ニュース
【GDC 2013】次のプラットフォーマー王者を狙うAmazon
北米の開発者に向けた万全のサポート体制をアピール
(2013/3/30 16:45)
Amazonといえば、本屋というイメージはいつ頃までだろうか。いまやAmazonは世界最大の通販サイトであり、AndroidタブレットKindle Fireを擁するメーカーであり、さらにAndroid用アプリを配信するプラットフォーマーでもある。
Kindle Fireが広く普及している北米では、Amazon AppStore for Android(以下、Amazon AppStore)はAppleのAppStoreやAndroidマーケットと共に有力なプラットフォーマーとして認識されつつある。2011年にはIGDA(国際ゲーム開発者協会)から利用規約について懸念を表明されたり、AppStoreの名称でAplleから裁判を起こされたりと、かならずしも順風満帆とは言い切れない船出ではあったが、それだけ既存勢力が存在感の大きさに危機感を抱いているということだろう。
「GDC 2013」ではAmazon AppStoreのChiang Mehta氏によるスポンサードセッション「Making Money with Mobile Gaming:Best Practices from Amazon」が行なわれた。内容は、タイトル通りAmazonで稼げるようなアプリを開発するために、どんなサポートが用意されているかを総まとめしたものだ。
このレポートでは、セッションで紹介された情報に既知の情報を含めて、Kindle発表からの流れとともに、Amazonが歩んでいる道筋を改めてまとめると共に、プラットフォーマーとしての魅力を考察してみる。日本の状況は、3月16日に行なわれた「OGC 2013」のAmazonセッションレポートで詳しく紹介しているので、こちらも参考にして欲しい。
実は世界最大のタブレットメーカーでもあるAmazon
北米の調査会社IDCは2013年3月に、2013年のAndroidタブレットの世界への出荷台数は1億9,090万台になるだろうという予測を発表した。同じ発表の中で2013年の市場シェアはAndroidがiOSを上回って首位になると予想している。そんなAndroidタブレット市場の59%は北米が占めており、その中の33%はKindle Fireだ。
Kindle Fireは電子書籍端末Kindleのカラー版として2011年11月に発売された。当時としては破格の値段で一気にシェアを広げた。現在は上位版のKindle Fire HDとKindle Fire HD 8.9もラインナップに加わり、日本でも2012年12月に発売された。ちなみにAmazon AppStoreは北米ユーザー向けのサービスで、日本ではAmazon Android アプリストアが国内版のサービスを行なっている。
発売当初から電子書籍リーダーというよりもAndroidタブレットとしての需要が大きかったKindle Fireだが、2012年の4月には、アプリ内課金のためのAPIを公開した。決済にはAmazonのストア決済でもおなじみの1-Click方式が使われており、迅速な決済を可能にしている。決済の容易さは課金率の高さという結果に反映されており、別のプラットフォームに提供されている同一のゲームの中でもきわめて高い利益を確保している。
2012年7月には、Kindle fireのサービス「GameCircle」を発表した。これはユーザーの実績や、リーダーボード、クラウドセーブといった機能を実装する仕組みで、AppleのGame Centerに相当するものだ。2012年8月には、独自のアプリ開発スタジオAmazon Game Studioを立ち上げ11月には初のモバイル向けタワーディフェンスゲーム「Air Patriots」をリリースした。
Amazon Appを開発するための各種APIを整備
9月に北米で開催されたAmazonのプレスカンファレンスでは、プラットフォーマーとしての独自色をいよいよ強くする各種の新サービスが発表された。その中の1つが、子供が使える範囲を親が制限できる「Kindle Free Time」だ。日本では、親の端末を子供が勝手に使って高額の課金をしたことがたびたびニュースになっているが、この機能を使えば子供が触れることができるコンテンツを制限したり、決済のためのパスワードを設定できるようになる。
2012年12月には、開発者用のA/B Testing APIが提供された。A/Bテストは、デザインや内容の一部だけが違うサイトを使ってクリック率などを測定するためのテスト。このAPIを使えば、アップデートなしで要素を変更することが可能で素早い測定と改善が可能になる。
マネタイズについても、2つの新しい手法が導入された。1つは、2013年3月4日に公開された「Amazon Mobile Ads API」。これは北米のユーザーを対象にした広告プログラムで、Amazon AppStoreとGoogle Playからダウンロードするアプリに挿入できる。ユーザーが最初に画面を開いたときに、フロート型の広告が出る仕組みでアマゾンアカウントのデータや、ゲームの内容などを参照しておすすめの商品が表示される。
もう1つは5月から実装される予定のKindle Fire向け仮想通貨「Amazon Coin」。AppStoreでゲームやアプリを購入したり、インゲームアイテムに課金するために利用できる。提供開始時には数千万ドル相当のコインがユーザーにプレゼントされる予定だ。このコインで決済された場合も、売上高の70%が開発者に分配される。
他にも、アプリがクラウド経由でユーザーにプッシュ通信を送る「Amazon Device Messaging(ADM) API」や、位置情報を使う独自の地図「Amazon Maps API」なども開発されている。ADMはデバイスのバッテリー消費を抑えるためのもので、現在はどちらもベータプログラムが提供されている。
せっかく作ったアプリの存在をどうやってユーザーに気づいてもらうかは、モバイル向けゲームを世に送り出す開発者が頭を悩ます大きな問題だ。Amazon AppStoreでは、リアルの商品を購入するときと同じようにレビューやリコメンド、購入履歴に基づいたオススメのメールマガジンなどでユーザーにアプリの存在をアピールする。
例えば、マーケットでレシピアプリを表示すると、下に「このアプリを購入している人は以下のアイテムも購入しています」というおなじみのリコメンドが現われる。他にもレビュー機能や、個別のターゲットに向けたメールマガジンなど、Amazonと同じサービスが受けられる。
上記に紹介したAPIはAmazonの開発者用ページからダウンロードできる。他に、Adobe AIRやUnity、Eclipseのプラグインや拡張にも対応している。PC上でアプリを開発する為のエミュレーターももちろん完備している。万全の体制で開発者を呼び込もうということで、今回のセッションに至ったわけだ。
ほんのひと昔前には、モバイル向けのゲームは静的で家庭用ゲームにはクオリティの面で遠く及ばなかった。しかし、ハードの性能が向上し、描画エンジンが進化し、ゲームデザインもインターフェイスも日々進化している。Amazonがアプリ開発にこれだけの力を注いでるのは、そこにまだまだ巨大な市場が隠れていると認識しているからだろう。
Androidベースのゲームコントーラーが複数登場し、AdobeのブースではFlash11で動くハイクオリティな3Dブラウザゲームが展示されていた。日本ではまだまだゲームと言えば家庭用ゲームのことを指すという認識が強いが、そんな認識をそろそろ改めなければならない時代になっていると、今回の「GDC 2013」に参加して強く感じた。