CESA Developers Conference 2009現地レポート

「『ゲームのお仕事』業界研究フェア」2日目、3日目の講演をピックアップ
女性向けやインディーズ、オンラインゲームのセッションを紹介

9月1日~3日開催

会場:パシフィコ横浜

 

堀井雄二氏の基調講演が、5階の学生版専用会場で中継された

 将来ゲーム業界を志す学生向けに行なわれている「『ゲームのお仕事』業界研究フェア」。将来の人材育成を目的に、すべてのセッションを無料で聴講可能というチャレンジングな企画で、企業の人事担当者と話ができる「ジョブカフェ」も同時に開催された。このレポートでは、2日目、3日目の講演からいくつかの講演をピックアップしてレポートする。

 初日と2日目の基調講演は学生版専用のプログラムが用意されていたが、最終日には大ホールで行なわれた堀井雄二氏の基調講演「国民的ゲームとは何か? ~ドラゴンクエストの場合~」が学生の集まる5階の大部屋にも中継された。就職活動中の学生にとっては、ドラゴンクエストが発売されたのは物心付く前。生みの親である堀井氏にはやはり特別な思い入れがあるのか、終了後はスクリーンに向かって拍手が起こっていた。




■ 女性向けゲームの講演では、女性開発者ならではの苦労話も

コーエーネットワーク事業部オンラインサービス部の塚口綾子氏
ユーザーの中に「何か」が残るゲームを作りたい、と塚口氏

 会期2日目に行なわれた「女性向けゲームのお仕事」は、コーエーの女性向けゲームブランド「ネオロマンスシリーズ」の「金色のコルダ」や「遥かなる時の中で」の企画を担当した塚口綾子氏によるセッションだった。「ネオロマンスシリーズ」は、「恋愛」をテーマにしたシリーズ。そこで用いられている設定はすべて「恋愛」のためにあるのだそうだ。

 各キャラクターにはそれぞれ60~100ページもの設定資料があり、名前や身長体重、生年月日、好きな食べ物、第一印象や内面、どこに住んでいるのかなど細かい部分まですべて箇条書きで書き出されている。箇条書きにしていのは「極力自分の意見を排除するため」(塚口氏)なのだそうだ。後で解釈の余地がないようブレないものを作り、膨らませる仕事はシナリオライターに任せる。

 「ネオロマンスシリーズ」は少女マンガやテレビアニメ、ステージイベントなど様々なメディアミックスが展開されているが、そんなメディアミックスについても方法や意義などを語った。メディアミックスの利点は、発売後には内容に手を加えることが難しいパッケージゲームの弱点を補うために、ファンからの要望に関連商品で答えていけることで、特にステージイベントはファンが一堂に集う場を提供でき、ファンがそれぞれの想いを他の人と共有することができる、「一緒に萌え転がることができる」という点が制作者としても嬉しい部分だという。

 また女性開発者ならではの夢や困難についても言及した。女性向けゲームがまだまだ珍しかった時代にゲーム業界に入った塚口氏の夢は、女性向けゲームの棚を作ることだったそうだ。当時は女性向けというジャンルはなく、ゲームはコーエーの他のシミュレーションゲームに混じって棚に置かれていた。「信長の野望」などの重厚なイラストに囲まれて並ぶゲームはいかにも違和感で、いつか女性向けだけを集めた棚ができるようになればいいなと考えていたそうだ。現在は、量販店のゲームコーナーにそんな棚を見つけることができるようになり、塚口氏らの努力は実りつつあると言えるだろう。

 塚口氏は学生時代は数学が専攻の理系だったが、「女性はこう」という思い込みや「女性の感性」に任せるというあいまいな期待に困惑することもあったという。ゲーム開発の現場はまだ男性が多く、その中で女性が生き残っていくには理解のあるプロデューサーやディレクター、開発メンバーの存在が必須。今では女性の企画も多く入社してくるようになったが、企画を志望するなら、特定のキャラクターのファンではなく、全部のキャラクターを客観的に見る目が求められる。また、「○○は絶対こうなんです!」、「みんなこう言ってました!」と自分の考えを曲げようとしないタイプは向いていないと語った。

 また恋愛ゲームの開発者らしく、恋愛と結婚にも触れ、忙しくて同じ家に住んでいても夫と顔を合わせる暇がなかったという体験談を語った。「がむしゃらに働くのが自分の生活を切り崩していくと、追い詰められていく。追い詰められてはいいものは作れない。いかに仕事と付き合っていくかは、この業界にとって今後の課題になると思います。最初の1年か2年をがむしゃらに働いて、あとは少しずつ生活を大事にするようにした方がいいのでは」(塚口氏)。仕事も家庭もとがんばるのは破綻の元になるので無理をせず話し合って、役割分担した方がいいとの事だ。


