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【年末特別企画】2016年のゲームエンジン、ミドルウェア動向まとめ

どうなるゲームエンジン、ミドルウェアの未来!?2017年を大予想

「Lumberyard」の描画クオリティ。GDC2016でのセッションのもの

 2016年のゲームエンジンの動きは実に静かなものだった。コンソールハードウェアや、グラフィクスAPI、OSといったパフォーマンスに直接影響を与える要因の変化が2015年に一段落して、これらに呼応するゲームエンジンも、メジャーなバージョンアップを超えて、安定化と処理の精度を高める時期に入ったからだ。

 そんな2016年であっても、ビッグニュースとしては、Amazon「Lumberyard」の新規リリースと、Crytek「CryEngine」の無料化が挙げられる。「Unity」、『Unreal Engine」(以下、「UE」)の2大巨頭と比較して、どうしても話題に乏しいこれらのゲームエンジンだが、何よりあのAmazonが異業種から参入したという事実と、「Unity」や『Unreal」の大衆化販売戦略との差別化のために、一線を画した道を進むかと思われたCrytekの動向は、我々を大いに驚かせた。

 ニューストピックに乏しい2016年ではあったが、ゲームエンジン、ミドルウェアの動向を一通り振り返るとともに、本年も2017年に起こるであろう出来事を大胆に予想してみたい。

先行組が成熟し後発組が足踏みしたゲームエンジン

「CryEngine」のVR向け描画クオリティ。こちらはGDC2016のブース展示のもの

 冒頭で触れたとおり、「CryEngine」無料化に先立って発表されたAmazon「Lumberyard」は、当初より無料であったことから、「CryEngine」の無料化によって、2016年は、とうとうすべてのゲームエンジンが無料で利用できることになった。ここ2~3年で段階的に変化してきたこととはいえ、これは画期的なことだ。

 ただし、両者ともに、“無料化”のニュース以降、目立ったトピックがない。「CryEngine」は、無料化と“お好きなだけ”課金の発表に伴って、100万ドルをインディコンテンツに投資することを発表したが、これといって大きな話題となるインディゲームは登場していない。メジャータイトルへの採用も進んでおらず、無料化の収益拡大効果のほどは、今のところ未知数だ。むしろ、あれだけ積極的に世界各地でリクルーティングを行なっていたにも関わらず、この年末に至って、フランクフルトとキエフ(加えて、非公式ながらイスタンブール)以外の自社スタジオを閉鎖すると発表しており、業績の悪化が懸念されることとなってしまった。

Amazon「Lumberyard」のウェブサイトは日本語化されている

 「CryEngine」から完全に切り離され、独自の進化の道を辿っているAmazonの「Lumberyard」は、自社のゲームスタジオ以外で、ようやくMicrosoftの「Star Citizen」のゲームエンジン鞍替えによって採用が決まった程度で、こちらも目立ったトピックがない。2月のバージョン1.0リリース以降、6回のマイナーアップデートを経てバージョン1.6まで進んではいるが、モバイルデバイスのサポート、HDRモニタやVRデバイスのサポートいったプラットフォームの拡充が主だったアップデートの内容となっている。

 機能的にAmazonならではと言えるものは、Twitchメタストリームのサポートくらいだろうか。たしかにAAAタイトルが開発可能なポテンシャルは感じるものの、AAAタイトル向けゲームエンジンを標榜する割にAAAタイトルが1タイトルもリリースされていないという状況が続いている。

恒例の「Unity」イベント、Unite2016のキービジュアル

 他方、先行する「Unity」や「UE」はどうか。2015年はバージョン5へとメジャーアップデートを遂げた「Unity」は、2016年には、バージョン5.4での数々の高速化や、技術デモ「Adam」で活用されていたシネマティックイメージエフェクトのアセットストアでの提供に加えて、バージョン5.5でパーティクルシステムの改良や、Microsoft「HoroLens」への対応が行われた。ただし、開発時にライトベイクを高速プレビューできるプログレッシブライトマッパーや新しい動画再生機能へのリプレイス、高速グラフィクスAPI「Valkan」への対応は、2017年3月のバージョンに持ち越されている。これらはGDC 2017とそれに引き続くUnite 2017 Tokyoの注目トピックとなるはずだ。

 次世代バージョンの「Unity 2017」からは、ビジネスモデルの方にも変化が予告されており、プロバージョンは、パッケージソフトに似たライセンス売り切り方式から、サブスクリプション料金を年払いする方式に移行する。これは、一般的なビジネスソフトや開発ツールの流れに沿ったもので、比較的受け入れやすいと言えるだろう。

