MCFとJOGA、モバイルとPCのオンラインゲームに関するセミナーを実施

mixiとモバゲータウンがソーシャルゲームの取り組みを発表


ミクシィの川岸滋也氏

10月30日 開催

会場:SYDホール



 一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)と一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)は10月30日、共同セミナー「モバイルとPCのオンラインゲームについて」をSYDホールにて実施した。

 セミナーのタイトルは幅広い内容をイメージするものだが、実際にはほとんどの講演がSNSなどの新プラットフォーム、ないしはソーシャルゲームに関するものとなっていた。その中でもMCFの主催ということで、日本の携帯電話におけるソーシャルゲームの現状が詳しく語られた。

 ソーシャルゲームとは、SNSの友達やコミュニティを活用し、そのコミュニケーションを促すゲームのこと。わかりやすい例では、一緒にプレイする友達が多いほどゲームのキャラクターが強くなる、といった要素が盛り込まれている。Facebookなど世界規模のSNSで大流行し、既存のオンラインゲームとは桁違いのユーザーを集めるゲームが出てきたことから、ゲーム業界内外で話題になっている。また日本のSNSでもこれらに追従する動きが見られ始めている。




■ マイミクシィという“小さなコミュニティ”を活かすソーシャルアプリ

mixiの現在のデータ。モバイルからのアクセスはPCを超え、大きく伸びている

 株式会社ミクシィ mixi事業本部 企画部 パートナーサービス企画グループ マネージャーの川岸滋也氏は、「mixiアプリモバイル ~SNSオープン化の可能性」と題して、同社が8月24日に開始したPC向けサービス「mixiアプリ」と、10月27日に開始したモバイル向けサービス「mixiアプリモバイル」について語った。川岸氏はmixiアプリのプロジェクトマネージャーを務めている。

 同社が運営しているSNS「mixi」は、日本でのSNSの先駆け的存在で、現在でも約1,700万人と最多のユーザーを抱えている。元々はPC向けのサービスだったが、現在はモバイルでも利用できる。6月時点での月間ページビューは、PCからのアクセスが40.7億、モバイルは109.9億となり、携帯電話からの利用が全体の7割を超える状況となっている。

 mixiアプリは全てWEBアプリケーションとなっている。mixiアプリモバイルについても同様で、Flashは使えるが、Javaなどを使った携帯アプリではない。mixiアプリは現在約500タイトルあり、累計登録数は1,500万。mixiアプリモバイルは約100タイトルで、まだサービス開始から間がないものの、開始24時間で30万登録を超えるアプリもあるという。

 川岸氏は、「ソーシャルアプリに求められること」としてポイントを語った。まず第1に、友達間のコミュニケーションをフックにすること。人間関係をうまく使った機能やサービスが必要だとした。そして第2に、“小さなコミュニティ”を活かし、友人がいないと成り立たない何かしらの要素を持たせることが重要だという。小さなコミュニティとは、平均25人というマイミクシィをふまえて、「mixiの日記は、平均25人のマイミクシィに対して書かれている。そういったコミュニティが1,700万通りあると考える」と説明した。

 アプリの設計においては、非同期であることが重要だといい、「オンラインゲームは基本的に同期で遊ぶが、SNSでは難しい。自分と同時に活動しているのは、マイミクシィの25人のうちせいぜい数人。同期の要素を強く持ってしまうと、なかなか一緒に遊べない」と説明した。また内容について「女性が参加できるもの」としている。これは女性向けのものという意味ではなく、男性でも女性でも受け入れられるということ。「mixiユーザーの半数を占める女性ユーザーを活かさない手はない」と述べた。

 mixiはシステム側でもソーシャルアプリをサポートしている。バイラル(口コミ)をサポートする機能として、インバイト(招待)機能を用意。アプリケーションから一緒に遊びたいマイミクシィを招待すると、相手のトップページに通知される。「友達から誘われると、ほぼ確実にメッセージが開かれ、とりあえず使ってもらえる。コンバージョン(会員獲得率)が非常に高い」という。

 もう1つはアクティビティフィード。マイミクシィがアプリを登録したり使ったりすると、その情報がトップページに表示される。これにより、アプリを今よりアクティブに使わせたり、使っていないユーザーに対してはアプリの存在を通知できるという。