【会場のスライド】
女性開発者ならではの苦労や壁を乗り越えるには、本人の気持ちが大切




■ 作りたいから作るという純粋さが魅力のインディーズゲーム

進行を勤めた東北芸術工科大学デザイン工学部准教授の吉田正高氏
左から、七邊信重氏、井上明人氏、小山友介氏
左左から、徳留和人氏、藤崎豊氏、長健太氏
長健太氏のゲーム「TUMIKI Fighters」

 2日目に行なわれた「インディーズゲームの潮流」では、同人ゲームの製作者を招いてゲーム制作の多様性についてパネルディスカッション形式で話し合われた。進行を勤めたのは、東北芸術工科大学デザイン工学部准教授の吉田正高氏。パネリストには、東京工業大学エージェントベース社会システム科学研究センター特任講師の七邊信重氏、芝浦工業大学の小山友介氏、国際大学グローバルコミュニケーションセンター研究員の井上明人氏、マイクロソフトの徳留和人氏のほか、インディーズとしてゲーム制作を続けている藤崎豊氏と長健太氏が参加した。藤崎氏は「MELTY BLOOD」などの人気ゲームを製作したゲーム同人サークル「フランスパン」のメンバー。長氏は「ABA Games」というサイトでオリジナルのシューティングゲームを公開し、海外で高い評価を受けている。

 インディーズゲームは、個人や小規模の集団で作ったゲームで量販店などには並ばず、P2Pやサイトでの配布、同人イベントなどで販売されることが多い。近年では「ひぐらしのなく頃に」や「東方プロジェクト」など商業作品としてリメイクされるものや、商業に負けないほどの人気を誇るものも現われてきている。商業作品としては成功しにくいが、根強いファンを持つ弾幕シューティングや2D格闘ゲームなど、小規模ならではの機動性を活かした作品が多い。近年はオンライン対戦に対応する作品も出てきている。またiPhone向けのインディーズゲームが数多く登場するなど海外でもインディーズゲームのムーブメントが盛り上がっている。

 インディーズゲームが流行る要因として、小山氏は、メーカーの大作ゲームは関わる人間が多く、1人が作れるのはゲームの部品に過ぎないこと、流行からはずれたジャンルのゲームは作りづらいことを上げた。そしてプロの開発者の中にも、自分が作りたいゲームを休日に作っている人は意外と多いのだと報告。インディーズのゲームは規模が小さいので完成が早く、その分開発の経験を多く積めるところにもメリットがあると語った。

 七邊氏はインディーズゲームの課題として、ほとんどゲームが完成にたどりつかない事、開発の敷居が高い事、完成しても人に見てもらうのが難しいという事情を指摘した。インディーズでのゲーム制作を語る時にはよく、「インディーズの場合完成までこぎつけることができるのはわずか1割。4割のゲームは開発途中でフェードアウトし、5割は仲間集めの段階でつまずく」などと言われる。それほど完成させるのは難しい。そんな苦労を乗り越えてようやく作ったゲームをコミックマーケットなどで売っても、小さなサークルのゲームは見向きもされず、1枚も売れないことすらあるのだそうだ。

 長氏は、インターネットが普及したおかげで、自分でも海外に向かって情報を発信できるようになったことが大きいと語った。長氏の作った自主制作のシューティングゲーム「TUMIKI Fighters」は元々フリーウェアとしてサイト上で配布されていたが、Wiiに移植され、欧米で2008年から販売されている。

 藤崎氏は、自主制作のゲームも次第に規模が大きくなっているという。しかしすべてを自分で作らなくても、どこかに1つ光る部分があれば、メーカーがアイデアを拾ってクオリティアップしてくれる可能性もあると語った。それを受けて長氏も、特に海外のインディーズゲーマーは1つのアイデアで作った非常にクオリティの高いゲームを作る傾向が高いことを指摘し、メーカーの人間もアイデアを求めているので、1つ素晴らしいアイデアがあれば商品化まで漕ぎつける可能性はあると語った。

 メーカー側の立場で参加していたマイクロソフトの徳留氏は、マイクロソフトがインディーズの開発者向けにXboxでデイ今日している「Xbox LIVE インディーズ ゲーム 」を紹介した。「Xbox LIVE インディーズ ゲーム 」はマイクロソフトが無償で提供する開発環境「XNA Game Studio」を使って作ったゲームを、Xbox Liveから配信するサービスで、日本でのサービスは今年の7月に開始されたばかりだ。徳留氏は自分の作りたいゲームを作って世に問いたいと思っている人に、安価な開発環境を提供することで、光るアイデアが生まれてほしいという希望を語った。「Xbox LIVE インディーズ ゲーム 」は海外では開始から1年未満で360本のゲームが発表された。日本でも今年の7月から開始されたが、7~8月だけで20本のゲームが登場し、現在審査中のものも10本あり、その数の多さにいい意味で驚かされたのだそうだ。

