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18mのガンダムを動かす「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」、新たな研究者が決定!

富野監督、橋本教授が、現代技術を結集し実現する巨大ロボへのロマンを語る

10月26日開催



会場:秋葉原UDXシアター

 一般社団法人ガンダム GLOBAL CHALLENGE は、“機動戦士ガンダム”生誕40周年記念プロジェクトの中間発表会である、「ガンダム GLOBAL CHALLENGE PRESENTATION~第一次先行発表会~」を秋葉原UDXシアターで開催した。

今回の一次選考の受賞者(岡田氏は欠席)。彼らは今後のプロジェクトのメンバーとなる
創通の代表取締役社長の青木建彦氏によって賞状が渡された
ガンダムファンとしても知られるLUNA SEAのSUGIZO氏

 「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」は、「機動戦士ガンダム」が40周年を迎える2029年に、“動く”全長18mのガンダムを実現しようというプロジェクト。昨年2014年10月よりスタートし、様々なアイディアを日本のみならず海外からも募り、今回アイディアを出した4人の研究者が選出された。彼らは今後、富野由悠季監督や、早稲田大学理工学院教授の橋本周司氏などが参加する「ガンダム GLOBAL CHALLENGE リーダーズ」に参加し、動くガンダム実現に向けて力を合わせていくこととなるという。

 受賞者は4名で、金子裕哉氏は奈良先端科学技術大学院大学の学生。2脚歩行は実現が難しいとして、ザクと相撲を取った形で“四脚”での歩行スタイルを提示、「ガンダムとザクに相撲を取らせて四脚にした自立歩行(または脚を上げて一歩踏み出し)の実現」としてアイディアを寄せた。

 Ming-Hsun Chiang氏は、国立台湾大学の非常勤准教授。“人間に近いロボット”の歩行プロセスを研究しており、「ロボットが人間のような歩行を実現するための、ヒューマノイドロボット歩行に関連するメカニズムの提案」で評価された。木原由光氏はロボットや機械装置を設計するロボフューチャー株式会社の代表取締役。“足場”をうごかすという、歩行システムを外部に持たせた「外部動力供給式軽量型ガンダム独立歩行システム」を提案した。

 岡田慧氏は東京大学情報システム工学研究室の准教授。多くの人の研究でより実現性の高い技術を模索する「ガンダム・リサーチ・オープンプラットフォームの開発」を提案した。今回岡田氏は欠席だったが、4人は創通の代表取締役社長の青木建彦氏と、30周年の「ガンダム」のアルバムに参加し、ガンダムファンとしても知られるLUNA SEAのSUGIZO氏から表彰され、「ガンダム GLOBAL CHALLENGE メンバー」に認定された。

 SUGIZO氏は今回表彰された研究者達に、「現在は昔夢見た未来がどんどん実現しているという実感を持っています。しかし一方で思い描いた明るかった未来が、果たして今現実になっているのかなと、問題が山積しているといわざるおえない状況です。しかし今回の皆さんのように夢を現実に結びつけていく科学者、専門家の方々には僕らを導いてもらいたいと思っています。僕らが夢見た明るくて美しい、平和的な未来を具現化していただければありがたいです」と語りかけた。

【選出された研究者】
ザクと相撲を取ることで4脚の歩行を提案した、金子裕哉氏
Ming-Hsun Chiang氏は、自身の研究テーマからヒューマノイドロボットの歩行システムを応用することを提案
外部動力による歩行を提案した、木原由光氏
岡田慧氏は、研究実現へのオープンプラットフォームを提案

富野氏のエール、「おめでたい“立ち上がるガンダム”を実現して欲しい」

強い言葉で否定し、それから未来への展望を語る富野由悠季監督ならではの語り口は、今回も絶好調だった
映画監督の本広克行氏は、CGでガンダムの動く姿を考察

 表彰式の後は、富野氏、橋本氏、中央大学工学部教授のピトヨ ハルノ氏、ライゾマティクス代表取締役の斎藤精一氏、映画監督の本広克行氏の5人の「ガンダム GLOBAL CHALLENGE リーダーズ」よって選評が行なわれた。現状のアイディアでは18mのガンダムを動かすのは難しく、2つか3つの“ブレイクスルー”が必要であり、今後、4人の研究者を加え、引き続きアイディアを募集して行くという話となった。

 本広氏は“歩くガンダム”のイメージとして、CGモデルによるアニメーションを提示。映像分野から考える歩くガンダムの姿を提示した後、「僕が本当に実現したいガンダムの動きはこれです」と、アニメの第1話「ガンダム大地に立つ」の、トレーラーから起き上がるガンダムのアニメーションを上映した。実現できるかどうかは別として、ぜひ見てみたい光景だ。

 最後にコメントしたのは富野氏。「小中学校の時、雑誌で得た知識で『新型機の開発、生産、運用の面倒くささ』を本能的に知っている子供になってしまいました。今回のような、絵空事でモノを考えている人たちが大っ嫌いで、困ったもんだなというのが1つあります。そしてコンピューターが発達した現代では、困ったモノが日常に入り込んでしまっている。私たちはとんでもなくとっちらかった生き方をしているのではないかというのが、先進国の状態ではないか、と僕は思っています」と、いきなり富野氏は現在のこのプロジェクトの理念を危うくさせるような発言を始めた。

