Electronic Entertainment Expo 2009現地レポート

Nintendo of America、宮本茂氏による「Roundtable」を開催

「マリオ」マルチプレイ制作秘話などを語る。Wii「ゼルダ」の新作も開発中!


6月2日(現地時間) 開催

会場:Los Angeles Convention Center


 Nintendo of Americaは6月2日(現地時間)、Los Angeles Convention Centerにて、任天堂代表取締役専務の宮本茂氏による「Roundtable」を開催した。

 「Roundtable」と銘打たれてはいるが、中身は宮本氏を中心とした任天堂の開発者が、新作の紹介や裏話を披露するトークイベントという趣き。E3では毎年カンファレンス後に開催されており、宮本氏が携わっているタイトルがより深く紹介されている。時にはカンファレンスで語られていない重大発表が聞けることもあり、いわば任天堂の「裏カンファレンス」的な一面も持っている。

 今年の宮本氏が携わるタイトルとしては、「マリオ」関連が2タイトルと「ゼルダ」が1タイトル、さらに「Wiiモーションプラス」を使う「Wii Sports Resort」と、「Wii Fit」の新作となる「Wii Fit Plus」が発表されている。例年は1、2タイトルの話で終わるが、今年は突然数が増えたという印象だ。それでいて、今回の登壇者は宮本氏ただひとり。実際、宮本氏も相当忙しいらしく、冒頭から「ここの所ずっと忙しくて、ホテルでもプログラマとやり取りしている」と漏らしていた。

 なお、このイベントでは写真やビデオの撮影が禁止されていた。イベント中の様子はテキストでお伝えしつつ、ゲームのスクリーンショットなどを交えながら紹介していく。




■ 20年来の目標を達成した「New Super Mario Bros. Wii」

New Super Mario Bros. Wii

 宮本氏は最初に「New Super Mario Bros. Wii」について、「『スーパーマリオ』は20年くらい作り続けているが、その間ずっと失敗し続けてきたことがある。『スーパーマリオ』をマルチプレイで遊びたくて、このシリーズを作るたびに、毎回この実験から始めているが、失敗して1人用になっている。過去のシリーズにも4人が入れ替わりに遊ぶものなどがあったのはそのため」と説明。ついに実現されたマルチプレイは、「基本部分を3Dで作るとか、たくさんの敵を同時に出すといった処理を、Wiiのパワーで実現できた」という。

 ゲーム内容は、「協力したり、お互いに邪魔しあったりと、微妙なバランスで遊ぶ」と語った。マルチプレイでは、ステージをクリアすることが大目標となるが、同時にプレーヤーの中で最も高い得点を取ること(クリア後にランキングが出る)も別の目標として設定されている。「協力するが邪魔もする」というのは、ここのバランスのさじ加減によるものだ。

 宮本氏がこのゲームで目指しているのは、「初めてゲームをやる人も、かなりゲームを遊んでいる人も一緒に遊べること」だという。協力プレイの観点では、1人プレイではやられた時点で仕切りなおしになるところが、マルチプレイでは誰かが生きていれば進みつづけるというのがポイントで、上手な人と一緒に遊べば、格段に攻略しやすくなる。宮本氏は「(目標に)かなり近づけたと思う」と自信を覗かせた。

 ゲームシステムとしては、シングルプレイのモードを最大4人で遊べるストーリーモードと、クリアしたコースを4人で徹底的に遊べるマルチプレイモードがあり、合計で80コースほど入っているという。宮本氏はこの中から氷に覆われたコースを選んで自らプレイし、氷の弾を投げたり、腹ばいで滑ったりする「ペンギンスーツ」を着たマリオを披露してくれた。他にもこういった特徴的な能力を持つスーツがいくつも用意されているようだ。




■ 「1.5」のつもりが作りすぎて続編になった「Super Mario Galaxy 2」

Super Mario Galaxy 2

 続いての話題は、もう1つの「マリオ」となる「Super Mario Galaxy 2」。「今まで同じハードで1つのタイトルを2度作ることはなかった」という宮本氏だが、前作「Super Mario Galaxy」を作った際、「球体で重力を使った仕掛けを作ったが、ずいぶん使い切れずに残っている。実際に使ったものでも、スターの置き方などでもっとコースが考えられる」ということから、続編を作ることになったという。

 ただ実際に走り始めたときは、「2」ではなく「1.5」を作るつもりだったという。ところが作ってみると、「90%以上が新しいコースで、残りも今まであったものを作り直した。前作と同じくらいの量のコースを作っている」という状態になっているそうで、バージョンアップ版ではなく新作としてナンバリングされることになった。

 発売時期については、「かなりできてはいるが、今年は『New Super Mario Bros. Wii』も売るので、これは来年かな。ちゃぶ台返しはもうないと思う」と語った。




