ニュース
「FF」30周年のトリを飾る「Distant Worlds: music from FINAL FANTASY JIRITSU/而立」開催
「FFXV: 戦友」主題歌「Choosing Hope」初演。鈴木瑛美子さんが衝撃の歌声を披露
2017年12月11日 16:39
スクウェア・エニックスは、「ファイナルファンタジー」シリーズのオフィシャルオーケストラコンサート「FINAL FANTASY 30th Anniversary Distant Worlds: music from FINAL FANTASY JIRITSU/而立」を、12月8日から10日までの3日間、東京と大阪で開催した。
「Distant Worlds」は、「FF」シリーズのコンポーザーとしてお馴染みの植松伸夫氏と、世界的な指揮者アーニー・ロス氏のタッグで、世界中で公演し続けている「FF」オフィシャルオーケストラコンサート。日本より海外での公演が中心で、日本では2015年1月以来、約2年振りとなる。12月10日の公演で151回目を数え、開始から10周年を迎える。さらに今年は「FF」30周年ということで、そのトリを飾るイベントとして、非常に濃密な、この10年の集大成と言えるコンサートとなった。
「Distant Worlds」が、他のゲームミュージックコンサートと異なるのは、植松伸夫氏が最初に挨拶を行なうところだ。常に“堅苦しくないコンサート”を目指していることを語り、演奏中のかけ声や、演奏後のブラボーを望む。この“ブラボーの押し売り”は植松氏の定番ネタだが、それによって場が一気に和らぎ、来場者が声を発しやすい雰囲気が生まれ、オーケストラと来場者の距離感が一気に縮まる印象がある。「Distant Worlds」が世界中で愛されているのは、植松氏独特の話術によるところが大きいと言える。
本公演には、植松氏とロス氏に加えて、スクウェア・エニックス代表取締役社長の松田洋祐氏、「FF」シリーズのキャラクターデザインやイメージイラストを担当している天野喜孝氏が登壇し、さらに「FF」の生みの親である坂口博信氏もビデオレターで参加し、「FF」30周年と「Distant Worlds」10周年を祝った。
自身が決め、パンフレットにも毛筆で書いた“而立”の意味について植松氏は、「人生30歳というと、中国の思想家の孔子が“而立”という言葉で表現したんですね。つまり、自分の考えをしっかり持って歩み始める節目の年ということです。『ファイナルファンタジー』も30年の歴史があり、これまでの経験をもとに、独自の価値観や美意識を持って新たな一歩を踏み出す時なのかなということでコンサートツアーのタイトルを“而立”とさせていただきました」と説明。
天野氏は、「FF」30周年について問われ、「30年前は私も若かった。まだ30代でした。30年というのはやっぱり長い。それだけの時間が経ったんだなということを、ここに立って改めて思いました。『FF』のコンサートは、郵便貯金ホールで初めて聞いたんですが、ゲーム音楽がクラシックで聴けるということでびっくりしました。『FF』の音の世界ではなく、『FF』の世界観、空間に入った感じを今でも凄く覚えています」と独特の表現で「FF」サウンドの魅力を語った。
ビデオレターでコメントを寄せた坂口氏は、「30年、早いですね。毎回そうですけど、完成間際で、徹夜でデバッグして朝を迎えるんですけど、朝日と共に乾杯をして終わりという。『FF』30年というのは僕の半生とも重なっていますが、早かったけれども重かった30年ですね。あのオヤジ(植松氏)との想い出は、出会いが面白くて、当時、スクウェアは日吉にあったんですけど、路上で『来ない?』と声をかけて。とにかく僕は彼の音楽が好きで、出会えて一緒に歩ませて貰っているのは感謝と幸せな気持ちですね。本人には言えませんが、カメラには言えます。植松さん聞いてるかい?」と語りかけ笑いを誘った。植松氏は「坂口さんからああいう言葉を聞くことはないからさ、照れちゃうよね」と嬉しそう。
