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SCEJAデピュティプレジデント織田博之氏特別インタビュー

SCET独自の取り組みと、急成長を遂げるローカライズセンターの今後の展開について

SCET独自の取り組みと、急成長を遂げるローカライズセンターの今後の展開について

SCETのビジネスが好調に推移していることが江口氏の口ぶりから伝わってきた
SCETブース「グランツーリスモ6」コーナー

――台湾について、江口さんに質問です。昨年台湾で実施したいろいろな施策があると思いますが、成功事例は伺いましたが、逆にこれは上手くいかなかった、回らなかったというものはありますか?

江口氏:正直言うとないですね(笑)

――それはソニー時代から今までずっと台湾で務めてきた勘だったり経験が生きているということですか?

江口氏:そうですね。大変おこがましいのですが、台湾におけるビジネスについて、流通構造や、商習慣、言葉も含めて理解できていました。しかし、一言で流通を変えるというと簡単な様ですが、やらなきゃいけないことが山のようにあります。台湾全土のゲームショップはもちろん、家電量販店やECサイトの代表者1人1人とお互いの方針を話し合い、契約内容を詰めていきました。かなり慎重にプランニングした上で行動を起こしたことが、ここまで順調に来ている要因だと考えています。この点に関しては、以前の台湾および中国での業務経験が役に立っていますね。

 上手くいかなかったというか、苦労したところという意味では、ローカライズセンターを急拡大しましたので、採用活動が大変だったということぐらいですね。あとは、私が行なっている変革では、かなりいろんなところに手を打ったので、スタッフは大変だったと思います。スタッフにも一人二役、三役を求めましたので、皆少々疲れたかなということもありましたし、ローカライズセンターも増員、増員をしてもまだ追いつかず、皆かなり残業して頑張ってくれているので、そういった意味ではスタッフに苦労を掛けて申し訳なかったと思っています。

――昨年SCE Asiaから、SCE Japan Asiaに変わって、SCETの役割は何か変わったのでしょうか?

江口氏:私がSCETに来た直後にSCEJAになりましたので、実は以前の体制を知らないのですよ。私がSCETの責任者に就くにあたって織田から受けたダイレクションは「とにかく新しいコトをやってくれ」でした。それは失敗してもいいと。「いま失敗してもいいと言いましたよね。やります」となりました。当然前任者が築いた上でのビジネスであり、ベースができていたからこそですが、いろいろ新しいチャレンジができて良かったです。

 私が行なった施策のいくつかが香港や韓国で「それ、良いね。こちらもやってみるよ」というように、販社を超えた共有もできたり、たとえば「GT6」については、今回のブースでもかなり大きく出展していますが、我々のプロモーション情報がアメリカ、ヨーロッパでシェアされたりと、多少なりとも台湾はチャレンジの場、実験の場という役割ができているのかなと感じます。

PlayStation Awards特別賞を受賞した台湾Rayark。これもまたエポックメイキングな出来事だ
RayarkがPlayStation Mobileで開発した音楽ゲーム「Cytus Lambda」

――過去の取り組みでいうと、SCE Asiaの時代に台湾で力を入れていたのは、クリエイターの育成、あとは学生さんの育成ということなのですが、こちらは今どういう状況なのでしょうか?

江口氏:継続しています。一部大学との話しも常に続いています。私自身も台湾のゲーム開発会社さんと頻繁にコミュニケーションを取っています。多少話がそれますが、先日、日本で行なわれたPlayStation Awardsで台湾のRayarkさんが特別賞を受賞されましたが、その翌週、私が受賞の盾をオフィスにお持ちしました。オフィスといってもマンションの一室で、環境的に苦労されているようなところも感じましたが、とにかく皆さん夢が溢れている方々でして、これからも一緒にみんな苦労してやっているようなところにいって、でもみんな夢あふれている皆さんで、これからも一緒に頑張っていきましょうというお話をしてきたのですが、こういった皆さんを支援していくというスタンスはまったく変わっていないですね。

 支援機能としては東京がむしろ強化されていて、デベロッパーリレーション課という新しい課が、パブリッシャーリレーション部の中に設置されました。台湾をはじめアジアのインディーズ、そして日本のインディーズもすべてまとめてデベロッパーの方をサポートする。さらにこれまで続いてきた学校に対する支援などもジャパンとアジアが一体となって動いていこうという組織ができあがっています。ついては、台湾のスタッフはそのままながら、東京では今まで携わってきたメンバーにプラスした人員、日本のインディーズもサポートしているメンバーも一丸となってサポートをしています。

――組織的に洗練された感じなのですね。

江口氏:そうですね。デベロッパーリレーション課ができたのが、半年前くらいですからまだ新しい組織なのですが、アジアの開発会社さんやインディーズさんの熱意がとても高いので、しっかりサポートさせて頂きます。ジャパンアジアが一緒になったので、日本およびアジアの担当者も今一丸になっているということです。

――アジア発のコンテンツについて、大きな動きはありますか?