■ 前作の物足りなさを克服する「Wii Sports Resort」と「Wii Fit Plus」

Wii Sports Resort
Wii Fit Plus

 3つ目の話題は「Wii Sports Resort」と「Wii Fit Plus」。この2作の狙いについて宮本氏は、「『また2を作っているの?』と言われると思うが、僕の中では『スーパーマリオ』のシリーズとは違う思いがあって、どちらも2と呼ぶのはふさわしくないと思っている」と、単なる続編や改良版ではないということを強調した。

 「Wii Fit Plus」はいくつかの新要素が追加されているが、これについては、「毎日使う上でもう少し便利になって欲しいという思いが自分にもあるし、犬や猫のペットの体重も一緒に量りたい。あとは栄養士とカロリーの相談もしたいとか。『Wii Fit』を使うことで家族のコミュニケーションがより深くなる要素を全部入れた」と方向性を説明。「もし『バランスWiiボード』を片付けている人は、もう1回出してきても楽しくなるものになっている」とアピールした。

 「Wii Sports Resort」については、「Wii Sports」での問題点が鍵になっているという。「『Wii Sports』は体全体を使って動かし、誰でもでき、テニスでフォアハンドとバックハンドの打ち分けもできたが、もっとうまくなりたいという要求に答える部分が足りない。バスケットボールのゲームは、ボールが手から離れる微妙なところを表現しづらく作りづらい」と述べた。そこで「Wiiモーションプラス」と出会い、さまざまなスポーツを実現できるようになったという。

 宮本氏はここでゴルフのゲームをプレイ。「前も入っていたけれど、ずいぶん手ごたえが変わった。昔からゴルフゲームを作ってきたが、どうしてもメーターを見てボタンを押すゲームになってしまう。自分のスイングやフェイスの向きなどを反映させるものを作りたかった」と語り、実際に手首のひねりでフェードやドローの内訳ができているのを見せた。またこのゴルフのポイントは「プレイ時間の短さ」だそうで、実際にテンポよくプレイしながら、「ほとんどメーターを見ていないし、クラブも選んでいない。ゴルフゲームは説明やデモがあったりして、1つのゲームが終わるのにすごく時間がかかる。これはゴルフのスコアメイキングだけに専念できる」と説明した。

 ちなみに開発やデバッガーの中で人気のゲームは卓球だそうだ。手首のひねりを反映して自在にスピンをかけられるのが特徴で、「目を細めてみるとテニスと変わらないけれど、スピンで玉の動きがこれだけ変わると面白い」と語った。

 宮本氏は1つ余談として、ゲームの舞台となっているWufu島が、Wii Fit Plusで使われる島と同じという設定を明かした。「昔からアイランド構想を持っている。島を1つのキャラクターにしたい。マリオは皆さん知っていると思うが、島をみんなが知っているものにして、キャラクターライセンスできないかと思っている。僕が作るゲームの島は、当分Wufu島。島にはホテルがあって、そこで殺人事件が起こるとすると、『Wii Sports Resort』を遊んでいれば、ホテルがどこにあるか皆さんちゃんと知っている。皆さんが知っている場所で何かイベントや事件が起こるというのを商品にしたい。『Wii Sports Resort』では最後に飛行機で遊覧飛行して上から見られる」と語った。続けて「(構想が)すごくうまくいったら、どこか南の島を改造して、実際にWufu島を作りたい。多分株主が認めてくれないが」と笑いも誘った。




■ 「ゼルダ」はDS新作から、シリーズの本質の話題、さらにはWii版新作も

The Legend of Zelda: Spirit Tracks

 最後のタイトルは来場者も待ちかねていた「The Legend of Zelda: Spirit Tracks(邦題:ゼルダの伝説 大地の汽笛)」について、ダンジョンの攻略シーンのデモプレイを見ながらゲームを解説した。ポイントとなるのは、主人公リンクと行動を共にする「ファントム」の存在である。「前作で出てきたファントムからは逃げ回っていたが、今回はファントムを使って攻略する」と述べ、リンクでは乗り越えられない炎の壁を、ファントムを通り抜けさせて奥のスイッチを押すといった仕掛けを披露した。

 地上ではタイトルにあるように、鉄道がメインになるという。「鉄道というのは、男の子は血が騒ぐもの。皆さんがよく知っている鉄道で起こる事件とか、楽しいイベントが満載」と、ダンジョン攻略ではない面白さがあることを強調した。ただゲームの流れとしてはダンジョン攻略が重要な柱であるのは変わりなく、「あちこちの小さなダンジョンから、最後は大きなダンジョンに向かって、1つずつ何かを集めていく」というヒントも漏らした。

