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PS VR「V!勇者のくせになまいきだR」開発者に聞く!

ドット絵をいかにVR化したのか? その真意はいかに?

9月15日~18日 開催

会場:幕張メッセ

入場料:一般前売券 1,000円(税込)

一般当日券 1,200円(税込)
小学生以下無料

それは1つのVRプロトタイプから始まった

左から山本正美氏、大橋晴行氏、鳥山晃之氏

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIEJA)から2017年に配信される予定のPlayStation VR対応ソフト「V!勇者のくせになまいきだR(ぶい ゆうしゃのくせになまいきだ りたーん:通称「Vなま」)」。これまで3作がPSPタイトルとして発売されており、昔懐かしいドット絵で構成されるキャラクターたち、プレーヤーが破壊神となって勇者を撃退するというストーリー、食物連鎖で成り立っている魔物など、その独特の世界観に魅せられてプレイしたという人も多いだろう。

 かくいう筆者もその中の1人で、日夜ツルハシを片手にダンジョンを作り上げ、上手に食物連鎖を構築し、最初にドラゴンができたときには小躍りしたという経験を持つ。しかし今度はPlayStation VR。これまでのドット絵からはかなりかけ離れた世界だ。一体これはどうしたことなのか? 今回東京ゲームショウ2016に合わせて開発者によるメディアセッションが行なわれたので、その模様をお届けしよう。登場したのは本作のシニアプロデューサーを務めるSIE WWSの山本正美氏、ディレクターのアクワイア・大橋晴行氏、プロデューサーのSIE・JAPANスタジオの鳥山晃之氏だ。

 この企画が立ち上がった経緯だが、去年の秋に山本氏が別件でアクワイアへ打ち合わせに行ったとき、「ちょっと遊んでもらえませんか」として出てきたのがVRで動くゲームだったのだという。山本氏はPlayStation VRの初期の頃からテストプレイをしているそうだが、三半規管が弱くてすぐに3D酔いしてしまうとのこと。しかし「酔わないです」と自信たっぷりに返されたこともあり、プレイをしてみたのだとか。するとこれが結構おもしろかった。アクワイアとしてもVRの企画を進めていて、10本くらいのアイディアの中から5本を選んでプロトタイプを作り、最後に作ったのが山本氏がテストしたバージョンだった。

 すっかりとその気になった山本氏は2015年11月2日、SIE WWSの吉田修平プレジデントとアラン・ベッカー バイスプレジデントにデモをプレイしてもらう。すると2人とも「ありじゃん」と。その翌月にアメリカで行なわれた「PlayStation Experience」というファンイベントに出してみたらという話になったのだが、それはさすがに無茶です、と山本氏は答えたそうだ。しかし12月からプロジェクトをスタートしたいとお願いしたところゴーが出て、企画が進行することになる。

最新作では地上が舞台に

 ところでこれまで発売されてきたシリーズは、地下を掘ってできたダンジョンが舞台。しかし最後の「勇者のくせになまいきだ:3D」で最後に地上に出たところで終わっていることを引き継ぎ、今度は地上を舞台とした。「今度は地下から地上へ舞台を移し、ジオラマ的な世界の中で、食物連鎖を構築するという要素はそのままに、迫り来る勇者を撃退して、大地を征服していくリアルタイムシミュレーションとなった」(山本氏)。

 操作方法は簡単に作られている。プレーヤーは画面内に表示される「破壊神コントローラ(通称:ハカコン)」を操作して、魔物ユニットを地上に配置しながら、世界を征服していくことになる。魔物軍の拠点は「暗黒の塔」。ここからスタートして徐々に紫色の大地を広げ、領土を拡張する。敵の城を落とせば勝利、暗黒の塔を落とされると負けとなる。

 なお今回は魔物を配置するのではなく、「ユニット」となる巣を配置することで魔物を発生させる仕組みだ。これは巣が置かれると地下から地上へ上がってこれる、というイメージと考えればよい。食物連鎖があるのはこれまでと同様で、「カリスマポイント」の残量を気にしながらユニットを配置していく。なお勇者を倒すとカリスマポイントが手に入り、新たな巣を置くことができるようになる。ちなみに前作でも「やられキャラ」として登場した「しょうた」は今回も健在。序盤にあっさりとやられてくれるお約束は用意されている。

