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【GDC 2014】五十嵐孝司氏が振り返る「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」

2D探索アクションにこだわった真意とは? KONAMI独立後の方針もチラリ

3月17日~3月21日 開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Convention Center

フリーランスとしての登壇となった五十嵐孝司氏

 「悪魔城ドラキュラ」シリーズを手がける五十嵐孝司氏が、KONAMIを退社した。そんなニュースが業界を駆け巡ったのはちょうどGDC 2014の開幕直後のことだった。

 20年以上勤めてきたKONAMIを退き、新たな開発スタジオを立ち上げるということで、五十嵐氏は一躍話題の人となった。そのような状況の中、GDC 2014最終日となる3月21日に、五十嵐氏はセッションに登壇した。

 退社したのは3月15日ということなので、本当に退社直後の状態での講演となる。講演タイトルは「There and Back Again: Koji Igarashi's Metroidvania Tale」。「Metroidvania」とは、広大なマップを自由に動き回り、アイテムなどを探索していく2Dアクションゲームを表す海外ゲームファンによる造語。同タイプの「メトロイド」と「悪魔城ドラキュラ(英語タイトル:Castlevania)」が掛け合わされ、両タイトルに敬意が払われていることが言葉からもわかる。

 講演の内容は、五十嵐氏が手がけてきた「悪魔城ドラキュラ」シリーズがどのような考えの元で作られ、デザインされてきたかというもの。残念ながら新規タイトルの話はなかったが、五十嵐氏がこれまで何を作ってきたかを聴講者に話すと同時に、自らの足跡を捉え直すようなセッションとなった。

本筋じゃないから……と根本から改革! シリーズ方針転換の秘密

シリーズに問題は色々あったが、とにかく落下死が気に入らなかったという
エンターテイメントとしても2時間6,000円は確かに高い
ステージクリア式から探索型に切り替え、RPG要素やコレクション要素を入れてプレイ寿命を伸ばした
アルカードのサイズで鞭だったらゲームとして成立しないでしょ? という図。ちなみに図は五十嵐氏お手製

 セッションでは、すでにシリーズ化されていた「悪魔城ドラキュラ」において、最初にディレクター、ストーリーライター、プログラマーとして参加した「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」を中心にして話を進めていった。

 当時、KONAMIにはいくつか制作チームがあり、五十嵐氏は本筋の「悪魔城ドラキュラ」シリーズは五十嵐氏の所属とは違うチームが保有していると考えていたという。五十嵐氏のチームはその前に「悪魔城ドラキュラX 血の輪廻」を制作しており、新しいことをやろうという雰囲気があった。それゆえにシリーズの新作では「何をやっても構わないな」と思っていたとした。

 アクションゲームシリーズの落とし穴として、ファンの期待に応えるためにシリーズを重ねるに連れて難易度を上げる傾向がある。シリーズのクリア時間は2時間程度で、しかし難易度を上げても新規のファンは付いて来られない。

 さらに2時間という枠組みでは映画が1,000円、ゲームが6,000円と価格に圧倒的に差があり、エンターテイメント商品として高過ぎると感じていたという。

 そこでどうするかを考えた時、「ゼルダの伝説」シリーズのような探索型のRPGがいいのではと五十嵐氏は話した。「『メトロイド』でなくてすみません(笑)。もちろん大好きです」と付け加えつつ、経験値による成長要素やモンスター、マップのコレクション要素を加える事で、プレイ時間の寿命を伸ばすことにしたという。

 また「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」では、抜本的にゲームシステムが変更されている。真っ先に挙げられたのは、落下死の廃止。画面内のどこから落ちても死なないのに、穴に落ちると死ぬというのに納得行かず、またジャンプに対してストレスを感じさせることになるので、非常に気に入らなかったという。ちなみに落下する瞬間の数フレームはジャンプできる仕様になっており、落下に対するさらなるケアも図られている。

 ゲームの改造はさらに続く。「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」では、キャラクターのサイズを大きくしようとした。それまで「悪魔城ドラキュラ」での武器といえば鞭だったが、キャラクターの大きさに合わせて鞭のアクションをさせると間合いが異様に広くなり、駆け引きどころではなくなる。そこで五十嵐氏は鞭使いという設定をなくし、色々な武器を扱い、さらには変身もするヴァンパイアを主人公とすることで、探索をより楽しくするようにした。

