のE3のホットトピックと言えば、やはり任天堂のニンテンドー3DS、そしてMicrosoftとSCEが送り出すモーションコントロールシステムということになるだろうか。

 Microsoftはシュリンク版(スリムアップ版)の新Xbox 360がやっと提供可能となった。今世代機としては1番早く世に登場したXbox 360は、当初のスタートダッシュの勢いがここ最近は落ち着き、今回の新Xbox 360の登場で、年末商戦にむけて攻勢を強めたい意向がある。

 SCEは、今回のE3で期待されていたPSP2のお披露目はなし。一説によれば、完全に仕切り直しになったというウワサもある。SCE側の新ハードウェアの登場は近々にはなさそうだが、PSP Goの苦戦には手早い対策が必要なことは誰の目にも明らか。今後のSCEの動きには目が離せない。

 今回は、E3会期中にフォローできなかった著名ゲームエンジンの最新動向をお届けすると共に、E3会期中に筆者が出会ったゲームグラフィックスの中から、印象に残ったモノを紹介しようと思う。



■ Epic Gamesの動きその1~UE3のAppleプラットフォームへの参入は可能か?

Epic Games副社長、Mark Rein氏
茶目っ気たっぷりのMark Rein氏。Appleとの政治交渉の行方は彼次第?

 E3期間中、とある取材が終わり、ロサンゼルス・コンベンションセンター近隣のホテルのロビーを歩いていたところ、筆者を初めとする日本人メディアを呼び止める声が。Unreal Engine 3(UE3)の開発元で知られるEpic Gamesの名物副社長、Mark Rein氏であった。

 Epic GamesのUE3は、北米ゲームスタジオでの採用例が多く、今年のE3の注目作で言えば「HOMEFRONT」(THQ)、「BULLETSTORM」(Electronic Arts)などにも採用されている。日本ではともかくとして、欧米ではUE3はすでに不動の地位を築きつつある。

 そんなUE3が、最近、これまでとは違った動きを見せている。これまでは、UE3はPCを皮切りに、PS3やXbox 360といったハイスペックマシン向けのゲーム開発に特化したものであったが、ここ最近、Epic Gamesが力を入れてきているのは、なんと、UE3のモバイル機器への展開だ。

 「ハイスペックゲームエンジンのUE3がモバイル機器へ」というと、あまり具体的なイメージが湧かないかもしれないが、実は、近年、GPUメーカーがモバイル機器向けGPUの機能強化に力を入れてきているため、フルスペックは無理にしても、かなりハイクオリティなリアルタイム3Dグラフィックスをモバイル機器で動かせるようになってきているのだ。

 その象徴的なデバイスを挙げるとすれば、AppleのiPhoneを他においてない。最近出たばかりのiPadはもちろん、次世代機のiPhone4に至るまで、Imagination TechnologiesのPowerVR系GPUを搭載しており、これはDirectX 9世代プログラマブルシェーダー2.0(SM2.0)対応GPUに近い性能を有している。嘘か真か、次世代PSPへの採用がウワサされていたGPUも、このPowerVR系だったということは本連載でもレポートしたとおり。

 ここ最近のEpic Gamesは、とにかくビジネスに関してのフットワークが異様に早く、今度の「攻め先」は携帯機器、あるいは組み込み機器向けGPUと踏んで、活動しているのだろう。前出のMark Rein氏は、現在、Appleとの調整に奔走している旨をほのめかしていた。

 しかし、Appleは基本的に自社以外のAPIを使用してのiPhoneやiPadへのソフトウェア開発を禁じている。このためにこれまでAppleと蜜月関係にあったはずのAdobeのFlashがiPhone/iPadプラットフォームから閉め出されたままなのは周知の事実だ。

 Appleは、このようにiPhone/iPadアプリケーションのクロス開発環境を排除する動きを活発化させたため、UE3のような汎用ゲームエンジンは、参入そのものが、Appleによって門前払いを喰らう可能性があるのだ。Mark Rein氏は「なんとかなる」と笑顔を見せるが、果たしてどうなるか、注目されるところではある。

