(2015/11/20 00:00)
デルのゲーミングノートPCと言えば、伝統的にハイエンドの「ALIENWARE」シリーズがあり、ミドルクラスには「XPS」シリーズがあった。今日紹介するのはそのどちらでもなく、非ゲーミングのエントリーモデルとして展開されている……もとい、展開されていた「Inspiron」シリーズだ。
「Inspiron」シリーズはこれまでゲーミング向けではなかったが、今年10月、独立したGPUを搭載した「New Inspiron 15 7000」がラインナップに追加された。これまでデルにはなかった、コストパフォーマンス重視のゲーミングノートPCという位置づけになる。安価なゲーミングノートは、日本では長い間ホワイトボックス系の独壇場であり、売れ筋モデルでもあった。ここにも“黒船”デルがやってきて、日本企業は戦々恐々としているかもしれない。
今回は「New Inspiron 15 7000」がどのようなゲーミングPCに仕上がっているのか、実機を試用したレポートをお届けする。
堅実で無駄がなく、それでいて垢抜けたデザインのPC
まずはスペックを見ていきたい。CPUは4コア4スレッドのCore i5-6300HQ、GPUはGeForce GTX 960Mと、コストパフォーマンスの高い組み合わせになっている。HDDは1TBのハイブリッド型、いわゆるSSHDが使われている。
CPU | Core i5-6300HQ |
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チップセット | Intel HM170 Express |
GPU | GeForce GTX 960M(4GB) |
メモリ | 8GB DDR3L-1600(8GB×1) |
HDD | 1TB(ハイブリッドHDD) |
光学ドライブ | なし |
ディスプレイ | 15.6型非光沢液晶(フルHD/IPSパネル) |
OS | Windows 10 Home |
価格 | 119,800円(税別) |
カラーにはマットブラック(黒)とハイビスカスレッド(赤)の2色が用意されており、今回借用したのは黒モデル。外見は全体が黒で統一された中で、天面のロゴだけが赤く塗られたシンプルなもの。凹凸もなく、厚さは一定。開いて見えるボタン類はキーボードと電源ボタンだけ。裏面もスリットの少ない直線的なデザインで、とにかくシンプルだ。
ただ無骨な印象ではなく、黒と赤の配色もあってスタイリッシュな印象が強い。本体の角を丸くしてあったり、天面とキーボード周りはマット加工がされていたりと、快適な使用感を得られるよう配慮もされている。
ゲーミングPCと言うと、「ALIENWARE」がまさにそうであるように、本体のあちこちにLEDが仕込まれた派手なものも多いが、本機に装飾的なLEDはほとんどない。本体周りにあるLEDは、前部にある充電中だけ光るランプと、電源ボタン、電源アダプターから本体に伸びるコネクターの持ち手部分。キーボードバックライトがないどころか、HDDのアクセスランプすらないのには驚く。
電源アダプターのLEDは装飾ではなく、「PCが動かなくなった」という苦情がカスタマーサポートに寄せられた時、原因が本体かアダプターか切り分けるのに便利なのだろうと思う。ワールドワイドに展開するデルらしいアイデアだが、左目の端で常にLEDが青く輝いているのがちょっと気になるところではある
ディスプレイは非光沢フルHD(1,920×1,080ドット)のIPSパネルを採用。視野角が広く、上下左右どの角度から見ても自然な発色だ。明るさもかなり幅広く調整でき、応答性も筆者は全く気にならなかった。エントリーモデルのPCに搭載される液晶としてはかなり質が高い。
キーボードはテンキー付きのアイソレーションタイプ。文字キーは十分なサイズでタイピングもしやすく、タッチも適度なクリック感があり良好だ。キー配置はエンターキーが縦長、カーソルキーが横長の形状になっているのが気になる。テンキーもゲーミングに絞れば不要という人が多いと思うが、「Inspiron」ブランドの立ち位置を考えると、ゲーム以外の用途も想定されるので致し方ない。
タッチパッド部は手前側が左右クリックになっているだけでなく、タッチパッド上はどこでも押し込めるようになっていて、左クリックとして認識する。タッチパッドを押し込みながらスライドすれば、指一本でドラッグ&ドロップの操作もできて便利だ。不慣れなうちは、カーソルを動かすだけのつもりがうっかり押し込んでしまい、関係ないものをクリックしたりもしたが、筆者はすぐに慣れて便利に使えるようになった。
排熱ファンは後方左右にある。音質は控えめな風切り音で、高負荷時にも耳障りなほどの音にはならない。ゲーム中なら音も出るので、気になるほどのレベルではない。アイドル時は顔を近づければかすかに音がするという程度だ。ただ高負荷時には、キーボード全体とリストレストの左側にやや熱が伝わる。ゲームプレイ時に違和感が出るほどではないが、夏場だと気になる人もいるかもしれない。
スピーカーの音質は、人間の声がよく通るように調整されており、音楽もボーカルがよく聞こえる。高音や低音もそれなりには出ているので、全体として聞き疲れしない、耳にやさしい音になっている。ゲーム中の音声もクリアに聞こえ、ゲーム用としてはとてもいいバランスになっている。ビデオを見るのにもヘッドフォンなしで十分耐えうる程度の品質はある。なお、光学ドライブは非搭載となっている。
拡張端子は、Gigabit Ethernet、USB 3.0×3、HDMI、SDカードスロット、ヘッドセット端子×1。ヘッドセット端子はおそらく4極ステレオミニジャックと思われ、ヘッドフォンとマイクで合計2つのプラグを持つ一般的なヘッドセットはそのままでは接続できない。ヘッドフォンのみやマイクのみの接続も可能なので、ボイスチャット時にマイクのみ接続し、聞く側は本体スピーカーにするという手もある(モニター上部に内蔵マイクもある)。
