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【GDC 2013】「Age of Empires Online」の失敗から学ぶ

これからのF2Pゲームのマネタイズ手法と課金システムの変更の仕方

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

 2011年8月に鳴り物入りでサービス開始した、「Age of Empire」シリーズの最新作「Age of Empires Online」。このシリーズは数あるReal Time Strategy(RTS)作品の中でも特に有名なシリーズで、大きな売り上げを達成してきた。

 そのシリーズ最新作が登場するということで、当然の事ながらユーザーの期待値はかなり高かった。しかし売り上げやプレーヤー数を見ると、これまでのシリーズ作品に比べると見劣りする結果になってしまったという。

 この様にリリース直後は散々な結果になってしまったが、様々な修正を行なうことで、ユーザーからの評価や売り上げを取り戻すことに成功したという。

 なぜ本作は失敗してしまったのだろうか。そしてどのようにして売り上げや評価を取り戻すことができたのかをマイクロソフトのKevin Perry氏が紹介した。

【Age of Empires Online】

「Age of Empires Online」はなぜ失敗したのか

MicrosoftのKevin Perry氏

 「Age of Empire」シリーズを開発したEnsemble Studiosは閉鎖されたが、別のスタジオがこのフランチャイズを受け継ぎF2Pプレイモデルとして新たにリリースされたのが「Age of Empires Online」だ。世の多くのゲーマーたちは「あの『Age of Empire』シリーズが帰ってくる!」と本作に大きな期待をよせていた。だがその期待は裏切られる事になる。

 その原因はコンテンツの少なさだ。これまでのシリーズ作品にはプレーヤーが選択可能な文明が10個程度用意されていたのだが、本作はローンチ時3個しかなかった。しかもそのうち1個は有料の追加コンテンツだ。

 他にもシリーズの人気のモードの1つ、AIを相手に戦うモード「スカーミッシュモード」も実装されていなかったり、対戦に装備システム&レベルシステムが導入されるなど、これまでの作品の進化形を期待していたシリーズファンは大きな肩透かしを食う事になった。

 またマネタイズ面でも成功とは言えなかった。Perry氏は本作のビジネスモデルについて「そもそもが間違ったビジネスモデルだった」と振り返る。追加コンテンツの価格は文明が20ドル、追加のクエストは10ドルと単体の価格設定は高めだが、これらのコンテンツは1プレーヤー当たり1度しか購入できないので、プレーヤー当たりの最高売り上げ単価は、50ドルにしかならなかったという。

 こうしてユーザーからは見放され、ビジネス的にも失敗という非常に残念な状態からスタートした本作だったが、問題点を認識しローンチから4カ月たった2011年の12月に修正作業をスタート。簡単な部分から徐々に手を入れていった。

 まず価格が高かった追加要素の価格を半額に再設定、新たな文明を2つ追加、装備&レベルが影響しない対戦モードの追加、レベルアップ条件の緩和などの調整を行なったという。これらの修正によりユーザーからの評価は徐々に改善されていったという。

 こうして行なわれた修正作業の中で最も売り上げに影響があったのは課金システムの見直しだったという。

ローンチ時は圧倒的にコンテンツ量が少なく、ゲームシステムもシリーズファンには受け入れられ難いものだった
ゲーム内の様々な要素にテコ入れを行った。追加要素の価格を半額に再設定すると売上数が2倍になり、総売上は同じ値を維持していたという

大胆に課金システムを変更。売り上げは3倍近くに

 これまでの課金システムはゲームプレイは無料で、追加の文明やクエストはリアルマネーで買い切りというビジネスモデルだった。

 このシステムを大幅に変更し、各種の追加要素をゲームプレイだけでも入手できるようにしたのだ。具体的には新たに「Empire Points」というシステムがゲーム内に追加され、このポイントを消費してゲーム内ストアで追加の文明や追加のクエストを購入するシステムに変わった。

 「Empire Points」はゲームをプレイしていると自然に溜まっていくので、リアルマネーを使わなくても、全ての追加要素をアンロックすることができるようになった。

 しかし「Empire Points」をゲームプレイだけで貯めるのは時間も手間もかかるので、手っ取り早く追加要素を入手したいプレーヤー向けにゲーム内課金を行なってポイントを入手できるというシステムも追加された。

 こうしてプレーヤーのプレイスタイルにあわせたゲームプレイが可能になった。この変更により全ての要素が無課金でも楽しめる“本当の意味での”F2Pモデルへと移行した。これらは単純に全ての要素が無料でアンロックされるようになったというメリットだけではない。

 これまでは追加要素の購入には、Games for WindowsやSteamといったプラットフォームを経由する必要があり、ユーザーは煩わしさを感じていた。しかしこのシステムの導入により、全ての追加要素がゲーム内のストアから購入できるようになり、スムーズにユーザーを誘導することができるというメリットもあった。

 更にプレーヤー当たりの売り上げ単価を伸ばすための新たな要素として新たなタイプのアイテムが追加された。ゲームプレイを少し快適にする消耗品や、キャラクターの見た目をカスタマイズするアイテムで、これまでにもあった他の追加要素とは違い上限なく購入できる。これによりプレーヤー1人当たりの売り上げの上限がなくなった。

 これらのシステム変更の結果メディアからの評価は上々で、口コミでプレーヤー数も増えていき、売り上げは3倍近くに跳ね上がったという。

課金システムをテコ入れ。売り上げは3倍近くに伸びた
システム変更後の売り上げの38%を占めたのが、新たに追加されたアイテムの売り上げだったという
追加された課金要素の一例。兵士の見た目をカスタマイズできる

課金システムの変更は誰のために?

 この様に課金システムに手を加え売り上げを大きく伸ばしたのだが、これはマネタイズ目的ではなく、もっとプレーヤーの興味を引けるようにという目的だったという。「まずプレーヤーにゲームを楽しんでもらう。楽しんでもらえれば自然に売り上げに繋がっていく」とPerry氏は振り返った。

 この様な課金システムは本作だけの特殊なシステムではなく、最近のタイトルでは「League of Legends」といったタイトルなどにも採用されている手法だ。本作とは異なるゲームシステムではあるが、こちらも高い売り上げを上げていることからも、有効な課金システムであることがわかる。

 無料でプレイするプレーヤー、お金を払ってプレイするプレーヤーの様に別け隔てなく、全てのプレーヤー層に向けてゲームデザインを行なう。それがこれからのF2Pモデルで成功するための秘訣になるのだろうと感じた。

(八橋亜機)