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バザールの新興国セミナーでイスラム圏のゲーム市場が紹介

有望な新興国≒ムスリム諸国? 魔物と魔法がダメはウソ!? 佐藤翔氏が語るムスリムゲーム事情

11月27日開催



会場:東京コンテンツインキュベーションセンター

 バザール・エンタテインメントは11月27日、同社も入居している東京コンテンツインキュベーションセンター会議室において、新興国セミナー「キーパーソンに訊く、新興国&イスラム圏モバイルゲーム市場の現在」を開催した。

バザール・エンタテインメントが新興国向けに準備を進めているゲームプラットフォーム「Tokyo Game Network」
バザール・エンタテインメントCEO大和田健人氏
バザール・エンタテインメントCTO伊澤伸氏
バザールが発表したコンテンツビジネス支援プログラム
メディアクリエイト 国際部チーフアナリスト佐藤翔氏
世界のゲーム市場規模
新興国の市場規模
新興国市場の課題

 同セミナーは、新興国に関心のある業界関係者を対象に、バザールがホームグラウンドにしているインドネシアをはじめとした新興国のゲーム事情を報告しながら、バザールが2016年初頭サービス開始に向けて開発を進めている、インドネシアをはじめとした新興国向けのゲームプラットフォーム「Tokyo Game Network」向けのコンテンツ探しを目的としたイベント。セミナーには、ゲーム関係者やコンサルタントなど約30名が参加し、熱心にセミナーを聞き入る姿が見られた。

 セミナーでは、バザールCEOの大和田健人氏、同CTOの伊澤伸氏が、インドネシアを中心とした新興国のゲームビジネスの諸課題を報告しながら、それに対して、バザールが様々な課題をどのように乗り越えようとしているかが紹介された。その概要については、まさに弊誌でもインドネシア取材レポート(関連記事その1その2その3その4その5)でお伝えしたような内容が最新情報を交えながら紹介された。

 セミナーの最後には、大和田氏から特報として来場者に対して、実際に「Tokyo Game Network」プラットフォームを使ったインドネシアでのゲーム配信の実証実験を、無料で引き受けることを提案。セミナー参加者特典ということだが、セミナーは今後正式サービスに向けて定期的に実施していくということなので、興味のある方は参加してみてはいかがだろうか。

 さて、今回のセミナーで、大きな驚きと興奮を持って聴講できたのは、ゲストとして招待されたメディアクリエイト 国際部チーフアナリストの佐藤翔氏の「新興国&イスラム圏モバイルゲーム市場の現在」と題されたセッションだ。

 佐藤氏は、サンダーバード国際経営大学院卒業後、ヨルダン=ハシミテ王国で、ヨルダンのゲーム業界団体Jordan Gaming Taskforceで勤務実績を持つなど、非常にユニークなキャリアを持ち、日本でも数少ない中東ゲーム産業のスペシャリストとして、現在はメディアクリエイトでチーフアナリストとして活動している。今回は、新興国ゲーム産業のアナリストの立場から、市場と産業の2つの観点から、新興国、とりわけイスラム圏のゲーム市場の動向について報告が行なわれた。

 まずゲーム産業における新興国の定義は、日本、西欧、北米、東アジアを除く残りすべて。割合にして、メディアクリエイトの2013年の推計で12%程度。言うまでもなく現在はもっと伸びており、日本を含む主要国の成長が鈍化、低下するなかで、新興国で早期にシェアを獲得することがグローバルで成長を維持する上で重要となる。佐藤氏は続けて、新興国の概況を紹介していった。

 まず、東南アジアについては、地域によって得意分野が異なるのが特徴であり、お互いの弱点を補うために、地域間での協力が進められているという。また、欧米諸国のメーカーは、日本や韓国、中国は、直接進出したものの、文化慣習に阻まれてうまくいかないケースが多い。これに対して、東南アジアで遊ばれているゲームは、欧米と日本のちょうど中間ぐらいに位置するため、日本や中国再進出のためのゲートウェイとして活用されつつあるという。佐藤氏は「一度、東南アジアに下がって」という独特な表現で、これを説明し、その結果、世界中から投資が集まり、現在もっとも熱い地域となっているという。

 次に南アジア。主にインドとなるが、デリーやムンバイでは、普通にゲームが売られ、熱心なコアユーザーも存在し、ゲームのレンタルサービスなど、低中所得者向けのサービスも存在するものの、トータルとしてはまったくうまくいっていない。市場規模も今回紹介された6地域の中でもっとも小さい301億円(2013年、メディアクリエイト推計)に留まる。理由について佐藤氏は、インフラの未発達や、現地IPを好む風習などを挙げたが、だからといってクリケットを使ったゲームが受けるかというとそうでもないという。佐藤氏は「いつ伸びるのか読めないマーケット」と厳しい評価を下した。

