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スクエニ、「de:code」でDirectX 12技術デモ開発の内幕を披露
ゲーム業界の壁を越える試みが、MS/NVIDIAとの“トリデンテ”を生み出した!
(2015/5/28 11:19)
5月26日と27日に渡って開催された日本マイクロソフトの開発者向けカンファレンス「de:code」にて、スクウェア・エニックスはDirectX 12を活用したリアルタイムCG技術デモ「WITCH CHAPTER 0 [cry]」の開発と、その発表に至る内幕を明かした。
「WITCH CHAPTER 0 [cry]」(以下、本技術デモ)は、サンフランシスコで開催された米Microsoftの開発者向けイベント「Microsoft Build Developer Conference(以下『Build』)」の中で初公開された作品だ。
このデモのどのあたりが画期的なのか。そもそも、「Build」はもとより、スクエニがノンゲームの一般IT系イベントで特別な作品を披露したのは始めてのことだ。さらにこの作品は、いまだ開発中のグラフィックスAPIであるDirectX 12を用いて実装されており、映画品質の3Dモデルデータをまるごと投入することで、リアルタイムのCG技術デモとして非常にインパクトのある高品質な映像を実現している。そして、これを実現する課程において、その開発はスクエニで完結することなく、マイクロソフト、NVIDIAの密接な協力を得ている。つまり、異業種3社による“トリデンテ”(三叉のほこ)というべき連携が行なわれていたのだ。
開発の中心を担ったのは、スクエニの第2ビジネス・ディビジョン (BD2)。「FINAL FANTASY XV」の開発・運営をはじめ、テクノロジー推進部と共同開発でゲームエンジン「Luminous Studio」を手掛けるなど最先端の技術開発を進めている部門だ。BD2では最先端の技術と、ワールドワイドな競争力を持つグローバルコンテンツの発信をテーゼとして掲げており、その最新の取り組みの成果が本技術デモとなる。そして本技術デモはスクエニにとり、“業界の壁を越えて、自社の強みをさらに伸ばしていく”という強いメッセージ性を備えた作品だ。
de:codeの2日目に開催されたスクエニよるスペシャルセッションでは、本技術デモの開発に関わったスクエニ、マイクロソフト、NVIDIAのそれぞれから上級スタッフ各氏が登壇し、企画立案から実現に至った数奇な経緯を披露している。そもそも、本格的に開発がスタートしたのはBuild開催のわずか2カ月ほど前だという。その電撃的な作戦はどのように生まれ、実行されたのか。セッションの内容から見てみよう。
「ゲーム業界の外にある、本当の最先端にアプローチ」
本セッションには、スクエニ第2ビジネス・ディビジョンを率いる田畑端氏をはじめ、本技術デモの実現のため各パートを担当した大勢のスタッフが登壇。田畑氏は昨年12月の時点では「『Build』の存在すら知らなかった」というから驚きだ。しかし、はっきりとした問題意識とビジョンはあった。
「スクエニでは従来、コンソール(ゲーム機)の周期に合わせて技術をアップデートしてきた。しかし、新しい世代のゲーム機が出てきた後に対応していくというスタイルで戦うと、どうしても技術にアプローチできないタイミングが出てくる。これをなくすため、ゲーム業界の外にある、本当の最先端にアプローチすることにチャレンジした」(田畑氏)。
ゲーム業界の外で勝負する。そのアイディアを具現化する上で助けになったのは、他社とのリレーションやコラボレーションの調整・推進を担当する業務部の存在だ。業務部というと、何をする部門なのかよくわからないが、英語での部門名は「Development Support Division(開発サポート部)」。わりと長い歴史を持つ部門で、2002年にPS2/PC用MMORPG「ファイナルファンタジー XI」を展開する上で、PCベンダー等とのコラボレーション関係を築き上げるなどの重要な役割を果たしてきた部門だという。
ただ、そうした役割は、スクエニにとってPC市場の規模感が小さかったこともあり、「FF XI」以降はあまり大きく展開することはなかった。そこで転機となったのが、近年におけるモバイル市場の台頭や、ゲーム市場のグローバル化、ビジネスモデルの劇的な変化といった潮流だ。これまで数年単位で考えていた技術革新へのアプローチが、いまや日進月歩の風を呈している。そこで「あえて1度頭を上げて、大局的な動きを考えよう」として出てきたのが、最新デモをDirectX 12で作り、Buildで披露するというアイディアだ。
とはいえ、どうすればBuildに出られるのかすらわからないところからのスタートとなり、当初の企画案は、「DirectX 12で動くものを作るので、どうですか」というふうにマイクロソフトにお伺いを立てるような内容だったという。これを田畑氏が却下。そんなアプローチでは「自社だけでは実現できないものには届かない」との判断から、「最先端のソフトウェア」、「最新のハード」、そしてBD2の基本哲学である「ワクワクしないものは作らない」を追求して勝負することに。それをぶつけてダメならそれまで、という覚悟だったという。
そうして、具体的にどういうものを作るかというレベルでMicrosoftとの話し合いが持たれたのは、なんと3月のGDC 2015の場。Build開催の2カ月前である。「こんな短期間で作るのは難しいのではないか?」というスタッフからのもっともなツッコミも当然入ったが、「少しでも可能性があるからには作る」、と田畑氏は半ば強引にスタッフを説得。
しかし求められるようなものをきちんと走らせられるようなハードウェアが無い。そこで積極的なサポートを提供したのがNVIDIAだ。「世界一のハードと技術が欲しい」と問えば、「宇宙一のハードと技術者を送るよ」と応える。そうして、当時は発表前の段階にあったGeForce GTX Titan Xの4way-SLIという、当代最強のPC環境を前提とした技術デモの開発がスタート。
こうして、戦いのバトンはBD2とテクノロジー推進部の現場へ。Build開催まではあと45日。普通のやりかたではとても間に合わない。
そこで開発チームは、使い慣れたDirectX 11上で3Dモデル等のアセットやエフェクトの製作を進めつつ、平行してDirectX 12を用いたエンジンの開発を進めるという電撃作戦を採用。通常ならプリレンダムービーに使うような素材をそのままゲームエンジンに投入するという、大胆な手法もとったことで、普通なら無茶ぶりに見えるプロジェクトが見事完成に至ったというわけだ。
まとめとして田畑氏は、Buildに出展して得た手応えをこう語っている。「日本にいるとBuildの大きさや影響力が実感しにくいが、実際に行ってみると、本当に多くのIT企業やIT系メディアがいる。開発者たちも、そこで発表される技術によって、いろいろな変化やチャンスを掴もうとしている。そこに出展したことで、これまでなかったような角度からのオファーを頂くなど、これまでゲーム分野に閉じこもっていた我々の取り組みを、より広げることに成功した。これからもこのような取り組みを続け、そこで研鑽した技術を、きちんとビデオゲームに持ち込んでいきたい」。
いまもゲームはいくつかの分野でコンピューティングの最先端を走っているが、様々な産業のIT化が激しく進行してきたことで、より多くの分野では後塵を拝することになった面もある。そんな中でゲームがコンピューティング界における“ガラパゴス”にならないよう、各分野の最先端をきちんとキャッチアップしていくことは、我々ゲームユーザーにとっても大いに歓迎すべきことだろう。
本技術デモでチラリとかいま見えた新たな“ワクワク感”は、どのように実際のゲーム製品として結実していくだろうか。今後もスクエニのグローバルな取り組みに注目していきたい。
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