 Rein氏は「日本もiPhoneやiPadのユーザーは多いんだろう?」というと、おもむろにiPhoneやiPadを懐から取り出し、我々にiPhoneやiPadの実機で動作するUE3のテクニカルデモを見せてくれた。

 iPad版UE3デモは、キーボードとマウスを模倣したタッチコントロールと、ジョイパッドの左右のアナログスティック操作を模倣したタッチコントロールの2種類が利用可能で、テクニカルデモのわりには完成度が高い。また、たくさんのシェーダーが動いているようには見えなかったが、パフォーマンス自体はそれなりに高かった。なによりも、高度なゲーム開発を、UE3のフレームワークを利用して行なえるのは魅力的であるし、フルスペック移植は到底無理にしても、開発者にとって、PS3、Xbox 360用に開発したタイトルを少ない労力で移植できるかも知れないという期待感にも魅力がある。


【UE3 for iPhone】
iPhone 3GSで動作するUE3のウォークスルーデモ

【iPadで動作するUE3テクニカルデモ】


■ Epic Gamesの動きその2~カーナビや建築などノンゲーム分野への進出を加速

Epic Gamesジャパン代表の河崎高之氏
NVIDIAのTEGRA2の開発評価ボードで「Dungeon Defenders」のデモを見せてくれたRein氏

 さて、そのEpic Gamesはこの春、日本オフィスを構えたばかりであり、今後、積極的に日本での活動に力を入れていくという。その具体的な方針について、今回、Epic Gamesジャパン代表の河崎高之氏に話を伺うことができた。まず、Epic Gamesは生まれながらにしてのゲーム屋(ゲームスタジオ)であり、日本での活動の中心は、やはり、メインプロダクトであるゲーム開発フレームワークUE3の普及であるのだそうだ。

 「いうまでもなく、PS3、Xbox 360といったコンソール機向けゲーム開発用のUE3のサポート拠点としての側面がメインになり、これが日本オフィス全体としての活動の80%を占めることは間違いない」(河崎氏)、としながらも、日本オフィス独自のビジネス展開も思案中なのだとか。

 まず、前出のRein氏が見せてくれたテクニカルデモの存在からもわかるように、日本でも携帯機器や組み込み機器への進出に力を入れていく。iPhoneもそうだが、Android携帯、googleTVなども新たな活躍の場としてEpic Gamesは睨んでいるのだ。また、日本では、他国よりもカーナビが進んでいる関係で、車載コンピュータの分野にもUE3が入り込めるのではないか、と彼らは考えている。

 結局、事実ではなかったが、任天堂の3DSへの採用がウワサされていた、NVIDIAのTEGRA2は、カーナビ、車載コンピュータ方面への進出にも力を入れている。ご存じの人も多いと思うが、TEGRA2のGPUのシェーダーコアはG72(GeForce 7300系)をベースにしており、DirectX 9世代SM3.0相当のポテンシャルがあり、UE3のグラフィックスをもフルポテンシャルに近い形で動作できる。

 Rein氏は、続いて、GPUにTEGRA2を搭載したAndroidプラットフォームのUE3のデモを見せてくれた。このデモでは、無償版UE3のUDK(Unreal Development Kit)で製作されたストラテジーゲーム「Dungeon Defenders」のフルスペック版のプレイアブルが動作しており、Appleプラットフォーム版のUE3以上に完成度が進んでいるようであった。

 日本の自動車メーカーや自動車周辺産業は、TEGRA2の評価を進めており、近い将来、カーナビ用のゲームアプリ開発プラットフォームとしてUE3が採用されるなんてこともあるかもしれない。

 また、河崎氏によれば、Epic Gamesジャパンが考える、日本ならではのUE3の進出分野として有力視しているのが「パチンコ/パチスロ」だという。パチンコやパチスロのゲーム機には高品位な液晶画面と高性能な組み込み向けGPUが搭載される事が多くなってきており、それこそTEGRA2もこの分野への進出が確実視されているのだ。

