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【GDC 2014】「Forza 5」のフォトリアルなコースは新手法で開発された!

Turn 10の取り組みに見る、新技術の活用によるコース素材収集アプローチ

3月17日~3月21日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Convention Center

セッションの様子

 Xbox Oneの国内発売も正式に発表され、ようやく国内でも次世代ゲームを余すことなく楽しめる展望が見えてきたこの頃。中でもXbox Oneの米国発売時のローンチタイトルだった「Forza Motorsport 5」はレースゲームファンならずとも注目の1本だが、GDC 2014のセッションではその制作手法に踏み込んだポストモーテムセッションが開催されている。

 このセッション、“Capturing Reality: Gathering Reference for Forza Motorsport 5”では、本作の開発を担当したTurn 10スタジオのテクニカルアートディレクター、Arthur Shek氏が登壇。「Forza 5」に搭載されたフォトリアルなコースの数々を実現した、最新の制作手法がつまびらかに披露された。

【Forza Motorsport 5: Launch Trailer】

コース制作のための素材撮り……伝統的な手法はもう限界

Turn 10のArthur Shek氏
クルマもコースも徹底的にフォトリアル
写真をとる!
素材がものすごい数になる

 Arthur Shek氏はTurn 10スタジオで「Forza」シリーズのコースづくりを担当してきたアートディレクターだ。近作ではレンダリング技術の発達によりますますリアリティが要求されるようになってきているが、実在・架空ともにフォトリアルを目指すコースづくりは至難のワザ。このセッションでは、リアルなコースを作るための素材をいかにして作り出すか、というテーマで新旧2つの手法が比較された。

 まずは、2005年から続く「Forza」シリーズの長い歴史の中で取られてきた“伝統的な手法”について。Turn 10では長い間、写真撮影をベースに各コースの素材を収集してきた。

 各地のサーキットや架空コースの舞台となる街々にスタッフを送り込み、各所で写真を撮りまくる。これをフォトライブラリ化してコース制作に役立てるという寸法だ。写真の数は1コースあたり数万点にもなるというから大変。なにしろただの写真素材なので、場所や方向といった情報がなく、非常に整理がつきにくい。しかも、各写真の露出等がバラバラなので、テクスチャ素材を切り出すには職人の勘が必要となり、どうしても品質にばらつきが出てしまう。

 コースの形状の測定も大仕事だ。例えばバンク角などは各ポイントで水平儀を使って計測。全体のコースレイアウトはGPSを持ってコース内輪を歩き通すことで記録する。数マイルもあるコースではとんでもない大仕事となる上、誤差や間違いも混入しやすくなる。データが曖昧なためコースレイアウトの作成やオブジェクトの配置といった、ラフデータの作成の試行錯誤が増え、製作時間もかかる。その上、ロケ地から帰ったあとに撮り忘れ、計測し忘れが発覚したらもうどうしようもない。

 という困難を乗り越えつつも、「Forza 4」までのコースは制作されてきた。しかし「Forza 5」はXbox Oneローンチタイトルとなり、次元の異なる要求が出てきた。物理ベースの光学的に正しいレンダリングのため、正確にカラーコレクションされた素材が必要となるし、より正確なコースレイアウト、よりフォトリアルな見栄えを実現しつつ、本体の発売に間に合わせなければならないのだ。これは無理だ。

3Dオブジェクトの素材も写真。位置情報などはリンクされていないので、できたモデルは勘で配置
レイアウトを確認するため、車で走りながら前方を撮影した映像も用意。画角が狭く使いにくい
手作業でバンク角を計測
GPSを持ってコースを歩く
こういうデータができる。何かグニャグニャしてるのでクロスチェックによる修正が必要
ロケ地から戻る最中に、撮り忘れが発覚するなどのイメージ

天球カメラ、レーザー計測、ポイントクラウド……新手法がコースづくりをグレードアップ

カラーターゲットによる写真のニュートラライズ
全天球カメラでコースのパノラマ動画を記録
レーザーで周辺の風景を正確に記録
正確な立体地図データができる

 というわけで大変な課題に直面したコース制作チーム。しかし「Forza 5」は要求を満たし、無事にXbox Oneのローンチに合わせて発売された。彼らを救ったのは最新のデータ収集ソリューションの数々だ。

 まずテクスチャ素材のためのフォトリファレンスの撮影に、カラーターゲットを使用。これを含めて撮影した写真は、露出など写真の光学特性が異なる場合でも、ソフトウェアを通じて精密な色補正が可能となる。これを使って光学的にニュートラルなフォトリファレンスを取得。物理ベースレンダリング向けのテクスチャが簡単に制作できるようになった。

 次いでコースレイアウトや風景チェックに使われる素材の作成だ。これにはGoogleカー等にも使われるような、全天球カメラを導入。車両に載せて走らせながら、GPS情報と合わせて撮影を行なうことで、精密かつ全地点でパノラマ視野が得られる万能コース素材を得ることができた。アーティストはコース内のどこでも、どの方向でも、正確な見た目を簡単に確認できる。

 そして究極のツールとなったのが、レーザー計測器の使用だ。都市内を舞台とする架空コースの素材収集にあたり、ロケ地にレーザー計測器を持ち込み。人気の少ない明け方に繰り出し、360度全方位のポイントクラウドデータを取得した。

 これで得られるデータは、周囲の地面や建物の正確な形状を示す、大量の点の集まりだ。これは3DS Maxのポイントクラウド拡張機能で読み込むことで、DCCツール上で編集が可能になる。カット&ペースト、移動や入れ替えも自由自在。コースレイアウトの必要に応じて編集を加え、ポリゴン化。これ以上ないほどフォトリアルな都市コースの完成だ。

 このように様々な手法を導入した「Forza 5」のコース制作。Shek氏は、この手法を取ったおかげで開発期間の大幅な短縮、特にラフレイアウトの作成が顕著に簡単になったと報告。これによりブラッシュアップに避ける時間が増え、製品の品質を更に上げることができたほか、開発コストも10万ドル単位で圧縮できたといい、良いこと尽くめ。

 もちろん、全天球カメラによる高解像度の動画素材やポイントクラウドでは、従来の手法に比べて取り扱うデータが爆発的に増えるため、それを十分にハンドリングできる環境の構築は必要だ。初期投資はかかるものの、そもそも巨額のコストがかかるAAAクラスの次世代ゲーム開発においては、今後ますますこのような手法が有効になっていきそうである。

カラーターゲットを使ってニュートラルなテクスチャ素材を作成
全天球カメラによるパノラマ動画で全地点の全方位が即確認可能に
レーザーで取得したポイントクラウドデータ。DCCツール上で自在に編集、ポリゴン化

(佐藤カフジ)