【スクリーンショット】
本作は地上が舞台。魔物のエリアを広げるのが目的だ
破壊神コントローラでユニットをぽん、ぽんと配置していくイメージ
【スクリーンショット】
紫色の大地を広げ、敵の城を落とすのが目的だ
ユニットを配置すると魔物が誕生。食物連鎖を作り上げて自軍を強化
【スクリーンショット】
食物連鎖の体系例。ニジリゴケは「魔しずく」を餌として繁殖する
前作同様巨大な魔物も登場する

 ところで本作はゲームとしてはストラテジーなので、アクション要素はない。VRのゴーグルを通して大地を眺めてプレイするスタイルとなる。実際に広がるジオラマ的なワールドの中には勇者の拠点、つまり町や城が置かれており、これをうまく攻め落とすことで魔王側の拠点にすることができる。それを橋頭堡としながら、最終的には敵の城を落としていく、というわけだ。しかしこのあたりには攻防があり、いったん落とした町も再び勇者側に襲われて、拠点を取り替えされることもあるとか。こうした動きを察知して、拠点をケアすることも大事となる。

 敵の拠点については「進軍」によって落とすことができる。本作では地上が舞台なので、昼夜の概念が導入されている。魔物は薄暗い夜が大好き、ということで、夜になると敵陣に向かって進軍をかけることができる。その逆に、昼間は勇者たちが優勢となる。

 ところで、VRで上から地上を見渡しながらプレイできるわけだから、破壊神が上から勇者に攻撃できたりしないの? という疑問がわく。これについては「雷を落としたりするようなことは検討している」(大橋氏)とのことだ。なお大地が構成されているテーブルは、LボタンとRボタンで回転させることが可能。これによって裏側を確認することも可能だ。

【スクリーンショット】
夜になると進軍して敵の拠点を攻撃できる
敵の拠点へ攻撃開始
【スクリーンショット】
そしてついにHPがゼロに
拠点を落とすことができた

VRで「Vなま」が実現したかったこととは

 本作がVRとしてゲームになるまでにはいろいろな苦労があったという。「目の前にRPGのフィールドが広がっていて、勇者と魔物の営みが表現されていて、そこに介入できるということをVRで体験できたらいいなと思って企画を進めた」と大橋氏。実際にRPGのフィールドを作ってVRで作ったらすごくよかったという。しかしそこに魔物や勇者を置いてAIを動かしたら、様々なところでいろいろな動きが始まってしまい、どこを見てよいのかわからなくなったそうだ。「これをどう整備するかが最初の難関だった」(大橋氏)。

 そこで何をしていったかというと、シンプルにしていくということ。「これまでのゲームであれば、強制的に特定の部分にフォーカスを当てることもできるが、(VRなので)それはできない」(大橋氏)。「映画の場合は監督が見たいような絵作りをするが、VRの場合はユーザーが見たいところを見ることができる。これが結構やっかい」(山本氏)。

 つまり先ほどの拠点攻略でも、本当は見てほしいところなのに、気づかずにそこを見ていないということが起きてしまったという。そこで「これ見よがしにでかいエフェクトで気づく」(山本氏)ようにしたのだそうだ。進軍も同じで、「最初は自動で行なわれていたが、そうするとプレーヤーが気づかないうちに制圧していたりして、流れがわからないし達成感がない。そこでプレーヤーが操作できるようにした」(大橋氏)。魔王にボイスが入ったのもこの一環だ。「影をなくして状況がよくわかるようにキャラを立たせるなど苦労した結果、動くジオラマという所については一定の成果を出せた」(山本氏)。