 そこで、このパチンコやパチスロのゲーム展開に応じたリアルタイムグラフィックスの製作にUE3を使ってもらおうとEpic Gamesジャパンは考えているのである。既にこの分野にはいくつかのミドルウェアが存在するが、UE3ほどの多機能な開発スイートは存在しない。確かに、ここには期待が持てそうだ。

 また、河崎氏は、Epic Gamesジャパンは「ノンゲームビジネス分野」も視野に入れて動き始めていることも明かしてくれた。ノンゲーム、つまり、ゲーム以外へのUE3への応用のことである。その一例として挙げてくれたのは建築業界であった。

 もっとも小規模なものとしては、家を新築する際の、完成予想状態のその家のウォークスルーデモだ。最近の量産建築では、ユニット工法が主流であり、このメカニズムをうまくUE3のレベルエディタと融合させれば、わずかな時間で、顧客のオーダーした家を仮想空間上に再現でき、その中をゲームパッドで歩き回れるデモを提供することができる。確かにレベルエディターならば、間取りだけでなく、屋内の家具やインテリアの配置も容易に行なえそうだ。憧れのマイホームが完成する前から、家の中を歩き回れる体験はかなり楽しそうだし、PCのランタイムとしてお客さんにプレゼントすれば、かなり人気が出そうではある。

 一方、大規模な建築分野への応用としては、「都市計画シミュレーション」にUE3を活用する事だという。既に、本連載でもレポートしたとおりだが、UE3の2010年最新版では、建物のプロシージャル生成が可能となった。これにより比較的大規模な街並みを少ない手数で生成することができるようになった。この技術を応用するわけだ。建物、道路、公園などをどう配置すべきか、駅などの交通機関からの人の動線に配慮した街並み作りを、UE3で行なおうというのだ。

 河崎氏は、「既にノンゲーム分野の進出は、技術的には可能だが、解決すべき課題も多い」という。その1つはライセンス形態。これまでゲーム製作向けのラフセンスプログラムしか用意していないUE3では、新たな料金体系を整備する必要があるというのだ。もう1つは、「ゲームエンジンへの懐疑的な眼差し」の問題。欧米では、ゲームエンジンの軍事利用が行なわれるほど社会進出が進んでいるが、日本では、「ゲーム=オモチャ」の認識が強いことから、先入観として信頼してもらえない部分があるのだとか。


【Dungeon Defenders】
TEGRA2搭載のAndroidプラットフォームで動作するUE3ベースのゲーム「DUNGEON DEFENDERS」。この作品は無償版UE3であるUDKによって製作されたもの。実際にゲームでプレイすることができた



■ TRIOVIZの追加フレームレンダリング無しのゲームグラフィックスの立体視化レンダリング技術

 Epic GamesはUE3で立体視に対応したことは既に本連載のGDC編でレポート済みだが、Epic Gamesブースでは、既存のUE3ベースのゲーム(実際にはUE3ベースでなくても良い)を、立体視に自動的に対応させるミドルウェアの展示も行なわれていた。

 このミドルウェアの開発元はTRIOVIZで、社名と同名のTRIOVIZテクノロジーにより、3Dグラフィックスベースのゲームを自動的に立体視に対応させる。そのアルゴリズムとは、3Dグラフィックスをレンダリングした後に残るZバッファの内容を再利用することで実現される。

 具体的には、Zバッファの奥行き情報を元に、レンダリング済みの2Dフレームをサンプリングして立体視用のフレームを生成する。左右の目で大きく視差の異なる部分、たとえば、左目からは見えないが右目からは見える部分については多少の矛盾が発生する可能性があるが、なにより、立体視用に追加のフレームをレンダリングする必要がないというパフォーマンス面での大きな利点がある。

 Epic Gamesブースでは、このTRIOVIZ技術を応用して立体視化した「Gears of War2」の1シーンがプレイすることができた。もともと立体視用に作られていないため、かなりプレイ難易度は高かったが、立体視としての飛び出し感、奥行き感は良好であった。