 モバイルにおけるソーシャルゲームについては、「常に持ち歩くモバイルのほうが接触する頻度が高く、コミュニケーションが濃密になるので、ソーシャルゲームに向いている。モバイルのほうが爆発的に伸びる可能性があると思っている」と、今後の期待感を示した。


マイミクシィという“小さなコミュニティ”を活かしつつ、友人・知人がいないと成り立たない要素を加えることがソーシャルアプリのポイント
システム側でもソーシャルアプリをサポートする機能が提供されているモバイルのほうが、よりソーシャルアプリと相性がいいという
既に200万ユーザーを超えるアプリも登場している非同期であること、女性が参加できることも、ソーシャルアプリにおいては重要



■ 世界展開を狙うDeNAが語るソーシャルゲーム成功の鍵

ディー・エヌ・エーの太田垣慶氏
年齢層は年々高くなり、現在は20代がコア層となっている

 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)ポータル事業本部 ソーシャルゲームプロジェクト プロジェクトリーダーの太田垣慶氏は、「ソーシャルゲームにおけるコミュニケーションとは」と題して、同社が運営しているモバイルSNS「モバゲータウン」において提供した自社開発のソーシャルゲームの狙いと成果を発表した。

 SNSサービス事業者という立場は先に講演したミクシィと同じだが、「モバゲータウン」はモバイルから始まったサービスであり、モバイルでのソーシャルゲームに集中しているのが大きな違い。ユーザー属性については、当初は10代を中心とした若者向けのサービスという印象が強かったものの、現在のコア層は20代に移っており、若年層に特化したサービスではないとしている。

 太田垣氏は「ソーシャルゲーム成功の鍵は5つある」とした。1つ目はシンプルなゲーム性。「ゲームを始めた最初の5分間に面白さやゲーム内容を理解してもらうのが大事だ」という。同社が開発した「海賊トレジャー」は、航海に出て、海賊とバトルして宝を手に入れたり、海底から素材を引き上げて船をカスタマイズするもの。操作はワンボタンででき、数分でゲームを理解できるのが特徴だという。

 2つ目は、基本無料であること。「ユーザーにはタイムプアな方とタイムリッチな方がいる。『海賊トレジャー』で海賊と戦うための大砲を得るには、素材を集めてポイントを貯めるパターンと、現金を支払って手に入れる方法がある。時間がある人は前者、短時間で遊びたい人は後者を選んでもらう」と説明した。

 3つ目は、ゆるいコミュニケーション。太田垣氏は「これがソーシャルゲームで最も重要な要素」としている。モバゲータウン内でユーザーについてきて、勝手に学習して変化するという手軽なペットコンテンツ「セトルリン」では、「友達に挨拶して、セトルリンの背中を押してやると、お互いのセトルリンがスモー(独自のコミュニケーション方法らしい)を始める。気軽にワンボタンでコミュニケーションが取れる。さらにスモーにより「まねっこ(セトルリンが相手のアバターの衣装や動きを真似る)」が発動するメリットがあるので、ユーザーは挨拶を繰り返している」という。

 4つ目は、また訪れたくなる仕組み。ゲームの時間外にもゲーム内の時間が流れていて、何かしらのアクションが起こる。与えられた惑星を発展させるゲーム「ホシツク」では、他のユーザーから自分の星を探索されるとログが残るなど、時々確認したくなる要素がある。また「海賊トレジャー」では、素材を集めると特殊な船が手に入る期間限定イベントを実施し、ユーザーからの注目度を高めている。

 5つ目は、友達を紹介する仕組み。「セトルリン」では友達にアプリケーションを紹介すると、特別なゲーム内アイテムがもらえる。ユーザーが積極的に友達に紹介したくなるよう、インセンティブを与えている。

 同社のソーシャルゲームでは、10月1日から有料サービスを開始。「セトルリン」を除く3タイトルの合計で、1カ月足らずで売り上げ3億円を突破したという。今後も自社開発のソーシャルゲームを増やしていく考えで、他のユーザーと協力してモンスターを罠にかけて捕まえる「モンスタートラップ」を一部ユーザーに開放してテストしている。