織田氏:大きな動きではないですが、あとは台湾やシンガポールの各インディーズさんや、大学の教育機関などと協力して、クリエイターを育成して各地でオリジナルゲームを作っていただいて、その作品を世界に向けてパブリッシングしていくということをやっていきたいなと思っています。

江口氏:タイトルは順調に増えています。むしろみなさんレベルが上がっていて、要するに独り立ちできる方が多くなってきているのです。それはとても良いことだと思っています。今までのようにこちらから手厚くサポートをしているという状況からは、一端そこを過ぎると、後はもう自分でやれますからという形で、次のステップに進まれている方が多くなってきています。一度実際に商品を出されると、いろんな経験値が積まれるようです。

――ローカライズセンターの規模も昨年に比べると倍に拡大したということですが。

江口氏:ええ、もう絶賛拡大中です。

SCET本社内にあるローカライズセンター「中文化中心」
中文化が活況を呈する一方で、台湾唯一のゲーム専門誌「電玩通」が2月6日号を持って終了した。10年弱刊行され、台湾のコンソールゲームファンに愛され、彼らの重要な情報源だった
金に赤という中華カラーで彩られた「電玩通」最終号。中文化されたゲーム雑誌やゲーム攻略本は、台湾のゲームファンにとって日本語版を遊ぶためのサポートツールとして機能していたが、中文化が増えたことで皮肉にもその役割を終えることになった。お疲れ様でした

――いまどのような状態で、昨年何タイトルくらいローカライズを手がけたのですか?

江口氏:昨年発売されたタイトルで40タイトル強となります。今後さらにローカライズしたタイトルが売れると、是非次のタイトルも中文化しましょうという声に繋がり、ポジティブスパイラルになる予感がします。むしろ今、これは私の悩みでもありますが、ローカライズのクオリティを落とさずにタイトル数を増やすという難しい局面に来ているので、ここから先がまた大変ではあります。

――昨年は40タイトルだとすると、今年はどのくらいになりそうなのですか?

江口氏:おそらく2倍程度になる可能性はあると思います。それはディスク版だけでなく、配信版も含めた全タイトル数というカウントの仕方になります。

――ここでやっているのは中文、繁体字と簡体字の2つだけで、韓国はまた別ですか?

江口氏:そのとおりです。

織田氏:東京と韓国にもローカライズチームがありまして、1番人数が多いのはこの台湾です。それは中文の需要が大きいからであり、そして韓国語も極力ローカライズタイトルを増やしていこうというディレクションになっています。

――昔は「どれが中文版ですか?」と聞いてたのですが、今だと「どれが日本語版ですか」って聞いた方が早いくらい中文版が当たり前になってきましたね。

織田氏:そうですね。だいぶそういう感じになってきましたね。パブリッシャーさんの意識がこの1年間で大きく変わって頂いたと思います。中文化、しかもオリジナル言語と同日に発売すると売り上げが伸びますという実績を上げてきました。コストも手間暇もかかることですが、ここまでの実績と、次第にもう中文版同時発売でないとアジアでは語れないねというムードになってきていますね。

江口氏:昨年は台北ゲームショウの前日、記者会見をしましたが、そこで織田が「11タイトル中文化します」と言ったら大反響がありました。今はそれだけではあまり喜んで頂けないくらい中文版が増えてきていて、お客様もそれを期待して待ってくれるという感じになってきましたね。

――これだけのビジネスになってきますと、ある意味副業としてローカライズできますよね。

江口氏:なにかあったら僕それやろうかな。紹介してください(笑)

――でもこれだけの規模でローカライズをやってるメーカーさんってプラットフォーマー含めてなかなかいないですよね。

江口氏:中文化に関してはないと思います。これまでのローカライズって、その国のフリーランスの翻訳者の方にあなたは100ページ、あなたは200ページとバラまいて、それをアセンブルして載っけるというやり方だったと思います。

 弊社以外では、そのようなパターンが多く、それだと速いしリソースを抱える必要がないし効率的なのですが、ストーリーの最初と最後でセリフの言い回しが違っていたりすると、場合によってはキャラクターの性格まで変わってしまうようなことが発生することがあるので、我々はここにゲームが大好きなスタッフを集めて、最小単位の担当者が随時情報を交換しながらタイトルの世界観や統一感を大事にしてやっているので、お客様からはSCETのローカライズなら大丈夫だ、非常にクオリティが高いという評価をいただいています。ご存じのようにチームも情熱を持ってやっていますので、今後量とクオリティの両立をいかにやっていくのかを考えているところです。

――SCEのアジア部門としては、今後、基本的にすべてのタイトルをローカライズしていきたいのか、それとも取捨選択はすべきだと考えているのか、そのあたりはいかがですか?

織田氏:タイトルによりけりです。例えば配信型のテキスト量がすごく少ないものであれば、それはむしろそのままで出すのがいいのではないかとか。タイトルbyタイトルですね。ただいわゆる単品ものというかパッケージが出るものに関しては、目指せ極力全部ぐらいな勢いですかね。

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(中村聖司)