 ストテラジーゲームのような立体視体験そのものが大きくゲーム性を左右しないタイトルであれば(つまり、立体映像であることが映像効果にだけ影響するゲームであれば)、このアプローチの立体視でも十分に立体感が楽しめるとは思う。ダウンロードコンテンツなどで、立体視を後付け要素として格安に提供するソリューションとしては面白いかも知れない。


【TRIOVIZテクノロジー】
TRIOVIZ技術によって立体視化された「Gears of War2」の1シーン。実際にプレイすることができた。ただし、難易度は高かった。


■ ポストプロセスを立体視に対応させた「CryEngine3」

「Codename: Kingdom」はCrytekとMicrosoftが手を組んだ初作品となる
Crytekは「立体視対応レンダリングの基本概念として、ピントが合っている部分に各目の視界を合わせることが大事である」としている(図中右)

 今回のE3において、Crytekは1つ大きな発表を行なった。それはCrytekがMicrosoft Game Studiosを次回作のパブリッシャーとして選んだということだ。一瞬のティザー予告編だが、以下に、Microsoftのプレスカンファレンス中に公開されたそのアナウンス映像を示す。

 これについて、CrytekのSEAN PATRICK TRACYに聞いてみたところ、今、話せるのは「これから徐々に情報を公開していくこと」、「ストーリーの下地はローマ時代」と言うことだけだとのこと。詳しくは語られなかったが、ドイツのGames Convention(7月8日開催)、東京ゲームショウ(9月16日開催)にて、何らかの追加アナウンスがあると見られる。まさに続報を待てといったところだ。

 さて、Crytekは、今回のE3で、同社のゲーム開発フレームワーク「CryEngine3」(CE3)の最新機能を、プライベートルームにて開発関係者だけに披露していた。  筆者も特別に、こうしたミーティングに同席させてもらったのだが、最大のアップデートは、CE3のゲーム世界構築ツール「Sandbox」のプレビュー画面が立体視に対応したことだろう。これにより、ゲームシーンの構築時、開発初期段階から立体視に配慮することが可能となる。

 また、レンダリングエンジンも本格的な立体視に対応したことも報告された。「立体視向けレンダリング」というと、左目用、右目用のそれぞれのフレームを高速にレンダリングする事ばかりに意識が行きがちだが、忘れてならないのは、近年の3Dゲームグラフィックスの処理負荷のかなりの割合をポストプロセスの部分が占めているという事実だ。

 ポストプロセスはいわば画面座標系での処理であり、喩えるならば「ピクセルシェーダーによるフォトレタッチ処理」のようなものになる。これはいうまでもなく“3D処理”ではなく“2D処理”である。もちろんポストプロセスの実装形態にもよるが、たいていの場合は、奥行き方向を無視して、出来上がった2Dフレームに対して二次元的に処理を施してしまう。


【「Codename: Kingdom」トレーラー】
Crytekが発表した謎のプロジェクト「Codename: Kingdom」。当然、Microsoftと組んだことでPCもしくはXbox 360専用タイトルとなるはず

【CE3のポストプロセス処理】
ポストプロセス・オフ
画面座標系の大局照明技術「Dynamic Occlusion」、別名「Screen Space Global Illumination」(SSGI)のポストプロセスをオンしたところ。CE3ではSSGIも立体視に対応したという事で見せられたデモ。……ほんとか?

CrytekのSEAN PATRICK TRACY氏

 例えば、「湯気が向こうの景色を揺らす」という、効果(水面下に見える水底の景色が水面のさざ波によって屈折して歪んで見えるような効果も同様)。これは一様に完成フレームをうねらせるような変位処理を加えて加工するだけでも、通常の2D表示ではそれっぽく見える。

 ところがこれをそのまま立体視に応用すると、湯気で歪んだ向こう側の景色が、手前とも奥とも付かず変な見え方をしてしまうのだ。よくよく考えると当たり前で湯気で歪んだ向こう側の景色にも遠近があるのだ。それを遠近を無視して揺らせてしまってはおかしくなるのも当たり前なのである。