 このほか同社が先日発表した、モバゲータウンのオープン化については、「FacebookなどはPCでのサービスだが、モバイルにも必ず波が来る。モバイルソーシャルゲームのプラットフォームとしてナンバーワンを目指す。強みは元々無料ゲームサイトなのでゲーム好きなユーザーが多いこと。モバイルソーシャルゲームを日本発で世界に展開していきたいと本気で考えている」と語った。


同社が自社開発したソーシャルゲーム。色々なタイプのものが作られており、既に大きな売り上げを記録している
ソーシャルゲーム成功のポイントを、自社のタイトルを例に紹介。ユーザーを獲得して遊ばせる手法だけでなく、「基本無料」といったビジネス的切り口も含めた



■ オンラインゲーム会社3社がそれぞれの取り組みを発表

NHN Japanの梶原秀樹氏

 SNSサービス事業者のほかにも、オンラインゲームを手がける3社が自社での取り組みを発表した。

 まずNHN Japan株式会社 HG事業本部 本部長の梶原秀樹氏が、「PCオンラインゲームサービスと、モバイルサービスとの連携について」として、同社が提供しているPCサイト「ハンゲーム」と、モバイルサイト「ハンゲ.jp」での展開について語った。

 ハンゲームは累計登録会員ID数が3,202万、最大同時接続者数147,611IDという、国内最大級のゲームポータルサイト。後発のハンゲ.jpは、累計登録会員ID数は104万となっている。注目点としては、ハンゲ.jpは女性比率が44%で、ハンゲームの30%より高い。

 ハンゲ.jpは、「ハンゲームの価値をモバイルに拡大する」というコンセプトで運営されており、ハンゲームと強く連携している。コミュニティや課金システム、ユーザーがどのゲームを遊んだかといったデータベースは共通で、コンテンツはそれぞれのプラットフォームに合ったものを提供していくこともあれば、データベースを連動させるコンテンツもある。例えばMORPG「チョコットランド」はキャラクターのデータを共有しており、PCとモバイルで同じキャラクターを使って遊び、成長させていける。

 「生活シーンの中で、いつでもどこでもハンゲームを使える」というのがハンゲ.jpの強み。通勤通学中や休み時間、就寝前などの短い時間ではモバイルを使って、ちょっとしたゲームを遊んだり、ブログ、ミニメールを使ったりする。帰宅後じっくり遊べる時間にはPCを使い、本格的なゲームやチャットを楽しむ。「ユーザーの利用シーンに合わせて選択の幅を広げていく」というのがサービスの方針だという。

 またモバイルは、位置情報や写真など、その特性を活かしたコンテンツを提供するという。「モバイルは地域性や感性、即時性による強いつながりができ、強い共感力を持つ」としている。対してPCは、「同時接続性や高い表現力により、『一緒にモンスターを倒した』といった共通体験をしやすい。こちらも強い共感力を生みやすい」とし、それぞれの特徴を活かしたコンテンツの重要性を示した。


ハンゲームとハンゲ.jpのデータ。モバイルのほうが女性比率がやや高いなどの違いが見られる

コミュニティ部分や課金システムはPCとモバイルで共通化し、コンテンツはそれぞれに適したものを出しつつ、必要な場合は連動するモバイルとPCを併用し、いつでもどこでもハンゲームを使える状態を作り出しているPCとモバイルで、それぞれの特性を活かしたコンテンツを提供しつつ、連携によって幅広い楽しみ方を提供する



ケイブの佐々木智之氏

 次に株式会社ケイブ オンラインサービス部の佐々木智之氏は、「ディベロッパーから見たモバイル&オンラインゲームの可能性」として、プラットフォームのオープン化や、ソーシャルゲームに対しての期待を語った。なお同社はモバイルで「ラヴニーの絵本」、PCで「真・女神転生IMAGINE」と、自社開発・自社運営のオンラインゲームを手がけている。

 mixiやモバゲータウンでオープン化が進んでいることについては、新たなユーザーの開拓のほか、ユーザー認証と課金に期待しているという。「オンラインゲームを遊ぶには個人情報の登録が必要。複数のゲームを遊べば、あちこちにユーザー情報をばらまくことになる。プラットフォームのオープン化でこれらが共通化されれば、この心理的不安が解消できるのでは」と述べた。

