レビュー
「Tides of Tomorrow」レビュー
誰かのプレイが難易度にすら影響する。Steamで「非常に好評」獲得のナラティブアドベンチャー
2026年5月13日 14:28
- 【Tieds of Tomorrow】
- 4月22日 発売
- 価格:4,389円
フランスのDigixArtが手がけ、THQ Nordicより2026年4月22日にリリースされたPC「Tides of Tomorrow」は、一見するとオーソドックスな一人称ナラティブアドベンチャーだ。だが、このゲームには他のアドベンチャーゲームにはない仕掛けがある。自分のプレイが、見知らぬ誰かの体験を変えていく「非同期マルチプレイ」だ。
本作の非同期システムの最大の特徴は、前のプレーヤーのプレイが自分のプレイに大きく影響する、という点にある。善意的なプレイ、悪意のあるプレイがモロに影響し、難易度にも関わるという大胆な仕組みになっている。そして、自分のプレイもまた見知らぬ誰かのプレイに影響を与える可能性があるため、どこか試されているような感覚がつきまとう。
開発元のDigixArtは、前作のアドベンチャー「Road 96」がSteamで「非常に好評」となっており、本作もまた「非常に好評」を獲得している。どういったゲームになっているのか、その内容を見ていこう。
プラスチックに沈む世界で、治療薬を誰かに渡せるか
舞台はエリンドと呼ばれる海没した惑星だ。何世紀にもわたるマイクロプラスチック汚染の末、プラステミアという病が蔓延し、感染した生物は体が徐々にプラスチック化して死んでいく。世界の人口は約26万人だが、章を追うたびに静かに減っていく。
廃プラスチックは建材にもなっているほどで、世界のビジュアルはカラフルだ。廃プラスチックで組み上げられた浮島が海上に点在し、人々はその上に住んでいる。こうした光景は一見鮮やかだが、それは汚染の証でもある。DigixArtはこの世界観を「プラスチックパンク」と呼んでいる。
プレーヤーは記憶を持たない生存者「タイドウォーカー」として、海岸に打ち上げられるところから物語が始まる。最初に出会うのはミスティックという古代の知識を崇拝する組織の後継者であるナーヘという若い女性だ。彼女と弟のエフォドに導かれ、エリンドの救済の鍵を握るとされる伝説の大渦「メイルストローム」を目指すことになる。
生存に欠かせないのが「オーゼン」という治療薬だ。放置すればプラステミアが進行してしまい、プラステミアが進行しすぎると特定のエンディングに到達することができなくなる。オーゼンはエリンドの通貨である「スクラップ」を集めて商人から購入するか、フィールドで拾うしかなく、意外なほど潤沢には手に入らない。
このオーゼンをめぐって、ゲームは何度もプレーヤーに問いかける。「自分のために使うか、目の前で苦しんでいるNPCに渡すか、あるいは次にここへ来るプレーヤーのために共有チェストへ入れておくか」。細かい選択肢の形は毎回少しずつ違うが、問いの本質はずっと同じだ。自分の生存と、見知らぬ誰かへの善意を、どう天秤にかけるかが何度も問われる。
ゲームシステムは1人称視点で進むアドベンチャーゲームだ。ルートはほぼ分岐せず、目的地も基本的には1箇所である。
基本的には自分のペースでキャラクターを動かしていくのだが、中にはスニーキングミッションや、ボートレースのパート、潜水艦で海中を探索するフェーズなどもスパイス的に盛り込まれている。
自分の足で歩き、NPCと会話し、選択肢や行動を選ぶことでゲームは進む。一方で、主人公のプラステミアの症状も進行していく。そんな予断を許さない状態でのプレーヤーの選択が、物語の展開や、後ろに続くプレーヤーに影響するのだ。
前のプレーヤーの行動が、自分のゲームを作る
本作の核心は「オンラインストーリーリンク」と呼ばれる非同期マルチプレイにある。ゲーム開始時、プレーヤーはフォローするタイドウォーカーを1人選ぶ。フレンドや好きな配信者など、さまざまな選択肢がある。ほかにも、シードコードを入力することで特定のプレーヤーを指定することもできる。また、誰を追うかは章の合間に変更できる場合もある。
選んだプレーヤーが過去にどう行動したかが、自分のプレイに影響を与える。例えば、前のプレーヤーが無理に通過して、橋を壊したということもある。NPCが警戒を強化している時は、以前のプレーヤーが騒ぎを起こした場合がある。敵から隠れながら進んでいくときも、前のプレーヤーが隠れた場所をNPCがチェックしに来たりと、NPCたちは前のプレーヤーの行動を記憶している。
