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【特別企画】あの「The Last of Us」はマニラ生まれ? マニラゲームメーカー訪問レポート

カジノや海賊版に負けず、AAAタイトル開発に向けて実績を積むメーカー達

2016年5月取材

 今年のゴールデンウィークはフィリピンの首都マニラに行ってきた。フィリピンは物理的な距離は中国や台湾、韓国などとあまり変わらないが、ことゲームに関して言えば、かなりの距離感を覚える国だ。理由は馴染み深いフィリピンのゲームタイトルが存在しないことや、世界的に名の知られたフィリピンデベロッパーが存在しないことなど、日本から得られる情報が少ないためだ。「ならば、自分が行けばいい」ということで、今回、マニラを訪れ、現地で活躍するゲームメーカーや、ゲームショップ、ゲームセンターなどを訪れ、フィリピンのゲーム事情を探ってきた。

 今回のマニラレポートでは、毎度お馴染みのゲームショップレポートや、現地で見つけたフィリピン独自のインターネットサービス「PISONET」のレポートなど、いくつかにわけて現地レポートをお届けしたい。まずは、ゲームメーカー訪問レポートからお届けしよう。

わずか3年で180名規模に成長し、Microsoftともビジネスを展開するSYNERGY88

オフィス入り口
入り口に掲示されたポスター
社内の至る所で、これまで開発に携わったタイトルのポスターが掲示されていた
厳重管理されたサーバールーム。これを介して大手メーカーとやりとりしている
この扉の向こうでは、現在進行形のタイトルを開発しているという

 まずはじめに訪れたのは、フィリピンマニラの中心に活動しているゲーム団体GDAP(Game Developers Association of the Philippines)の代表を務めるAlvin Juban氏が代表を務めるゲームメーカーSYNERGY88。メトロ・マニラ近郊の新興経済都市ケソン・シティに本社を置いている。

 同社は設立からわずか3年ということだが、すでに180名以上のスタッフを擁し、フィリピンでは珍しい内製のデベロッパーとして活動している。5階建ての建物にいくつものフロアを借り、フロア毎に別々のプロジェクトチームが入居し、進行表には幾本もの開発パイプラインが伸びていた。活気と勢いの良さを感じさせるオフィスだった。

 社内の壁には、「The Last of Us」、「Star Wars バトルフロント」、「バトルフィールド 4」「Dead Space」といった、過去に下請けを担ったタイトルのポスターが貼られ、Juban氏の名刺には、フィリピンで最初にMicrosoftから仕事を受注したメーカーと対処されている。著名なAAAタイトルの開発経験をテコに事業拡大していこうという意図が見え隠れする。ちなみにJuban氏の部屋には「The Witcher 3」(CD PROJEKT RED)、「Gears of War: Judgement」(Microsoft Studios)、そして現在Microsoftと進めているという非公開タイトルのポスターが貼られ、下請けビジネスは拡大傾向であることを伺わせた。

 現在手がけているAAAタイトルについては守秘義務から教えてくれなかったが、Microsoft、正確にはMicrosoft Canadaとビジネスを行なうために、立派な開発用のサーバーとネットワークインフラを確保しており、実際に視察することができた。日中は室内でも30度近くに達するフィリピンだが、この部屋だけはクーラーがガンガンに効いており、スタッフは上着を着て作業に当たっていた。AAAスタジオとビジネスを行なうためには、実力以前にこうしたキッチリした環境整備が必要不可欠で、これが同社の最大のウリのようだ。

 手がけているアートは、2D、3Dを問わずすべてで、アニメーション制作のためのモーションキャプチャスタジオも備えている。キャラクターのイラストひとつとっても非常にハイクオリティであるだけでなく、2頭身キャラ、萌え絵、アニメ絵、実写風など、同じキャラクターでも複数タイプかき分けられていた。また、いかにも「The Last of Us」に出てきそうなボロボロのオブジェクトは、汚れやシミ、潰れに至るまで複数のレイヤーで細かく描かれており、アートの実力はすでに日本や欧米と変わらないクオリティを備えていると感じた。

