【特別企画】「Zynga Unleashed」から見る、ソーシャルゲームの未来像

PCを飛び出し、モバイルへと戦場を広げる北米ソーシャル戦国時代


6月26日開催(現地時間)



 米のソーシャルゲーム大手Zyngaはサンフランシスコにある本社で、現地時間の6月26日にプライベートイベント「Zynga Unleashed」を開催した。

 Zyngaはこのイベントの中で、FacebookとZynga.com向けの新作Ville系ゲーム「The Ville」や「FarmVille 2」、モバイル向けの新作パズルゲーム「Matching With Friends」などの次世代ソーシャルゲームを一挙に発表した。

 それと同時に自社でサービスしているゲームポータルサイト「Zynga.com」のAPIをサードパーティーに提供することや、すべてのプラットフォームのユーザーを結びつける「Zynga With Friends」という統合ネットワーク構想なども発表された。すでに発表の内容は速報でお伝えしたが、このレポートでは米ソーシャルゲーム最大手のZyngaが打ち出してきた様々な戦略を読み解いて、ソーシャルゲーム米市場の方向性や未来を考察してみる。



■ サンフランシスコの本社リビングルームで、次世代のソーシャルゲームを一挙に発表

ZyngaのCEO、Mark Pincus氏
Pincus氏の飼い犬をモデルにしたCI

 Zyngaは2007年7月にアメリカで創業したソーシャルゲーム大手。「Zynga Poker」でアメリカの企業では初めてバーチャルグッズを販売するアイテム課金のビジネスモデルを成功させて、Facebookのブームとともに急速に巨大企業へと成長した。矢継ぎ早に新作を発表し、2011年には10億ドルを超える利益を上げている。

 トレードマークになっている犬は、創業者でCEOのMark Pincus氏が飼っている犬で、社名もその犬の名前に由来している。そのせいか、Zyngaの社内では社員も飼い犬を連れてきて自由に遊ばせている。日本では考えられないような自由な社風が、次々に発表される斬新なゲームに活かされている。現在は2億9,000万人のアクティブユーザーと6,500万人のデイリーアクティブユーザーを抱える。さらに2,200万人のユーザーがモバイルでプレイしている。プレーヤーは175か国の国や地域に広がっている。

 当初、Facebookのみを舞台をしていたZyngaだが、密月は長く続かず2012年には、Facebookを離れた独自のゲームプラットフォーム「Zynga.com」をスタートさせた。さらに中国のTencentとパートナー契約を結んで中国市場へも進出し、またスマートフォン向けのソーシャルゲームにも注力。文字を使ったパズルゲーム「Words with Friends」は大ヒットし、今現在も1,600万のマンスリーアクティブユーザー(MAU)を記録している。

 Zyngaは2011年にIPOを果たしたが、株価は公開直後から低迷し失敗と囁かれた。低迷の理由としては、ゲームのローンチスピードが遅くなっていることや、Facebookに収益を依存していることが不安要因になっていると分析されている。一時期の急成長は影をひそめたが、今やスクウェア・エニックスを超える巨大ゲームメーカーとなったZynga。その動向がソーシャルゲーム業界に与える影響は大きい。

 イベント冒頭に登壇したZyngaのCEO、Mark Pincus氏は、Zynga創業の経緯を「生活の中にゲームをプレイするということを取り戻すため」と説明し、「ゲームのプレイが友達作りや人間関係の構築に重要な役割を果たす1つの方法になりうると信じています」と語った。そしてテクノロジーとタイトルの両面からZyngaの今後を択す戦略を発表した。



■ オープンプラットフォーム化でプラットフォーマーへの道を進むZynga

Zyngaの底力を見せつけた「CastleVille」
Zyngaが独自に運営しているゲームポータル「Zynga.com」

 Zyngaでは、毎日の100を超えるアップデートや、プレーヤーからの1秒間に100万回のアクセスに対応するためzCloudという世界最大のクラウドサーバーを使っている。現在Zyngaのゲーム全体の約80%のトラフィックがzCloudで処理されている。このサーバーは通常のクラウドサーバーに比べて3倍以上の処理速度を持ち、その技術によって「Castle Ville」はローンチ初日に280万人のプレーヤーが参加することができた。簡単に聞こえるかもしれないだろうが、アクセスが集中する初日にスムーズにゲームを提供する難しさは、専門家ならずともネットワークゲームを遊んだことがある人なら1度はユーザーとして体験しているのではないだろうか。

 これらのインフラとともにZyngaゲームを支える新しいAPI「Zynga API」を、近日中にサードパーティーに提供することが発表された。APIの詳細は公式のデベロッパーズサイトで見ることができる。パートナーにはZyngaが自社ゲームのために使用しているすべてのインフラやサービスが提供される。