 そこでCE3では、こうしたこれまで無視されがちだった3Dゲームグラフィックスにおけるポストプロセスについても、代表的なモノは立体視に矛盾が起こらないような実装に改編したのだという。

 今後、立体視ゲームプレイが浸透していくと、3Dゲームグラフィックスは立体視時のクオリティで比較、評価されるようになるはずで、CrytekではCE3をいち早くその要求に対応させたということなのだ。

 この卓越した立体視機能に対応したゲームタイトルとしては自社開発の「Crysis 2」が採用第1号作品になる。発売は2010年内を予定。この「Crysis 2」は、Xbox 360、PS3、PC版の全てが立体視に対応する予定だが、各機種によってフレームレート、レンダリング解像度は異なるとのことだ。また、立体視時の詳細描画スペックも非公開。なお、撮影が禁止とされたが、筆者が今回体験した「Crysis 2」の立体視プレイデモは、以下の映像に含まれるシーンであった。これは、E3会期中に配布された「Crysis 2」の広報素材だ。参考までに以下に示しておく。


【「Crysis 2」最新トレーラー】


■ 奇才Carmackのid Tech5がついにお披露目。星のカービーのアイディア・グラフィックスに感激!

 今回のE3で、感銘を受けたゲームグラフィックスがいくつかあるので、それらを紹介しておこう。

 1つは、奇才John Carmack氏率いるid softwareの「Rage」だ。なお、id softwareは、2009年に「Fallout」シリーズで知られるBethesda Softworksにより買収されたため、今作「Rage」のパブリッシャーは、必然的にBethesda Softworksになる。

 さて、「Rage」のゲームエンジンはid softwareの第五世代ゲームエンジン「id tech5」と呼ばれるもので、いわゆる「DOOM IIIエンジン」として呼ばれてきたモノの次世代版という位置付けになる。

 「DOOM IIIエンジン」が、GeForce FX世代、つまり、DirectX 9世代SM2.0対応GPU向けだったが、今回のid tech5は、表向きにはDirectX 9世代SM3.0対応相当になっただけという見方が強い。ハイダイナミックレンジレンダリング、モーションブラー、被写界深度のシミュレーション、ソフトシャドウ……などの最新表現はほぼ全て踏襲するが、ジオメトリシェーダーやテッセレーションへの対応は表明されていない。

 このエンジンの特徴は、そうしたGPUの新フィーチャーへの対応よりは、テクスチャの動的管理にあるようだ。MEGA TEXTUREテクノロジーと命名されたこの技術は、ハードディスク(ストレージ)→メインメモリ→ビデオメモリを統合的に管理制御した作りになっており、テクスチャデータをシームレスにストリーミングしながら適用していく技術になる。

 一般的な3Dゲームグラフィックスエンジンにおけるテクスチャ適用は、各シーンにテクスチャ予算を設けて、その容量の範囲でテクスチャをやりくりする。例えば煉瓦のテクスチャを家に適用する際、本当は、家ごとに煉瓦のデカールや法線マップを変えたいが、容量制限があるから、同じ煉瓦のテクスチャを使い回したりする。

 この妥協は広大なオープンフィールドを描写するときに「反復パターンの露呈」と言う形でユーザーにばれる。ゲームをプレイしていて、草原シーンで地面の雑草テクスチャが繰り返しになっているのに気がついたり、渓流沿いの石垣模様に継ぎ接ぎがあるのに気がついたり、と不自然な表現に遭遇することはままある。これは、テクスチャ予算があるためなのだ。

 MEGA TEXTUREテクノロジーでは、これをディスクメディアから動的にストリーミングして読み出しながら適用していくのだ。今回のE3のBethesdaブースでは、この「Rage」の冒頭シーンをシアターにて、プレイデモの形で紹介していた。

 「Rage」は、荒廃した惑星への入植者としての主人公の数奇な運命を一人称シューティング(FPS)の切り口で描いたRPGになる。砂漠化した広大なオープンフィールドワールドを描きながら、このMEGA TEXTUREテクノロジーの恩恵により、テクスチャの反復パターンがまったくわからない表現になっていたのは見事であった。