 ゲームを作りたいと思っている人はかなりいる。しかし、作り始める最初のステップにすらたどり着けない人もいる。そういう人は、まずは1週間程度で作れるものからスタートしてみてはどうか、と長氏。頭で考えているうちは最高に面白いゲームでも、作ってみるとたいていは面白くない。短いスパンでたくさんのゲームを作ってみることで、自分が面白いと思える基本の骨格が作られていくのではないかと、アドバイスしていた。

【会場のスライド】
何でも好きなものが作れるインディーズの可能性は無限大だ




■ 3日目には、オンラインゲームに関わりたい人向けのセッションが集中

 最終日の3日には、オンラインゲーム関連のセッションが3つ行なわれた。「オンラインゲームのお仕事」はコーエーネットワーク事業部副事情部長開発担当の藤重和博氏による、オンラインゲームの概論とコーエーのオンライン戦略についての概略。「ゲームのお仕事で考えるべきセキュリティ」は、「ガンダムネットワークオペレーション(以下、『GNO』)」の開発にも携わった、NTTデータ技術開発本部SIアーキテクチャ開発センターシニアエキスパートの宮本久仁男氏が、ネットワークのセキュリティについてかなり専門的なところまでつっこんだ話を聞かせてくれた。「オンラインゲーム運営のお仕事 オンラインゲーム運営ビジネスについて」ではオンラインゲームの運営業務委託という事業を行っているISAOのサービスオペレーション本部カスタマー・ソリューショングループ スーパーバイザーの高村弓氏が、オンラインゲームの運営という仕事の多様性について論じた。



コーエーネットワーク事業部副事情部長開発担当の藤重和博氏

 「オンラインゲームのお仕事」では、MMOとMOの違いなどオンラインゲームの基礎的な概説から始まり、クライアントサーバーを作ったゲームの利点などを説明した。コーエーがMOタイプのネットワークゲームからMMOタイプへと軸足を移したのは、MOタイプのゲームにはびこるチート対策の意味があったこと。アジアへの海外展開を考えた場合、コピー商品が氾濫しているアジアでは、パッケージ販売よりもネット認証が必要なオンラインゲームの方がビジネス的に有利だと判断されたことなどを挙げた。さらに自身の体験として、オンラインゲームのプログラマーに重要な資質は、トラブルなくコンテンツを動かすことと、新しいOSへの対応など数年後の変化を見越したシステムを構築することで、特に後者はプログラマーのセンスが問われるとの事だ。

 質疑応答では、運営になるために必要な資質を問われ、自分がかかわるコンテンツをしっかりと理解することと、できる限り普通の感覚を持って、より広い層が何を求めているかを想像できるようにするのが大切だと答えた。「学生の頃はとにかく色々なものを見て、どうしてそこにお客さんが集まるかを考えてみるのもいいかもしれません」(藤重氏)と学生にアドバイスを贈っていた。

【会場のスライド】
オンラインゲームの構造や仕事をわかりやすく概説


NTTデータ技術開発本部SIアーキテクチャ開発センターシニアエキスパートの宮本久仁男氏

 「ゲームのお仕事で考えるべきセキュリティ」では、ネットワークに接続してゲームをプレイする際に発生する脅威とその対策方法についての説明が行なわれた。会場で挙手による簡単なアンケートを取ったが、その中にもオンラインゲームをプレイする際にファイアーウォールの設定を緩和したり、ウイルスソフトをオフにしたりしている人がいた。

 宮本氏はそういった行為に加え、トロイの木馬とキーロガーの4つが脅威だと説明した。海外では、すでにIDとパスワードを1セットいくらで取引するアングラサイトが存在する。日本のゲームのアカウントは今のところその市場には登場していないが、今後出ないという保証はないと言う。PCだけでなく、コンシューマ機についての危険性や、ファンサイトやWikiからの感染例なども挙げられた。

 ほかにもセキュリティの甘い無線LANのアクセスポイントをフィッシング詐欺に使われたり、知らないうちにPCを乗っ取られて、他人を攻撃する手段に使われていたりと、セキュリティの弱い部分を突いてくる悪質な例が紹介された。そして、こういった行為を防ぐためにも、ファイアーウォールの設定を落とさなくても済むようなシステムの改善や、ユーザー側の啓蒙の重要性を説いた。