 また、自社タイトルも幾つか見ることができたが、こちらはまだトライアルの域を出ていなかった。たとえば、2年前から小規模で開発しているというOculus Rift向けのVRホラーゲーム「Kuuna」。真っ暗な荒廃した遺跡を手元の懐中電灯だけを頼りに探索していくという内容になっていて、石壁や墓石、闇夜の表現などステージの描き込みや、集中力を途切れさせる虫の羽音や、薄気味悪い囁き声、どこからともなく聞こえてくる物音など演出面は素晴らしいが、UIが貧弱すぎてゲームコントローラーを手渡された瞬間にすべてが崩壊してしまう。具体的にはアナログスティックで視点操作とキャラクター移動を行なうため、フレームレートも60fpsが維持されていないこともあって、数秒でベロベロに酔ってしまうのだ。日本や欧米のデベロッパーが2年掛けて克服していたVR酔いを割けるためのノウハウが共有されていないことを意味する。これはまさに、フルスクラッチでゲームを制作したことのない新興国メーカーの弱点と言えそうだが、だからこそJuban氏はGDAPのプレジデントを買って出たのだろう。

 ちなみに「Kuuna」は、Oculus Riftは600ドルも掛かり、それを動作させるPCも1000ドルクラスになるため、Oculus Rift版の制作は断念し、アーケード向けに展開できないか模索しているという。また、ケーブルがなく、フレームレートを維持しやすいGEAR VRにも高い関心を持っているということだ。

 モバイルゲームについては、意外にもフィリピンは、スマートフォンの普及率が他の新興国と比較しても低い(約15%)ためか、“タクシーや電車を待つ間に遊べるゲーム”という現地のニーズに則った、ラン系のゲームや、グアバをひたすら食べるだけのゲームなど極めてシンプルなメカニクスのゲームばかりだった。

 しかもオンライン要素は無く、オフラインゲームばかりで、理由はネットワークエンジニアがいないため。このため少数で制作できるタイトルを数カ月毎にリリースするということを繰り返し、開発力を養っている段階だと言うことだ。

 数カ月前にPC向けの新規プロジェクトとしてチームベースのPvPをウリとしたオンラインゲームのプロジェクトを立ち上げたばかりで、今後キックスターターで開発費を集め、本格的な開発に入っていく予定だという。フィリピンから本格的なオンラインゲームが生まれるかどうか注目したいところだ。

【社内見学】
複数のフロア、ルームに約180名が勤務している。それぞれ別のプロジェクトを担当しており、その風景は欧米のスタジオと変わらない

【社内資料】
机に無造作に並べられたVR機材
試遊モニターは最新の曲面液晶を使っている
まだ現役だというATARIマシンを確認
大量にあるマーベルコミック
CEOのコレクションだというフィギュアと、「Magic The Gathering」のカードコレクション

【新作をチェック】
SYNERGY88といえどもフルスクラッチのゲーム開発はまだ黎明期という印象。ただ、大手メーカーとの実績を積み上げているためキャッチアップは早いだろう。Juvan氏はライバルは台湾のXPECと言っていたが、本気だと感じた

無視できないオンラインカジノの存在。Ubisoftのフィリピンスタジオの影響とは?

取材に応じてくれたSYNERGY88 Director of Business DevelopmentのAlvin Juban氏
「ファイナルファンタジーXIII」のライトニング風3DCGサンプル
モーションキャプチャスタジオも備える
3Dデータ開発についてはかなり自信を持っているようだ
Juvan氏の部屋に貼られていたポスター。左はご存じ「Witcher 3」、右は「Gears of War」のマーカス・フェニックスに見えるが……

 社内見学とゲームのデモの後、オフィスの会議室で改めてJuvan氏に取材することができた。Juvan氏は開口一番、「何故君たちはマニラに来たのか? 美味しいマンゴーでも食べに来たんじゃないのか?」と笑顔で問いかけてきた。それは言外に「日本のメディアが取材するようなものはマニラにはまだないと思うが」というニュアンスを感じたが、率直に「新興国のゲームビジネスに興味があり、海賊版などのネガティブな面も含めて、“今”のフィリピンのゲーム市場を視察に来た」と説明すると、GDAPのプレジデントとして、様々な情報を教えてくれた。

