DSゲームレビュー

“絵を楽しめる”ところまで連れて行ってくれる
絵画レッスンソフト

「絵心教室DS」

  • ジャンル:絵画レッスン
  • 発売:任天堂株式会社
  • 価格:2,800円
  • プラットフォーム:DS
  • 発売日:発売中(6月19日)
  • プレイ人数:1人
  • CEROレーティング:A(全年齢対象)


 「絵が描けるようになりたいなぁ……」、「絵が描けたら、きっと楽しいだろうなぁ……」、こんな風に思ったことは何度もあるのに、実際に描いてみても自分の絵心の無さを痛感する。がんばりたくてもどこから始めたらいいのかすらわからないんだ!……そんなあなたは、この「絵心教室DS」を手にすることで何かが変わるかもしれない。

 この「絵心教室DS」は、絵画の描き方を基礎からしっかりと、それでいて楽しく教えてくれる絵画レッスンソフトだ。もともとはダウンロード販売専用のDSiウェアで「絵心教室 前期・後期」の2本にわけて発売されていたのだが、それが1本のDSソフトに収録され、プラスアルファの要素も加わっている。そうした背景もあって、価格は2,800円と控えめ。

 この「絵心教室DS」はどんな事ができて何を教えてくれるのか? ゲームソフトではないが、本作の魅力をこのレビューで伝えていこう。



■ ビンス先生が“絵画を上手く描くコツ”を徹底指導!

 上の画像は、収録されているミニレッスンのひとつ「リンゴと桃」で、私が描いた絵。まったく絵なんて描けなかった私でも、これを自力で描けるようになった。「絵なんて全然描けないです」という方でも、間違いなくこれぐらい描けるようになると思える。これが「絵心教室DS」だ。公式サイトで見られる「紹介ムービー」等の映像も非常に秀逸なので、ぜひご覧頂きたい。


収録されているレッスンは、鉛筆画、絵画あわせて10種類。さらにミニレッスンも7種類が収録されている
白いヒゲが特徴の「ビンス先生」。ソフトの操作から絵を描くコツ、さらに役立つ絵画の知識まで、最初から最後まで教えてくれる

 「絵心教室DS」は簡単に言うと、“レッスンモード付きの絵画ツール”だ。鉛筆画、絵筆を使った絵画を描けるほか、ソフトの使い方から絵の描き方まで、しっかりと教えてくれる。DSの2画面とタッチペン、さらにDSi/DSi LLではカメラ機能もとてもうまく活かしている1本だ。

 「絵心教室DS」の主なモードは2つ。ひとつは、絵画を描くコツを教えてくれる「レッスン」。もうひとつは自由に絵を描いていく「フリーペイント」だ。「フリーペイント」については後述することにして、まずは「レッスン」に触れていこう。

 レッスンは、簡単な鉛筆画から色を塗る本格的な風景画まで、全10種類のレッスンが用意されている。また、各レッスンで習得した技術を実践できる“ミニレッスン”も7種類が収録されている。DSiウェアの「絵心教室 前期・後期」にはなかった新たなミニレッスンが増えている。

 レッスンでは、白いヒゲが印象的な「ビンス先生」が絵の描き方を教えてくれる。絵を描いていく手順が細かにわかれていて、徐々にステップアップしていく作り。非常に丁寧だ。実際の流れとしては、ビンス先生の説明とお手本、それに続いて自分で実践、それが終わったら次のステップへ、という順に進んでいく。

 絵を描くコツだけでなく、ソフトの操作も非常に丁寧にガイドしてくれるのがポイント。こうしたお絵かきツールのソフトだと、「機能がドバーッとあって、それを把握するだけで大変」なんてことがありがちだが、その点もビンス先生は抜かりがない。ペン選び、鉛筆を立てる、寝かす、色をつける、そうした全ての機能の操作や、それらの上手い使い方を、レッスンの流れの中で自然に教えてくれる。

