Game Developers Conference 2012レポート

【GDC 2012】和田康宏氏が語る「牧場物語」誕生秘話
開発途中で会社が倒産、目の前が真っ暗になったが……!?


3月5日~9日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center



 「Classic Game Postmortem: Harvest Moon」という講演では、元マーベラスエンターテイメントで、「牧場物語」の生みの親である和田康宏氏がシリーズの誕生にまつわるエピソードを紹介した。

 「牧場物語」は、牧場主となって動物や作物を育てながら、町にいるNPCとふれあうというライフタイムシミュレーションゲーム。第1作めはスーパーファミコン用のタイトルとしてパック・イン・ビデオから1996年に発売された。それ以来16年の間に数多くのプラットフォームからシリーズが発売され、累計で1,000万本を超える長寿シリーズになっている。北米と欧州では「Harvest Moon」というタイトルで発売されており、特に欧州では100万本を超えるヒットを記録している。このレポートでは、「牧場物語」の誕生秘話を通してゲーム開発のヒントを届けたい。




■ “戦わないゲーム”+田舎への思いがコンセプトに

TOYBOXの和田康宏氏
そのほんわかとした雰囲気から女性に人気が高い

 かつては、今よりもずっとゲーム開発の敷居は高かった。ゲームを開発するには多くのスタッフと長い開発期間、多額の開発費用やプロモーション費用がかかり、個人でゲームを作るのは難しかった。和田氏はそんな時代にゲーム開発の現場に入った。「商業的なもの作りをするために書かせないものがコンセプトだと思います。何を作りたいのか、どう作りたいのか、どのくらいの費用が必要なのか、どうやってそれを調達するのか、どんな人たちから回収するのか。それらを短い言葉で端的に表さなくてはいけません。コンセプトは、一緒に仕事をしていく人が迷ったときに頼りになる道しるべでなければなりません」。

 「牧場物語」のコンセプトは、和田氏が田舎生まれだったことに端を発する。都会への憧れが強く、東京の大学へ進学。しかし都会暮らしの中で初めて、田舎の良さに気づいた。「徐々に都会への違和感が広がっていったのです」。田舎のほうが都会よりもいいという比較ではなく、自分が田舎を一面的にしかみていなかったということに気づいた。

 そんな和田氏がゲーム開発の道に進んだ。当時は格闘ゲームの全盛期、和田氏ももちろん遊びまくっていた。しかし自分にできるゲーム作りはなんだろうと考えた時に思いついたのは“戦わないゲーム”だった。この最初の思いつきと、田舎への思いが結び付き「田舎で人生を送る経験ができる、戦わないゲーム」というコンセプトができた。

 前例のないジャンルのゲームだったため資金の調達に苦心し、実際に開発がスタートしたのは2年後だった。まずはゲームデザイナーが実際の仕様を書けるよう、企画の概要を示す必要があった。試行錯誤の末、“人生”というキーワードからは“成長”と“交流”、“田舎”というキーワードからは“緑”と“生き物”という2つを導き出した。

 だが“仕事”という3つめのキーワードには迷いがあった。「普段はしっかり勉強したり仕事をしている人が、余暇の楽しみに遊ぶゲームの中で仕事をして楽しいのだろうか、とずっと考えました」。コツコツと働いた結果が大きな成果に結び付くようにゲームに緩急を付ければ面白くなるのではないかと、最終的には仕事を要素に盛り込むことに決めた。当時、和田氏は「ダービー・スタリオン」にハマっていたので、そこから働く場所は牧場とあっさり決まった。そして、“牧場で働く主人公が、苦労しながら有意義な人生を送る”という基本コンセプトが完成した。



■ 作業感を払しょくするために農作業を追加「これはイケる!」

作物を作るというアイデアが、単調だったゲームを一気に面白くした

 シミュレーション的なゲームだが、なるべく数字を使わずにキャラクターが実際にアクションをしてその結果が見られることにこだわった。動物に話しかけたりミルクをしぼったり、エサをやったりすると、ハートマークを浮かべて反応を返してくる。病気にもなる。だがリアルさを求めて様々な要素を盛り込んだにも拘わらず、実際に動かしてみると、作業感が強い単調でつまらないものになっていた。