 続いて佐藤氏の得意分野である中東・北アフリカ。佐藤氏は「いまおもしろいマーケット」と声のトーンを変え、開発力としてはまだまだ限定的なものの、消費国としては非常に有望で、サウジアラビアやUAEをはじめアラブ諸国では、高額の課金ユーザーが多く出現し、世界のF2Pゲームメーカーを喜ばせているという。トップランカーは日本や欧米以上にお金をつぎ込んでおり、ある調査に寄れば日本円でひと月に15,000円以上つぎ込むユーザーがすでに数%存在し、いわゆるアラブマネーを手にする富裕層以外に、一般層までゲームにお金を使う層が拡大しつつあるという。そして佐藤氏は「アラブ、イラン、トルコはマーケットが全然違う」といい、ひとまず中東・北アフリカの説明を切り上げた。

 新興ヨーロッパは、旧東欧圏を指した表現で、大和田氏の「新興国の人々はお金に余裕が出来てくるとまずはシャンプーを買い、そして清涼飲料水、アイスクリームと来て、次にエンターテインメントを求める」という新興国の風景をザックリ言い表した表現に従えば、ようやくエンターテインメントに手が伸びる人々が増えてきた地域だ。しかし佐藤氏によれば、市場には限界があるという。理由は人口の伸び率が低いためで、理由として、子供の出生率が下がり、優秀な若者は西欧に出稼ぎに出てしまうためだという。

 その一方で、ゲームファンなら誰しも知っている「Witcher 3」や「World of Tanks」などは新興ヨーロッパで開発されたタイトルだ。佐藤氏は、ゲーム開発は高度化しており、AAAタイトルのリリースにより、驚くほどの収益を上げているメーカーも生まれつつあるとし、さらにe-Sportsにも着目。e-Sportsというと中国、韓国ばかりが注目されがちだが強いプレーヤーは東欧に多く、それに目を付けて海外から投資も集まりつつあるようだ。

 ラテンアメリカは、アンダーグラウンドのゲーム市場が多く、市場の潜在性は非常に高いものの未発達とした。その一方で、開発力はそれなりにあり、Wargaming.netが現在リブートに向けて開発を進めている「Master of Orion」はアルゼンチンのデベロッパーが開発していることに着目し、小規模ながら質の高いデベロッパーが生まれつつあるとした。

 最後にサハラ以南のアフリカについては「南ア以外はマーケットがない」と言い切り、南アジア同様、ゲーム市場としてはまだまだ未発達な地域であるとした。

 続いて佐藤氏は、本日のもうひとつのテーマであるムスリム圏について話の舵を切った。一概にムスリムというと、アラブ諸国をイメージしがちだが、「そうではない」と佐藤氏はいう。世界最大のムスリム人口を抱える国はインドネシアであり、次いでパキスタン、そしてインドやバングラデシュと続き、実にムスリム人口の62%をアジア諸国が占めている。そしてそのすべての地域が新興国に含まれる。つまり、新興国とはムスリム諸国のことを指すといっても過言ではないわけだ。

 佐藤氏は、来場者が早合点しないように「宗教は同じだが、風俗、習慣はまったく違う」と釘を刺し、インドネシアと、アラブ、イランで国毎に異なり、過去にレバノンの声優がボイスオーバーしたゲームが、他の地域では方言の違いによって評判が良くなかったという実例を挙げながら、ムスリムをひとくくりで理解することを危険性を強調した。

 その一方で、ゲーム産業としては非常に魅力的な3つの共通点があるとした。1つは、若者人口が増えていること。イスラム諸国は出生率が非常に高く、しかも、一般的な傾向として、所得の増加に伴い、出生率が低下することが挙げられるが、ムスリム地域では、所得が上がっても出生率が高いまま維持されており、この点でも魅力的だという。2つ目は所得が上がりつつあること。購買力のある中間層が増えている。

 そして佐藤氏は「3つ目が非常に重要」とし、エンターテインメントが限られていたことを挙げた。現在、自由化が進み、一般層の間で、エンターテインメントが急速に普及しつつあるが、TVに移るドラマやアニメの多くは日本や欧米のコンテンツだという。ムスリム地域の人々は喉から手が出るほどコンテンツを欲しており、この点でコンテンツホルダーには大きなチャンスが眠っているという。

【イスラム世界の概況】
世界のムスリム人口
イスラム世界の広がり

 具体的にムスリム地域で有望なのは、東南アジアと中東とし、インド、パキスタン、バングラデシュ等の南アジアについては市場が小さすぎることを挙げ、除外。インドネシアについては解説を大和田氏に譲り、佐藤氏は中東について話を進めていった。

