「プレイグ テイル -イノセンス-」レビュー

プレイグ テイル -イノセンス-

少女の成長とともに、残酷な「暗黒時代」のフランスを体験。人間の怖さを思い知る

ジャンル:
  • アクション
発売元:
  • オーイズミ・アミュージオ
開発元:
  • Asobo Studio
プラットフォーム:
  • PS4
価格:
6,800円(税別)より
発売日:
2019年11月28日

 オーイズミ・アミュージオは、アクションアドベンチャー「プレイグ テイル -イノセンス-(A Plague Tale: Innocence)」のプレイステーション 4版を、11月28日に発売した。本作は5月14日に海外版がリリースされ、そのストーリーと世界観が話題となった。今回はプレイステーション 4向けの日本語版となる。

 「プレイグ テイル -イノセンス-」は幼い弟を導きながら過酷な中世の世界を生きぬくサバイバルアクションで、舞台は14世紀のフランス。この時代のフランスは先の十字軍遠征のダメージがまだ残っている中、百年戦争が勃発したりと国全体が弱体化していた。異端審問が過激かつ横暴になっていき、さらにペスト(別名:黒死病)がヨーロッパ全土で蔓延していた時代でもある。

 本作では百年戦争とペストと異端審問がしっかりと描かれており、時代背景を楽しめるものになっている。ちなみにペストは黒いねずみの大群として表現されており、暗がりの中で人を襲い、火や明かりを嫌う性質を持っているものになっている。

 ストーリーは秋の終わりに自宅を異端審問官に襲われ、両親を殺された貴族の娘「アミシア」が5歳の弟「ユーゴ」を連れて命からがら自宅から脱出する。突然襲われた理由もわからないまま、母親に告げられた協力者のもとに向かうところから始まる。

 本作の主人公はフランスの田舎に住む貴族の娘「アミシア」。両親と離れて暮らし、5歳の弟「ユーゴ」に母親をすっかり取られてしまっていた。そんな15歳のまだ幼さが残る少女が、理不尽な時代の波に巻き込まれていく中でみせる「成長」の物語だ。プレーヤーは「アミシア」の視点を通じて、彼女の成長とともに、暗黒時代とも表現されるこの時代のフランスを体感できる。

 今回は、主人公「アミシア」にスポットを当てながら、体験したことをお伝えしたい。

「スリング」と「ステルス」をうまく使って生き抜け

 「アミシア」は剣や槍を使うことができない。攻撃は父親から教えてもらった「スリング」による投擲のみだ。また盾などの防御系の装備も持ち合わせていない。チュートリアルの段階ではあまり感じなかったが、いざ外に出てみると、丸腰感が半端なく不安しかなかった。ほかの同行しているキャラクターは敵に対して一切手助けをしてくれないので、頼りになるのはプレーヤーキャラクターである「アミシア」のみだ。

「スリング」で仕掛けを壊したり、敵を倒す。

 武器らしい武器を持っていない「アミシア」たちが死なずに前に進むために1番大事なことは「ステルス」と「陽動」だ。うまく物陰に隠れて敵の視線を掻い潜り、時に陽動で誘導して敵をその場から排除して進むことになる。

金属に石を当てて敵を陽動
敵の数が多い中での「ステルス」は緊張が走る

 しかし、時にはどうしても敵を避けて通ることができないときもある。その時はやむなく敵を殺すことになる。とはいえ「アミシア」は「スリング」による投擲でしか攻撃ができないため、敵の頭に石をぶつけて殺すことになる。特に敵に気づかれてしまうと、敵がどんどん近寄って来てしまう。そんな動く敵に対して照準を当てるのが難しく、はじめのうちは随分と失敗してしまった。

 だた、失敗してしまっても、かなり細かく設定されたチェックポイントからのリスタートになるので、すごく前に巻き戻されてやる気を失ってしまうこともなかった。

複雑な仕掛けが行く手を阻む

 本作には、たくさんの謎解き要素が含まれている。道中で知り合った仲間と協力したり、道具を使うなど、様々な方法で道を進んでいく。ストーリーが後半に行くにつれ、複雑になっていく仕掛けは頭を悩ませた。何度も失敗して、クリア方法を見つけたときには喜びもひとしおだ。