 ビンス先生の説明には機能の操作手順も含まれていて、自分で実践するときには、操作するパネルや箇所を光らせて教えてくれる。ゲームのプレイに慣れている方はもちろんとして、年配の方でも大丈夫。その丁寧な手順が、「絵心教室DS」の扱い方をしっかりと身体に染みわたらせてくれる。絵を楽しむ以前の、“操作のファーストステップ”がしっかりとしているのが魅力だ。

ビンス先生は絵を楽しく、うまく描くコツを丁寧に教えてくれる。その内容は実践的だ

 ここまでの説明だけで見ると、ビンス先生は“ソフトの使い方を教えてくれるチュートリアル的な存在”と思えてしまうかもしれないが、そんなことはない。絵の描き方について最初から最後まで、“考え方”のレベルから教えてくれる。

 例えば光源の話。斜め上からくだものに太陽の光が当たっていたら、その反対側には影が落ちる。その影を絵に効果的に加えることで、絵の立体感や重量感がグッと増すというレッスンだ。こうした光と影の対比を、イタリア語では「キアロスクーロ」と呼んだり、絵に陰影をつけることを「調子をつける」と言ったりもする。ビンス先生はこのように、本当の絵画教室で教わるような知識も交えながら教えてくれる。

 また、光が反射して白くなっている部分は、素材によってその質感が変わることも解説してくれる。例えば、表面にザラつきがあって形が均一ではないくだものなら、光はまだらに当たる。それに対して、タマゴのような丸みが均一なものの光の反射は、円形にハイライト(最も明るい部分)ができる、といったものだ。

 こうした、絵を上手く描くコツを、実際に描くとどういう感じになるのかお手本で描いて見せてくれる。それを見てから、自分の手で描いていくというわけだ。描き方に関する以外にも、画風の紹介などを実際の画家の絵で紹介してくれたりと、絵画方面の知識を面白く教えてくれる。

 こうしたレッスンの説明は、決して長ったらしいものではなく、知識や説明はわかりやすく面白く、そしてすぐに自分の手で実践できることを重視している。内容は非常に丁寧で、その飽きさせない、疲れさせないバランスに感心させられる。これなら誰でも自然に親しめると思えた。


実在の画家を例に、画風や絵を描くコツを紹介してくれる。さらにそれを踏まえて、実際にそれらのテクニックを活かすにはどうすればいいのかを、お手本を見せて教えてくれる


■ こだわりの描き心地で没頭できる。線を重ねる、色を重ねる、ができる本格派

鉛筆だけで描く「鉛筆画」。影の付け方とそのテクニックを駆使すれば、驚くほど見栄えのいい絵が描けるようになる
徐々にステップアップしながら絵を完成させていく。説明だけでなく筆使いも見せてくれるので、非常にわかりやすい

 それでは実際にプレイしている流れを紹介していこう。描ける絵は「鉛筆画」と「水彩絵の具での絵画」。私が気に入ってるのは鉛筆画で、影をうまく付けるととても味わい深い絵に仕上がる。誰しも最初に挑むこの鉛筆画で、そのできあがりに「おおっ」と驚かされるはずだ。自分がこんな絵を描けるなんてという驚きで、ハートをガシッと掴んでくれる。

 絵を描いている時は、上画面にモチーフ(題材)になる写真が表示されて、それを見ながら下画面に描いていくというスタイル。各ステップのはじめには、ビンス先生が解説とともに見本の描き方を見せてくれる。ペンを使って線を描いている様子もみせてくれるので、筆使いも参考になる。ようはマネて描いてみればいい。

 上画面はモチーフの写真以外に、ビンス先生の描いたお手本、自分の描いている絵に切り替えられる。1番いいのは写真を見て描くことだが、お手本の絵で線を見て、それを描き写すところから始めても十分に参考になる。どんな形でも実践することでわかってくるわけだ。

 レッスン4の「洋梨の鉛筆画」の流れを例にしてみよう。まず全体の輪郭を描き、次に鉛筆を寝かせておおまかな影をつけ、立てた鉛筆で斜線によるクロスハッチングで影をつけ、また寝かせた鉛筆を上描きしてなじませ、最後に消しゴムで余計な線や光の反射部分を仕上げる。これで完成だ。