 まず始めに佐藤氏は中東地域を3つに分類した。アラブ諸国、イラン、トルコ。人口はアラブ諸国が2億人、イランが8,000万人、トルコが7,000万人。この中でもっとも有望なのは2億人の人口を抱えるアラブ諸国で、その中心がサウジアラビアとなる。サウジアラビアは戒律が厳しい国として知られ、そのため進出しにくい印象があるが、佐藤氏は「実際はそうではない」とキッパリ否定した。

 その理由としてアメリカへの留学生の多さを挙げ、彼らが留学後にサウジアラビアに戻ると、そのままアメリカの文化を持ち込むため、それが伝播する形でサウジアラビアの若者はアメリカ文化に慣れ親しんでおり、そうしたコンテンツを欲しがっているという。

【中東の市場概況】
中東の市場概観
アメリカへの留学生の人数

 そのアラブ諸国だが、消費という面ではすでに目に見える形でグローバルマーケットに手を伸ばしているという。佐藤氏は「クラッシュオブクラン」のランキング上位がアラブ系が占めていることや、女性のゲーマー向けのイベントで、「ファイナルファンタジー零式」や「バイオハザード」が使われていることなど具体例を挙げながら、アラブ諸国で欧米のゲームが貪欲に消費されている実態を報告。

 その上で、アラブ進出を目指すゲーム関係者の間で語られる「モンスターと魔法がダメ」という噂話について、佐藤氏は「話が混ざっている」とした。正しくはダメなのは独自のレーティングシステムを持つイランだけで、アラブ諸国はごくごく普通に「ポケモン」や「パズル&ドラゴンズ」を遊んでいるという。アラブ諸国については、それぞれの国で審査は行なわれるもののそれほど厳しいものではなく、よっぽど露出の高いもの以外は問題ないということだ。

【アラブのゲーム市場】
アラブ諸国のゲーム市場
アラブで実際遊ばれているゲーム

 そのイランは、独自の審査制度の中に、モンスターや魔法、ファンタジー的な表現が含まれているのだという。しかも、実質的には国からのお達しのため、モンスターや魔法の表現を全面的に修正しなければ発売できないが、その工数の膨大さ、市場規模の小ささから、ほぼすべてのメーカーはイランは相手にせず、発売しないまま終わるという。

 それではイランに、ゲームらしいゲームは存在しないのかというと、そんなことはなく、イラン独自のファンタジーゲームも遊ばれている。なぜファンタジーゲームが発売できるのかというと、イランの神話に登場するモンスターだからだという。イランでは、そういった模範的なゲームがより多く生まれるように、国がデベロッパーに数割の補助金を提供するプログラムが存在するということだ。

 規制が掛からないゲームで人気なのは「FIFA」シリーズで、世界的にもイランは強豪国のひとつに数えられるという。そのほか、「Grand Theft Auto」や「God of War」、「Mortal Combat」といった禁制品タイトルも並行輸入で入り、遊ばれているという。中でも「GTA」はイランでも人気タイトルのひとつで、あまりに人気すぎてペルシャ語のローカライズした海賊版も存在しているようだ。

 また、モバイルゲームにおいては、アメリカの経済制裁の影響で、GoogleやTwitterといったアメリカ産のサービスが原則使えず、Googleストアも使えないことが多いという。このため、中国同様、独自のAndroidマーケットが発達しているという意外な情報も披露された。

【イランのゲーム市場】
イランのゲーム市場
イランで遊ばれているゲーム
イランにおけるゲームビジネス
まとめ

レバノンのボードゲームを取り出す佐藤氏

 佐藤氏は、まとめとして、新興国への進出を考える場合、ムスリムへの対応、適応が非常に重要になってくるが、一概にムスリムといっても民族も習慣も異なるため、それぞれの事情に合わせた“現地化”が必要とした。とりわけ、アラブとイランは、日本から見ると一緒くたにしがちだが、佐藤氏に言わせれば「全然別物」であり、具体例として「プリンスオブペルシャ」を挙げた。“ペルシャ”とは現在のイランを差す古名だが、当のイラン人に遊ばせると、「アラブの衣装じゃないか!」と憤慨されるのだという。それぐらい日本や欧米諸国から、アラブとイランはごっちゃにされているようだ。

 最後に佐藤氏は、「新興国に進出する際には、現地で作られ、遊ばれているゲームを参考にするのが良い」と切り出し、おもむろに鞄の中からレバノンのベイルートで売られていたという謎のボードゲームを披露。時間を大幅にオーバーしていたため、説明は行われなかったものの、セミナー後に話を伺ったところ、佐藤氏は大のボードゲームファンということで、現地調査に赴いた際、新作のボードゲームを見つけると、言語がわかるかどうかに関わらず買い集めているという。佐藤氏に、デジタルゲームの源流のひとつであるボードゲームの話も今度伺ってみたいと思った。

(中村聖司)