 そして次に大事なのはフレームレートの問題だ。3D酔いを発生させないためにも、フレームレートは落とすことができない。しかしこのシリーズは多くのキャラクターを出さなければならないので、下手をするとフレームレートが落ちてしまう。そこは地道な努力で解決していったそうだ。「VRの特徴でもあるが、ユーザーが見ている部分、目の中心部分は注目しているが、目の端の方はぼけて見えているので、それほど描き込まなくてもいい。実際の人間の目に近い処理をした」(鳥山氏)。「キャラクターが出てくると影がなくなるのだが意外と気づかない。それでなんとかフレームレートを保っている」(大橋氏)。「ファミコンやスーパーファミコンの時代のように、限られた制限の中でどういう表現を編み出すか、というのに近いノリが制作に戻ってきた。かつての工夫が生きるのがVRのおもしろいところ」(山本氏)。

【スクリーンショット】

 そして魔王。シリーズの中でも非常に人気があるキャラクターなので、これをどうするかは制作の中でもかなり揉んだそうだ。「ゲームが3Dで制作される流れの中でドット絵という逆のことをやった以上は、VRというからには逆に戻す。『3Dでちゃんとやるということが僕らにとっては逆をいっていることになるかな』ということで、ドット絵からの脱却は早々に決めた」と山本氏。

 その上で「頭身」の問題が発生。「旧作は2頭身キャラ。そして魔王のみ顔のグラフィックスがある。しかし資料としてはこれだけしかない。頭身を上げてデザインしてみようとデザインを作ってみたが、「2頭身からイメージを壊さないようにデザインしたのに、実際に配置すると顔がでかくて怖い(笑)。そこで6頭身くらいに落ち着いた」(鳥山氏)。そのほかにも実際にモデリングしてみると、マントの襟が大きいと顔が見えない、といったことも問題になったという。「いままで2Dで作ってきたので、3Dにしたときの問題が全然わからなくて、作ったときに初めて問題がわかって調整することになった」(鳥山氏)。

 もう1つの魔王の個性は「テキスト」にある。そしてこれまではSEを加工した音でしゃべっている感を出していた。最初はSEに対して同時通訳を付けようということもあったが、それでは違和感があるという結論になり、ついに魔王にしゃべってもらうことになったのだという。「テキストを画面に貼り付けてみたが気持ち悪いし、そもそも目が疲れる」(大橋氏)。しかし魔王がしゃべるとなると、どのような声色でどう話すのかイメージが付かなかった。そこで大橋氏がいろいろとしゃべって試して調整し、魔王の声を作り上げていったそうだ。それを踏まえて本職の声優に声を入れてもらったら、頭身の話も含めて「魔王のイメージが出来上がり、ゲームの方向性を含めて完成のイメージがわいた」(山本氏)。「テキストではできない表現、間だったり、勢いが表現できるようになった」(大橋氏)。

【スクリーンショット】
左のドット絵から右の3Dモデルになるまでの変遷
テキストが使えない代わりにしゃべることで違う表現も生まれた

 本作のゲーム性についてだが、「シミュレーションゲームのように、大局的に状況が変化するコンテンツはVRに落とし込みにくいが、工夫をしたらうまく落とし込むことができるのではないかと考えた」と語る大橋氏。状況を説明してくれる魔王のポジションや、ボードゲームのように見せるフィールドなどを含めた演出の仕方によって、本作はVRコンテンツとして成立した。

 また大橋氏は、VRはアトラクション色の強いコンテンツだと語る。「ゲームのルールのVR化は難しいと思うがやっていった方がいい。例えばオセロや将棋など。表現の仕方、演出の仕方で新しい体験につながるのではないか」(大橋氏)。

 最後に山本氏がTwitterのアンケートを採った結果を紹介した。その内容は「VRで遊ぶ場合、大きくなって小さいものを見たいか、小さくなって大きいものを見たいか」を選ばせるもの。結果は圧倒的に「小さくなって大きいものを見たい」だった。「Vなまの場合は小さいものを見るものなのでニッチなのかもしれないが、VRの可能性というところでいうと、気づかれていないものがたくさん残っている。まだ狙われていないところを狙うというこのIPのいいところに符合していると、励みにしている。先達が作り上げてきた作法を使うというところから考えると、僕らも娯楽文化の食物連鎖の中にいて、新しコンテンツを作り上げられたらいいな、という気概で頑張っている」(山本氏)と締めくくった。