日本科学未来館、新規常設展「2050年くらしのかたち」などを公開
AR技術や空間情報科学を介して未来の科学技術を一足先に体験!


8月21日より公開

会場:日本科学未来館

入館料:大人600円、子供(18歳以下)200円



お台場にある日本科学未来館
挨拶を行なう日本科学未来館 展示開発課長 内田まほろ氏。今回のユニークな新規常設展示について「先端科学をいかに魅力的に見せるのかという展示開発手法を国からミッションとして与えられている」と説明

 日本科学未来館は8月19日、2つの新規常設展示「2050年くらしのかたち」、「アナグラの歌~消えた博士と残された装置」のメディア向け内覧会を開催した。新規常設展示は8月21日より一般公開され、入館料は大人600円、18歳以下の子供200円。本稿では、2つの新規常設展示を先行体験することができたのでその模様をお伝えしたい。

 日本科学未来館は、日本が誇る科学技術を自ら体験しながら学ぶことができる体感型の施設で、2001年7月に開館し、今年で10周年を迎える。日本科学未来館とゲーム産業は直接的な関連性は薄いものの、同館が扱う科学技術には、IT(情報技術)も含まれ、コンピューティングパワーを駆使したゲームライクなインタラクティブエンターテインメントも積極的に取り入れられている。

 とりわけ今回公開された2つの新規常設展示は、ゲーム関連の技術や演出が数多く取り入れられ、さらにゲームクリエイターが積極的に参画していることから、閉館後に実施されたメディア向け内覧会では、一般メディアのみならず、ゲームメディアにも声が掛けられたようだ。

 具体的には「2050年くらしのかたち」には、未来世界を仮想体験する映像の駆動装置として日本マイクロソフトのXbox 360が採用され、マンマシンインターフェイスにKinectが導入されている。「アナグラの歌~消えた博士と残された装置」では、演出を担当したグラスホッパー・マニファクチュアの飯田和敏氏を筆頭に、数多くのゲームクリエイターが参画している。

 展示内容そのものはいずれもゲームではなく、あくまでゲーム技術を活用した教育的効果のある展示物となるが、繰り返し試したくなるようなリプレイバリューの高い内容となっているため、機会があればぜひ試してみてはいかがだろうか。


【2050年くらしのかたち】
説明を担当したのは日本科学未来館 科学コミュニケーターの嶋田義皓氏。日本科学未来館でもポピュラーな35の科学トピックを取り入れているという。新しい展示手法としてKinectによるジェスチャーインターフェイスを採用しているのが特徴となっている
【アナグラの歌~消えた博士と残された装置】
日本科学未来館 科学コミュニケーターの小沢淳氏は空間情報科学を「情報がさりげなく人間に寄り添う社会」と紹介。自分の置かれている状況や気持ちまでくみ取った上で最適な情報を提供するのが理想型のようだ



■ ジェスチャー操作で未来の暮らしを仮想体験する「2050年くらしのかたち」

日本科学未来館のシンボルであるジオ・コスモスのすぐ近くに「2050年くらしのかたち」の展示はある
ジオラマで再現された“いとおか市”。ジェスチャーとARを駆使して街を探検する
Kinectによるジェスチャー操作は現時点では手の操作のみ。足や頭の動きも反映できるとより楽しくなりそうだ

 「2050年くらしのかたち」は、「技術革新と未来」テーマ2年ぶりの新作展示となるもので、総合監修は都市工学の専門家である独立行政法人国立環境研究所 理事長の大垣眞一郎氏、美術監督は映画美術監督の種田陽平氏が務めている。

 展示内容は、暮らしの隅々にまで科学技術が浸透した2050年の架空の都市「いとおか市」を舞台に、プレーヤーはいとおか市の新たな住人として、自らの理想を実現するために必要な科学技術を提案しながら、その正の効果と負の効果を確認し、社会における科学技術のありかたを考えるというもの。

 約120㎡の展示スペースの過半を占めるのが、巨大な「いとおか市」の模型で、今から40年後を意識した丸みを帯びた建物など、未来型の都市が構築されている。よく見ると、超伝導を駆使して浮上走行するリニアモーターカーや、空を飛ぶ1人用の乗り物などが配置されるなど、ディテールも凝っていて見ているだけで楽しめる。また至る所にカメラが据え付けられており、これが参加者の“目”となる。

 体験フローとしては4つのステップで構成されている。まず始めに入り口にある大型モニターで、アニメーションで描かれた未来予創図を視聴し、2050年の「いとおか市」の概略を掴む。次にチケットを受け取って中に入り、チケットをかざして端末にログインし、Kinectを使ったジェスチャー操作で実際に街を歩いてみる。

 街は複数のブロックで構成されており、模型内に設置されたカメラを通じて実写スタイルで街の風景を眺めることができる。実写の街角にはAR(拡張現実)技術によってアニメーションタッチの住民たちが描かれ、彼らにカーソルを合わせることで話しかけることができる。住民からは街の科学技術に関する様々な情報が得られるだけでなく、話題に上がった科学技術の技カードを獲得できる。5分間の制限時間一杯までこの街歩きを繰り返し、複数の技カードを獲得する。