 さらに宮本氏は、4人同時プレイが可能であることも明かした。「前回のDS『ゼルダ』は、ファントムと逃げあいながらトライフォースを取り合う2人対戦を入れたが、今回は4人で『ゼルダの伝説 4つの剣』のような4人同時プレイができる」という。こちらは実際にデモが行なわれなかったため、具体的にどんなものになるかは不明。ただ本作はWi-Fiが使えるニンテンドーDSなので、ケーブル接続だった「ゼルダの伝説 4つの剣」よりも手軽に4人で遊べることは確かだ。

 さらに宮本氏は、自らが考える「ゼルダ」シリーズの本質についても触れ、「このシリーズを何年も作り続けている中で、『ゼルダ』はどんなものがいいのかと、ずっと青沼(シリーズのディレクター、プロデューサを務める青沼英二氏)と話をしている。絵が豪華になり、ストーリーがつきと、ゲームが進化してきたので、内容が似通ってくる。その中で『ゼルダ』はどんなゲームなのかということを考えると、僕は『実際にそういう場所に行ってきたような気がする体験』だと思う。その場所に行って、いろんな人に出会ったという記憶や経験が、ゲームの中のキャラクターがやっているのではなく、自分の中の記憶としてとらえられるのが大事だと思う。その中で、ダンジョンをいつも考えている。ダンジョンを自分で考えて攻略するという達成感が大事だと思う」と語った。

 続けて宮本氏は、「一時期、我々がゼルダを作るときにイメージムービーのようなものから作り始めたが、最近考え方を変えた。もっともっと面白い遊びの構造、ダンジョンをどう作るかという実験をたくさん繰り返している」と述べ、「本当は、僕はこのE3でWiiの『ゼルダ』を発表したかった」と、Wii版「ゼルダ」の新作開発を進めていることを明かした。

 この新作については、「Wiiで磨きこんだ絵を見せても、既に1度Wiiで『ゼルダ』を見せているので、もっとゲームにフォーカスしたものを見せたい」としたが、「あまりに何もないのも何なので、イメージイラストだけ見せる。このイラストには、ストーリーが決まっていると言えるようなものも織り込まれている」と述べ、1枚のイラストを見せた。このイラストには、前作と同様のリアル系ビジュアルのリンクと、女の子のように見える妙に白いキャラクターが描かれていた。

 現在の開発状況については、「順調に進んでいるので安心して欲しい。来年には出したい」とした。宮本氏はさらにゲーム内容についても触れ、「おそらく『Wiiモーションプラス』専用になる。剣とか弓とか、『ゼルダ』をイメージして『Wii Sports Resort』を遊んで欲しい。ただ僕のようなアクション好きな人にはいいが、じっくり遊べるRPGなどが好きな人が遊べなくなるので、その人達にどう答えていくかが今の課題」という。




■ Q&Aでは「Wii Vitality Sensor」の話題も

Wii Vitality Sensor

 タイトルのプレゼンテーションが終了後、Q&Aの時間が取られた。直前のカンファレンスで発表された「Wii Vitality Sensor」についてコメントを求められると、「非常にユニークなデバイスだと思い、以前から注目している。インターフェイスはボタンを押す、スティックを触る、体重計に乗るなど、いろいろ進化してきた。それらは全て自分で意図して動かせる。では、自分の興奮度、脈拍を意図して上げられますか? 意図してコントロールするのは難しいが、それをきちんとコントロールするトレーニングができるという、面白いものができるかもしれない。ヨガみたいなもの」と語った。当然ながら、宮本氏も既に考えているものがあるようだ。

 「他社で相次いで発表されたモーションセンサーをどう思うか?」という質問には、「僕らはこういうもの(デバイス)を作ってから、遊べるものを作って、落とし込んで発売する。『Wiiモーションプラス』も半年で発売できると思っていたのが、1年かかってしまった。技術はいろいろな新しいことはできるが、それを快適に使えるようにするのは僕らのノウハウだと思うし、実はそれができあがってからでないと評価はできない。どの方法が正しいかはわからないが、任天堂の提案する全身を使って遊ぼうということに共感してくれる姿勢は嬉しい。これでゲームプレーヤーはもっと広がると思う。ただモーションを使って快適に遊べるものとしては、今は『Wiiモーションプラス』が最も低価格で、安定して供給できるものだと信じている」と答えた。

 今回の発表内容からは逸れるが、「何かインスピレーションを受けたゲームはあるか?」という質問には、「ウィル・ライトさんの『シムシティ』にはすごく影響を受けた。でもそれよりも、僕は日本のコミックスや落語からものすごく影響を受けていると思う」と語っていた。


(2009年 6月 4日)

[Reported by 石田賀津男]