SCEJ、PS3「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」プレイレポート その2
家族を失い苦悩の日々を送る父親「イーサン」
危険に身を投じる女性新聞記者「マディソン」のプレイ模様を紹介

今冬発売予定

価格:未定

CEROレーティング:審査予定

 

 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCEJ)より発売予定のプレイステーション 3用アドベンチャーゲーム「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」。今回は開発を手がける仏Quantic DreamのCo-CEO,エグゼクティブプロデューサーのGuillaume de Fondaumiere氏にお見せ頂いたプレイの模様をお伝えしていく。

 これまで「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」の記事で、9月24日に私立探偵の「シェルビー」とFBI捜査官の「ジェイデン」を、10月15日にはプロデューサーのGuillaume氏へのインタビューを掲載してきた。今回は4人のプレーヤーキャラクターのうち残る2人、父親イーサンと女性新聞記者マディソンのプレイ模様を紹介しよう。




■ いかなる結末になってもそれは、プレーヤーの選択でたどり着いた“物語”

・イーサン(Ethan)―― 家族を失い苦悩の日々を送る父親 ――

主人公の1人「イーサン」。幸せな時代のものだ
事故から2年後のイーサン。いまだショックから立ち直れず、妻とも別れ、今は息子のショーンと2人で暮らしている
あごひげを生やし、表情もうつろなものになってしまった。今も苦悩の日々を送っている

 まずはイーサンの過去から見ていこう。こちらは公式サイトで見られるトレイラームービーの内容だが、主人公の1人「イーサン」は愛する妻、そしてジェイソンとショーンという2人の息子と穏やかな日々を過ごしていた。キレイに整えられた庭で暖かな太陽の下、子供達の遊び相手になる。絵に描いたような理想的な日々がイーサンの毎日だった……。

 だが、それは突然に壊れてしまう。車が多く行き交うマーケット街の道路。道路の反対側からこちらへ向かって走ってくる息子。叫ぶ妻、飛び出すイーサン。そして、駆け寄る家族。愛に満ちた生活は失われてしまった。

 ムービーのシーンから2年後。激しい雨が降るなか立ちつくすイーサン。その顔は以前のものとはまったく違っていて、アゴや口が無精ヒゲで覆われており、笑顔は消え、表情は乏しく、眼も虚ろだ。イーサンは息子のショーンを迎えに来ていた。息子の1人ジェイソンを事故で失い、ショックから立ち直れないイーサンの元から妻は去っていった。今はショーンと2人で暮らしているが、2人の関係は決して良好ではなかった。

 今や唯一の家族となった息子のショーンを車に乗せて家路に着く。車に近づくと矢印のアイコンがたくさん表示された。右アナログスティックを矢印アイコンの通りに入力することでオブジェクトを操作する作りだ。

 まずスティック操作で車のドアを開いて中に乗り込んで、続いてスティックを入れてシートベルトを閉め、上方向にスティックを入れてミラーを調節し、最後にキーを回す。この一連の操作は全て右アナログスティックで行なわれていた。むしろボタンをほとんど使わない操作になっている。

 この右アナログスティックでオブジェクトに触る操作でピンとくる人もいるだろう。同社が手がけたPS2「Fahrenheit(ファーレンハイト)」も右アナログスティックでオブジェクトを操作するゲームだった。ひとつの事件に関わっているキャラクターが何人かいて様々なシーンの行動が影響を与え合うところも近い。

 本作は「Fahrenheit」の序盤にあったような見せかたのうまいドラマをハイビジョン世代のクオリティで制作したゲームと表現するとわかりやすい。そして重要なのは、非現実的な話ではなく現実的な要素で物語が構成されていて、感情などを主眼にしたより深いテーマで作られているということだ。


イーサンと暮らす息子のショーン。父親との関係は決して良好とは言えないようだ

 イーサンとショーンは自宅へと帰ってきた。ショーンは自立して行動していて、スタスタとソファーへ向かっていってテレビを付ける。テレビでは何かアニメ番組が放送されているようで、ショーンは何も言わず夢中になっている。