「Sequencer」の活用事例としてNinjya Theoryと共同で進めるパフォーマンスキャプチャをアピール。写真はSIGGRAPH2016のもの

 「UE」の方には、開発用ツール環境に対して、わかりやすい機能追加があった。従来の「Matinee」(マチネ)を置き換える新しいタイムラインベースのカットシーンオーサリングツール「Sequencer」(シーケンサー)の導入が2016年最大の目玉と言える。ゲームのカットシーンのみならず、映像コンテンツ制作者にも有用なツールであることから、より一層普及に弾みがつきそうだ。また、まだまだ利用シーンは多くはないと思われるが、VRワールド内で開発可能なVRエディタを他の競合エンジンに先行してリリースしている。これらによって、従来のハイエンドグラフィクスを売りにしたゲーム開発以外にも、さらに訴求していく姿勢が打ち出された。

 「UE」のほうは、無料化以降、ビジネスモデルやアップデートサイクルに大きな変化はなく、ユーザーコミュニティを着実に形成しながらユーザー層を拡大している印象だ。「UE」を採用するメジャータイトルの発表や発売が続いたことに加え、通常のライセンスの無料化以前より無料で提供されていたアカデミックライセンス制度の存在や関連書籍が増えたこともあってか、日本国内においては、2016年は「UE」が大躍進を遂げたように思える。

「CryEngine」のサイトでは無料化がアピールされているが、従来のサブスキリプションモデルはサポートサービスとして存続

これらの経緯を見ると、ゲームエンジンに関しては、「Unity」、「UE」の2強が支配力を強め、盤石の態勢を固めつつあるのに対して、「CryEngine」、「Lumberyard」は、劣勢を強いられているように思える。ただし、「CryEngine」は、高い技術力を誇る自社開発のゲームタイトルを主眼に置いており、「Lumberyard」に至っては、Amazonにとっては同社のクラウドサービス「Amazon AWS」の販売拡大を目的とした壮大な“撒き餌”のひとつに過ぎないということから、そもそもゲームエンジンとしての雌雄や優劣を語るような存在ではないのかもしれない。

定番ミドルウェアが浸透し利用が決定的に

「YEBIS」のウェブサイトでは実績をアピール

 たとえプロであっても“お作法”の習得にある程度の学習が必要な統合型ゲームエンジンに対して、機能が絞り込まれているおかげでユースケースがわかりやすく、自社の弱点をピンポイントで補うことができるミドルウェアは、2016年も幅広く利用されていた。

 目立ったところでは、シリコンスタジオのポストエフェクトミドルウェア「YEBIS」や、3Dモデルリダクションの「Simplygon」の採用が定番化している。加えて、AIを統合して自律型のモーションアニメーションを実装することもできるNaturalMotionの「Euphoria」や、自社のゲームエンジン「Stingray」がパッとしない状況にある一方でAutodesk「Gameware」のひとつで、GIライティングのミドルウェア「Beast」も、直近の採用実績の公開こそ少ないが、前述のミドルウェア同様に多くのゲームで採用されていると考えられる。

エフェクトに特化した「BISHAMON」の開発ツール画面

 特に「YEBIS」を供給するシリコンスタジオは日本国内の会社であることから、言語の壁がなく充実したサポートを受けられるというメリットがある。その結果として、スクウェア・エニックスやバンダイナムコ、フロム・ソフトウェア、アイディアファクトリーといった日本のパブシッシャー、しかも複数のタイトルで継続的に採用されている。また、具体的なタイトルが明示されていないことが多いものの「Simplygon」の採用は、国内でも多くのゲーム開発プロジェクトでよく耳にする。

 国内のミドルウェアといえば、エフェクトの「BISHAMON」や2Dアニメ調表現の「Live2D」も、国内の携帯ゲーム機向けやスマホ向けゲームを中心に、2016年も着実に採用事例を積み重ねている。どちらも他に競合するミドルウェアがないオンリーワンの存在であり、自社の唯一無二の製品として、すべてを賭けて取り組んできた結果が、ついに花開いたということだろう。

シンプルに機能をアピールする「Simplygon」のウェブサイト

 他方で、欧州に本拠地を持つミドルウェア開発会社は、自社のミドルウェアを普及させる方法論として、ゲームエンジンにあらかじめ組み込まれた形でリリースするという手法を取ってきた。ところが、昨年から今年にかけて、以前はゲームエンジンに最初から組み込まれた状態でリリースされてきたミドルウェアが、ゲームエンジンプロバイダ独自の実装や、他社のミドルウェアに置き換えられるケースが目立ってきている。

