「アンチャーテッド 古代神の秘宝」レビュー

アンチャーテッド 古代神の秘宝

新たな始まり、女性だからこその“ネイトとは異なる色のドラマ”

ジャンル:
  • アクションアドベンチャー
発売元:
  • ソニー・インタラクティブエンタテインメント
開発元:
  • Naughty Dog
プラットフォーム:
  • PS4
価格:
4,900円(税別)
発売日:
2017年9月14日

 ネイトことネイサン・ドレイクが主人公だった「アンチャーテッド」は完結したが、「アンチャーテッド」の世界は新たな始まりを迎える。今回9月14日にいよいよ日本語版が発売となる「アンチャーテッド 古代神の秘宝」は、新たな主人公に女性トレジャーハンターであるクロエ・フレイザーを迎えた作品だ。

 ネイトではない別の主人公による、新たな「アンチャーテッド」の始まり。それがどのようなものになっているのかレビューしてお伝えしていこう。

トレジャーハンター「クロエ」と元軍事会社のボス「ナディーン」の最強女性タッグが魅せる、より深みをましたドラマ

 本作はリリースされるまでに少々変わった経緯があったので、まずはそちらを軽くまとめておこう。

 「アンチャーテッド 古代神の秘宝」はもともと、ネイトのラストエピソードとなったシリーズ最新作「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」のダウンロードコンテンツとしてリリースが予定されていたスピンオフの追加エピソードだった。

 だが、制作が進められるうちにその規模はDLCと言えるものを越えていき、最終的に「アンチャーテッド 古代神の秘宝」という単体作品としてリリースされることが決定したというものになっている。

 当初はそれこそDLCらしい規模の肩の力を抜いたものだっただったのかもしれないが、作り込んでいくなかで自然とクオリティや密度が高まっていったという話には良作を予感させるものがあって期待の高まるところ。同時に、「アンチャーテッド」の新主人公となるクロエの、物語が湧いてくるようなポテンシャルを感じさせるところもある。

 なお、こうした経緯があるので本作は、「海賊王と最後の秘宝」のシーズンパスである「トリプルパック」および同パックが含まれる「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝 デラックスエディション」を持っている人は、追加購入の必要はなく「古代神の秘宝」がプレイできる。購入済みの人は忘れずにチェック頂きたい。

 主人公のクロエは、シリーズ2作目「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」に登場してネイトと協力したプロのトレジャーハンターだ。浅黒い肌にオリエンタルな顔立ちからインド系のルーツを感じさせるのだが、今作では父親にまつわる物語を辿って、古代インドの神“ガネーシャ”にまつわる秘宝“ガネーシャの牙”を探していく。

 クロエは物言いがストレートでサバサバとした女性だが、どこかミステリアスで心の内を見せないような雰囲気も漂わせている。そんな彼女が主人公というポジションになって、物語のなかで自身のことを語っていく様子には、女性らしい複雑かつ柔らかな心理描写や艶のある魅力が感じられる。

今作からのアンチャーテッドの主人公となった、トレジャーハンターの女性「クロエ・フレイザー」。かつてネイトとも関係を持っていた

 そんなクロエのパートナーとなるのは、シリーズ4作目「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」で民間軍事会社ショアラインを率いてネイトたちの前に立ちはだかったナディーン・ロスだ。「海賊王と最後の秘宝」の末に様々なものを失った彼女のその後が、本作で描かれていく。

クロエのパートナーであるナディーン・ロス。ネイトたちとの争いの果てに様々なものを失った彼女は、クロエとの冒険でどのように変わっていくのか

 というわけで本作はこれまでの「アンチャーテッド」シリーズにはなかった“強い女性のペア”だ。2人の身体能力はネイトに負けず劣らずで(というか部分的には越えている)、激しいアクションも秘宝を巡るライバルとの戦いも、これまでのシリーズ以上のものを見せてくれる。