前のプレーヤーの行動はタイドウォーカー(自分)の能力で見ることができる。「どの方向に移動したか」「どのスイッチを操作したか」という痕跡が可視化され、プレイのヒントになることがある。印象的だったのは、先にプレイしていたタイドウォーカーがNPCの服を隠したというイベントだ。進んでいると裸のNPCがおり「別のタイドウォーカーに服を奪われてしまった」と話す。ゲームの進行上、このNPCの服を探すのは必須だ。最初はどこに隠したのかまったく見当がつかなかったが、前のプレーヤーの行動を確認すると「壺の下に隠した」ことがわかった。
こうした仕組みは他のイベントにも登場する。例えば、ボートによるレースイベントがあり、その時にゴースト的な存在として登場する。レースで前のプレーヤーの操作が上手かった場合、当然ながら難度が上がる。自分が勝利するという選択肢を達成したいが、高いレーススキルが求められるということも起こりうる。
通常のアドベンチャーゲームでは、選択肢は自分の意志だけで決められるし、例えば2周目はより完璧な選択肢を選ぶこともできる。だが本作では前のプレーヤーが作った世界の状況に大きく左右されることになる。これがオンラインストーリーリンクの楽しさだ。
先人の足跡を追い、自分も足跡を残す
オンラインストーリーリンクでは他のプレーヤーのアクションが自分のプレイに影響するだけでなく、「前のプレーヤーを信じるかどうか」という視点もある。
親切なプレーヤーをフォローすれば、共有チェストにオーゼンが残っていたり、壊れていたはしごが修理済みだったりする。また、残してくれたエモートの痕跡が、ゲームを進めるのに役立つこともある。フォローするプレーヤーを選ぶ段階で、そういったプレーヤーをフォローできると、ゲームプレイの難易度は下がる。
一方で、意図的にトラブルを起こし続けるプレーヤーを追ってしまった場合は話が変わる。NPCが敵対的になるし、共有チェストにオーゼンが残っていない。そうしたプレーヤーが存在することも、ゲームは当然想定している。現実のオンラインコミュニティと同じく、善意で動く人間ばかりではない。
自分が後ろのプレーヤーに与える影響も同様だ。壊れたはしごを修理すれば、後続のプレーヤーも通れるようになる。これは自分にも恩恵がある行動だ。一方、アイテムを共有チェストに入れておくのは、自分には何の見返りもない。これは純粋なコストになる。
この判断をするときには不思議な感情が生まれる。後ろのプレーヤーの顔は見えない。自分の行動が役に立ったかどうかも、後から確認する手段はない。それでも「きっと困るんだろうな」「たぶん喜んでくれるだろうな」と想像しながらアイテムを置くとき、それは単に選択肢のボタンを押す行為とは違う何かになっている。この感覚を体験できることが、本作の最も価値ある部分だと思う。
本作は何度もプレーヤーに選択を求めてくる。医薬品の流通を独占する「マローダー」、協力と共有に重きを置く「リクレイマー」、古代の知識を崇拝する「ミスティック」。それぞれ考え方が違い、その違いから異なる行動をするこの3大勢力とどう付き合っていくかはプレイ全体に大きな影響を与える要素だし、世界全体にどんな影響を与えるかというマクロな選択もある。
一方で、目の前で困っているキャラクターを助けるか否かというミクロな選択もあるし、進行していく自分のプラステミアの進行を抑えるために、自身を優先するか、NPCや他のプレーヤーを優先するか――この世界には絶対的な正解はない(本作はマルチエンディングシステムを採用しており、いわゆるトゥルーエンディングは存在する)。
惜しいのは、後ろのプレーヤーへの影響を確認する手段が乏しい点だ。自分が残したアイテムが役立ったのか、修理したはしごを誰かが渡ったのかが見えないため、行動の手応えが得にくい場面がある。前のプレーヤーの影響は濃密に感じられるのに、自分の影響が見えないという非対称性はやや寂しい。
プレイ時間は10時間強といったところだろうか。このボリューム感はアドベンチャーゲームとしては遊びやすい。本作ならではの非同期マルチの仕組みを、過不足なく体験できる。「見知らぬ誰かのために、何かを残せるか」というプレーヤーのモラルを計るような問いかけが、じんわりと心に残る作品だ。

























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