弟に手伝ってもらうことも
仲間みんなでやれば大きな装置も動かせる

 本作はパズル的な要素が多く、様々な仕掛けに挑戦していくこととなる。その中で筆者が好きなのが、ねずみしかいない仕掛け。筆者はねずみの仕掛けを解くのが大変好きだった。

 他の仕掛けと異なり、誰からも追われず、隠れる必要もない。少しだけ心に安寧が訪れたようで、とてもリラックスして仕掛けに挑めた。その後に緊張の連続があるとわかっていても、一時的に緊張の糸が解けることで、またちゃんと集中できる。この緩急の差がプレイをしていてちょうど良かった。

自分で作って道を切り開く

 ストーリーの中で、「アミシア」は「クラフト」と「錬金術」を使えるようになる。「クラフト」では「アミシア」が持っている「スリング」や荷物を入れる「ポーチ」などを強化することができる。「クラフト」は作業台があるところでのみ作業することが可能だ。

作業台で持ち物を強化

 「錬金術」は「スリング」で投げるものを制作する。残り火を再燃させる「イグニファー」や鉄のヘルメットを溶かす「デヴォランティス」など、石以外のものを投げることで円滑に道中を進むことができるようになる。「錬金術」は都度都度その場で作成することが可能だ。ただ、錬成には若干時間がかかるので敵の目前でするのはおすすめできない。

残り火を再燃させる「イグニファー」はねずみ対策にもってこい
鉄のヘルメットを溶かす「デヴォランティス」は敵兵士からヘルメットを脱がせる

 「クラフト」や「錬金術」には、アイテムが必要なのだが、隠れながら拾っていくのもなかなか骨が折れる。また、アイテムを取りに行きたくても、敵の陽動をうまくできなかったりして諦めてしまうこともあった。本作はちょっとだけアイテム集めが大変に感じた。

奥まったところにあることも。敵の視線を気にしながら探すのは大変

 また、本作には隠しアイテムが存在しており、コレクションすることができる。チャプターごとにいくつか隠されているが、「ステルス」が多めのチャプターだと大胆に探すことができないので、探すのも一苦労だ。しかし、隠しアイテムには当時のフランスをイメージできるようなコメントが記載されており、読むととてもおもしろい。隠しアイテムを見つけるために同じチャプターを繰り返しプレイできるので、ちょっとしたやりこみ要素と考えてもいい。

読んで楽しい隠しアイテム

少女が成長して行く先は「戦士」か「修羅」か

 本作で筆者が1番注目したのは主人公「アミシア」の心の動きだ。

 「アミシア」は両親と離れて暮らしていた事もあり、どこか物悲しい雰囲気を背負っているように見えた。頑張って良い姉であろうとするが、時折弟の「ユーゴ」に嫉妬している発言や「ユーゴ」の自由な行動や発言にイラつき心無い発言も見受けられることもあった。

 しかし、それも彼女の生い立ちと思春期真っ盛りの揺れ動きやすい心を考えると、普通に出てくるものに感じた。まして、極限状態の中で幼い弟を連れて逃げ回る中、ぽろっと本音がでることなんて大人でもあり得るだろう。そんな中でも頑張って弟を守ろうとする「アミシア」の姿はとても健気で、立派だ。正直なところ、筆者も下に兄弟を持つ身として、「アミシア」の気持ちが痛いほどわかって、ちょっと涙が出た。「アミシア」は本当にいいお姉さんだ。

弟を守ったり、きちんと弟の質問にも答えたりと、とにかく面倒見がいい「アミシア」

 そんな「アミシア」は本来とても純粋な心を持っている。しかし、「アミシア」もいろいろな人と出会い、追われ、殺されかけ、そして殺していく中でどんどん心が成長していく。……成長と言っていいのだろうか。筆者は少しずつ諦めや荒みが入ってきているように感じてしまい、ちょっと悲しく感じた。