 設定が決まれば、ヴァンパイアが人間に味方をする理由を考えていく。五十嵐氏は「悪魔城伝説」に登場したアルカードという人物に目を付け、人間の母親とヴァンパイアの父親を持つハーフであること、母親は魔女狩りによって殺されていること、「人間を恨んではいけない」と母親から最後の望みを託されたことなどの設定を加えていった。これに合わせて、本屋に並んでいた雑誌の表紙からイラストレーターの小島文美氏を見出し、イメージの変更も行なった。

 なお、なぜ3Dモデルではないのかというと、探索型ゲームでは広いマップと多くの敵が必要になるが、3Dモデルを使用するとなると技術検証から始めないとダメで、あまりに物量が多いために断念したという。

 またチームには2Dのアニメと背景が得意な「2人の天才デザイナー」がおり、彼らの力を最大限発揮させること、そして過去作のグラフィックスを再利用したかったことから2D以外の選択肢がなかったというのも本音だったようだ。グラフィックスについては解像度320ドットまで表現できたが、実際には256ドットまでカットし色数も16色に抑え、その分多重スクロールや豊富エフェクトも盛り込んでいる。

 最終的には、大きな制約がありながらも、強者のデザイナーがいたことや、どう良くなるのかをプログラマーからデザイナーに提案するなど、「才能がタイミングよく集まったタイトル」であったことが大きかったようだ。五十嵐氏は当時を振り返り、ゲームはどのような形であれ、「人に始まり、人に帰するのかな」と述懐していた。

キャラクターの設定を変えたり、ビジュアルも小島文美氏を起用して刷新したりとガラッと雰囲気を変えたタイトルだったが、結局は作る側が良ければ良いゲームができるという

探索と見せかけて1本道がゲームの本質。今後の五十嵐氏についてもチラリ

プレイが楽しければゲームも楽しい
プレーヤーの立場となり、プレーヤーが不快にならないように考えることが大事だとした
ゲームバランスはボスを基準として作ると調整しやすいという

 五十嵐氏からは加えて、「Metroidvania」型ゲームを作るガイドラインも話された。ゲームのサイクルは「新装備を求めること」、「それらを探すこと」、「見つけて試すこと」を繰り返すこととなっている。これらのサイクルと操作が楽しければ、ゲームは楽しくなるとした。

 また探索ゲームであるように見せかけて、実はメインは1本道で作られている。所々で枝葉のようなルートを入れているが、その先にはアイテムなどを置くことで得した気分にさせられる。このような枝葉ルートを入れると、探索をしているように感じさせられるのだという。

 違う注意点としては、新たなエリアの開放があることと、その動作にはアイテムが必要であることを早い段階で見せてしまうことだという。これによってステージクリア型のゲームとは違うことを示せ、またゲームの先への期待感も煽れる。その仕掛けはなるべく目立つようにしておいて、プレーヤーが忘れていても「自分が悪かったな」と思ってくれるようにするなど、プレーヤーが不快にならないよう特に気をつけたという。

 なお敵の強さのバランスについては、ボスを基準にすると他の敵キャラクターも作りやすいという。またボスに対してはそれだけに囚われてはいけないが、直近に手に入れた武器で倒せるくらいにすると、ちょうどよくなるそうだ。

 五十嵐氏は最後に講演について振り返り、「しばらくこのジャンルからは離れていたが、今回講演の機会が得られたのも、同ジャンルが少なくなってきたからで、多くのファンが待ち望んでいるからではないか。大きな会社から独立したので、これからは自分の意志でゲーム作りができる。ファンのみなさんの意見を聞きながら、実現に向かっていけたらなと思う」と述べた。

 また「新しい五十嵐氏のチームは海外を中心としたグローバルな雰囲気になるのか?」という会場からの質問に対しては、「飛び出したばかりで何も考えておらず、会社もできていない。ファンは日本というよりは海外の方が多いのでそちらが中心になるのかとは思うが、何分英語ができないのでインターナショナルでは難しいかもしれない。みなさんどうです?」と逆に質問。これに聴講者たちは満場の拍手で応答し、海外展開への期待を表わした。

 五十嵐氏が今後どのようなチャレンジをするか、具体的な名言はなかったが、五十嵐氏のコメントから探索型アクションゲームの制作が期待される。展開の地域がどうであれ、五十嵐氏らしい新作を待ち望みたい。

(安田俊亮)