 今の手順からもわかるとおり、鉛筆を立てて使うか、寝かせて使うかを選べる。さらに鉛筆の濃さも、2H、HB、2Bと3種類。消しゴムも細い太いと使い分けられる。ただ選べるだけでなく、ビンス先生が“この描き方をするのにはこれを使うと上手く仕上がるんですよ”というアプローチで教えてくれる。レッスンをこなすことでそうした基礎が身につき、最後には自分で判断できるようになっていく。

 実際に鉛筆で絵を描くとまず感じるのは、描き心地の良さだ。鉛筆で線を描くと、シャッシャッという鉛筆を走らせる効果音が聞こえて、“描いてる!”という感覚を高めてくれる。タッチパネルの反応や力の加減も自然。“描き心地”に相当こだわっているのがわかる。

 たんに画面に線を描けるだけでなく、“上書き”を繰り返して絵の完成度を高められるのがポイント。レッスン4の「洋梨の鉛筆画」の流れでも書いたように、影をつけ、その上からさらにクロスハッチングし、さらにそれをなじませる。と、いう感じに線を重ねられる。

 重ねて描けるのには、“絵をなじませる”という重要なポイントもある。鉛筆を寝かせ、次に立て、さらに寝かせて描き込んでいくと、単純な輪郭線だけだったものに、濃淡がついて立体感のある絵になっていく。


鉛筆は2H、HB、2Bと3種類の濃さがあり、それを立てて描くか、寝かせて描くかを選べる。消しゴムも細いものと太いものを使い分けられる。鉛筆を使い分けて、重ねて描き込んでいくことで線をなじませるのがポイントになる
パプリカの鉛筆画を実際に描いているところ。輪郭を描き、寝かせた鉛筆で影をつけ、立てた鉛筆で斜線の「クロスハッチング」を加えている
絵筆で色を塗ることももちろんできる。パレットに色を出し、それに他の色を混ぜて色を作れる。さらに、筆に付ける量や水の量でも、描いた感じが変わっていく

 絵筆や絵の具ももちろん使える。絵筆には丸筆と平筆があって、それぞれ細・中・大の3種類ずつ。絵の具は水彩絵の具が10色あるが、それぞれの色を混ぜて使いたい色を作れる。モチーフの写真からピッカーで指定して色を作る機能もある。

 絵筆を使って塗るときも、描き心地はリアルだ。絵の具の滑り、かすれ具合がしっかりと再現されている。絵の具をつける量と、水の量を調整できるので、それによっても濃さやかすれが変わってくる。

 また、絵筆でも“重ねて描ける”ところが重要なポイントだ。暗い色から塗っていき、そこに明るい色を重ねていく。絵筆をシャッシャと滑らせれば、2つの色が混ざり、なじんでいく。それによって、自然な色の変化がついて、立体感のある味わい深い絵になっていく。この色の重ねをうまく行なうのはなかなか難しい。だがそれだけに、上手くいくと感動モノな仕上がりだ。

 レッスンはだんだんと高度になっていく。最初はごく簡単な鉛筆画から入り、色をつける絵画、動物、風景画と進んでいく。レッスン3以降には、ミニレッスンもできるようになる。ミニレッスンでは、通常のレッスンのようなビンス先生のステップ別の解説はない。最初に、見本の絵を描いていった手順を教えてくれるのみだ。レッスンで習った手順や描き方を思い出しながら、あくまで自分で考えて描いていく。

 はじめてミニレッスンに挑んだときは、「えーこんなのまだ無理だよー……」と私も思ったのだが、レッスンで習ったことを思い出しながら、ゆっくり進めていくとなんとか完成まで描くことができた。その描き上がった絵を見て、「これを本当に自分が描いたんだ」と驚かされた。この、描き方が自分に身についていることを実感できる感動は、かなりのものだ。