 「だからこそ、夢とロマンにあふれる自分がガンダムにもあるならば、おめでたい本広監督のアニメーションぐらい実現させてみせようぜ! とトライするのは“リアリズム”を考えるための礎になると思うんです。だからこそ、やって良いことだと、本当に、これは本当に思っています。この言葉は、はじめの言葉と矛盾していません。むしろ、戦争をやりながら新機種を開発し、戦場に投入する方がフィクションなんです。それで国が勝てるなんてめでたすぎる、嘘八百の話です」と富野氏ならではの語り口で言葉を続けた。

 「今、こういう時代だからこそ、ガンダムという素材だからこそ、どこからも袋だたきにされずに、リアリズムという工学の方向を求めていける。コンピューター技術の応用でどうとでもごまかせる方向もあるけれども、人型のモノを動かすというのがどれほど工学的にバカバカしく大変なことか、そしてそれを達成していく中での応用技術がどれだけ生まれるか、そのブレイクスルーをもたらす要因をはらんでいると思っています。一見遊び事かと思いますが、それが今できる平和な日本というのはとてもすてきなことだと思います。ですから新しく参加してくださる方を含めて、せめて本広さんが考えたおめでたい“立ち上がるガンダム”を実現して、見せて欲しいです。それはこの年になった自分として、とてもうれしいことだから」。

 さらに富野氏は「そのことが何になるのか、それはまだ皆さんは想像できないと思います。僕自身6年前に動かない1/1のガンダムを見せられて、『奈良の大仏には負けているかもしれないけど、少しは勝っているかもしれない』という感動を受けました。年をとった自分が“生かさせてもらってる”というような感触を得ました。そういう意味で、どこであれ動いてくれたら、次の何かを考えてくれる人たちが出てくる。考えてくれる子供達が出てくれるんじゃないかと。……ひょっとしたらその子達は『こんなバカバカしいことはやめましょうよ』というかもしれませんが、だからこそそういったことを考えさせてもらうために、具体的にやってみせるというのはとても大事だと思っています。よろしくご協力ください」と語り、言葉を結んだ。

【ガンダム GLOBAL CHALLENGE リーダーズ】
早稲田大学理工学院教授の橋本周司氏
中央大学工学部教授のピトヨ ハルノ氏
映画監督の本広克行氏
ライゾマティクス代表取締役の斎藤精一氏

ロボット工学を越えた夢に向け、現代の科学技術、エンジニアリングを結集

橋本氏は研究者ならではの視点でプロジェクトが提示する未来への希望を語った
今後の「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」。来年には具体的なプランが発表される

 「ガンダム GLOBAL CHALLENGE リーダーズ」のコメントの後、橋本氏とサンライズ代表取締役社長の宮河恭夫氏によって今後の展望が語られた。今後プロジェクトはオープンイノベーションと、追加アイディアを募集して行きながら、2016年3月に選定案を絞り込んでいく。来年の秋には基本プランを選定し、設計、施工を行ない2019年の実現を目指していくという。

 宮河氏は本プロジェクトをアメリカの「アポロ計画」と同じ、夢とロマンに向けて努力し、そこから様々な技術が生まれるプロジェクトだと語った。今回のチャレンジが、様々なロボット技術への進歩をもたらすのではないかという。そして「ガンダムを動かす」ということに関して、「ガンダム的な格好よさ」を求め、エンターテイメントとしての成立させる安全性も求め、日本ならではのコンテンツにしていくと語った。

 橋本氏の現状の分析のコメントは興味深かったので、抜き出したい。「富野監督はプロジェクトを“バカバカしい”とおっしゃいましたが、ホントにバカバカしいところがあります。1.8mの人間を基準に考えれば、18mのロボットの大きさに単純に拡大すると重さは1,000倍になる。さらに、腕を振ったり、脚を振ると単純にモノを持ち上げるのとは異なる“慣性モーメント”が働く。これは半径の2乗の力がかかります。これを実現するには10の5乗の力が必要になります。映像では簡単なことが、現実ではそうはいかない。アニメの巨大ロボットの動きそのものが、相当バカバカしい。他のロボット研究者と話をすれば、『そんなことは考えるな』と言われます」とまず橋本氏はこのプロジェクトの難しさを語った。

 そして、「しかし、だからこそ引き受けたというところもあります。今回のテーマはロボット工学を超えています。ロボット工学ではない部分も考えています。非常に大きなモノを運ぶトレーラーや、100m以上の高層ビルを地震から守る建築技術など実現しているものもあるのだから、何らかの回答はあると思っています。それをどうするか、これから皆で知恵を絞ってまとめ上げていきたい。さらに実験室で1回成功するのではなく、安全でそして感動をもたらし、安心感も盛り込まなくてはならない。これはエンジニアリングを総動員して応える必要がある。これは富野監督のイマジネーションのチャレンジに対し、現代の科学技術、エンジニアリングがどう応えるかを問われていると思っています。身も震える思いで取り組んでいきたいです」と改めてこのプロジェクトへの意気込みを語った。

 18mの巨大ロボットが動く。この夢を実現させるため、様々なスタッフが力を集め、真剣に取り組んでいる。ロボットファン、アニメファンの夢を実現するプロジェクトが、現実に動いている。昨年は「とにかく動かす」ということが目標だったが、今回、その動きはあくまで“ガンダムらしさ”を追求し、“感動をもたらすこと”、“安全であること”という新たな、そして明確な目標が提示された。このプロジェクトがどういった方向に進むのかはまだわからないが、それでも実現に向かって進んでいるという実感は、筆者もワクワクさせられた。今後の展開を期待していきたい。

(勝田哲也)