 同時にこのAPIを使ってゲームを提供するサードパーティーと、最初にスタートされる3つのゲーム「50 Cubes」、「Majesco」、「Portalarium」も発表された。参加企業はPC向けがSava Transmedia、Konami、Playdemic、Mob Science、Row Sham Bow、Rebellionなど。モバイル向けがAtari、Crash Lab、FatPebble、Phosphor Games Studio、Sava Transmediaなど。パートナー企業のモバイル向けゲームはこの夏から順次サービスされる予定だ。

 Zyngaは現在、Facebook、Zynga.com、iOS、Androidなどにゲームを提供している。今回それらすべてのデバイスやプラットフォームから接続できる統合SNS「Zynga With Friends」ネットワーク構想が発表された。これは異なるプラットフォームのユーザーを統合的につなぐための新しいシステムで、Zyngaの自社プラットフォーム「Zynga.com」を発展させたSNS的なものになるようだ。

 「Zynga With Friends」ではユーザーが友達との交流やチャットなどに使えるソーシャルロビーを提供し、そこですべてのプラットフォームのプレーヤー同士が交流できる。友達がいまどのゲームで遊んでいるか一目でわかり、新作ゲームの情報などが集まる予定だ。また、Zynga.comに新しくマルチプレーヤー用のサービスが用意され、「Bubble Safari」などのゲームでプレーヤーがリアルタイムに対戦するためのマッチングを助ける。他にもプレゼント要請が即座に流れるソーシャルストリームや、ライブチャットなどを備える予定だ。

 ゲームメーカーがプラットフォーマー化していくのは、日本でグリーやモバゲーが歩んできた道と同じだ。現在はハード=プラットフォームという常識が崩れ、ウェブ上に数多くのプラットフォーマーが乱立している世界的なプラットフォーム戦国時代だ。その中でもZyngaは間違いなく次世代の覇権を握る有力候補となるだろう。





■ 「The Ville」や「FarmVille 2」などフェイスブック向けゲームを一挙に発表

Zyngaで最もソーシャルなタイトルになるという「The Ville」

・「The Ville」

 FacebookとZynga.com向けの新作ゲームは、Villeからアーケードまで5本が紹介された。「The Ville」は、「FarmVille」や「CityVille」のゲームデザイナーMark Skaggs氏が手がける新作タイトル。Zyngaの初期のヒットコミュニティゲーム「YoVille」の精神を受け継ぎつつ、Electronic Arts(EA)の「The Sims Social」を強く意識した面も伺える。都市づくりゲームではEAが「CityVille」を意識した形で「SimCity Social」をローンチしたばかりで、ZyngaとEAが一騎打ちの様相を呈してきている。

 プレーヤーは自分の理想の家を造りつつ、そこで家を訪ねてきた友達のアバターと一緒にダンスをしたり、食事を分け合ったり、おしゃべりをしたりといったインタラクトを楽しむ。たくさん交流すると、さらに新しいインタラクトの方法をアンロックすることができる。他にも友達から材料を手に入れて料理をしたり、インゲームのメッセージボードでやり取りをしたりといったコミュニケーション要素が多く含まれている。「The Ville」は27日からFacebookとZynga.comでサービスされている。

【The Ville】
理想の家を作るために、レベルを上げて家具やデコレーションを増やしていく家に遊びに来た友達のアバターとコミュニケーションを取れるチャットやお知らせ機能など、数多くのコミュニケーション機能も実装される

【「The Ville」プロモーションムービー】

ゲーム内の料理を実際に作ってみることができる「ChefVille」

・「ChefVille」

 「ChefVille」は自分の厨房を持って料理を作るレストラン経営シミュレーション。ゲーム内で作った料理のレシピをE-mailで送ることができ、実際に現実世界で作ってみることができる。本作は間もなくFacebookとZynga.comからサービスされる予定。


クリックだけの簡単操作なのにスピード感がある落ちものゲーム

・「Ruby Blast」

 アーケードゲームの新作「Ruby Blast」は、いわゆる落ちもの系のパズルゲームだ。炭坑を下に向かって掘り進めながら、ジェムを消して集めていく。消し方は3個以上連続で並んでいるジェムをクリックするだけという単純なもの。

 1回のプレイには制限時間がある。近接するジェムを消すことで下に向かって掘り進んでいくが、画面下のラインよりも上にある土のパネルをすべて消すと制限時間にボーナスがつく。

 また、ジェムの色ごとに使える特殊なスキルがあり、その色のジェムを消していくことでエネルギーバーを貯める。満タンになると、紫のジェムなら直線の十字方向にあるすべてのジェムを消すスキルが使える。FacebookとZynga.comで既にサービスがスタートしている

【Ruby Blast】
ゲームのスタート画面では友達のランキングをチェックできる画面下にある土のパネルを消すと、制限時間が伸びていくジェムを消すことで特殊なスキルを発動するためのバーがたまっていく