プリインストールされているソフトは、デル純正のアップデーターと、ウイルス対策ソフトの「マカフィー リブセーフ」くらいでこちらもシンプル。「マカフィー リブセーフ」は1年分のライセンスが付属する。
サイズは383×265×25.3mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約2.57kg。このクラスとしてはやや薄めで、マット加工もされているおかげで、手に持った時には気持ちよく収まる。ACアダプタは130Wで、それなりのサイズがある。
今時のゲーミングPCとしては必要十分な性能
続いてゲーミング性能を測るため各種ベンチマークソフトのスコアを見ていきたい。利用したのは、「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」、「ドラゴンズドグマ オンライン ベンチマーク」、「バイオハザード6 ベンチマーク」、「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 ver.2.0」、「CINEBENCH R15」、「CrystalDiskMark 5.0.3」、「BBench」の7種類。
ベンチマークテストの結果は、今時のゲームをやるのに必要十分な性能を備えているといった感じ。「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」を見ると、最高品質だと「快適」、高品質(ノートPC)だと「とても快適」で、最高評価の「非常に快適(7,000以上)」には足りないものの、プレイには支障ない程度の数字が出ている。
性能もだが、ベンチマークテスト中の映像がメリハリのいい絵で見えたのが印象的。液晶の質がいいのだなと改めて感じられた。よほど高負荷のゲームでない限り、このノートで快適に遊べるだろう。
ストレージはSeagate製「ST1000LM014」が使われていた。「CrystalDiskMark 5.0.3」のスコアを見ると、HDDを凌駕する高性能とは言えないものの、まずまずの値が出ている。OSの起動などは確かに高速に感じられるので、ベンチマークテストの数字以上に快適性は高い。
バッテリーは6セル74W/hのものが使われており、持続時間は最大10時間以上とされている。「BBench」によるバッテリー持続時間テストでは、キーストロークとWeb巡回あり(Wi-Fi接続)、ディスプレイの明るさ40%の設定で、約7.9時間でバッテリー切れ。またキーストロークとWeb巡回をなしにし、「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」をループで動かした時には、約1時間でバッテリー切れだった。概ねスペック通りの数字だが、ACアダプターを接続せず高負荷の作業をする際には注意が必要だ。
【ベンチマークテスト結果】 | |
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「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(DirectX 11) | |
1,920×1,080ドット/高品質(ノートPC) | 6,336(とても快適) |
1,920×1,080ドット/最高品質 | 4,169(快適) |
3,840×2,160ドット/最高品質 | 1,218(設定変更が必要) |
「ドラゴンズドグマ オンライン ベンチマーク」 | |
1,920×1,080ドット/最高品質 | 6,092(快適) |
「バイオハザード6 ベンチマーク」 | |
1,920×1,080ドット | 6,291(S) |
「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 ver.2.0」 | |
1,920×1,080ドット/簡易設定5 | 10,307 |
「CINEBENCH R15」 | |
OpenGL | 42.99fps |
CPU | 462cb |
CPU(Single Core) | 120cb |
性能的にも価格的にも戦えるパワフルな1台
構成を見て、コストパフォーマンス的に美味しいラインを突いてきたなと思ったので、実際にホワイトボックス系のPCで似たようなスペックのPCをいくつか調べてみた。すると価格的には同等か、むしろ安い程度で頑張れている。「大手のPCならきっと割高なんだろうな」と思っていたので、これは正直に言って意外だった。
それでいて、最新CPUであるSkylakeを採用していることや、オリジナリティのあるスタイリッシュな外見、余計なソフトが入っていないシンプルさなど魅力もある。全体の品質としても、試用した限りでは他社の同価格帯の製品に負けるようなものではない。
惜しいのはカスタマイズ性の低さで、ハードウェアはCPU以外に変更ができない。コストパフォーマンスを追及する製品だけにやむを得ない部分だろう。仕様書を見ると、メモリスロットは1つ空いており、SSDを増設できるM.2スロットもあるとされている。増設方法が書かれたサービスマニュアルが公開されているので、自己責任で増設は可能、ということのようだ。
カラーリングやキーの配列は好みが分かれるところだが、そこが気に入ったら、価格以上の満足感が得られる1台だと感じた。仕事もゲームも1台でこなしたい、派手な外見より落ち着いたものがいいという大人向けにも、コストパフォーマンス最優先でゲームを楽しみたい若年層向けにもマッチする。まさに売れ筋の1台になり得る仕上がりだ。