 フィリピンのゲーム市場は、他の新興国と比較してもまだまだ小さいと語る。理由はオンラインカジノの存在が大きいためだという。人々はオンラインカジノにお金を使う一方で、海賊版が当たり前になっていることもあって、ゲームにお金を払うという概念がない。モバイルゲームについても「Clash of Clan」(Supercell)や「Hearthstone」(Blizzard Entertainment)といった海外のAAAタイトルが大きなシェアを確保しており、ローカルメーカーにお金が落ちない。Juvan氏は「この構造を変えていきたい」と語ってくれた。

 そのためには、自社タイトルを増やし、フィリピンメーカーの存在感を示しながら、欧米から外注の仕事を受け、開発力を養っていくことが重要だという。日本のメーカーとも、小規模ながらモバイルのアートを受注しており、今後日本からの業務を増やして行きたいと考えているようだが、言葉の壁が障害になっているという。

 というのは、日本のメーカーのトップの多くは英語を介するものの、現場の開発者は英語がわからない人が多いため、コミュニケーションに支障出るためだという。ただし、クオリティやスピード(納期)については、十分要求に応えられる実力があると胸を張って答えてくれた。

 その一方で今後強化していきたい領域がプログラミングだという。日本や欧米は30年のゲーム開発の歴史があるのに対し、まだフィリピンは10年程度で歴史が浅い。この分野を補うために、GDAPでは学校と提携し、卒業生を新卒として受け入れる体勢を整えている。

 Juvan氏がプレジデントを務めるGDAPには、30の開発スタジオ、23のスクールが加盟。メーカーはゲーム開発ばかりではなく、モバイルプラットフォームやサポート、マネジメントなどの会社も含まれる。日本のメーカーも加盟しているところが特徴で、トーセやKlab、gumiなどの名前が確認できる。

 そして最近、フィリピンのゲーム業界で話題になっているのがUbisoftのフィリピンスタジオ「Ubisoft Philippines」の設立だという。Ubisoft Singaporeから枝分かれする形で今年3月に設立が発表されたばかりで、年内に50人規模、5年以内で200人規模まで拡大すると発表している。

 Juvan氏によれば、フィリピン政府は、雇用確保と税収増が見込めるこの発表を歓迎しているというが、現地メーカーはおおむねネガティブな反応を示しているという。理由は優秀なスタッフが引き抜かれてしまうためで、Juvan氏は苦笑いしながら「確かに短期的に見れば人材の引き抜きは痛いが、数年後にUbisoftから戻ってスタジオに良い影響をもたらしてくれたり、新しいゲームスタジオを立ち上げたりしてくれれば、それでいいと思っている」と中長期の視点からポジティブに捉えていると語ってくれた。

完全なテレワークを実現し、少数精鋭でモバイルゲームを開発するAltitude Games

取材に応じていただいたAltitude GamesパブリッシングディレクターのKeith Morales氏
小規模のオフィスで社内には3人しかいなかったがテレワークで開発を行なっているのだという
デビュー作となる「RUN RUN SUPER V」
デスクには「天元突破グレンラガン」の原画集が置かれていた
スマホゲームの将来的な成長を見越してスマホゲームに賭けると語るMorales氏

 続いて訪れたのは、2年前に設立されたばかりのAltitude Games。こちらは日本人街のあるマニラ郊外のマカティに本社を置き、住所がイタリア大使館と同じだったため、さぞかし豪華で立派な建物を想像していたところ、エレベーターのひとつが故障して動いていないぐらいの経年劣化の激しい雑居ビルだったので驚いた。

 一機しか稼働していないエレベーターを順番待ちしてオフィスのある階に向かうと、省エネのためか、あるいは暑さ対策のためか、室内のほとんどの電気が消され、日中にも関わらず薄暗かった。また、50~60平米ほどのオフィスには、今回対応してくれたKeith Morales氏のほか、数人の事務員がいるだけだった。休日に来てしまったのだろうか?