ゲストとして登壇している天野氏については、「声を掛けてOKを出してくれたことに驚きというか。絵を見ればわかりますが、凄く深い世界観が内包された、しかも独特のエネルギッシュな絵。『FF』の世界を深く広くしてくれたという点で本当にありがたく、共に歩めたことを本当に感謝しています」とコメント。これを受けて天野氏は、「ちゃんと話してますね、何かあったんですかね」と結びつきの太さを感じさせる茶目っ気たっぷりのコメントで茶化していた。
坂口氏は来場者に向けて「ご来場の皆さん、このホールに響くゲームサウンド、音は震えです。その震えの中にエネルギーがあると僕は信じています。皆さんの細胞を震わせていると思います。独特であり、心にしみるようなメロディが、皆さんの体にどんどん浸透していく、そういう感じを楽しんでください」と挨拶した。
最後に松田氏が「FF」30周年を迎えたことについて挨拶を行なった。「『FF』シリーズは今年で30周年を迎えることができました。これもひとえに、坂口さん、植松さん、そして天野先生の素晴らしいクリエイティビティ、そしてここにお越しのファンの皆様、世界中のファンの皆様に支持されてきた賜物だと思います。改めて御礼を申し上げたいと思います。『Distant Worlds』も10周年を迎えました。植松さんとアーニー・ロスさんの素晴らしいコンビネーションで『FF』の素晴らしい音楽の世界を、世界中にお届けできています。これはスクウェア・エニックスとして大変誇りに思うことであり、嬉しいことであります。改めておふたりに感謝を申し上げたいと思います。『FF』シリーズ、『Distant Worlds』はこれからも大きく成長して参ります。今後の展開にぜひご注目いただくと共に、これからの発展に期待していただければと思います。2017年という節目の年のトリを飾るふさわしいコンサートをぜひお楽しみください」と挨拶。「FF」ファンで埋め尽くされた5,000人の来場者から盛大な拍手が起こった。
こうしてスタートした「FF」30周年、「Distant Worlds」10周年記念コンサート。セットリストは以下の通りとなった。
【第一部】
1、プレリュード【FINAL FANTASYシリーズ】
2,ビッグブリッジの死闘【FINAL FANTASY V】
3、勝利のファンファーレ【FINAL FANTASYシリーズ】
4、星降る峡谷【FINAL FANTASY VII】
5、独りじゃない【FINAL FANTASY IX】
6、The Oath【FINAL FANTASY VIII】
7、剣の一閃【FINAL FANTASY XII】
8、Heavensward【FINAL FANTASY XIV】
9、ファングのテーマ【FINAL FANTASY XIII】
10、Choosing Hope【FINAL FANTASY XV】ソリスト:鈴木瑛美子
11、Liberi Fatali【FINAL FANTASY VIII】
【第二部】
12、オープニング~爆破ミッション【FINAL FANTASY VII】
13、愛のテーマ【FINAL FANTASY IV】
14、Sword Song バトルメドレー【FINAL FANTASY XI】
15、APOCALYPSIS NOCTIS【FINAL FANTASY XV】
16、ザナルカンドにて【FINAL FANTASY X】
17、オペラ~マリアとドラクゥ【FINAL FANTASY VI】
18、FFメインテーマ【FINAL FANTASYシリーズ】
【アンコール】
19、エアリスのテーマ【FINAL FANTASY VII】
20、片翼の天使【FINAL FANTASY VII】
「Distant Worlds」は、2年サイクルぐらいで世界中を巡業しており、100曲以上の譜面を備え、絶えず新曲を取り入れながら、セットリストを入れ替えていく。2015年1月の東京公演と比較すると、いわゆるメドレー系がなくなった代わりに、「FFXI」以降の、植松氏以外のコンポーザーが手がけた曲目が増えている。これまで「Distant Worlds」は、植松氏が手がけた楽曲がメインで、「FF」コンサートというより、植松氏のコンサートという傾向が強かったが、今回は植松氏が手がけた「FFI」から「FFX」までと、水田直志氏が手がけた「FFXI」、崎元仁氏が手がけた「FFXII」、浜渦正志氏が手がけた「FFXIII」、祖堅正慶氏が手がけた「FFXIV」、そして下村陽子氏が手がけた「FFXV」とすべての「FF」が揃い、「FF」30周年らしいセットリストとなった。