 同じことは住人との交流にも言えた。住人は話しかけるとアクションを返し、時にはイベントも起こる。だが毎日話しかけていると、どうしても単調になるという課題が浮かび上がった。「コンセプトが完璧でも肝心のゲームが面白くなければ話にならない」、そこで出てきたのが作物を育てるというアイデアだ。「今はFarmVilleをはじめたくさんの農場ゲームがありますが、当時はなかった。作物を育てるという可能性を考えたときに、ゲームに幅を持たせる要素がすごく豊富だということに気づいたのです」

 農作業をゲーム化するうえで参考にしたのは「シムシティ」だ。建物がだんだん大きくなったり、逆にスラム化したりといった部分を参考にした。土地を切り開いていく要素は「ゼルダの伝説」からヒントを得た。升目に岩や切り株を置いて、それを取り払うと広い空き地ができる。そこに植物を植えて水をやる。「初めて芽が出た時の新鮮な驚きは忘れられません」と同時にこのゲームは絶対にいけるという確信を持った。

 その後開発は順調に進み、花嫁となる5人のヒロインを作り、子どもも楽しめるようにファンタジー要素を入れた。「最初のタイトルは『人生牧場』だったのですが、シナリオ担当に大反対されて、彼女が提案した『牧場物語』に決まりました。いま考えれば人生牧場にしなくて本当によかった」。だが、パーツもそろい、いよいよファーストロムを作ろうかという頃、問題が発生した。



■ 懸案の処理落ち問題を解決したら、今度はなんと会社が……

16年間でシリーズ累計は1,000万本を超えた。2月にはニンテンドー3DSに向けて最新作「牧場物語 はじまりの大地」が発売された
新会社のTOYBOXを今年の2月に設立。E3では新作情報もあるという

 別々に動いていたものを一緒にすると、処理落ちで動かなくなったのだ。かといって表示数を減らすとゲームの楽しさがなくなってしまう。毎日プログラムとグラフィックスの両方で少しでも軽くする作業を続けた。ようやく処理落ちに目途が立ってきた頃、さらに大きな問題が起こった。会社が倒産してしまったのだ。社長は行方不明になり、未完成のデータだけが残された。目の前が真っ暗になりながらも、どうしてもこのゲームを完成させたいという気持ちは消えなかった。

 半分あきらめながらプログラマーに事情を話したところ「完成させましょう」と言ってくれた。その後3人だけでほとんど家にも帰らずひたすらゲームを作り続けた。予算がなかったため、多くの要素を捨てなければならなかったが、それが逆にゲームの芯をはっきりさせ「シンプルで遊びやすいもの」になった。半年後、ついに「牧場物語」は完成した。

 最初は2万本にも届かなかったが、ジワジワとクチコミで広がって10万本を超えるヒット作になった。その後、続編の「牧場物語GB」が30万本を超えるヒットとなり、最初は続編には否定的だった和田氏も、声援に応えられるようなゲームを作りたいと思うようになった。

 なお、プレイステーションに「牧場物語 2」の移植が決まった時には、すでに「牧場物語 3」の製作がスタートしていたので、やむなく外注に委託したところ、出来上がってきたものは、キャラクターの名前も性格も変わっていた。「何となく違うなと思ってチェックしたら、世界観まですべて違っていました。もう作り直す余裕はなかったので「パラレルワールドだということにしてそのまま出しました」と当時の経緯を残念そうに振り返った。

 ゲームの中では常に新しいことにチャレンジしたいという和田氏。シリーズの中で最も好きなのは、最初に作りたかったものに一番近いという「牧場物語 ワンダフルライフ」なのだそうだ。今は新会社のTOYBOXで新作の開発に取り組んでいる。「牧場物語とは全く違う体験ができるゲームです。E3には何かをお見せできると思います」とのことなので、6月を楽しみに待ちたい。


(2012年 3月 9日)

[Reported by 石井聡]