・「FarmVille 2」

 イベントの最後にはビッグなサプライズとして「FarmVille 2」の映像が公開された。「FarmVille 2」はZyngaの代表作「FarmVille」の続編。「FarmVille」は2010年に8,200万のマンスリーアクティブユーザー(MAU)を記録した大ヒット作で、その後も2012年の第一四半期まで収益全体の29%を占める主力タイトル。直近のアップデートでも2,100万人を超えるMAUを維持している。

 新作の「FarmVille 2」はグラフィックスがフル3Dに進化して、自分の農場を自由に回転させることができるようになる。「FarmVille」とのデータ引継ぎなどはなく、完全な新作となるようだ。「FarmVille」よりもリアルな農場シミュレーションとしての性格を強めている。プレーヤーは収穫した農作物を材料にして様々な加工品を作ることができる。

 Zyngaがフル3Dのゲームを提供するのはこれが初めてとなる。これまでのVilleゲームとは一味違うリッチなゲーム性を予感させる期待作だ。サービスの開始はまだ未定。




■ モバイル向け新作パズルゲーム「Matching With Friends」をサービス開始

「Matching With Friends」

 Zyngaが「Scramble」という単語を組み合わせる対戦ゲームをベースに、モバイル向けにサービスしたパズルゲーム「Words with Friends」は、大ヒットを記録してZyngaのモバイル進出への道筋を作った。昨年ハリウッド俳優のアレックス・ボールドウィンさんがハマりすぎて飛行機の中でプレイしていたところ、飛行機を下ろされるという事件が起きるほどに大人たちを夢中にしている。

 その「With Friends」シリーズの新作が、今回発表された「Matching With Friends」。本作は「Words With Friends」、「Scramble With Friends」、「Hanging With Friends」、「Chess With Friends」という5つのミニゲームから成っている。対戦相手を探して、ターンベースの対戦を行なうことができる。アプリは26日からiPhone/iPod/iPad向けにApp Storeから配信が開始されている。

【Ruby Blast】
どのゲームもプレーヤーはカラーのパネルを操作して対戦する

「Zynga Elite Slots」

 カジノ&アーケードはソーシャルゲームの中で最も人気があるジャンルの1つだ。Zyngaも既に「Zynga Poker」、「Zynga slot」というカジノゲームをiOSから配信しており、いずれも収益ランキングのトップ10にランクインしている。新作のモバイル向けカジノゲーム「Zynga Elite Slot」は「Zynga Poker」と「Zynga Bingo」のフィーチャーを融合した新しい形のスロットゲーム。ラスベガスのカジノからインスピレーションを得た美しいグラフィックスと新しいソーシャル要素を持つ次世代のモバイルカジノゲームになる。サービスは間もなくスタートする予定で、Facebookのファンページにも「Coming Soon」のメッセージが出ている。

 アメリカではオンラインギャンブルが法律で規制されているため、現状は直接お金をかけて遊ぶゲームを開発することはできない。ただプレイに関しては州ごとに法律が異なっており、海外のサーバーで運営されているゲームを遊ぶだけなら違法にあたらないという州も多い。しかし今年に入って、この法律が緩和される方向に向かいつつあり、アメリカ国内のメーカーも本格的なオンラインギャンブルに参入の意欲を見せつつある。今回の新作はギャンブルゲームではないが、この法律の推移如何で新しい展開が起こる可能性は高い。


【Ruby Blast】
オンラインカジノ合法化の流れに合わせて登場した「Zynga Elite Slots」




■ PCプラットフォームではZyngaは依然として安泰、今後はモバイルプラットフォームへの食い込みがカギか

Zynga Mobileのロゴマーク

 今回、数々の胸躍らせる発表があったわけだが、この発表の日と翌日にもZyngaの株価は下落している。売り上げが頭打ちになっているFacebook向けタイトルへの依存度を下げて、今後いかに新しい収益を確保していくかについて、今回の発表だけではまだ不透明な部分が大きいと判断した投資家が多かったのだろう。

 アメリカではPC向けのソーシャルゲームブームは収束し、好きな人間が続けるという現在のコンシューマゲームに近い立ち位置になりつつある。ブームの絶頂期には5,000万を超えていたZyngaのFacebookゲームのMAUも現在は2,500万人あたりで推移している。そんなPC向けの代わりに、今大きな盛り上がりを見せているのがスマートフォンを中心にしたモバイルゲーム市場だ。しかし、PC向けと違い、こちらではまだZyngaも確固たる地位を築いているわけではなく、多くの企業の中で争っている状態だ。

 Zyngaは今月、「Words with Friends」と日本でも日本語サービスが始まったお絵かき対戦ゲーム「Draw Something」をWindows Phone 8 Mobile用に提供することを発表した。今後Windows 8やスマートテレビの普及で、ソーシャルゲームはますます身近なものになっていくだろう。Zyngaの独自プラットフォームがその中でどの程度存在感を示せるかが、今後の注目点になるだろう。
Copyright 2012 Zynga Inc. All rights reserved.

(2012年 6月 29日)

[Reported by 石井聡]