すべての演奏では、ステージの大型スクリーンに、楽曲に合わせたゲーム映像が映し出され、当時のゲームプレイを思い出しながらオーケストラの壮大な演奏を楽しむことができた。たとえば、植松氏の代表作である「ビッグブリッジの死闘」(「FFV」)では、ギルガメッシュの会話シーンも交えながらあたかもプレイしているような感覚で“ビッグブリッジの死闘”を振り返ることができ、「FFIII」や「FFVII」などリメイクプロジェクトが存在するタイトルについては、リメイク映像を使うなど編集も凝っており、オフィシャルコンサートならではの充実振りだった。
東京公演では、第一部と第二部にそれぞれ目玉を用意していた。第一部の目玉は、11月に発売されたばかりの一番新しい「FF」である「ファイナルファンタジーXV: 戦友」の主題歌「Choosing Hope」を、鈴木瑛美子さんを迎えて世界初演を行なったことだ。
鈴木瑛美子さんは、アイドルのような愛らしいくりくりとした大きな瞳が印象的な18歳の現役女子高生だが、目の前で聞いていても信じられないほど太く、のびやかな歌声で、堂々と「Choosing Hope」を歌いきった。驚いたのは、現在公開されているサントラよりも格段に仕上がりが良くなっていたことだ。そのインパクトは「FFXIV」の主題歌を歌うスーザン・キャロウェイさんに勝るとも劣らないもので、難度の高いゴスペル調のこの曲を、すでに完全に我が物としていることに驚かざるを得なかった。公演後のインタビューでも、植松氏、ロス氏共に、鈴木さんの素晴らしいパフォーマンスに最大級の賛辞を送っており、「Distant Worlds」の新たな定番曲になる可能性を強く感じた。
第2部では、植松氏が半ばライフワークとしてこだわり続けている「オペラ~マリアとドラクゥ」(FFVI)の完全版が5年ぶりに演奏された。2012年に初演が行なわれたが、そのときと同じメンバー(マリア役:太田悦世さん、ドラクゥ役:渡邊具晃さん、ラルス役:押見春喜さん、ナレーター:郡正夫さん)で再演された。
もともとはゲーム内でのオペラシーンに使われている楽曲だが、声楽付きでクラシックコンサートで演奏されたのをきっかけに、植松氏がオペラとして足りない部分を書き足し、完全なオペラとして蘇らせたもので、植松氏によればコンサートの締めくくりにピッタリで、非常にウケが良いためたまに採用しているという。1曲のオケ演奏としてはこれ以上ないぐらい贅沢な編成だが、植松氏がおもしろいと感じたらどんどん採用してしまうのも「Distant Worlds」の魅力的なところだ。
コンサートは「マリアとドラクゥ」の壮大な幕切れから、「FF メインテーマ」で綺麗に繋いで美しいフィナーレを迎えた。鳴り止まぬ拍手にロス氏と植松氏は、アンコールでさらに2曲を演奏。「エアリスのテーマ」、「片翼の天使」、共に海外公演中心の「Distant Worlds」においてとびきり人気が高いという「FFVII」からのチョイス。「片翼の天使」は、いわゆる“セフィロスのテーマ”として有名な曲で、フィナーレに合わせて登壇した植松氏は、「みんなも一緒に歌おう」と呼びかけ、サビの「セフィロス!」を5,000人で歌うことに。植松氏もそのままコーラスを務めるTokyo Art Academy Singersの隣に立ち、来場者の拍手の後押しを受けながら、サビの部分のみならず、すべての声楽パートを歌い、大賑わいのフィナーレとなった。
12月10日の公演で日本公演は終了となり、「Distant Worlds」はまた長い世界巡業へと旅立つ。次は1月にニューヨーク カーネギー・ホールでの公演が予定されている。
Photo by Shinjiro Yamada