 聞くと、テレワークを実現しており、全スタッフは自宅で作業しているという。Morales氏は、全スタッフとプロジェクトを統括するパブリッシングディレクターとして本社に詰めている数少ない幹部の1人ということだ。Morales氏からは、よりゲーマーに近い立ち位置からフィリピンのゲーム事情を学ぶことができた。

 フィリピンのゲームファンにとってもっとも身近なゲームプラットフォームはSteamだという。人々はゲームコンソールやスマートフォンは高くて手が出せず、ネットカフェやフィリピン独自のインターネットサービスPISONETのPCを通じて、ネットにアクセスし、ゲームを楽しむ。Steamは、無料や安価で手に入るゲームコンテンツが豊富で、ダウンロードも高速、マルチプレイも快適ということで、ユーザーにとってもっとも手前にあるプラットフォームはSteamとなったようだ。

 実際、マニラでは「Dota 2」や「Counter-Strike」、「Team Fortress」といったValve謹製のタイトルが異様なほど人気で、「League of Legends」より「Dota 2」の人気が高い数少ない国のひとつだと感じた。

 その一方で、無視できないのが海賊版の存在だ。詳細についてはマニラゲームショップレポートで紹介するが、マニラに点在するマーケットには、食品や衣服と並んで主要な商材のひとつとして海賊版のDVDやゲームが並べられていた。値段は単純にディスク代+焼き代で1枚50ペソ(約120円)。ディスクの枚数が多くなればなるほど高くなる仕組みだ。

 フィリピンのコンテンツ価格は、良くも悪くもこの海賊版の価格設定に引きずられており、ローカルメーカーは海賊版に勝る価格設定にしたり、最初から基本プレイ無料で勝負する。しかし、この価格設定にはどういう根拠もなく、基本プレイ無料のゲームについても、海外から優秀なタイトルが多数存在するほか、標準的な決済手段であるクレジットカードを持っていないユーザーが多いため、なかなか売上に結びつかない。

 しかし、フィリピンのゲームファンが持つゲームに対する旺盛な消費意欲はもの凄いものがあり、海外展開のみならず、国内についても可能性を感じているという。このため、フィリピンのローカルメーカーは、Android向けのモバイルゲームの開発や、日本や欧米メーカーの下請けにより、少しずつ実力を蓄えている段階だということだ。

 Altitude Gamesに所属している開発者は30名ほど。ほとんどはフィリピン在住ということだが、アメリカ、ロシア、ウクライナなど海外在住者も何人かいるという。

 ゲーム開発は、UnityベースのAndroidゲームがメインで、2015年にデビュー作「RUN RUN SUPER V」をリリース。横スクロールのアクションゲームで、昨年ソフトローンチしてからこれまでに50万ダウンロードを記録。アクティブユーザーは12,000人ほどで、毎日500人ほどの新規ユーザーが増えているという。

 そしてここからがおもしろいのだが、すでにゲームの開発は終了し、別のタイトルの開発に移っているという。日本の感覚だと、ゲームの開発には多額の開発費がいるため、ビジネスモデルを問わず、数年掛けてアップデートを実施しながらゲームを改良し、売上を伸ばしていくのが普通だが、このゲーム開発で学んだノウハウを次に活かすことでより大きなヒットを狙うのだという。

 現在、3本のゲームを同時開発している。1本は、「プラントvs.ゾンビ」(エレクトロニック・アーツ)のようなキャラクターベースのディフェンスゲーム。タッチ操作、スライド操作で多彩な攻撃を繰り出し、向かい来る敵を撃破していく。まだα版ということだが、操作感は悪くなく、テンポも良い。聞けばわずか5人で開発しているということだが、今後、奥行きのあるゲームに仕上げるため、各種ステージやアイテムを追加していくということだ。2016年10月リリース予定。

 もう1つは、「パズルボブル」のようなバブルシューティングゲーム。ゾディアックをテーマに、星座にちなんだステージデザインになっているということだが、ゲーム性は「パズルボブル」そのものであり、オリジナリティが絶望的に足りないのが残念だ。こちらは2016年7月リリース予定。

 3つ目は、初となるオンラインゲームで、3on3のターンベースバトルを盛り込んだRPG。世界には複数の領土があり、この領土を争奪し合うゲームとなる。α版のゲーム画面では、手前と奥に3体ずついて、「ファイナルファンタジー」のようなターンベースバトルを繰り広げていた。ライオンやパンサー、犬などの動物に変身して戦えるのがウリということだ。こちらは2017年初頭配信開始予定で、フィリピン国内のみならず、海外展開も行なっていきたいという。日本のパートナーは現在探しているところで、興味のあるメーカーは連絡してみてはいかがだろうか。また、日本のゲームファンは、この機会にSYNERGY88とAltitude Gamesという名前を覚えておくといいだろう。

【新作デモ】

(中村聖司)