【会場のスライド】
オンラインゲームの構造や仕事をわかりやすく概説


ISAOサービスオペレーション本部カスタマー・ソリューショングループ スーパーバイザーの高村弓氏

 「オンラインゲーム運営のお仕事 オンラインゲーム運営ビジネスについて」では、高村氏が複数のオンラインゲームの運営委託を手がけた経験から、多岐にわたる運営の仕事を紹介した。

 オンラインゲームの運営というと、GMをはじめとするユーザーサポートの部分が注目されがちだが、実際の業務はもっと幅が広い。オンラインゲーム事業には、開発、運営、販売の3部門があるが、運営は時に開発に代わってスプリクトを書いたりサーバーの再起動プロセスの管理を行ったりすることもある。また販売と共に、販売企画としてカスタマーの要望を開発に上げる役割も果たす。また運営企画として、プロモーション戦略を提案することもある。また不具合をテストサーバーでチェックするなど品質管理の役割を負うこともある。大きなアップデート後に、新たに追加された機能で同接数のうち何人が遊んでいるのかといったデータを取っていくというマーケティング的な側面もある。イベントの企画をする時にはサーバーの負荷や、なるべく多くのユーザーに満足をしてもらえるような仕掛けを考えながら立案する。

 また、運営の仕事はβテストからではなく、ゲームの企画段階から積極的にかかわって、ユーザーへの対応や個人情報保護などのセキュリティ関連、βテストまでのプロモーションなども行なう。βテスト開始前から正式サービス開始までの間にも、ユーザーからの問い合わせへの対応や要望のとりまとめ、課金システムのチェックなどたくさんの仕事を一手に引き受けている。そんな運営に必要とされる大切なスキルとして、高村氏は「対人対応力」、「情報処理能力」、「問題解決力」を挙げた。特に、人とうまく付き合っていく能力が重視されるのだそうだ。

 最後に、高村氏は今後のオンラインゲーム業界について、数年後にはモバイルでプレイできるMMOが登場してくるだろうとして、PCの枠にとらわれず、少しでの時間で遊べて、自分の行動が他人に影響を与えるようなものが出てくるのではないでしょうかと未来の展望を語った。

【会場のスライド】
オンラインゲームの構造や仕事をわかりやすく概説




■ 作りたいという情熱をメーカーと共に形にしていく。「PS CAMP!」の活動報告

「ゴミ箱」の作者、松田太郎氏
「勇者のくせになまいきだ。」のグラフィックスを担当した小林陽明氏

 最終日には開発者向けの協賛セッションとして「PlayStationCAMP!(以下、PS CAMP!)の運営とオーディション合格者によるゲーム制作について」という題で、オーディションで選ばれた個人や法人がどのような過程を経てアイデアを商品化していったかの報告が行なわれた。登場したのはPSPソフト「勇者のくせになまいきだ。」にデザイナーとして参加した小林陽明氏と、プレイステーション 3ソフト「ゴミ箱」を開発した松田太郎氏。個人参加と法人参加という2つの面から、CAMPとの関わりやアイデアが煮詰まっていった過程などを話した。

 「PS CAMP!」は、クリエイター育成プログラム「ゲームやろうぜ!2006」が名前を変えたもので、広く一般からゲームのアイデアを募集して、会社の企画会議からは生まれない尖ったアイデアを、なるべくその形を失わないように商品化するという活動だ。「勇者のくせになまいきだ。」は17万本を超えるヒットとなり、続編はすでに「20万本」を出荷し、個人の才能が企業のクオリティと結びつくことで、質の高い名作が生まれる可能性があることを証明した。PS CAMP!には、ここを卒業したメンバーが、プラットフォームを問わず、将来世界に名をとどろかせるクリエイターになって欲しいという願いが込められている。

 3日間を通して「業界研究フェア」に参加し、業界がいかに斬新な才能を渇望しているかを感じることができた。逆に学生側は就職したいという気持ちがやや先行して、業界人の熱い気持ちを受け止めきれていないようにも感じられた。人気のあったセッションは、就職マニュアル的なものや花形職種の概説的なものが多く、問題提起をするようなセッションへの参加はやや少なかったように思う。ただゲーム業界に入りたいという気持ちではなく、そこで何をしたいのかをさらに突っ込んで考えてみることが、逆に業界への近道へつながるのではないかと思う。セッションの講演者から「今日来た中から、将来有名になるクリエイターが出ることを期待しています」という言葉を何度も聞いた。この試みが将来につながるかどうかは、参加する学生の気持ち次第だ。


(2009年 9月 4日)

[Reported by 石井聡 ]