【Rage】
ゲームは「RED FACTION: GURRILLA」のような、各地でミッション(クエスト)を引き受けて遂行していくタイプのゲームのようだ。ちなみに、id tech5は開発に6年、「Rage」は既に開発が始まって3年が経過しているという。発売は2011年内を予定

 もうひとつご紹介しておきたいのは、Wii用の「Kirby's Epic Yarn」だ。刺繍の世界をカービィが冒険するアクションアドベンチャーゲームで、Wiiタイトルなので、シェーダーエフェクト的には、最先端ではない。しかし、毛糸の質感や、布が伸び縮みする陰影の感じなどはうまく表現できていて、まさにアイディアの勝利という感じのゲームグラフィックスだ。

 なぜ「星のカービィ」が当連載に? と思う人もいるかも知れないが、以下の映像を見てもらえれば、「アイディアの勝利」の意味がわかってもらえると思う。

【「Kirby's Epic Yarn」最新トレーラー】



■ 【おまけ】ニンテンドー3DSのGPU「PICA200」について

 最後におまけとして取り上げておきたいのが、まさにこの稿を執筆中に電撃的に発表された、ニンテンドー3DSに採用されたGPU「PICA200」について。事前にウワサされていたNVIDIAのTEGRA2ではなく、純国産のDMPのPICA200であった。このPICA200については、改めてこの連載でも取り上げていくつもりだが、ここでも簡単に述べておこう。PICA200はOpenGL/ES1.1に準拠した仕様を持つことから、PCで言うと世代的にはDirectX 7世代くらいのGPUになる。

【PICA200】
頂点単位のライティングに基本テクスチャのみ(左)、スペキュラマップを適用(右)
法線マップによるバンプマッピングを適用(左)、環境マップを適用(右)

PICA200はテッセレーション(サブディビジョン)機能を持つ

 プログラマブルシェーダー機能はあえて持たないのは消費電力を抑えるためだ。プログラマブルシェーダーはシェーダーをソフトウェア実装することができ、自由度が高い反面、「ソフトウェアを実行する」というプロセスにどうしても負荷がかかる。

 もともと携帯機器向けの組み込みGPUとして設計されたPICA200は、プログラマブルシェーダーの実装を潔くあきらめ、その代わり、よく使われそうな定番のシェーダーエフェクトを固定機能(ハードウェア)シェーダーの形で実装してしまったという設計背景がある。

 PCでは、複数のGPUメーカーの達の思惑が交錯して、機能の肥大化が進んだDirectXをリセットするために、WindowsプラットフォームはDirectX 8にてプログラマブルシェーダーによる新しい進化を採択したが、PICA200は、ある意味、「DirectX 7時代のGPUがもしもあのまま進化していったら?」ということを実現したGPUだとも言える。

 具体的に、どのような固定機能シェーダーが搭載されているかというと、映り込み表現のための「環境マップ」、微細凹凸表現のための「法線マップ」といった一般的なもののほかに、なんとプロシージャルテクスチャ生成機能や、テッセレーションまで備えている。テッセレーションと言えば、PCでいうところのDirectX 11世代SM5.0対応GPUに搭載されている機能だ。プロシージャルテクスチャ生成は、木目や大理石、雲のような自然物の模様を算術合成するテクノロジーで、今世代のゲーム機では、まだ応用例が少ない先進技術の1つだ。

 ニンテンドー3DSは、汎用性がある程度は無視できる閉じた固定仕様の携帯型ゲーム機であり、携帯機がゆえの徹底した省電力性能が求められた結果、TEGRA2ではなくPICA200が選ばれたのではないだろうか。


【PICA200のテッセレーション機能】
左がテッセレーション無効時(入力データ)。右がテッセレーション有効時。上の入力データを元にテッセレーションして、この分割結果を得る

(2010年 6月 22日)

[Reported by トライゼット西川善司]