 SNSでのゲームについては、3点の期待を挙げた。1点目は、ページビュー収入を新たな収入源とできること。2点目は、友人への推薦。「SNSのように先に人がいる場所で話題を出すのと、ブログのように話題が先にあって人に伝えるのでは全く違う。SNSでは人がいるところに話題をねじ込んで推薦してもらえるのでは」という。3点目は、コミュニティ特性。元々コミュニティがあれば、価値観や認識の共通化が図りやすいのが利点だという。

 最近台頭してきているブラウザゲームについては、導入の敷居の低さを魅力としながら、「開発における制約が多く、単体のアプリケーションと同じようなものを作るのは難しい。また長期運営は難しく、コンテンツとして売り切る考え方が必要」と課題も挙げた。

 最後に今後の展開においては、決済の多様化や登録の簡易化によって極限まで敷居を下げることと、紹介者・被紹介者の双方にメリットがあるような、人に勧めやすい仕組みを取り入れることに挑戦したいとした。また制作においては、「日本のユーザーは家ではPC、出先ではモバイルと使い分けている。ユーザーがゲームを遊ぶ時間を具体的にイメージすることが重要」と述べた。


【スクリーンショット】
プラットフォームのオープン化やSNS、ブラウザゲームなど、最近の流行に対する期待と課題を分析した



キューエンタテインメントの君塚靖征氏
キューエンタテインメントの清竜也氏

 キューエンタテインメント株式会社 オンライン事業本部 運営部 副部長の君塚靖征氏と、同オンライン事業本部 コンテンツ部 マネージャーの清竜也氏は、「オンラインゲームとプラットフォーム」として、同社のオンラインゲームの展開について発表した。

 君塚氏は、PCとプレイステーション 3で展開しているMMORPG「AngelLoveOnline」と「エンジェル戦記」について発表した。紹介された内容は、同社が9月に行なった発表会での内容とほぼ同じだが、PS3における「AngelLoveOnline」ゲームクライアントダウンロード総数が127,000件で、「日本で使われているPSNアカウントの約5%にあたる」という面白い分析が聞けた。

 清氏からは、モバゲータウンで展開しているMORPG「ガーディアンハーツオンライン」に関する情報が発表された。「ガーディアンハーツオンライン」は2DグラフィックスのオンラインRPGで、累計登録会員数は21万人、1日単位の最大アクティブユーザー数は2.9万人としている。

 ゲームの開発においてはコンセプトとして、1人でも遊べる、片手で基本的操作ができる、といった仕様に加えて、掲示板やコミュニティを持つことで、コミュニティとゲームアプリをどう繋ぐかに着眼したという。ゲーム内での行動は、WEBで履歴として残り、誰と何をしたかが記録される。

 中でもコミュニティで重要な役割を果たしているのが、雇用システムだ。これはクエストに行くときに、他のユーザーが登録してあるユーザーを補助NPC扱いで雇用できるというもので、雇えば最大4人で冒険できる。雇用が終わると、雇用したユーザーにメッセージを送れるようになっており、相手の掲示板に挨拶が残る。逆に雇われたユーザーからも、雇ったユーザーのマイページにアクセスでき、さらにコミュニティが生まれる。これは「コミュニティをMO以外のところで生み出す」という狙いのもと設計されているという。

 運営においては、基本無料のアイテム課金制を採用している。月額課金であれば、興味を持って遊び始める段階で課金することになるが、アイテム課金では興味を持って会員登録し、次に無料プレイでのアクティブユーザーとなり、最後に課金してもらって初めて売り上げが立つという複数の段階があるため、よりいろいろな施策を打たなければならないという。

 また売り上げについても、月額課金タイトルでは月単位での施策を考えるが、アイテム課金タイトルではキャンペーンを打つことで日単位で売り上げを改善できるという。「日と曜日の単位でどれだけの売上目標を立て、どんな施策を立てるか。施策がずれたときはすぐ修正する。日々のデータを集計し、即時対応して売り上げを改善していく必要がある」と述べた。


開発当初からゲームそのものの面白さだけでなく、コミュニティにも着眼して設計されている。雇用システムはソーシャルゲームでいうところの非同期の要素を持っている
アイテム課金では月額課金よりも多くの施策を必要とするキャンペーンを打つことで日単位で売り上げが変化するアイテム課金を前提とした開発と、運営とのチームワーク、日々のデータ集計と即時対応が重要だという

(2009年 10月 30日)

[Reported by 石田賀津男]