 特に敵を殺してしまった時の反応が序盤と中盤以降では随分変わってくる。初めて人を殺めてしまった時の後悔の表情から、生き残るために人を殺すことへの覚悟や諦めを現わすような発言を徐々にするようになってくる様は胸が苦しくなるほどだ。

初めて人を殺してしまった時の「アミシア」の表情はとても複雑
そして、しっかり懺悔していた
次第に無言で殺せるようになり
遂には敵が邪魔だったとも取れる発言をするように

 また、ストーリーの中盤以降、筆者は「アミシア」が「戦士」というより「修羅」のように思えた。両親を殺した敵に対する復讐の念や追われていることへの恐怖などたくさんの感情が「アミシア」の中を渦巻いているような発言が時折見られた。彼女がどうなってしまうのか非常に気になる。

恨みのこもった「アミシア」の言葉が怖い

怖いのは病気?人間?

 本作は襲いかかってくるねずみが怖いという話を聞いていた。しかし、実際にプレイしてみると筆者はねずみよりも人間が怖いと感じた。特に大人が怖かった。筆者がプレイしたチャプターまでの話ではあるが、「アミシア」たちに協力的、というか手を差し伸べてくれた大人はわずか3人だけである。

 基本的に大人はこちらを見つけると容赦なく殺しに来るのだ。たとえそれが市民でも変わらない。その光景を見たとき、筆者はねずみよりも断然怖いと感じた。見つけた途端怒号を上げ、追い回し、容赦なく剣や槍を振る姿は「悪魔」そのものに見えた。

追われている「アミシア」たちを匿ってくれた優しいおばあさん

 これも、時代背景的に戦争等で疲弊したところに、病気が蔓延し全く心の余裕がなく、考えることを放棄した人間が取る行動としては理解できる。理解できるが、大人が本気で子供を殺しに来るその光景は何度見ても頭を抱えた。どうしても大人VS子供の構図が見ていてとてもつらかった。

大人たちの目は冷たい

 もちろん、ねずみに襲われるのも十分怖い。明かりをたどって進んだつもりが、ちょっと外れていて不意打ちで襲われたりするとショックが大きかった。なにより「アミシア」たちの悲痛な叫びを聞くと、申し訳無さでいっぱいになる。

うじゃっといるねずみはさすがに気持ち悪い
明かりの外に一歩踏み出してしまうとあっという間にねずみの餌食に

美しいグラフィックスが残酷さを増す

 非常にグラフィックスが綺麗で、景観が美しい場所だとおとぎ話の世界のように感じた。また、街の景観などもかなり精巧に作られており、穏やかに見る分には素敵だった。中世のフランスを歩けるなんて夢のようだ。

 しかし、綺麗なグラフィックスだからこそ、悲惨な場所が更に際立ってくる。生々しい死体や廃墟になりつつある街、おびただしい数のねずみなど、一瞬たじろいでしまう世界が、眼前に広がってくる。この中を正気を保って進んでいける「アミシア」の精神力には感服してしまう。この綺麗なグラフィックスがあるからこそ本作の残酷さが際立っていると感じた。

美しい野原
幻想的な洞窟
綺麗な町並み
夜の森も何もなければとてもきれい
しかし、突如広がる残酷な惨状
子どもが見るには刺激が強すぎる

 本作はストーリーやグラフィックスが素晴らしく、その世界観がしっかりと表現されている。ただ、仕方ないのかもしれないが、日本語訳の字幕が若干変なところで改行されている事があり、少し没入感が薄れ、残念に感じた。

 全体的にはストーリーに緩急があり、プレイしていて飽きることがない。また、死んでしまってもチェックポイントが細かく設定されているので、リスタートする時のストレスも少なく感じられた。

 プレイ時間は本編がおよそ15時間くらいと短めだが、その時間以上の満足感があった。ストーリーもさることながら、主人公「アミシア」の人としての成長とともにおよそ700年前のフランスを楽しんでほしい。この世界は「暗黒時代」と呼ぶに相応しいほど、美しくて残酷だ。