 イーサンを操作してショーンに話しかける。「ショーン、そろそろ宿題をやらないと」とイーサンが話しかけると、ショーンはもう少しテレビを観ていたいという。ここで、YES、NOの選択肢が現われた。迷いどころだ。厳格な父親として強制するか、それとも優しく接するか。こうした行動はショーンとの関係に影響するということだが、Guillaume氏はこれらの行動は「やらなくても構わないことだ」と語る。コミュニケーションを取らずに時間が過ぎても問題なく物語は進行していく。だが、何かしらに影響はするということだ。

 例えばショーンに話しかけておやつを持ってきてあげる行動があったのだが、ショーンは自立して行動するので、放っておけば自分でおやつを取ってくるそうだ。また、宿題をさせずにいれば、翌日ショーンは学校で怒られる可能性もある。重要な場面で影響を及ぼすものもあるそうだ。

 イーサンが外に行くと、荒れ放題の庭にバスケットゴールとボールが落ちていた。右アナログスティックで掴むと、コントローラのマークが出てくる。コントローラのSIXAXIS(6軸モーションセンサー)でボールを投げる動きをすることで、ゲーム中でもボールをスローイングできる。右アナログスティック以外にもモーションセンサーを活用するシーンがいくつか見られたのが印象的だった。

外見ばかりでなく、表情も2年前とは大きく変わり、常に節目がちになってしまった
1人になると昔を思い出す日々が続く……

 時間は何もせずとも進んでいく。家に着いた頃には雨空とは言え少し明るさのあった空が、次第に暗くなっていった。リアルタイムではなく正確には不明だが10分、20分のうちに刻々と変化していった。

 ショーンに宿題をするよう促し、続いて夕食を食べる。冷蔵庫からローストチキンかピザのどちらかを選んで取り出してレンジで温める。それを皿に盛りつける。こうした細かな行動も、全て自分で選択して決定し、ときにはモーションセンサーを使って実行させる。

 ショーンが食べる様子を眺めるイーサン。一言の会話もなく、重く悲しげなBGMが流れる。別段、悲劇が起きているシーンではない。だが、その光景は寂しく、そして悲しいものだ。

 と、ここでGuillaume氏はイーサンを動かして果物や野菜をキッチンから取り出した。画面に○、×、△、□ボタンが表示され、それをテンポ良く押していくと、イーサンはそれらでお手玉をはじめた。意外な行動と特技に感心するショーン。何も話しかけてこなかった彼は珍しく食いついてきて、今度お手玉のコツを教えて欲しいと言ってきた。こうした行動を取ることでショーンとうち解けることができるのだろう。家の中では様々なものに触れることができるようになっているので、ショーンの行動や言動を見ながら自分に何ができるか、何をしたいか、考えて行動してみると良いかもしれない。

 夕食後、またテレビを見始めたショーンをよそに、イーサンは2階へ。自室でビデオテープを再生する。そこには、事故から立ち直れなかったイーサンの元を去った妻と、事故で亡くなったジェイソン、そしてイーサンとショーンの暖かな家庭が映っていた。その映像をうつろな目で眺めるイーサン。次第にその目からは涙が、口からは嗚咽が漏れた……。

 自室を出たイーサンをショーンの部屋へと向かわせた。ショーンのベッドを整えたりカーテンを閉めたりと、眠るための準備を整えてあげることもできる。机の上にはショーンの描いた絵があった。道路と車、横になる少年とイーサンらしき男、立ちつくす少年と女性。幼いショーンの心にもあの事故が刻まれてしまっていた。

 ベッドに入り横になるショーンと、その様子を見守るイーサン。ショーンが話しかけてきた。「パパ、どうして悲しそうなの?」と。「パパには少し時間がいるんだ、元に戻るためのね……」と答えるイーサンに、「ジェイソンのことはパパのせいじゃないんだよ?」と話すショーン。言葉に詰まったイーサンは「おやすみ……」と短く答え部屋を出て行った……。