 これは、ゲームエンジンが、エンジンの性能を左右しかねない部分で他社が開発するミドルウェアに依存するのを避けたいという思惑と、ミドルウェア開発会社が採用実績を重ね、単独での販売でもやっていける状況になったという双方を取り巻く環境の変化が主要因だと考えられる。ゲームエンジンからの離別は、ミドルウェアにとってマイナス要因となりそうではあるが、それでも依然として組み込まれている状態が続いているものや、ビルドオプションを変更するだけで組み込み可能な状態が維持されているものもあり、急速に蜜月関係が終焉を迎えているというわけでもなさそうだ。

NaturalMotionの「Euphoria」紹介ページ

 GDCやSIGGRAPHのブース出展を見ると、どのミドルウェア会社も、2016年はVRやARへの対応をアピールしているケースが多かったように思う。新たなハードウェアの登場を商機と捉え、いち早く参入したいのは、何もゲームそのものだけではない。むしろ、先行を狙っているゲームに採用されるためにも、これらのミドルウェアは、ゲームに先立って、新進のテクノロジにチャレンジし続ける必要がある。

 一方でゲーム会社の方は、最新技術についていく部分を他社に委ねて開発をスピードアップできるなら、幅広いプラットフォームをカバーして総販売数の拡大に努めたい。こうした流れは、今後も大きく変わることなく、むしろ加速していくと考えらる。2016年は、この“棲み分け”の構造が決定的になった1年と言えるかもしれない。

どうなる!?2017年のゲームエンジン、ミドルウェアを大胆予想

Epic Gamesの最新VRタイトル「Robo Recall」はもちろん「UE」で開発

 さて、筆者が2015年末に行なった2016年の予想はどうだっただろうか。以下のような結果となった。

(1)機能追加はあまりない→あたり。たしかに応用というかコンテンツでの利用の話題が中心で、エンジンの機能追加に目立ったものはなかった。Unrealのシーケンサーくらいだが、あまり嬉しくない。

(2)開発スタジオ支援(投資)→あたりとは言えない。Crytekのインディ開発ファンドぐらいだが、機能しているのだろうか?

(3)クラウドサービスなど周辺への進出→外れ。直接事業に乗り出したというニュースは聞こえない。

(5)ビジネス支援→外れ。なかなか保守的。良くも悪くも、ビジネス開発には消極的か。

 たしかに、2016年は、技術面では、ゲームエンジンに対する大きな機能追加の話題はなかったが、これは時期的に十分に予想されることで、的中させたとまでは言えないだろう。ビジネス面では、販売まで統合的にビジネスにするどころか、周辺ビジネスでは、せいぜい「Unity」のチームコラボレーションサービス程度が目立ったところで、配信や流通といった周辺部分のビジネスを積極的に進めるニュースはなかった。ゲームエンジンプロバイダは、やはり技術志向が強く、ビジネスの次の一手に対しては、なかなかに保守的ということだろうか。筆者の予想は大きく外れた格好だ。

その他、海外に競合がいない「Live2D」の動向も気掛かりだ。SIGGRAPHにも出展し世界を狙うか!?

 とはいえ、ここで懲りもせず、2017年のゲームエンジン、ミドルウェアを大胆に予想してみたい。まずは、ECの巨人Amazonの動向だ。2016年がAmazonにとって、ゲームエンジンの経験値を蓄積し、ネットワークサービスと連携するための“仕込み”の時期だとするならば、2017年は大規模な策を打ち出してくることが予想される。

 「Lumberyard」の位置付けは、Amazonのクラウドサービスの販売拡大を目的とした壮大な“撒き餌”であり、ゲーム会社に対して、AWSの利用に破格の条件を提示して、完全に他のクラウドサービスを駆逐する勢いを見せるのではないだろうか。加えて、ゲーム開発者ではない個人を対象に、Amazonのスタジオが開発したゲームの“部品”をウェブ上で簡単に選択するだけでオリジナルのゲームを製作してコミュニティで共有できるようなサービスを開始すると面白い展開となると思うのだがいかがだろう。

 続いての予想は、Epic Gamesに関してだ。中国テンセントのサービス向けに、Wechatの機能の一部として動作可能な、超軽量のモバイルデバイスに特化したゲームエンジン「UnrealEngine Lite」を開発して、従来は「Unity」が得意としていたゾーンへ「Unity」とは真逆の発想で参入するというのはどうだろうか。

 最後の予想は、MicrosoftがAMDを買収して、GPUとゲームエンジンを一体的に開発、さらにWindows OSに組み込んでしまうというのはどうだろうか。アメリカの独占禁止法の問題があり、OSに組み込むというのは無理かもしれないが、Microsoft主導でゲームエンジンとGPUを一体開発というのは、ソフトバンクがARMの買収を果たした今となっては、まったくないとは言い切れないのではないだろうか。

 正直、いずれの予想も、かなり飛躍したもので、実現性は乏しいと思われるが、年末年始のドリームということで、ご容赦願いたい。