冒頭で紹介した「リンゴと桃」の絵を描いているところ。6枚の画像があるが、まず鉛筆で輪郭を描き、次に暗い色から塗っていく。くだものに明るい色を重ねて塗りなじませて、同様に桃も仕上げる。最後に背景をやはり暗い色から重ねていくことで完成した


■ 「フリーペイント」にも題材がたっぷり。DSi/DSi LLなら、カメラで撮った写真を題材にできる

「フリーペイント」には題材の画像が50種類以上収録。さらに、DSi/DSi LLなら、本体カメラで撮影した画像を題材にすることもできる

 レッスンだけでなく、絵画ツールとしても非常に良くできている本作。自由に絵が描ける「フリーペイント」ではさらに、面白い特徴がある。それは、“DSi/DSi LLのカメラで撮影した写真を題材に使える”というものだ。

 「あ、これいいな」と思った風景なり物なりをパシャリと撮影。それを「絵心教室DS」の上画面に表示させ、見ながら下画面に絵として描いていくというわけだ。友人知人の顔でもなんでも、カメラで撮影したものならなんでも題材にできる。上画面と下画面の2画面あるDSの特徴、そしてDSi/DSi LLにはカメラを搭載している特徴を、ビシッと活用している。

 自分でカメラで撮る以外にも、多数の題材が収録されている。収録されているのは、犬や猫などの動物や生き物、イルカやペンギンといった海の生物、景色、花、くだものやお菓子といった食べ物など、9ジャンルにわかれていて、全50枚以上ある。いずれもレッスンで教わった描き方のコツを応用すれば描ける。逆に言うと、ある程度以上の事はレッスンで教えてくれるとも言える。全レッスンを終えたとき、自分の身に描き方が備わっていることを実感できるはずだ。

 そして、その実感はマイギャラリーというモードで確認できる。描き終わった絵を額に入れて保存しておける。マイギャラリーはそれをスライドショーで順に見ていく機能だ。眺めていると、「自分にも絵が描けたんだなぁ……」と、じんわりと嬉しくなってくる。



■ 「絵を描くのってこんなに楽しいんだ」、そんな“絵を楽しむ心”を教えてくれる良作

プロ並みに、とまではさすがにいかないが、存分に“絵を楽しめる”ところまで連れて行ってくれる。絵を楽しむ心が身につくソフトだ

 一通りのレッスンを終え、いくつかのミニレッスンで実践をし、描き上がった絵の数々をマイギャラリーで眺めるところまでプレイしたとき、もうそのときあなたには、ある気持ちが備わっているはずだ。それは、「絵を描くことが楽しい!」、「もっといろんな絵を描きたい!」といった、“絵心”。

 「絵心教室DS」はそんな、1番大事な“絵を描く楽しさ”を教えてくれる、まさしく“絵心の教室”だ。私も冒頭に書いたような、「絵がうまく描けたら楽しいだろうなぁ……。」と長年思い続けてきた1人なのだが、この「絵心教室DS」によって、人に見せるとちょっと感心してもらえるような、それらしいものが描けるようになった。その嬉しさと楽しさは格別なもので、できることなら、昔の自分にDSと「絵心教室DS」をプレゼントしてあげたいと思うぐらい。

 プレゼントと言えば、本作は自分でプレイするのももちろんいいが、お父さんお母さんへの贈り物としてもとてもステキな一品だと思う。父の日や母の日はちょっと過ぎてしまったが、別に普通の日に贈り物をしたって何も悪いことはない。そこにおいては低価格も嬉しいポイントだ。

 逆に、このレビューをお読み頂いているあなたがお父さんお母さんであれば、息子さんや娘さんにこのソフトを贈ってみるのもいいと思う。自分の子供が、学校のクラスに1人はいたであろう「ちょっと絵が上手い奴」になるかもしれない。老若男女問わず、絵という憧れのジャンルを楽しめる本作。ぜひ絵の楽しさを味わって頂きたい。

(c)2009-2010 Nintendo

(2010年6月28日)

[Reported by 山村智美 ]