 ゲーム内容やゲーム性においてはこれまでのシリーズ同様だ。未踏の大自然に眠る遺跡を求めて、険しい道を乗り越え、よじ登り、謎を解いて秘宝を探していく。道のりのなかクロエとナディーンのジョークに満ちた会話がたっぷりと聞けたり、人間味の強いやり取りやドラマが見られたりなど、“これぞ「アンチャーテッド」”という要素をしっかり踏襲している。

 本作はシリーズ4作目「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」の追加エピソードでありスタートがDLCというものだったこともあり、システム面などの基本的な構成も「海賊王と最後の秘宝」を踏襲している。プレイの手触りとしてはやはり、「海賊王と最後の秘宝」の追加エピソードという範囲に収まるものにはなっている。

基本的なゲーム性やシステム、展開は「アンチャーテッド」シリーズそのものであり、「海賊王と最後の秘宝」の延長となっている。部分的にではあるが、「海賊王と最後の秘宝」にもあった広大なフリーマップを自由に探索していく要素が今作にもある

 一方で、ところどころの表現……特に光の質感、水や汚れや汗、肌の質感など、グラフィックス面は「海賊王と最後の秘宝」よりもさらに進化していて、クロエやナディーンという存在の新鮮さも含めつつ、「アンチャーテッド」という作品がこれからもさらに進化していくのを感じさせる作品となっている。

 本作最大のポイントと感じたのは、やはりクロエとナディーンという女性2人の物語であること。男のネイトとは異なる、女性らしい複雑な心理描写や表情の豊かさ、わずかな機微を、「海賊王と最後の秘宝」以上のクオリティのグラフィックス、フェイシャルリグで表現しているところだ。

 特に今作では“眼の表現”が印象的で、眼のうるみ、充血、動きなど、眼でキャラクターの感情を伝えてくる。そうした細かな表現が、クロエというミステリアスなところのある女性の、胸に秘めている感情や心を垣間見せる。その、語らず、プレーヤーに感じさせる巧みさは、シリーズ屈指の出来であり、そうしたチャレンジができていること、上手くいっていることもまた、女性であるクロエを主人公にしたからこそのものだろう。

「アンチャーテッド」がまた、魅力的な物語を紡ぎ始めた

 今作のプレイは、スピーディーにプレイすると6時間ほど、隠されている宝などをしっかり探すじっくりとしたプレイなら、8~10時間ほどとなるだろうか。これはあくまでも筆者の個人的なプレイ時間で、標準的なプレーヤーであれば、スピーディーにいければ8時間ほど、普通であれば10時間ほどかかるという。ゲーム自体が魅力的なだけにもっと遊びたい思いもあり、もう一歩欲しいという気持ちもあるにはあるが、DLCを越えている規模なのは間違いない。

 そのプレイを振り返ってみると、まずクオリティの高さが印象的だ。単純に言えばできが良くて、本作がその成り立ちからもわかるように、良いテンションの積み重ねで生まれた成功例なことを感じさせる。

 シーン展開のテンポの良さ、熟練した感のあるクライミングなどのアクション、作り込まれたフィールドの光景には度々圧倒され、立ち止まって景色を眺めることも何度もあった。

 そして何より、ストーリーそのものがとても魅力的であることが大きい。物語は加速していき最後にはカタルシスを得られるほどの高まりへ到達する。歴代シリーズを思い出させるシーンも多数あり(そのあたりのファンサービス多めな構成にはDLC予定だったなごりを感じる)、歴代シリーズの展開をさらに越えていくところもある。シリーズファンは見逃せない内容だ。

 「主人公がネイト以外の人になったら、それは『アンチャーテッド』と言えるのだろうか?」、本作はその世界中の疑問に答えている。もちろんネイトを懐かしむ気持ちはこれからもずっと残ると思うが、クロエという女性だからこそ見せられる“ネイトとは違う色のドラマ”があり、それを追い終えたあとには、これまでのシリーズで得られた……もしくはそれ以上の気持ちにもなれる。同時に、「アンチャーテッド」という世界のキャラクターたちの懐の深さ、それぞれに異なる魅力があることも感じるはずだ。「アンチャーテッド」がまた、魅力的な物語を紡ぎ始めた。

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