 これは1つのチャプターにおける、1ケースでしかなく、最後のシーンや各所の会話の内容も、プレーヤーの行動によって変わってくることになる。


・マディソン(Madison)―― 危険に身を投じる新聞記者 ――

不眠症の新聞記者マディソン。自ら危険に飛び込んで情報を探る

 唯一の女性であるマディソンは、「折り紙殺人鬼」の事件を追う駆け出しの新聞記者だ。自ら危険に飛び込む大胆な方法で情報源に近づいていく。

 紹介されたシーンは大音量の響くクラブ「ブルーラグーン」の店内。ここのオーナーであるパコという人物に直接話を聞こうとしているという場面だ。バーテンダーにパコの居場所を聞き出すが、パコはVIPルームにいてルームの前ではボディガードが道を塞いでいる。いくらボディガードに話しても、中には通してもらえない。

 様子を伺っているとパコは踊っているお客の中に好みの女性を見つけるとVIPルームに招待しているのがわかった。パコに見える位置で選択肢を選ぶと、マディソンが踊り始めた。○×△□ボタンで手や腕、L/Rボタンで足や腰などをリズミカルに動かしダンスする。うまく踊ったが、パコに招待されたのは別の女性だった。踊りだけではまだパコの好みではないようだ。

 女性用レストルームに移動するとメイク道具を取り出した。よりセクシーに見えるよう化粧をするというわけだ。アイラインを引く動作をアナログスティックで行ない、口紅もゆっくりと実際に塗っていくような動きでアナログスティックを動かして引いていく。上にアナログスティックを入れて髪に手を伸ばすと、コントローラーを振って髪をバサバサとかき上げた。続いてスカートに手を伸ばし、コントローラをぐいっと横に振るとスカートをビリッと引き破って露出を高めた。随所にSIXAXISを活用している。

 セクシーになったところでもう1度フロアでダンスをしてみると、見事パコの目に止まりVIPルームへと招待された。パコから直接情報を聞き出すことができるようになったわけだ。

 Guillaume氏によれば、彼女にはこのあと非常に危険なシーンが待ち受けているという。それこそ、命を失う可能性が高い場面。危険の中に自ら身を投じて真相を探る彼女には、常に危険が待つということだ。


メイクをしてクラブのVIPルームにいるパコという男に近づく。それがいかに危険なことであるかも承知の上での行動だ。行動によっては危険が及ぶシーンとなる



 「折り紙殺人鬼」の事件を軸に、4人それぞれの物語が交錯する本作。様々な行動が可能で、アクティブに事件を操作するシーンや危険と直面するシーン、考えるシーンもあれば、これをしろ、あれをしろとは表示されず、プレーヤー主導でキャラクターの個性を形作るような、“演じる”ことに近い場面もある。画面表示もシンプル(というより通常時は何も出ない)で、自分で場面に会わせて行動していくことが求められる。自分で考えて起こした行動が様々な影響を与えていく。例えキャラクターが死亡してしまったとしても、それはひとつの結果であり、それを踏まえて物語は展開していく。

 前回のインタビューをご覧頂いた方は既にご存じのことと思うが、本作は“真の意味での大人向け”を目指している。真の意味での大人向けとは、長く生きているがゆえに避けられない悲哀や苦悩、複雑な感情の動き、愛情をはじめとした様々なカタチの愛、生きていくことの意味に悩み、虚無感や徒労感に支配されそうになっても、それでもタフに生きていく本当の強さ。そうした事柄を描くことによって実現される「味わい深い」タイトルを目指しているということだ。

 今回紹介している中では、イーサンとショーンとのやり取りに、強くその意味を感じ取れることと思う。深い哀しみ、そして深い愛。年齢を重ねれば重ねるほどに、その辛さ、その感情がより理解できるようになっていく。そしていつか、誰でも自然と同じ場所にたどり着く。それらは映画や小説だけでなく、ゲームでも表現できるのではないだろうか。本作の完成が楽しみだ。

(c)Sony Computer Entertainment Europe. Published by Sony Computer Entertainment Inc. Developed by Quantic Dream S.A..


(2009年 10月 23日)

[Reported by 山村智美 ]