 次のステップでは、獲得した技カードの中から街をよりよくするために必要な科学技術を1つ選んで街に提案することになる。ユニークなのは単に科学技術を選ぶだけでなく、その科学技術でどうしたいのかを選ばせることだ。今回は、技カード「群知能ロボット」を使って「ムダを省きたい」を選択。すると、「家事を減らそうの会メンバー」に認定され、住民票が発行された。

 続いて「いとおかしNEWS」で、自分の選択により街がどう変化したのかが知らされる。今回の場合は、洗濯物をたたむ機能を搭載した群知能ロボットが発売され、洗濯物をたたむ手間からから開放された結果、生活の質が向上した一方で、公共交通機関の利用率が下がり、いとおか市の人の流れは停滞するという内容に。この因果関係は若干謎だったが、科学技術の良い面だけでなく悪い面も取り上げるのはバランスが取れていると感じた。

 体験は基本的に以上で終了となるが、残りの選択肢や技カードを使うとどのような結果になるのかも気になるところだ。スタッフの話によれば繰り返し遊んでもいいし、チケットのパスワードを使ってWEBサイトで続きを楽しむこともできるという。ゲームメディア的には、Kinectの使い方が手のジェスチャーのみで、頭や足は未使用なのが勿体ないと思ったが、親子やカップルで考えながら体験すると楽しそうな展示だと思った。


【2050年くらしのかたち】
チケットを貰って体験スタート。街を歩き、人々と話して技カードをゲットしていく。獲得した技カードの中から街の発展に適していると思われるものを選ぶと、その影響が表示される。ゲーム的要素も多く、繰り返し楽しめる展示だ



■ 自らの動きが歌になる!? 空間情報科学を具現化した「アナグラの歌~消えた博士と残された装置」

制作を担当したクリエイターたち。右から順に、演出を担当した飯田和敏氏(グラスホッパー・マニファクチュア)、音楽監督の中村隆之氏(ブレインストーム)、ディレクターの犬飼博士氏(エウレカコンピューター)
「アナグラの歌~消えた博士と残された装置」の入り口。バーコードを読み取らせ、名前を入力して入場する
場内は常に、他の来場者の歌が流れており、かなりやかましい。自分の歌の際は、自分の名前が表示される

 「アナグラの歌~消えた博士と残された装置」は、ゲーム界の鬼才、飯田和敏氏のクリエイティビティの爆発が感じられる施設だ。正直に申告すると、体験後もスタッフの説明を受けるまで、展示内容の意味がよくわからなかった。

 展示そのものは、東京大学空間情報科学研究センター教授の柴﨑亮介氏を総合監修に、「情報科学技術と社会」テーマ10年ぶりの新作展示として、次世代の情報技術と目される“空間情報科学”を一足先にインタラクティブに体験しようというものだが、とにかく演出とデザインが度外れていて、キツネに摘まれたような感覚になる。

 空間情報科学とは、空間的な情報を把握し、情報をその空間を利用するユーザー同士で共有することで、問題を解決したり、トラブルを未然に防ごうという情報技術となる。GPSを使った渋滞情報の共有や、生体センサーを使った生体状況の把握なども空間情報科学に含まれる。

 「アナグラの歌~消えた博士と残された装置」は、この空間情報科学の考え方を具現化した空間“アナグラ”を舞台に、参加者の行動をレーザーセンサーを使ってすべて計測し、歌に反映させることで、情報を共有するメリットを感得して貰おうというもの。具体的には参加者がアナグラに入り、中を歩いたり、装置を触ったり、質問に答えたりなど、何らかの行動を取ることで、パターン認識によってそれが歌となって踊りとなって、壁際のモニターとスピーカーで派手に再生されるという空間情報科学的なお遊びとなる。

 一言でいうと、参加者の動きを歌に替える装置ということになるが、最初はその因果関係が理解できないため、何をすればどうなるのかがよくわからず、まったくおもしろくなかったが、スタッフの説明を聞いて歌の歌詞が自らの行動を反映したものだということがわかると、その凄さに唸らされる。そしてもう一度入って、いろいろ試したくなる。

 自分の行動が歌になって歌われるだけでも楽しいが、アナグラの中にいる参加者同士で一定の条件を満たすことで“祭り”モードに突入するなどゲーム的な遊びの仕掛けもいくつか用意しているという。また、楽しいだけでなく、アナグラの中にある装置では、空間情報を共有することのメリットや、個人情報を悪用されないための匿名化の考え方など、来るべき空間情報科学に対する向き合い方を解説する映像なども紹介されており、勉強になることも多いと感じた。扱う分野も最先端ながら演出も最先端で、情報産業に携わるすべての人にお勧めしたい常設展示だ。


【アナグラの歌~消えた博士と残された装置】
アナグラの中には無数の仕掛けが用意されている。たとえば、足下には自分を見守ってくれるという“ミー”がいる。自分の足取りに会わせて一緒に行動してくれるほか、他のミーと近づくと握手したりする

2011 (C) National museum of emerging science and innovation

□日本科学未来館のホームページ
http://www.miraikan.jst.go.jp/
□プレスリリース
http://www.miraikan.jst.go.jp/info/110811186464.html

(2011年 8月 20日)

[Reported by 中村聖司]